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魔法少女リリカルなのはA→S 第五話 ~Side FATE Ⅱ~

――九年前・春

 昨年のクリスマスに起きた「闇の書事件」の事後処理もあらかた終え、少しずつ気温も上がり始めていたとある日。

「………」

 何故かフェイトは通い慣れているはずの「翠屋」の前で、手に紙袋を持ったまま神妙な面持ちで佇んでいた。
 そして自分を落ち着かせるように二、三度大きく深呼吸をし、

「……よし」

 まるで戦場にでも向かうように、ゆっくりと店の中に入っていった。
 ……二十分後。

「こんにちは~。フェイトちゃんが来ているって聞いたんだけ……ど?」

 先程はやてからそのような内容の電話を受け、「翠屋」までやってきたなのはが、店の一角を見て思わず言葉を濁した。

「ああ、なのはちゃん。こんにちは~」

 その一角には、笑顔でなのはに手を振るはやてと、

「………」

 テーブルに顔面から突っ伏し、その長い髪を散らしているフェイトがいた。

「えっと、フェイトちゃんどうしたの?」

「……試合時間十分三十八秒。勝者、チャンピオン」

 苦笑しながら答えるはやてのその言葉で、なのはは大方の事情を理解し同じように苦笑した。

「ああ、フェイトちゃんまた挑戦してたんだ?」

「………」

 ダメージが大きいのか、フェイトは顔を上げずに上下に頷くそぶりを見せた。

「まあしょうがないよ。聖さん、普段はすごく優しい人だけどお菓子作りだけは絶対に妥協しない人だから」

 そう言ってなのはは慰めるようにフェイトの頭に手を置いた。

 それは、本当に偶然の再会だった。
 「闇の書事件」が解決し、無事退院したはやての快気祝いを「翠屋」で開く事になり、その時にそれまで色々あった事とすれ違いが重なって顔を合わせる事がなかった聖とフェイトは、お互いを指差しながら声を上げて盛大に驚き、実に約一年振りの再会を喜んだ。
 その日から合間を縫っては「翠屋」に顔を出すようになったフェイトだったが、二つだけ、失敗した事があった。
 ひとつは、クッキーを作って聖に渡した事。
 正確にはその快気祝いの時にフェイトが作ったクッキーを差し出しただけなのだが、「プロ志望の人の感想が聞きたいです」「正直に言っていいの?」「はいお願いします」という会話の後に……本っ当に正直に答えられ、思いっきり凹んだのだ。
 もちろん言い方はソフトだったし、正直に言って欲しいと望んだのはフェイトなのでしょうがないと言えばそうなのだが、さすがに褒め言葉が最後におまけのように付け加えられた「頑張ったと思うよ」だけでは女の子としての自尊心(プライド)が傷付くというものである。
 元来の負けず嫌いも影響し、こうして時々真剣勝負のように再戦に挑むのだが、

