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魔法少女リリカルなのはA→S 第六話 ~Side FATE Ⅲ~

 眩しいまでの快晴を迎えた翌日、フェイトは約束の時間より少し早く『翠屋』の前に来ていた。
 髪型はいつものツインテールではなく、昨日エイミィに薦められたとおり丁寧にブラシを通した髪の先をリボンで結んだシンプルなもの。服も一番お気に入りを選んだ。肩には前にリンディにプレゼントされたアルフに似た可愛らしい犬のアップリケが施されたショルダーバッグが掛けられている。
 中に入ろうかと思ったのだが、聖はこの日午前中はバイトだと言っていた。自分の姿を発見したらきっと気にして急ごうとするだろう。
 そう思い外で待つ事を決め、目立たないところに移動しようとした時、店の中からその本人が出てきた。

「あれ? フェイトちゃん、早かったね」

「聖さんも……まだ約束の時間より大分早いですよ?」

「女の子を待たせるのも悪いからね。店長達も早めに上がっていいって言ってくれたし」

 そう言っていつもの笑顔をフェイトに向けてくれた。その顔を見ていると、フェイトも自然と笑顔が浮かんでくる。

「じゃあ行こうか? 春物の服が欲しいんだっけ?」

「はい。可愛い服、選んで下さいね」

「あー、そこら辺は期待されるとちょっと困るかも」

 そんな会話を交わしながら並んで歩き出したちょうどその時、遠くから声が聞こえた。

――な、なのは!? どうしてここに?

――うちのお店の前なんだからいても不思議じゃないよ、クロノくん。それよりダメだよ、いくら義妹の事が気になるからって尾行とかしたら。

――も、桃子さん、こんにちは~。

――はい、こんにちは。リンディさんもですよ。子を持つ親として気持ちは理解出来ますが、あまり良い趣味とは言えませんよ。

――美由希まで……お店はいいの?

――ご心配なく。うちのバイトの子はみんなレベル高いから。それよりも、もう私が言わなくても分かっているわよね、エイミィ?

――し、シグナムまで……。

――まさかとは思いましたが、主はやてまでこのような事に参加するとは……申し訳ございませんが、今回の件ばかりはテスタロッサに味方させていただきます。

「……何だか後ろの方が騒がしくない?」

「気のせいですよ」

「それにフェイトちゃん、何だか嬉しそう?」

「いえ、保険を掛けといて良かったなあと実感してるだけです」

 妙に清々しい表情で歩き続けるフェイトに、聖は不思議そうな視線を向けながらもその隣を歩いていた。


 駅前のデパートに超託した二人は、真っ先に洋服のフロアへと向かい、早速物色を始めた。

「これとかどうですか?」

「うーん……」

「これは?」

「悪くは……」

「じゃあこれとか……」

「ないんだけど……」

 普段のフェイトを知る人間からすれば恐らく何か信じられないものを見ているような表情で見つめられる事請け合い無しなくらい、フェイトははしゃいでいた。
 今までは服にしたって本来は今のようにフェイトが自ら進んで選ぶというような事はまずなく、大概なのは達といった級友やリンディやエイミィといった家族やそれに準ずる人達が「似合うよ」と言ったものを基準に選んでいたのだから。
 それは昨日リンディに言われた事を意識する事なく実行できている証拠ではあるが、当の聖はフェイトが選んでくる服に少々疑問があるのか、しきりに苦笑を浮かべている。
 あの、聖さん、私のセンス、もしかしておかしいですか?」
 さすがに気になったのかフェイトはおずおずといった様子で尋ねる。

「いや、さっきも言ったとおり悪くないし似合っていると思うんだけど……今フェイトちゃんが着ているのもそうだけど、何だか大人しめの服が多くない?」

 その指摘は間違っていなかった。
 現在フェイトが見につけている服も黒を基調としているし、選んでくる服も同じような色合いのものが殆ど……というか、全てそうだった。

「そう……ですか?」

「うん。フェイトちゃん、元はものすごく可愛いんだから例えば……」

 そう言って聖は少し周りを見渡してから、一着の服を選んでフェイトの体に当ててみた。
 それは白を基調とした、どちらかといえば「可愛らしい」に分類されるタイプのものであった。

