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魔法少女リリカルなのはA→S 第七話 ~Side FATE Ⅳ~

――八年前・春

「あ、フェイトちゃん! いらっしゃい」

 病室に入った途端、そんな元気一杯な声がフェイトを迎えた。

「こんにちは。元気そうだね、なのは」

 その声にフェイトは精一杯の笑顔で答える。

「これお土産。といってもなのはのおじさま達が持っていってくれって渡されたものだから私からのじゃないけど」

「あ、お父さんの新作デザートだ。フェイトちゃんも一緒に食べない?」

「あ、うん。迷惑じゃなかったら……」

 フェイトがそう答えると同時に、病室のドアが再び開く。

「あれ? フェイト?」

「ユーノ? 来てたんだ?」

 手にジュースのパックを二つ握り、ユーノが病室に入ってきた。

「うん、ユーノくん、フェイトちゃんやヴィータちゃんと同じくらいよく来てくれるんだよ。お仕事忙しいんだから無理しなくてもいいよって言ってるんだけどね」

 そう言って苦笑するなのはにユーノは少し頬を染めながら、

「べ、別に無理とかはしてないから大丈夫だよ」

 と、少々言葉に詰まりながら答えていた。そんな様子を見ていたフェイトが急に小さく噴き出す。

「フェイトちゃん? どうかしたの?」

「実はさっき受け付けの人に『旦那さんが来てるからお邪魔しないようにね』って言われて不思議に思ってたんだけど……納得しちゃった」

 その言葉になのはとユーノが同時に顔を真っ赤に染め上げる。

「だ、旦那さん!? ち、違うよ、ユーノくんはそういうのじゃなくて……」

「そ、そうだよ! なのはと僕はそんな関係じゃなくて」

「……そんな?」

「いや、違う違う、そういう意味じゃなくて!」

 そんな二人のやり取りをフェイトはさらに頬を緩めながら見つめていた。

「もう、フェイトちゃん。あんまり笑わないでよ」

「うん、ごめんね。でもちょうど良かった。なのは、ちょっとユーノ借りていいかな? 今追っている事件でちょっと欲しい資料があるから……」

「えっと、なのはがいたら都合が悪い話?」

「うん。ちょっとね……」

「あ、いいよ。ユーノくん、ジュースありがと」

 なのははそう言って手を振る。フェイトはそんななのはに一度微笑んでからユーノを連れ病室の外に出た。


「なのはの様子は、どう?」

 なのはの病室から少し離れた場所まで移動し、フェイトはユーノにそう尋ねる。

「……表面上は落ち着いている。だけど、やっぱり時々元気のない時があるよ」

 ため息と共に呟きながら、ユーノはずれた眼鏡を指で元の位置に戻した。

「眼鏡、掛けたんだね」

「あ、うん。無限書庫にこもっているせいか、視力の低下が激しくて」

 そう言って苦笑するが、ユーノの表情は見るからに疲れきっていた。

「さっきなのはも言っていたけど、本当に大丈夫なの? アルフから最近特に忙しそうって聞いてるけど……私からクロノにお仕事減らすよう、頼んでみようか?」

「いや、さすがにそれはクロノに負けたみたいで悔しいからいいよ。それに、ちょっと別件で緊急の依頼が入ったからクロノから頼まれたものは保留になってるし、フェイトからはアルフを借りてるしね」

 どうもクロノに対して対抗意識を抱いているらしいユーノは大概そう言ってフェイトの提案をやんわりと断る。いつもならそこがおかしくて苦笑して話は終わるのだが、今日はその後に続いた言葉が気になり、話しが続いた。

「緊急の依頼?」

「うん、ちょっと秘匿義務があるから言えないけど……」

「あ、ごめん」

 ユーノは確かに管理局の管轄である「無限書庫」の司書であるが、立場的には「民間協力者」である。その為管理局からの依頼に重い秘匿義務が課せられるのは通例と言っても過言ではない。それを理解しているのにわざわざ気になるような発言ははっきり言って心遣いが足りないと言えた。