「ちなみに今日の戦績は何やったん?」

「……前回よりは頑張っていると思うよ」

 その言葉以上の褒め言葉を、フェイトは今のところ得られていなかった。

「あはは、でもしょうがないよ。聖さん、本当にプロ思考強いから。だからうちのお父さんとお母さんにも信頼されているし」

「それにそれ以外やったら本当に優しい……というか、こう言ったら失礼やけどそれ以外特徴のない人やしな。これだけは譲れない、っていうものがある事はいい事やと思うで」

「うぅ……そうだけどね」

 不満そうに声を上げるフェイトになのはとはやてはお互いの顔を見合わせ、そして同時に噴き出した。

「? 二人ともいきなりどうしたの?」

「いやなに、今のフェイトちゃんが……なあ、なのはちゃん?」

「うん、何ていうか、ねえ、はやてちゃん」

 意味が分からず訝しげな表情を浮かべていたフェイトに、二人は同時に呟いた。

「「物凄く可愛い」」

「……はい?」

 やっぱり意味が分からなかった。

「なんていうか、恋人に構ってもらえなくて拗ねているみたいな感じ?」

「んー、私にはお兄ちゃんに構ってもらえない妹、みたいに見えたよ?」

「……!」

 ようやく二人が言わんとしている事を理解したフェイトは、瞬時にその頬を真っ赤に染め上げた。

「そ、そんなのじゃないよ……あ、でも『お兄ちゃん』みたいっていうのは当たっているかも」

「義理とはいえ、クロノくんというお兄ちゃんがおるのに?」

 その言葉に、フェイトは少し考える素振りを見せてから答えた。

「クロノは『お兄ちゃん』っていうより『上司』って感じが拭えないかな? 『お兄ちゃん』って呼ぶとすぐに照れちゃうし、会話もあんまりないし……」

「確かにフェイトちゃんとクロノくんは言葉の会話より訓練とかでの魔法の打ち合いでの肉体言語会話の方が多いな」

「あ、あはは……」

 はやてのそのツッコミに苦笑するなのはだった。
 あ、もちろんクロノの事が嫌いってわけじゃないよ? いつも訓練に付き合ってくれるし、不器用だけど優しいところもちゃんとあるし。でも、聖さんはなんて言うか……うん、私達が『魔導師』だって知らないから歳相応の女の子として扱ってくれるでしょ? 多分そこがいいんだと思う」
 なのはとはやては「ああ~」と声を上げて頷いた。
 思えば確かに、今までフェイトには「歳相応の子供」として扱われた期間などなかっただろうから甘え方なんて知らないだろうし、だからハラオウン家に養子に入りクロノという兄やリンディという母が出来た今も、きっと甘える事なく自分に与えられた役目や仕事をこなしているに違いない。
 リンディやクロノは恐らくフェイトが自分達を頼る事を望んではいるだろうが、どちらかというと受け身なタイプの二人はエイミィのように自分から「ばっちこーい!」みたいな事はしないだろう、特にクロノ。
 それに才能さえあれば比較的早熟な時期からでも社会人として扱われる風潮があるミッドチルダ出身の二人の考えからすれば、すでに一人前の「魔術師」として扱われているフェイトを今更子供扱い、というのは少し気が引ける部分もあると思われる。恐らくそれはフェイト自身にも言えるだろう。
 しかし、それはあくまでミッドチルダの風潮であり、この地球という星の、日本という国の風潮ではない。
 そうなれば明らかに年下と見られるフェイトに歳相応の扱いをする、つまり「子供扱い」をする聖は、フェイトにとってとてもこそばゆい感じで、しかし嬉しい反応だったはずだ。
 それに実際のところ聖という青年はそこまで格好の良い男性とは言えないのだが、普段から笑みを絶やさず面倒見も良い優しい青年だった為、「翠屋」の若年層(正確には聖より年下)の客とその親と見られる客の人気は男女問わず結構高かった。
 実際に恭也という実の兄がいるなのははともかく、今は『守護騎士(ヴォルケンリッター)』という家族がいるがそれまで一人で暮らし、現在も「兄」というポジションをもつ人物がいないはやても、何気なく憧れ程度の気持ちを抱いていたりする。
 だから、今まで周りにいなかったタイプである「自分にすごく優しい兄」というポジションを持つ聖に、フェイトが惹かれるのも無理はない。
 しかし、そこには大きな壁と問題がある。

「なあ、フェイトちゃん。はっきり聞きたいんやけど、フェイトちゃんにとって聖さんて単なる『優しいお兄ちゃん』? それとも『恋』のお相手?」

 その問題の発起点となる質問を口にしたのははやてたっだ。案の定、その言葉を聞いてフェイトの顔が真っ赤に染まりあがる。

「は、はやて!? な、にゃにをそんな、いきなり!?」

 普段の冷静沈着ぶりからはまるで想像出来ない姿だった。しかも途中で舌をかんだのか少し痛そうに口を押さえている。
 だがその様子にはやては笑う事なく、次の言葉を紡ぐ。