「ほら、良く似合うよ」

「でも、こういう明るい色のはどっちかっていうとなのはとかはやてとかの方が……」

「そうかな? フェイトちゃん、白も似合うと思うけど。例えば今着ている服だって上に明るいものを羽織れば彩色的にも良くなると思うし」

 微笑まれながらそう言われてはフェイトとしてはもう次の言葉が出ない。

「……聖さんって明るい色が好きなんですか?」

 そういえば普段から青や白といった色の服を着ているのが多いな、と思いながら尋ねてみる。

「んー、あんまり考えた事なかったけど、確かにそうかもね」

「………」

 フェイトは聖の返答に少しだけ考えるそぶりを見せた後、

「……それにします」

 と小さく答えた。その即決さにさすがの聖も驚いた表情を見せる。

「えっと、そんな簡単に決めていいの?」

「聖さんはこれ、私に似合うって思っているんですよね?」

「それは……うん」

「だったら、いいです」

 そう言って微笑まれては、聖としては苦笑を漏らすしかなかった。


「フェイトちゃん、他にも見てみたいお店とかある?」

 清算を終え袋に詰められた服を両腕で抱きかかえるようにしながらご機嫌な様子で隣を歩いていたフェイトに、聖はそう尋ねる。

「あ、いいえ。特には……」

「それじゃあ、今度は僕の買い物に付き合ってもらっていいかな?」

 その言葉は、いずれ必ず問われるだろうと半ば確信していたフェイトは思わず噴き出してしまった。

「フェイトちゃん?」

 その様子を不思議そうな表情で見ていた聖に、フェイトは右の人差し指でエスカレーターの近くに設置している総合案内板を差した。

 『全国有名店のスウィーツ展 八階イベントホールにて開催中』

「今日までなんですよね、これ」

「……正解。いいかな?」

 照れ臭そうに右の人差し指で自分の頬を掻く聖に、フェイトは考える様子もなく速攻で頷いた。


「これが私の買い物に付き合ってくれた理由、ですか?」

 スウィーツ展、と名を打ってあるだけありそのフロアはむせ返りそうなほどの甘い匂いで満ち、客層もほとんどが若い女性だった。
 確かにここに男一人で入っていくには少し勇気がいるかもしれない。

「さすがに男友達は誘っても良い顔しないし、付き合ってくれるような親しい女友達もいないしね」

 その言葉にフェイトは何故かほっとした気分になる。

「ああ、それとさっきのフェイトちゃんの言葉だけど、別にだからといって買い物に付き合ったわけじゃないよ? 実際これを思い出したの、ついさっきだし……って、言い訳がましいかな?」

 苦笑する聖だったが、そんな事はフェイトはすでに熟知していた。このデパートに来たのもフェイトがリクエストしたからであり、聖がここに来たいとは一言も言っていない。フェイトがここを選んだ理由も、昨日クロノに言われ一生懸命美味しいと有名な店を探していてこの情報を仕入れたからである。

「さて、それじゃあ早速回ろうか? あ、出来るだけたくさんの店を回りたいから一つだけ買って二人で分ける、って形でいいかな?」

 フェイトが頷くと、聖は早速一番近くにあったクレープの店へと並ぶ。人は多かったが回転率がいいのか、そこまでの行列にはなっていなかったのですぐに順番が来た。

「いらっしゃいませ、どれになさいますか?」

 店員らしい少女が笑顔で対応してくる。それに負けないくらいの笑顔を浮かべた聖はメニューを軽く眺めた後、

「フェイトちゃん、食べたいものある?」

 と、フェイトのリクエストを聞いてくる。

「あ、お任せします。聖さんの食べたいもので……」

「それじゃあ……この、スペシャルフルーツクレープ、ってのをひとつ」

「はい、おひとつでよろしいですか?」

「ええ、この子と分けて食べますので」

 店員の女性は小さく笑うと、クレープの生地を二つに切ってフルーツを半分ずつ別々に乗せて、最初からクレープを二つに分けた状態で渡してくれた。

「あ、すいません、お手数掛けます」

「いいえ、ほら、こういうイベントだから皆さんやっぱりたくさんのところを回りたいらしくてひとつを数人で分けるって人が多いんですよ。だから二人分にくらいなら最初から分けてくれるお店、多いですよ」

「へぇ、なかなかいいサービスですね……見習おう」

 そう言って店員の少女と仲良く談笑している聖を見ていたフェイトが唐突にその袖を引っ張った。

「あ、ごめんねフェイトちゃん。すいません、邪魔しちゃいましたよね」

「いいえ。可愛らしい妹さんですね」

「え? いや、あの……」

 その言葉をすぐに否定しようと思ったフェイトだったが、

「いいえ、ちょっとした知り合いなんです。妹『みたいな』子ではあるんですけど」

 先に聖に優しく、しかしきっぱりと否定された。

「ああ、そうなんですか。そういえば言葉遣いが丁寧でしたもんね。兄妹だったらあんな会話にはならないか」

「あはは。それじゃあ失礼します、お仕事頑張って下さい」

 それだけ告げて聖はフェイトの手を引いてその店から離れた。

「ごめんね、仕事柄、同業者の言葉とか気になっちゃって」

「……いいえ、気にしないで下さい」

「……フェイトちゃん? どうかした?」

 フェイトの様子が少しおかしいのに気が付いたのか、聖は不思議そうな表情で尋ねる。

「何でもないです……クレープ、美味しいですよ」

 だがフェイトは一言そう答えただけで、繋がれた手とは別の手に握られたクレープを齧っていた。

(妹みたいな子、か……)