「気にしなくていいよ。それに……もしかしたらフェイト達「アースラ」チームに話がいくかもしれないし」

「そうなんだ?」

 つまりクロノよりも立場が上で「アースラ」チームと面識のある人物……リンディやもしくはそれに準ずる人間からの依頼、という事らしい。心の準備くらいはしておこう、フェイトはそう答えを出してこの会話を打ち切った。

「とりあえず、なのはの事が気になるのは分かるけど……」

 なのはを「魔法」のあるこちらの世界に引き入れたのはユーノだという事をフェイトも知っている。だからこそ、きっと申し訳なくてこうして無理をしてでもなのはの見舞いに来ているのだろう。
 ……もちろん、それはユーノにとって理由にはなるけどほんの些細な、口実に使う程度のものだという事も理解している。
 きっと、ただ純粋に、なのはが気になるのだ。想い人であるからこそ。
 フェイト自身も、もし聖が……今のところはまだ残念ながらまだ……もう一人の「兄」である彼が何らかの理由で倒れたら、きっと仕事が手につかなくなるくらい、気になって仕方がなくなるだろう。

「でも、それで今度はユーノが倒れたりしたら、なのは絶対に責任感じちゃうよ。だから、心配なのは分かるけど、自分の体調管理もしっかりしてね」

「うん、ありがとう」

 ユーノはそうお礼を述べて、なのはの病室に戻った。フェイトも後を追おうとしたが、さすがにお邪魔虫になる気はなかったので、少しだけ時間を潰そうと屋上に向かった。


 屋上と言ってもここ……時空管理局本部は次元空間にある。つまり、外の景色は色んな色をごちゃ混ぜしたオーロラみたいな、もっとはっきり言ってしまうと絵の具をぶちまけたような、そんな景色しかない。その為ホログラムでミッドチルダの時間に合わせて擬似的な空を映し出している。
 フェイトがドアから外に出ると、眩しいくらいの青空が広がっていた。そんな青空を一瞥した後、フェイトは屋上を囲っているフェンスに近寄ろうとはせず、中央に位置している出入り口のちょうど反対側に回り、壁に背を預けながらその場に座り込んだ。

「……今回は、さすがにしょうがないか」

 そう独り言を呟きながら、フェイトは胸ポケットに入れておいた既に封の開けられている封筒を取り出し、その中に入っている一枚の紙を眺めた。

――合否発表。フェイト・T・ハラオウン執務官候補生。試験結果……不合格。

 それは今朝、フェイト宛に届けられた管理局人事部からの書類だった。フェイトは先日行われた二回目の執務官試験に……落ちていたのだ。
 無論、これにはどうしようもない理由がある。執務官試験を直前に控えたある日、なのは負傷の知らせが届いたのだ。
 それはなのはが作った大切な届け物を渡そうと管理局を訪れたちょうどその時に届いた報で、思わずその中身であるクッキーを床にばら撒き、そして彼女の意識が戻るまでまったく何も手につかない状況に陥るほど、フェイトにとって衝撃的な内容だった。
 意識を取り戻した後もなのはの事が気になり、やはり勉強に手がつかず、その結果が……今回の通知であった。

「取り敢えずしばらくはなのはに知られないようにしないと……絶対に、気にしちゃう」

 再びそれを胸ポケットにしまいながら、フェイトは立ち上がろうとした。

「なのは、大丈夫?」

「うん。ごめんねユーノくん、手間掛けさせちゃって」

「この程度手間でも何でもないよ。でもなのは、外の空気が吸いたいって気持ちも分かるけど、まだ完全に治ったわけじゃないんだから無理はしないでね」

 だが、そんな会話とともにドアの開く音が聞こえ、フェイトは思わず身を硬くした。

(なのはとユーノ? た、タイミング悪すぎ……)

 思わず胸ポケットの中身を必要以上に押さえつけながら、フェイトは時が過ぎるのを待つしかなかった。

「んー、綺麗な空だね。本物じゃないのが残念だけど」

「それはしょうがないよ。さすがに次元空間で青空なんて見れないし」

 そんな会話を交わしながら、ひとつの足音とタイヤの回る音がフェンスの方向に向かっていく。
 しばらくの間他愛もない会話を交わしていた二人だったが、ふと会話が途切れたかと思ったら、ユーノが真面目な声で語り始めた。