「あのな、フェイトちゃん。これは結構重要やとうちは思うんよ。単なる『優しいお兄ちゃん』程度なら問題はない」

 そう、はやてのように。

「だけどな、もし『恋』の相手やったら……フェイトちゃんが、そういう意味で聖さんの事が好きならな、きついと思うで」

 その真剣な表情にフェイトも、そしてなのはも釣られるように表情を硬くする。

「きついって……何が?」

「『魔導師』である事を隠し続ける事や」

 二人が同時に「あっ……」と声を上げた。
 確かになのはとフェイトは自分達に近しい人間には自分達のやっている事、すなわち『魔導師』である事やそれにまつわる事を可能な限り話している。
 だがその中には、単なる翠屋の「パティシエ見習い」でしかない聖は、当たり前ながらその『自分達に近しい人間』に含まれていない。
 あまりプライベートな事に立ち入る事を避けているのか、聖は再会した今もフェイトにあの日の事や今までどうしていたのかといった事を聞いてこようとはしなかった。その心遣いが嬉しくもあり、同時に少しだけ寂しい気がした。
 しかし、もしそういう意味での想いならば、今はともかくきっと近い将来隠し事をしているという重圧に耐え切れなくなり、話す時が来るだろう。だが、全ての人がそういった内容の話を素直に信じてくれるとは限らない事をフェイトは知っていた。そうは思いたくないが、もし聖が自分の話しを信じてくれない人だったら、きっと今までの関係はいともたやすく崩れ、出来た溝はもう二度と埋まる事はないだろう。
 それに、そうなれば初めて会ったあの日の事も語らなければならない。
 犯罪者として追われていた、あの日の事を。
 それを考えるとフェイトの背筋に軽く悪寒が走った。
 だが、しかしである。

「……私、どうなんだろ?」

「何が?」

「……自分でもまだ分からないんだ。聖さんへの気持ちが、どういうものか」

 それがフェイトの本音だった。
 そういう想いならば確かに伝えるべき事だろうし、もともと嘘が苦手なフェイトは隠しきれる自信などなかった。
 でももし単なる「憧れ」程度ならばその関係を壊さぬようしばらくは黙っていた方がいいだろうし、もし将来的に自分の職業の事を告白する事になり、それで溝が出来たとしてもそこまでのダメージにはならないだろう、お互いに。
 しかし、そのそもそもの前提を、フェイトは理解していない……いや、出来ていないのだ。これでは次の行動が取れない。

「あー、まあしょうがないといえばしょうがないんかな? フェイトちゃん、今まで恋とかした事なさそうやし」

「まあ、環境が環境だっただけに、そうだろうね」

 二人の言葉にちょっとだけダメージを受けるフェイト。

「……そういう二人は恋をした経験あるの?」

 そしてフェイトの反撃にダメージを受けるなのはとはやて。

「いや、ほら、うちらまだ九歳やし、そういうのはまだ早いかなーってな」

 最終的には笑って誤魔化すはやてだった。

「何が早いのかな?」

 唐突にそう声を掛けられ、三人とも一斉に飛び上がる。

「ひ、聖さん?」

「びっくりしたー、いきなり後ろに立ってるんだもん」

「聖さんもしかして忍者とちゃうんですか?」

 とりあえず矢次ぎに話してさっきの内容をごまかそうとする三人。特にフェイトが必死だった。
 そんな三人の様子を不思議に思いながらも、聖はそのテーブルにガラス製のボウルをひとつ置いた。

「……何ですかこれ?」

「フルーツポンチ。と言ってもお店で出すものじゃなくて、余った果物の切れ端とかで作った間に合わせだけど。良かったら食べて」

 笑顔でそう言って立ち去る聖。それを見送った後、三人は改めてテーブルに置かれたボウルを見る。

「……これで余り物の切れ端? 間に合わせ?」

「すごい、果物が全部動物の形に切られてる……」

「忍者じゃなくて和菓子職人さんやな、これは……」

 ここまで来ると三人とももはや感嘆の言葉しか出なかった。だが、しかし。

「でも……やっぱフェイトちゃんといるとあれが出てこんな」

「まあ、普段私達が食べさせられているのも、元はと言えばフェイトちゃんが原因みたいだけどね」

「うぅ……二人ともごめんなさい。でも羨ましい」

 そう言って再び涙目になるフェイトだった。
 先程述べたフェイトの二つの失敗。これがそのふたつめである。
 ある日、フェイトが聖に「そういえば、前に渡したプリン、食べてくれた? どうだった?」という質問をされた事から始まった。
 当時精神的に不安定だったとはいえ、いくら何でも「川に捨てました」とはとても言えず、しかし嘘を吐く事に慣れていないフェイトはどう言うべきか言葉を探し、しきりに「ええっと、う~んと……」等と誤魔化すような声を上げ続けた。
 それを「フェイトちゃんの口には合わなかった」と勘違いし、そして見習いながらパティシエの血が騒いだ聖は「フェイトちゃんがおいしいって言ってくれる最高のプリンを作るから、それまで待っていて」と告げ、それ以来フェイトにはプリンを差し入れようとせず、またフェイトがいる時にはその場にいる全員プリンを差し入れられなくなった。
 つまり、一端の高校生が作ったものであるにも関わらず、それを店に並べられる事を許され、なのはやはやては元より、アリサやすずか、果ては甘いものにうるさいヴィータまで絶賛する聖のプリンを、フェイトは未だ食した事がないのである。