 さっきの聖の、恐らく何気ない、しかしだからこそ本心であろうその言葉の意味をフェイトはずっと考えていた。
 その事自体は嫌な事ではない。むしろ、単なる「アルバイト先の店長の娘の友達」でしかないフェイトに対してそう思ってくれているのは嬉しい事だ。
 でも、それはすなわち、聖にとってフェイトという存在は、「妹のような存在」以下ではないが、決して
「妹のような存在」以上でもない、という事になってしまう。

(だから、この手だって繋いでくれている)

 その程度の存在だからこそ、無意識に手を繋ぐ事が出来る。それを、フェイトは……少しだけ、寂しいと感じた。
 そして、そう感じてしまうという事は、フェイトにとっては聖という青年は「兄のような存在」ではない、という可能性が高いという事になる。

(……やっぱり、まだ自分の気持ちが分からない。でも)

 少なくとも。
 聖はフェイトをそういう目で見ていない事だけは、はっきりしてしまった。
 それが何だか無性に寂しく感じて、フェイトはただ黙々とクレープを齧っていた。


 その後もたくさんの店を回り、そしてたくさんのデザートを買って食べ歩いた。
 甘い物が決して嫌いではないフェイトだったが、さすがに胸焼けがしてくるくらいまで歩き回った後、フロアの一角に設置された椅子に腰を下ろした。

「何か飲む?」

 その様子を見た聖が苦笑しながらそう尋ねてきた。

「紅茶を……なるべく甘くないやつで」

「了解。向こうにドリンクコーナーがあったから買って来るね」

 そう言って立ち去り、五分ほどで二つのカップを持って戻ってくる。

「はい、レモンティーでよかった?」

「はい、ありがとうございます」

 聖から片方のカップを受け取り、ストローからその中身を吸った。

「どれも美味しかったけど、さすがに甘いものはしばらくいいかな」

 フェイトの隣に座りコーヒーの匂いと湯気が漂うカップに口をつけながら呟かれたその言葉に、フェイトは無意識に頷く。

「でも、聖さんってすごいですよね」

「え? 何が?」

「だって……」

 店を回っている時の聖を思い出し、フェイトは思わず噴き出した。
 どの店に行っても、どれを食べても。
 最初に聖の口から出る言葉は「おいしい」といった賞賛の言葉ではなく、「スポンジの焼き方が」だとか、「隠し味は」とかいった職人としての言葉が殆どだったのだ。
 そんな聖を見ていたら、何だか色々と悩んでいるのが馬鹿らしくなり、途中からはもう純粋に聖との食べ歩きを楽しむ事が出来た。恐らく聖本人に自覚はないだろうが。

「本当にお菓子作りが好きなんですね」

 フェイトがそう素直な感想を述べると、聖は照れくさそうに頬を指で掻いた。

「まあ、唯一の趣味だしね」

「そういえば……聖さんは何でパティシエを目指してるんですか?」

 言った後でそういえば自分はこんな事も知らなかったんだな、と少し恥ずかしくなる。

「んー、別に話してもいいけど特に面白くはないと思うよ?」

「いいです、聞きたいです」

 すぐにそう返すと、聖は苦笑しながら一度ため息を吐いた。

「実はね、僕、昔いじめられっ子だったんだ」

「え!?」

 唐突な内容にさすがのフェイトも声を上げる。

「まあ、勉強もそんなに出来なかったし……特に国語とか今でいう文系は壊滅的だったかな。運動も苦手で、恥ずかしながら逆上がりとか今でも出来ないし」

 何となくフェイトの中で聖となのはが繋がってしまった。

「そんなある日ね、パティシエだった母さんの手伝いでプリンを作ったんだ。近くの幼稚園に配る、一口サイズをたくさん。で、余ったやつをお駄賃代わりに貰って、天気が良かったから外で食べようと思って近くの公園に向かって……そしたらそこに一人のお姉さんが居たんだ」