「……ねえ、なのは。ずっと、言いたかった事があるんだ」

「何? 大切な話?」

 こちらからは見えないが、恐らく顔も真面目な表情になっているのだろう。なのはもいくらか緊張しているように思えた。

「うん……あのさ、なのはは……僕の事、恨んだりしていないの?」

「えっ……?」

「だって、なのはがこうなったのだって、元を辿れば僕がなのはの世界でジュエルシードの回収に失敗して、倒れて、そして僕の声に気がついてくれたなのはに押し付けるような形になってしまった結果じゃないか。「P・T事件」や「闇の書事件」でなのはの体に負担を掛けて、そして今回……」

 だが、そこでユーノの声が途切れた。

「……ユーノくん、それ以上言ったら怒るからね」

「……なのは?」

 ユーノのその声はどこか篭って聞こえた。どうやら先程ユーノの言葉が途切れたのはなのはが手でその口を押さえたからのようだ。

「確かに無理をした。無理をしなくちゃいけない状況だった。それは否定しないよ? でも、最初に言ったよね? 私は自分の意思で、ユーノくんのお手伝いをする事にした。そして、ユーノくんやクロノくん、リンディさん、エイミィさん、守護騎士(ヴォルケンリッター)のみんな、はやてちゃん、そして……フェイトちゃん。たくさんの人と、そして親友に出会えた。これって普通の女の子として過ごしていたら、絶対になかった出会いだって思う。そして、無理をしたけどその結果、私の魔法でたくさんの人を救う事が出来た。これはね、私の『誇り』なの。だからお願い、私の『誇り』を、大切な『出会い』を、否定するような事は言わないで」

「……うん、ごめん、なのは」

「ううん、こっちこそごめんね。気付いてあげられなくて。ユーノくんがそんな風に思っているなんて、考えれば分かる事なのに、自分の事で精一杯で、考えてなかった」

「そんな、しょうがないよ。一番辛いのはなのはなんだから……」

 そんな会話を聞いていて、フェイトは心の中で呟いた。

(二人とも、すごいよ)

 やっぱり、なのはには敵わない。そして、なのはを思う気持ちでは、ユーノには敵わない。
 でも、悔しいと思うどころか、妙に清々しかった。それどころか、やっぱりあの二人はお似合いと思った。そして……自分もそんな関係を築ける相手が欲しいと思った。

(……って、ちょっと!?)

 ある人物の笑顔を浮かべる頭に強制的に考えるのを止めさせ、少し高揚した胸を落ち着かせるように二、三度深呼吸をする。

「……あのさ、なのは。実はもうひとつ、ずっと言おうと思っていた事があるんだ」

「ん? 何?」

 なのはの無邪気な声とは裏腹に、ユーノの声は真剣で、どことなく緊張しているようにも聞こえる。

(えっと、まさか……?)

 二人の状況を知っているフェイトだからこそ、自分がここに居続けるのはマナー違反な話であろうという予想が簡単についた。
 どうにかしてこの場を去ろうとするが、出入り口はひとつしかなく、そこを通るにはなのは達の視界に必ず入らなくてはいけない。
 つまり、逃げられない。

「本当はもっと早く言うつもりだったんだけど、なのはがこんな状況になってそんな場合じゃなかったし、同情されている、なんて思われたら嫌だったから……」

「………」

 なのはにも予想がついたのだろう。何も言わず、ただユーノの言葉を待っていた。

「これは同情でもなんでもない、ずっと前から……初めから、とは言えないけど、でもずっと前からの僕の気持ち。僕は、なのはの事が……好きだよ」

「……それは、どういう意味でかな?」

「多分、なのはが今考えている意味で間違いないと思うよ」

 それっきり、二人の間の会話が止まった。
 さすがに他人の、しかも親友同士のその会話にフェイトの鼓動は先程以上に高鳴っている。恐らく顔もはっきり分かるくらいに紅く染まっているだろう。
 取り敢えず、せめてこれ以上は聞かないように耳を塞ごうと両手を動かした。結果は分かりきっているのだから。

「……ごめんね、ユーノくん」

(……え?)