「まあ、これもおいしいしうちらはフェイトちゃんがおらんければ嫌でも食べさせられるわけやし」

 フルーツポンチを三人分に取り分け、自分の分を口に運びながらはやてはそう呟いた。

「あはは、まあ私達は味見係みたいなものだしね。まあ聖さんの作るお菓子にはずれはないし、得した気分かな?」

「うぅ~、なのはもはやても意地悪だよ……」

 なのはとはやてに軽く抗議しながら、フェイトも自分の分を一口食べた。
 確かに余り物で作ったとは思えないほど、甘くて美味しかった。


「で、どないする気なんや、フェイトちゃん」

 全て平らげお腹が落ち着き談笑していた三人だったが、唐突にはやてがそう切り出してきた。

「どうって……何が?」

「いや、恋の話とかフルーツポンチとかプリンとかですっかり話が反れてしまったけど、本来の筋はフェイトちゃんが聖さんをどう思っているか、やろ?」

 その言葉で思い出したかのように、なのはとフェイトは「あ~」と声を揃える。

「そこで提案なんやけどな、フェイトちゃん、聖さんとデートしてみたらどうや?」

「うーん、デートか……で、デートっ!?」

 普段のフェイトからは考えられない大声を上げ思わず立ち上がる。そしてその声に他の客達が驚いた顔で三人のテーブルに視線を集めた。

「あ、あの……ごめんなさい、何でもないです」

 顔を染め上げ、縮こまりながら席に座り、必死で笑いを堪えているはやてを軽く睨むフェイト。

「……はやて、一体何の冗談?」

「いや、冗談やないで。そこら辺、フェイトちゃん自身がどう思っているのか確かめるにはそうやって二人で出かけてみるのが一番やとうちは思うんやけど」

 確かに納得出来なくはなかった。しかし、いきなり過ぎやしないだろうか。
 唐突な話に思考が混乱していたフェイトを見ていたなのはが、急に立ち上がり厨房の方に向かう。
 何事かと残された二人が不思議そうに見つめていたが、五分程して戻ってきたなのはがぐっ、と親指を立てた。

「フェイトちゃん、明日の午後で良ければ買い物付き合うよ、だって」

「あの、なのは……?」

 嫌な予感がした。何となく、頬が引きつっているのが分かる。

「ナイスやなのはちゃん! なんて言って誘ったんや?」

「えへへ、それはひみつ。あ、フェイトちゃんの春物のお洋服を買いに行く事になってるから。これを気にフェイトちゃんの気持ちはもちろん、ついでに聖さんの好みも調べておくといいと思うよ」

 笑顔で言うなのはの顔は「良い事をした」という満足感で満ちていたが、当のフェイトの顔は諦めと不安で満ちていた。


「ただいま……」

「あ、フェイトちゃん。お帰りなさい」

 なのは達と別れ、次の日の事で頭を一杯にしながら家路についたフェイトを、底抜けに明るい声が迎えた。

「エイミィ? どうしたの?」

 家のリビングのソファーでは、フェイトの同僚でありお姉さん的な存在でもあるエイミィ・リミエッタが自分の家のように……実際に一時期住んではいたのだが……くつろいでいた。

「今の仕事が一段楽したからね、クロノくんの帰郷に便乗してきたんだ」

「そうなんだ。あ、『翠屋』でパンケーキ、お土産にもらったんだけど、エイミィも食べる?」

「え? 本当に? 食べるよ、食べる!」

 そう言ってスキップするようにそれまで使っていたコーヒーカップを流しに下げ、新しいカップを二つ取り出して紅茶を入れる準備を始める。
 その様子をエイミィがそれまで座っていたソファーの対面側に座り、笑みを浮かべながら見つめていたフェイトの頭がふと閃いた。