「お姉さん?」

「うん。と言っても当時僕が五歳くらいだったからその視線で見たらお姉さんだったってだけで……今思うとフェイトちゃんより少し年上くらいだったかな?」

「それで……?」

「そのお姉さんね、何か悲しい事でもあったのかすごく落ち込んでいて。それで持っていたプリンをひとつあげたんだ。そしたら……」

 まるでその時を思い出しているかのように、聖の顔が今まで以上に優しい表情になった。

「笑いながら『おいしい』って言ってくれて。何度も『ありがとう』って言ってくれて。その時にね、お菓子ってすごいなあって。何も出来ない僕でも、こんな風に誰かを笑顔にする事が出来るんだって」

「………」

「それからかな? 母さんにお菓子作りを習い始めたのは。まあ、本職のパティシエだっただけにすごく厳しかったけどね。本当、普段はすごく優しいのにお菓子作りの時だけは怖かったなあ。今になって思えば嬉しかったんだろうけね、息子に自分の得意なものを残せるかもって」

 その言葉にフェイトは引っかかるものを覚えた。

「残せる……?」

「ああ、そういえば言ってなかったね。僕の母さんはもうこの世にいないよ。五年くらいになるかな? 元々病弱だったみたいだし、悟っていたんだろうね」

 そう言って微笑む聖に、今度は自分の姿と重なる。

(……聖さんも、もうお母さんがいないんだ)

 無論、経緯も状況もまったく違う。それに今は義理とはいえ母親と、兄が出来た。

(だけどきっと聖さんは……)

 初めて会った時の事を思い出す。あの時から、もうすでに聖の住む場所には彼以外の人影がなかった事を。

「今、一人で暮らしてるんですか?」

「あ、うん。父親は物心ついた時からいなかったし、その事を聞く前に母さんがいなくなったから一時期は親戚の家に厄介になっていたんだけど、高校入学を気に無理を言って戻ってきたんだ」

 強いな、そう感じた。きっと自分は、母と、そしてリニス達と過ごしたあの庭園に戻る事など、きっと出来ない。

(……その場所もなくなってしまっているし)

 そして、何となく理解した。自分が彼に惹かれている理由を。
 似すぎているのだ。具体的な境遇とか、経緯とか、先に目指しているものとかは確かに違う。だけど、その……本質にあるものが。

――自分に出来る、精一杯の事で、誰かを幸せにしたい。

 そういった、思いの本質が。

「さて、充分堪能したしそろそろ帰ろうか?」

 空になったカップをゴミ箱に捨てながら、聖はそう言って立ち上がった。

「あ……」

 思わずあげてしまった声に、聖は驚いたようにフェイトに向き直る。

「どうかしたの?」

「い、いいえ……」

 何だかこのまま分かれるのが惜しい気がした。ただそれだけだった。
 それだけだった故にそれを言葉にするのは恥ずかしくなり、フェイトは誤魔化すように辺りを見回し、そしてそれが目に入った。

「あれ……」

「ん?」

 釣られるように聖もまたフェイトの視線の先に目を向ける。
 そこにあったのは小さなゲームコーナーだった。子供向けの遊具なども置かれている事から、恐らくこのフロアで買い物をする家族連れの、主に父親や子供の為に設置されているのだろう。
 そして、フェイトが真っ直ぐに見つめていたのは、その小さな場所に一台だけある、大きな機械だった。

「シール写真機?」

 そう、それはその場で取った写真をシールにしてくれるという、今やこういう場所には大概設置されている有名な機械だった。

「あ、あの……」

 その言葉に聖はフェイトに視線を戻すと、顔を真っ赤にしながら必死で何かを呟こうとしていた。
 聖は大体予想が付いているようだった。しかし一生懸命に言葉を捜しているフェイトの様子を見ながら微笑み、黙ってその言葉を待っているようだ。

「あの、その……い、一緒に撮ってくれましぇんか?」

「……えっと、大丈夫?」

 あまりの恥ずかしさで舌が回らずに噛んでしまい、口を押さえながら目に涙を浮かべる。そんなフェイトを見た聖は一度小さく噴き出し、その手を掴んだ。

「え? あの……」

「撮りたいんでしょ? あれ」

 そう言ってシール写真機を指差す聖に、フェイトは一瞬だけきょとんとした後、

「あ……はいっ!」

 満面の笑みで頷いた。


 撮った写真を二人分に分け、片方を大事にしまってから二人並んでデパートから出た。

「………」

 フェイトは少しだけ悩んだ後、そっと聖の左手に自分の右手を伸ばす。
 触れた時は驚いた表情を浮かべた聖だったが、すぐに笑顔になりその手を握ってくれた。
 その動作を嬉しく思う一方、どこか複雑な思いがフェイトの中を駆け巡る。

(こういう風にしてくれるのは、やっぱり私が『妹』としてしか見られていないからだよね……)

 別に今の関係が嫌というわけではない。リンディに言われたとおり、焦るつもりもない。第一、なのは達の言う今日の「デート」が終わりそうな今となっても、ある程度の確信が浮かぶ場面はあったもののやはり自分の気持ちがまだ分からない。
 だけど、今の関係が物足りないと思っているのも事実だった。だから、少しだけ変えたいと思った。

(取り敢えずは……「聖さん」、からかな?)