 その、予想外のなのはの言葉に、フェイトの動きは完全に止まった。

「その、ユーノくんの事は嫌いじゃないんだよ? でも、私は……」

「……うん。それがなのはの答えなら、僕は構わないよ」

(そんな、どうして?)

 自分は夢を見ているのだろうか。それとも性質の悪い冗談なのだろうか。
 分からなかった。二人とも、お互いを想っているのは誰から見てもはっきりしているのに。
 何故、なのはがユーノの言葉を受け入れなかったのか。
 何故、ユーノはあんなにもあっさりと引き下がったのか。
 何故……二人とも、そんなに落ち着いて会話を続けられるのか。

「そろそろ戻ろうか? 体の具合が悪くなるといけないし」

「ごめん、もうちょっとここに居たいの。ユーノくん、お仕事だよね? 申し訳ないんだけどフェイトちゃんに後三十分ほどしたら来てくれるように頼んでくれないかな?」

「うん、了解。それじゃあ、また来るね」

「……うん。ばいばい」

 その会話の数秒後、ドアの開閉の音が響いた。
 そして、それと同時にフェイトはなのはに前に飛び出していた。

「フェイトちゃん!?」

「なのは、どうして?」

 叫ぶようになのはに問い詰めるフェイト。

「……今の、聞いていたの?」

「盗み聞きしていた事ならいくらでも謝る。でも、その前に教えてよ。どうしてユーノにあんな事言ったの? ずっと待っていた言葉じゃなかったの? ねえ、なのは!」

 だが、なのはは俯いてその問いに答えようとしない。フェイトはさらに問い詰めようとするが、突然上げられたなのはの顔を見て絶句した。

「……さい」

 そして、その呟くようなその声を、フェイトは聞き間違いかと思った。そう思いたかった。

「うるさい! フェイトちゃんには関係ないじゃない!」

 だが、今度は叫ぶように、はっきりとそう告げられ、フェイトは思わず身を硬くする。

「ここから出て行って! しばらくフェイトちゃんの顔、見たくない!」

「なのは!」

「出て行ってって言ってるじゃない! いいから出て行けっ!」

「……っ!」

 見ていられなかった。今のなのはは。
 フェイトは何も言わないまま、駆け足で屋上から立ち去る。

(何なの? あんなの……なのはらしくない……)

 突然の運動と、緊張から来る動悸を呼吸で整えながら、フェイトの頭は先程の光景を何度もフラッシュバックさせた。

(……やっぱり分からない……分からないけど、でも……)

 ひとつだけ、はっきりとしている事があった。

(私、なのはと喧嘩したんだ……)

 あの日、友情の証としてリボンを交換したあの日から。
 初めて、なのはとフェイトは仲違いをした。


 そういえば最近何か落ち込む事があったら真っ先にここに来ているな、とフェイトは振り続ける雨を眺めながら思わず苦笑を漏らす。

「……フェイトちゃん? どうしたの?」

 そして、ここに……彼の住むマンションの前で待つ事三十分程度。ようやく待ち人である聖が帰ってきた。

「こんにちは、お兄さん」

「こんにちはじゃないよ、どうしたの、ずぶ濡れで? もしかしてこの雨の中、傘も差さずにここまで来たの?」

 自分が先程まで使っていた傘についた雨の雫を払いながら、聖はフェイトに近寄った。

「最近暖かくなってきたとはいえ、このままじゃ風邪をひくよ。うちにおいで」

 数十分後。シャワーと聖の服を借り、来ていた服が乾くのを待っていたフェイトを見て、聖は苦笑を漏らした。

「お兄さん?」

「いや、初めて合った時の事を思い出してね」

 そういえば少しだけあの時と似ているかな、と思った。自分を取り巻く状況はまったく違うが。

「……僕から何があったのか、を聞いた方がいいのかな?」

 いつもならフェイトから話すまで何も聞いてこない聖だったが、フェイトの様子がいつもと違う事に気が付いたのだろう。フェイトの正面にある椅子に腰を下ろし、聖の方からそう尋ねてきた。