「ねえ、エイミィ」

「ん? 何かな?」

 フェイトの声に答えながらその前に湯気の立つカップを置き、その対面の席に腰を下ろして自分の分のカップに口を付ける。

「エイミィって男の人とデートって、した事ある?」

「ぶふぅ!?」

「……エイミィ、熱い」

 エイミィの口から勢いよく噴き出された紅茶を浴び、フェイトはハンカチで顔を拭きながら抗議するように一言呟いた。

「ごほっ、えほっ……フェ、フェイトちゃん? いきなりどうしたの?」

 咳き込みながら涙目で何とかそれだけ口にするエイミィに、フェイトはその日の出来事をかいつまんで説明した。

「聖さん、って『翠屋』の店員さんの? この前美由希に会いに行った時ご馳走してもらったプリンが美味しかったから印象に残ってたのよねぇ……って、フェイトちゃんどうかしたの? 何か落ち込んでない?」

「ううん……気にしないで。それで、どうなの?」

「え? あ、その、えっと……」

 フェイトの期待に満ちたその瞳から一瞬目を逸らした後、

「も、もちろんありますとも。デートの一回や二回」

 と妙に明るく答えた。

(クロノくんと出かけた事もデートとカウントしていいよね、一応……)

 心の中でそう呟きながら。

「あの、それで、明日デート……じゃなくてお出かけする事になし崩し的になったんだけど、私、そう言う経験ないからどうすればいいのかなっと思って……」

「うーん、そんなに気にする必要はないと思うけど……まあ、少しくらいお洒落はした方がいいかも。例えば……」

 エイミィは立ち上がってフェイトの後ろに回り、ツインテールにしている髪のリボンを外した。

「エイミィ?」

「例えば髪型変えてみるとかね」

 そう言ってどこからともなくブラシと鏡を取り出し、鏡をフェイトに渡してからその髪を梳き始める。

「まずはポニーテール~」

「今までのとそんなに変わらなくない?」

「じゃあ片方に集めて方結び~」

「これもそんなに」

「お団子~」

「一人じゃ出来ない……」

「鼻眼鏡~」

「……は?」

「仮装行列用かつら~」

「あの、エイミィ?」

 途中から何かおかしくなり始めたので思わず後ろを振り向くと、エイミィの足元にダンボールの箱が置かれてあった。

「……それ、何?」

「この前のお花見で使った隠し芸用の小道具入れ。ここに置きっぱなしだったの思い出したから」

 自分の知らないところでそんな事をしていたんだ、というツッコミを入れようと思ったが、その前にとある結論がフェイトの頭の中ではじき出される。

「ねえエイミィ」

「何~?」

「もしかして私で遊んでる?」

「あはは、ばれた?」

 さわやかな笑顔で答えるエイミィ。

「………」

 フェイトはおもむろに立ち上がり、エイミィの席にあったパンケーキを掴むと、

「はむっ」

 いきなり噛り付いた。

「ちょ、フェイトちゃん!?」

「エイミィの分は無し」

 瞳を潤ませ拗ねた表情でもくもくとパンケーキを頬張るフェイトであった。

「ちょ、ごめん、謝るからフェイトちゃん、そんなご無体な~!」


「……うん、やっぱこれが一番いいかな?」

 そう言ってエイミィはフェイトの髪を梳いていた手を止める。

「でもエイミィ、これ、ただ髪を下ろしただけだよ?」

 それがいいんだよ。フェイトちゃん、髪の毛さらさらで綺麗だからあまり変に弄らない方がいいって」

「そう、かな?」

 不安そうに尋ねたその言葉にエイミィは笑顔で何度も頷いた。

「あの、でもせめてどこかにリボンを付けておきたいんだけど……」

「ん? これ?」

 最初にフェイトの髪から外しポケットにしまっておいた黒いリボンを取り出し、それを指差しながらエイミィが尋ねる。

「うん。その……なのはから貰った、お守りみたいなものだから……」

「ああ、なるほどね。じゃあ……」

 エイミィは二本あったリボンを一本だけフェイトに返し、残った一本で彼女の長い髪の先をそれで結んだ。

 「じゃあこれでどうだー! フェイトちゃん、立ち上がって一回転してみて」

 言われるままに立ち上がり、その場で一回転してみる。