 聖……彼にぴったりな名前だと思った。自分みたいな口下手で自己主張の少ない子にも、なのはのように優しくて活発な子にも、はやてのように元気で思いやりのある子にも、わけ隔てなく、その笑顔を向けてくれる優しい青年。
 だからこそ、自分だけでなく他のみんなも彼を慕っている。

(でも、私は……)

 なりたいと思った。他のみんなより、少しだけ、特別に。
 独り占めしたいとは言わない。そんな資格は今の自分にはまだない。
 だけど、少しだけでいい。聖にとって、自分という存在が他のみんなより、少し、本当に少しだけでいいから、特別であって欲しい。
 それが、「妹のような存在」でとしてであっても。

(不思議な気持ち……母さんの時にも、なのはの時にも、こんな気持ちにはならなかったのに……)

 母親の役に立ちたかった。願いを叶えたかった。
 でも、自分ひとりだけを想って欲しいとまでは思わなかった。
 なのはが大好きだ。初めての、大切な友達だ。
 だけど、なのはを独り占めしたいとは思った事がない。
 だったら、聖はどうだろう。
 出掛けの最初、恐らく後をつけて来るだろうと半ば実感していたから、なのはに電話をし、シグナムに連絡を取り、阻止してもらった。
 ……邪魔をされたくなかった。
 聖がお店の店員と仲良く話していた時、少し胸がもやもやした。邪魔をしたくなった。
 ……嫉妬をしていた。
 そう、それは、フェイトが初めて抱く思い……独占欲だった。

(……ああ、そうか。私は、独占したいんだ)

 自分を対等な相手として扱ってくれたなのはより先に、自分に優しくしてくれた、この青年を。
 そして、理解してしまえば元々行動力はあるフェイトは早速行動に移す事にした。

「あの、聖さん……」

「ん? 何?」

 きっと、驚くだろう。聖は元より、他のみんな……特にすでにその位置に居るあの人は。

「ひとつだけ、お願いがあるんですけど……」

「何かな? 僕に出来る内容なら叶えるけど」

 立ち止まり、フェイトの目線の位置まで腰を落として聞く体制を取る聖。その顔はやはり笑顔を浮かべている。
 フェイトはさっきのシール写真機以上の勇気を振り絞って、その願いを口から紡ぎだした。

「こ、これから、その……『お兄さん』って呼んでもいいですか?」

 ぎゅっと瞳を閉じ、それだけを小さく、しかしはっきりと呟く。
 きっと、聖の顔は驚きに満ちているだろう。でも返事が怖くて目が開けられず、その顔を見る事は出来なかった。
 そして、時間にして数秒。しかしフェイトにとっては何時間にも感じられたわずかな時間の後、

「あっ……」

 フェイトの頭に大きく、柔らかい手が乗せられ、そして優しく撫でられた。
 ゆっくりと目を開け、その瞳に聖の優しげな笑みが写ると。
 恐らく誰も見た事がないであろう、満面の笑みをフェイトは浮かべた。


 聖に送ってもらい、真っ先に自分の部屋に戻ったフェイトは自分の机から真ん中に白い宝石のレプリカを施した小さなペンダントを取り出した。
 それは、あの色々あったけど大事な記憶になったクリスマス。そのパーティーの時になのはから送られたプレゼントだった。
 実はこれには仕掛けがあり、右側にある小さなレバーを引くとペンダントが二つに割れるようになっている。
 その中には、写真を収められるくらいの小さなくぼみがあった。
 フェイトはバッグから先程撮ったシール写真を取り出し、ずれないよう丁寧にそれを張った。
 そしてゆっくりと蓋を締め、それを身に着ける。

(ここから始めよう、聖さん……お兄さんとの、絆を)

 妹としてでもいい。それ以上に慣れれば最高だが、とりあえずはそこから目指そう。
 そう遠くない未来、自分の事を語る時が来ても。
 決して……壊れない絆を。

 その日の夜。
 なのは、桃子、美由希、シグナムに散々説教をされようやく解放されたリンディ、クロノ、エイミィをフェイトは出迎えた。
 ……聖からお土産にと貰った、ケーキを頬張りながら。

「あの、フェイトちゃん、それ……」

「何? エ・イ・ミ・ィ」

 笑顔でそう答えるが、目と声は笑っていなかった。

「フェ、フェイトさん、お疲れ様。良い服はあったの?」

「ええ、ありましたよ、リ・ン・デ・ィさん」

「……はあ、おいフェイト。いい加減機嫌を」

「別に機嫌悪くなんてないよ、お・義・兄・ち・ゃ・ん」

「「「………」」」

 三人は一度顔を見合わせた後、

「「「ごめんなさい」」」

 一斉に頭を下げた。


 それから、少し時は過ぎ、フェイトが清祥小学校の五年生……十一歳になった、雪の降る季節。

「お兄さん、こんにち……は?」

 将来の為にクロノが艦長を務める「アースラ」と行動を共にする事が多くなり、聖と会う事が少なくなっていたフェイトは、時折聖の家に行き色々と世話を焼くようになっていた。
 と言っても聖自身家事が得意なのでやる事はそんなになかったりするのだが。
 だが、今日だけは少し違った。玄関に見慣れない……正確には普段のこの家の風景にはないが、他のどこかで見た事がある気がする靴があった。
 不思議に思っていると中から、

「フェイトちゃん? 入ってきていいよ」

 という声が聞こえ、フェイトは言われるままに靴を脱いで中に入る。
 そしてキッチンに足を踏み入れると、その正体が判明した。

「……なのは?」

「フェイトちゃん、久し振り」

「あ、うん」

 フェイトと違い戦技教導官を目指しているなのはは、基本的にフェイト達アースラチームとは別行動を取っていた。特別捜査官であるはやてと守護騎士(ヴォルケンリッター)一同のチームも同様だ。その為お互い休みが合った時にしか会えないでいた。

「なのは、何をしているの?」

「何って……お菓子作ってるんだけど」

 それは見れば分かる。さすがにテーブルいっぱいに小麦粉やバター、はかり等が乗っている状態を見て洗濯していると思いはしない。聞きたいのはそこではないのだ。

「えっと、何でお兄さんの家でお菓子を作ってるの?」

 問題はそこである。確かにパティシエ志望である聖の家には完璧と言っていいほど道具や材料が揃っているのでお菓子作りには最適だが、実家が喫茶店であるなのはの家にだって負けずとも劣らない道具と材料が揃っているはずだ。
 そんな疑問に答えてくれたのは聖だった。

「知り合いの男の子にプレゼントしたいんだって。でも家で作るとほら、美由希さんとかが、ね」

「ひ、聖さん!」

 頬を赤くして叫ぶなのは。しかしフェイトにはその聖の言葉となのはの態度で大体の予想が付いた。

「……ユーノへのプレゼント、だね」

「あ、あうう……」

 肯定するかのようになのはは顔全体を真っ赤に染め上げる。
 先日、ユーノが来年の春から時空管理局本部にある「無限書庫」の司書長に抜擢されたという噂をフェイトも耳にしていた。恐らくなのはには本人から連絡があっただろう。

「なるほど、確かに美由希さんとかがその様子を見たら騒ぎ出しそうだね」

 そう言ってフェイトは小さく笑った。

「フェイトちゃんだって、お仕事がない時真っ先にここに来るのは何でかな?」

 が、痛い反撃を食らい、フェイトもその頬を染めた。

「フェイトちゃん? どうしたの?」

「な、なんでもないです!」

「そう? それじゃあ僕はお茶でも入れるね。終わったら二人ともリビングに来て」

 気を使ったのか、聖はそう言ってコーヒーメーカーと豆など必要なもの一式とお菓子を持って立ち去った。

「もう。なのは、お兄さんがいる時に変な事言わないで」

「最初に言ってきたのはフェイトちゃんじゃない……まあ、理由は分からないでもないけどね」

 なのははそう言いながら火の入ったオーブンを眺めていた。

「……ユーノ、良かったね。私も頑張らないと」

 先日受けた執務官試験が残念な結果に終わってしまったフェイトは、そう言って苦笑を浮かべる。

「初めての試験だったんだししょうがないよ。フェイトちゃんなら次は絶対受かるって」

「でも、はやてはもう上級キャリア試験に合格してるし、なのはだって戦技教導官の試験、もうすぐ受けるんでしょ? 私もみんなに遅れを取らないよう頑張らないと。それよりも……」

 フェイトはなのはを見つめながら、少し意地悪そうに微笑んだ。

「頑張ってね、ユーノとの事」

 その言葉になのはは危うくオーブンに頭突きをしそうになった。

「フェ、フェイトちゃん!」

「いいじゃない、お似合いだと思うよ」

 少なくとも自分よりは可能性の高い位置に居るんだし、という言葉は空しくなるのであえて伏せておいた。

「……そうかな?」

 少し不安そうになのはが聞き返してくるが、フェイトは間髪いれずに「うん」と頷く。

(なのはもユーノも、意外とそういうのには鈍感なんだよね)