「うんうん、いい感じ。すごく可愛いよ」

「あ、ありがとエイミィ……」

 頬を真っ赤に染め下に視線を落としながら、フェイトは消え去りそうな声でお礼を述べた。

「ねえ、他には気にするところとか、あるかな?」

「うーん、実は私のデート相手って気心の知れた相手だったからそこまで気にした事ってなかったんだよね……ごめんね、あんまり力になれなくて」

「あ、そんな事ないよ。ありがと、エイミィ」

「じゃあ残りのパンケーキ、食べていい?」

「ダメ。残りはアルフとクロノとリンディ提督の分」

「うわぁ、フェイトちゃんが意地悪だー!」

「自業自得」

 泣き崩れるエイミィだったが、すぐに顔を上げてフェイトを見つめる。

「そういえばフェイトちゃん、明日のデートって何時からなの?」

「だからお出かけだよ。午後の一時。『翠屋』で待ち合わせを……」

 そこでフェイトはエイミィの顔がにやけているのに気がついた。同時に、嫌な予感がした。

「……エイミィ。付いて来たりしたらもうお菓子もらってもあげないからね」

 ぎくり、と肩を震わせるエイミィに、フェイトは思わずため息を吐いた。


「リンディ提督、ちょっといいですか?」

 義理の母であるリンディ・ハラオウンの自室に緑茶とパンケーキを持ってやってきたフェイトはノックをしてからそう尋ねた。

「あらフェイトさん? どうかしたの?」

「お茶とお菓子を持ってきました」

「ありがとう、入ってきていいわよ」

 その答えを聞いてから部屋を空けると、畳にちゃぶ台といった一昔前の和風な部屋模様がフェイトの目に飛び込んできた。

「今日はアイスにしてみたんです。そろそろ暖かくなってきたので。どうですか、リンディ提督?」

 だが、フェイトの言葉にリンディは少しだけ悲しそうな表情になる。

「フェイトさん、私達はもう家族になったのよ? 『リンディ提督』なんて堅苦しい呼び方はそろそろ止めましょう。それに、もう『アースラ』はクロノに任せたから『提督』じゃないんだし」

「あ、はい、その……お、お義母さん」

 少し照れながら呟くフェイトだったが、リンディは満足そうに微笑んでいた。

「あ、そうだ、リン……お義母さん」

「うん? 何かしら?」

 いつものように緑茶に砂糖(今回はアイスなのでガムシロップ)とミルクを入れながら、リンディは笑顔で答える。

「お義母さんはお義父さん……クライド提督と二人でお出かけした時ってどんな感じでした?」

「ぶふぅ!」

「……お義母さん、冷たいです」

 ハンカチで顔を拭きながら、むせているリンディの背中を擦るフェイト。

「あの、フェイトさん? いきなりどうしたの?」

「あの、実はですね……」

 かくかく、しかじか、以下略。

「ああ、桃子さんが言ってたアルバイトの子ね。この前プリンを薦められていただいたんだけどとても美味しかったわ……フェイトさん? どうかしたの?」

「いえ、自分の浅はかな行動に後悔しているだけです」

「そう? まあ話してもいいけど……私とあの人、クライドさんは管理局で知り合って、そのまま意気投合して落ち着いたって感じだったからあんまりそういう思い出はないの。船も違ったし、そんなに一緒にいた時間は長くなかったかな?」

 そう言って少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

「あ、その、あの……ごめんなさい」

「フェイトさんが謝る事じゃないわ。そういう仕事をしていたからお互い覚悟はしていたし」

「……本当にごめんなさい」

 済まなそうに頭を下げるフェイトにリンディは微笑みかける。

「でもせっかく来てくれたんだからひとつだけアドバイス。フェイトさんは自分の気持ちを確かめたいからデートをするって言っていたけど」

「いえ、デートじゃなくてお買い物……」

 だがリンディはフェイトの口に人差し指を当てて言葉を遮る。

「どっちでも同じ。そう考えている事自体が相手に対して失礼な事よ」
「え?」
「確かになのはさん達のお節介から始まったなし崩し的なデートかもしれない。でも、その相手は笑顔で承諾してくれたのでしょ?」