 はっきり言って二人がお互いを想い合っている事は周知の事実であった。フェイトやはやてはもちろん、アリサやすずか、果てはなのはの両親や兄姉に至るまで。
 聖の話では父親である士郎や母親の桃子はそれをどことなく認めている節があり、なのはがユーノを彼氏として紹介する日を楽しみに待っている、と言っていた。それを聞いた時フェイトは思いっきり噴き出すと同時に理解のある親でいいな、と少しだけ思った。

(うちは義母さんはともかく、クロノがうるさいからなあ)

 事ある毎に聖について色々と聞いてくる上司兼義理の兄に、もはやフェイトは呆れを通り越して感心すらしていた。

(第一まだ『妹』の位置から抜け出していないのに、そんな進展とかあるわけないのに……)

「フェイトちゃん? どうしたの?」

「……ううん、自分の現状にちょっとダメージ受けただけ」

 突然暗くなったフェイトを不思議そうに見ていたなのはだったが、唐突に表情を変えた。

「通信?」

「うん、念話。ヴィータちゃんからだ」

 目を閉じ少し黙り込んだ後、顔色が目に見えて変わった。

「……なのは?」

「忘れてた……今日任務があったんだ」

 そう言って椅子に掛けておいた上着を慌てて羽織る。

「クッキーは私が袋詰めして後でなのはに持って行くね」

「うん、ありがとフェイトちゃん。聖さんごめんなさい。急用が出来たので今日は帰ります」

 それだけを言い残してなのははあっという間に玄関から出ていった。

「相変わらず元気だなあ、なのはちゃん」

 リビングから戻ってきた聖は苦笑しながらそう呟く。

「それがなのはの良いところですから」

「うん、分かってる。でも、だからこそ、気になるんだよね……何だかなのはちゃん、最近無理しているように見えちゃって」

 その言葉にフェイトは素直に驚いた。
 確かに最近、なのはは任務が重なって余り休めていないとクロノから聞いていた。だからミッドチルダからこちらに戻ってきている事は知っていたが、彼女に会うのを遠慮していたのだ。

「無理はして欲しくないんだけど……さすがに今回は断れない理由があったからなあ」

「断れない理由、ですか?」

 聖の言葉の意味深な部分を思わず聞き返すフェイト。聖は苦笑しながらその問いに答える。

「ユーノくん、だっけ? 実はこの前彼がここに訪ねてきたんだよ」

「ユーノが? どうして?」

「……簡単に出来るお菓子の作り方、教えて欲しいって言われた」

「……お菓子?」

 それはユーノには似つかわしくない言葉だった。フェイトの中のユーノのイメージは勤勉で努力家な魔導師ではあるが、とても料理に勤しむ姿は想像出来ない。
 そんなユーノの行動を不思議に思っていると、聖が種明かしをしてくれる。

「疲れた時には甘いものがいい、って聞いた事ない?」

「……なるほど」

 つまり、ユーノもなのはが最近無理をしている事に気が付いて、恐らくなのはから噂程度に聞いた聖の事を思い出し訪ねてきた。そういったところだろう。

「見た感じ結構良い感じの子だったし、落ち着きがあったからなのはちゃんにはぴったりかなって思うんだけど、フェイトちゃんはどう思う?」

 半ば答えを確信しているかのような笑顔でそう尋ねられ、フェイトもまた当然のごとくこう答えた。

「私もそう思いますよ」

 そして、なのはが少し羨ましかった。ユーノとの距離が、物理的な意味でも精神的な意味でも近い事が。
 何故なら、自分にはもうあまり時間が残されていないのだから。
 先日、高校卒業を期に海外への留学が決まっている事を聞かされたフェイトは、少しだけ焦りを感じていた。


「……はっくしゅん!」

 時空管理局本部・無限書庫。
 その一角で書物の整理をしていたユーノが盛大なくしゃみをした。

「風邪引いたかな? 最近徹夜続きだったからなあ……」

 その言葉を証明するかのように、ユーノの目元にはクマがうっすらと見える。

「……ったくクロノのやつ、事ある毎に僕に仕事を押し付けて! 特に艦長に就任してからさらに酷くなってきたよな」

 その場に居ない相手に思わず毒を吐いてしまう。といってもそれは今に始まった事ではなかったが。

「はあ、もうちょっと練習したいんだけどなあ……」

 そう言ってユーノはポケットから一枚の紙切れを取り出す。
 そこに書かれているのは先日聖に教えてもらったクッキーのレシピだった。本当はもうちょっと凝ったものを作りたかったのだが、料理の経験が乏しいので簡単なものしか作れる自信がなかったし、例え作れたとしても付け焼刃のようなものになってしまう。喫茶店の娘であるなのはにそんなものを渡したくはなかった。
 一度大きなため息を吐いてレシピの紙を再びポケットに入れ、作業を再開しようとする。

「ユーノくん、いるかしら?」

 そこにユーノも良く知る人物から通信が入り、その手を止めた。

「レティ提督?」

 通信相手はリンディの友人であり、はやて達の直接の上司でもあるレティ・ロウランであった。
 面識はあったものの、こんな風に直接的にユーノに通信を送られるという事は初めてだったので、少しだけ緊張が走る。

「ふふ、そんなに硬くならなくてもいいわ。あなたにちょっと仕事のお願いに来たの」

「仕事……ですか?」

「ええ。時空管理局本部から、最優先事項で。クロノく……いえ、クロノ提督からの仕事は一時的に放置していても問題ないわ、許可も取ってある」

 その言葉にユーノは素直に驚いた。今クロノの追っている事件もかなり重要度が高いもののはずだったからだ。
 つまり、それ以上に早急な解決が必要とされ、それ以上に……危険だという事になる。

「それで、内容は?」

 ユーノはその表情を厳しいものに変え、言葉を待つ。

「……これは時空管理局と、そして……聖王教会の威厳に関わる事件だから、極秘でお願い。いずれ必要になれば応援をお願いする事になるかもしれないけど、なのはさんやリンディ達『アースラ』チームにも」

 どうやら、想像以上に大変な事件のようだった。

「先日、聖王教会の宝物庫からある捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)が何者かに盗まれたの。それはとても強力で危険なもの……とされているんだけど、ある条件下でしかその真価を発揮できないから実際の危険度は低いの。でも学術的な意味では最高位の価値があり、聖王教会からすればその神話にも登場する『神具』……あなたに頼みたいのは、その『神具』に関する資料の作成よ」

 ユーノは息を呑んだ。発掘家としての顔もあるユーノにはその言葉でそれが何なのか、大体の想像が付いたからだ。

「……多分、あなたが想像しているもので間違いないわ。かつて、神々がこの世界を創造した時に一緒に作られたという、『破滅』の神具……」

 その言葉を引き継ぐように、ユーノはその名を呟いた。

「消失の剣・『アトロポス』……」


 その会話の、ほんの数時間後。雪の振る、とある辺境世界の片隅で。

「おい……おい! ばかやろうっ、しっかりしろよ!」

 はやて率いる守護騎士(ヴォルケンリッター)の一人、鉄槌の騎士・ヴィータは顔を青ざめて絶叫していた。
 よく見るとその燃えるように赤い騎士甲冑の色が、ところどころどす黒く変色している。

「ごめ……ちょっと、失敗、しちゃ……ヴィータちゃんは、大……丈……」

 それは、彼女の腕の中で瀕死になっているなのはの血であった。彼女のバリア・ジャケットは所々が破れ、そしてその色が白である事から、彼女の血ではっきりと赤く染まっているのが確認出来た。
 その傍らには、無残にも破壊された彼女のデバイス、レイジングハートがまるで悲しみの涙を流しているかのように、雪の光を反射して輝いていた。

「医療班っ! 何やってんだよっ! 早くしてくれよっ! こいつ……死んじまうよぉぉぉっっっ!」

 ヴィータの絶叫が、雪の降る空に虚しく響いた。


 捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)・『アトロポス』の盗難。そして、なのはの負傷。
 まるで、この時を待っていたかのように。
 記録に残らない、しかし様々な痕跡を残した『消失した事件』が。
 静かに、しかし狂いそうな速さで、その歯車を回し始めた。

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 StSでのフェイトちゃんってエリオやキャロ、ヴィヴィオを代表するようにちょっと年下の子を甘やかす傾向にありますよね?w そんな彼女がもし普通に異性に恋をするとしたらどんな人物に恋するのか? うちの中の答えが「倉瀬 聖」というオリキャラです。
 すなわち、「普段甘やかす部分の多いフェイトだからこそ、逆に自分を甘やかしてくれる包容力のある人間に弱いのではないか?」というのがうちの中の結論になりましたw
 さて、ここでフェイト編のほのぼのシーンは終了です。次回の四話からはシリアス展開となっていきます。なのは編とのリンクもそろそろ始まってきますのでよろしければお付き合いくださいませw ⌒^(>▽<)^⌒ なのっ!

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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