「はい、多分……」

 その場面を見ていたわけではないので確定は出来なかったが、笑顔以外の聖の表情を見た事がないフェイトはそれ以外で応じている様子を想像出来なかった。

「だったら、その相手の為にできる事は簡単。楽しんできなさい。相手も多分、それが一番嬉しい事だと思うから」

「あ……」

 何となく、理解出来た。
 フェイトだって自分がやった事でなのは達が、皆が喜んでくれたら、ものすごく嬉しい。反対に、なのは達が、皆が悲しんでいたら、自分も悲しくなる。
 だから、執務官という仕事を目指しているのだ。自分と同じような思いをする人を出さない為に。自分が事件を解決する事で、その事件に関わった人達に笑顔が戻るように。

「最初から男女として付き合う事を前提にしている人なんてそうはいないわ。殆どの人がフェイトさんと一緒。相手が『恋』を抱く相手なのか、仲の良い『友達』なのか、確かめる為に二人で、あるいはたくさん集まって行動をする。そしてまた会いたい、何度も会いたいと思うようになった人が『親友』になり、そして、『恋』の相手となるの」

「……はい」

「フェイトさんはまだ九歳ですもの。だから、ゆっくり自分の気持ちを、答えを確かめればいいの。少なくても私はフェイトさんを応援するから。という事で、はい、これ」

 そう言ってリンディは二、三枚の紙幣を取り出し、フェイトに手渡した。

「お、お義母さん、大丈夫だから。ちゃんとお小遣い貰っているし……」

 いいから。お仕事も頑張ってくれているし、学校の成績も良かったから、これはご褒美って事で。可愛い服、選んでもらってきなさい」

「あの……ありがとう、ございます」

「はい……ところで、明日は何時から出かけるの?」

「え? 午後の一時か……ら……」

 嫌な予感が再びした。

「……お義母さん、もし付いて来たりしたら、もう『お義母さん』って呼ばないから」

 ぎくりと肩を震わせるリンディに、フェイトは深いため息を吐いた。


 取り敢えず、どうすれば……というよりはどういう気持ちで明日を迎えればいいのかだけは分かった気がした。

「でも、せっかくなんだから私だけじゃなくて聖さんにも楽しんで欲しいし……」

 どういう結果になるかは分からないし、今はまだ焦る事はないとリンディに諭されたばかりだが、やはりどうせなら相手にも楽しんで欲しいと思うのは当然の事だ。
 それに、親しくなっておけば将来的に自分の事を告白する時が来ても、悲しい結果になる確率が格段に下がる。自分の想いがどちらだとしても、聖と仲良くしたいのは同じだ。悪い結果になるような可能性はなるべく下げておきたい。

「でも……よくよく考えてみると私、聖さんの好みとか知らない……」

 というより、異性の趣味とか趣向とか自体も、余り理解はしていないとも言える。
 男の子の友達はいないこともないのだが、なのは達と一緒にいる方が楽しいのでやはりそっちの方に主軸がいってしまうし、何より聖は自分達より六歳程年上だ。それだけ年齢に差があれば趣向とかも違いが出るだろう。

「聖さんと同い年くらいの男性に話が聞ければいいんだけど……」

 そこまで呟いてフェイトは思い出した。
 少々性格は違うが、同い歳くらいでフェイトが何の気兼ねもなく話せる男の人が、物凄く近くにいる事に。


「ク……お義兄ちゃん、いる?」

「フェイトか? 開いている、入っていいぞ」

「お邪魔します、お茶とパンケーキ、持ってきたよ」

 机で今回担当した事件の報告書と思われる書類を書いていたクロノ・ハラオウンの隣に、コーヒーを入れたカップとパンケーキの乗った皿をそっと置いた。

(何ていうか、このパンケーキものすごく役に立っている……)

「ねえ、お義兄ちゃん。ちょっとお話いいかな?」

 仕事の邪魔をしないよう、フェイトは少し遠慮しながら声を掛ける。

「ああ、別に構わない。せっかくお茶を入れてもらったわけだしな。それよりフェイト、『お義兄ちゃん』は止めてくれと言ってるだろう」

「………」

 血の繋がった親子でもここまで性格に違いが出るものだろうかと少々疑問に思うフェイトだった。

「それで、話って何だ?」

「あ、うん。ねえ、おに……クロノって、女の人と遊びに行くならどんなところに行きたい?」

「ぶふぅ!」

「……クロノ、汚い」

 さすがに学習したのか、お茶を載せていたトレイで見事に防御したフェイトはしかし半分呆れていた。

「唐突にそんな事を聞かれれば誰だって驚く」

 口元をハンカチで拭いながら、クロノはそう抗議した。

「で、どうしてそんな事を聞くんだ? 理由くらいは教えてもらってもいいだろう?」

「うん、実は……」

 以下略。

「ふうん、なのはの家の店員とか……信頼できる相手なのか? ……ってどうした? 不思議そうな顔をして」

「いや、プリンが出てこなかったから」

「はあ?」

 そういえばクロノだけは仕事の関係ではやての快気祝いに来ていなかった事をフェイトは思い出した。

「何でもない。それで、どうなの?」

「……すまないが力になれそうにない。僕はそういう経験をした事がないからな。あっても大概はエイミィに連れ回されていただけだし」

「そっか……確かによく考えるとクロノが女の人と遊びに行くところなんて想像出来ないし」

「……今、さり気なく酷い事を言わなかったか?」

 少しむっとしながらパンケーキを齧るクロノ。そして表情が少し変わった。

「……美味いな、これ」

「それ、さっき言った聖さんが作ったって言ってた」

「……それで?」

「それで、って?」

 質問の意図が掴めず、フェイトは思わず聞き返す。

「だから、さっき僕がした質問の答えだ。その倉瀬聖という人間は信頼に足るのか?」

「……取り敢えず、なのはやはやては応援してくれてるし、お義母さんやエイミィも良い印象を持っているみたいだよ」

「ふうん……どんな人間なんだ?」

 そんな事を聞いてくるなんて珍しいな、と思いながらもフェイトは律儀に答える。

「うーん、優しくていつも笑顔で……一言で言うなら、『優しいお兄ちゃん』みたいな人かな?」

 その言葉にクロノの頬が一瞬引きつったが、フェイトは気が付かなかった。

「……まあ、その相手は確かデザート職人を目指しているんだよな? だったら行き先の周辺の有名な菓子屋を調べて行ってみたらどうだ?」

「あ、それいいかも。さすがクロノ、相談してみて良かった」

「褒めたって何もでないぞ」

 そう言ってクロノは頬を赤くしながらそっぽを向いた。

「……ところで、フェイト」

「うん? 何?」

「明日は何時から出かけるんだ?」

「………」

 フェイトは諦めにも似たため息を吐いてから、

「クロノ、もし付いてきたら一生『おにいちゃん』って呼ぶからね」

 ぎくりと肩を震わせるクロノ。
 前言撤回。やはり血の繋がった親子のようだった。


 夜、ベッドに入ってからフェイトは今日一日の事を思い出していた。
 確かに最初はなし崩し的だった。でも、今は眠気が訪れないくらいには緊張している。

「現金だな、私」

 思えばなのはの時もそうだった。
 本当は、「友達になろう」という彼女の言葉が、すごく嬉しかった。
 本当は、公園での少し長い別れの時、彼女に向かってすぐに肯定の答えを出したかった。
 だけど、何も知らなかったフェイトは喜びを表す事も、すぐに答える事も出来なかった。
 だから、その言葉を掛けてくれた、答えを教えてくれたなのはにはどれほど感謝しても足りない。今の自分があるのは、なのはのおかげだと言っても過言ではない事に気が付いている。
 そして、そんな感情を出せるようになったきっかけを与えてくれたのは、きっとその前に出会った、あの人……。

「明日が、楽しみだな……」

 小さく呟き、フェイトは眠りに落ちる為に瞳を閉じた。

「……あ、そうだ」

 が、すぐに起き上がり、枕元に置いてあったケータイを弄り始めた。

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 少しの間だけ「熱血魔法バトルアクション」ではなくなりますw
 何気にこうやって戦闘以外の事で右往左往している状況を書くのは楽しいですw なのは作品は百合展開のものが多いですが、いや、百合も嫌いではないのですが、

 こういった普通の展開も悪くはないと思いませんか?ww

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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