「………」

 フェイトは少しだけ悩んだ後、思い切って聞いてみる事にした。

「お兄さんは、人に嘘を吐く、という行動をどう思いますか?」

「……いきなりな内容だね」

「すみません、でも、大事な事なんです」

 フェイトはあの時なのはがユーノに言った言葉が真実だとはどうしても思えなかった。
 何故なら、その後のなのはに問い詰めるように話し掛けた時。
 なのはは……その瞳に涙を溜めていたから。
 フェイトの目が真剣である事を悟ったのだろう。聖もまた真剣な顔で考えるそぶりを見せる。

「普通に考えれば、嘘を吐くというのは良くない事だよね? でも、フェイトちゃんはこういう言葉を知っている? 『嘘には二つの嘘がある。ひとつは、人を傷付ける冷たい嘘。ひとつは人を守る優しい嘘である』……」

「優しい、嘘?」

 聖は小さく頷いた。

「僕のお母さんがあまり体が丈夫じゃなかったって話はしたよね? 母さんの死因は癌だったんだけど、実は僕、母さんが死ぬまでその事を知らなかったんだ。時々辛そうにしていたのは知っていたけど、人の前では、僕の前ではずっと笑顔だったから」

「………」

「親戚の人もね、全然気が付かなかったって言っていた。お医者さんが言うには、母さんはずっと前から自分の状態に気が付いていたらしいんだ。その証拠に遺産の事とか母さんが死んだ後の僕の身の振りとかはしっかりしていたよ。これって、自分がもう長くないって悟っていた証拠だよね? なのに、母さんは僕に『大丈夫』としか言わなかった。それどころか立っているのもきつかったはずの晩年には僕をよく旅行に連れて行ってくれたよ。仕事だって最後まで辞めなかった」

「……すごい、お母さんだったんですね」

 フェイトの素直な感想に、聖は嬉しそうな表情を見せた。

「うん、自慢の母さんだったよ。それでここからが本題だけど、母さんは僕にずっと『大丈夫』だっていう嘘を付いていた事になるよね?」

「あ、はい」

「じゃあフェイトちゃんはそんな嘘つきの母さんは、許せないと思う?」

「え……?」

 聖の言いたい事を何となく理解する。しかし、ずいぶんと極端な話だと思った。

「まあ、かなり極端な例だと思うよ。僕が言いたいのは、嘘は決して全てが悪というわけじゃないって事」

「……優しい、嘘」

「僕はそう思っている。嘘は確かにいけないと思うよ。でも、嘘を吐く事で誰かを助けられる事もあると思うんだ。だから僕は、嘘の全てを否定はしない。フェイトちゃんがどんな嘘で怒っているのか……あるいは悩んでいるのか、分からないし聞こうとは思わない。だけど、考えて欲しいんだ。その嘘の、本当の意味を」

「本当の意味、ですか?」

 フェイトの言葉に、ただ小さく頷く聖。

「その嘘を吐いたのがフェイトちゃんのよく知る人物なら、考えてみて。その人は『冷たい嘘』を吐くような人なのか。もし、フェイトちゃんが吐いた嘘なら、僕は自信を持って言えるよ。フェイトちゃんは『冷たい嘘』を吐くような女の子じゃない、って」

 そう言って微笑む聖に、フェイトも思わず微笑み返していた。

(なのはが、『冷たい嘘』を吐くような人間なのか……)

 はっきりと言えた。『ノー』である、と。

「答えが出たのなら、その後するべき行動が見えてくるんじゃないかな? フェイトちゃんみたいなしっかりした子は特に」

 フェイトは小さく頷く。

(……まずは、謝ろう。なのはとユーノに)

 不可抗力とはいえ、なのは達の会話を盗み聞きしていたのは確かだ。これに関しては自分が完全に悪い。謝って、仲直りしなくてはいけない。
 そしてその後は……なのは達に任せよう。
 相談されれば相手になる。手助けを求められれば、最優先で受ける。だからそれまでは、自分は二人を見守ろう。

(もともとそういう話に他人が出張るのは、良い事じゃないよね? 私だってあまり口をだして欲しいとは思わないし)

 目の前にいる青年を見つめながら、フェイトはさらにその笑みを深めた。


 しかしその一時間後、フェイトの頭はかなり混乱する事となる。
 きっかけは、聖の「そういえばフェイトちゃん、春休み中は家族と実家に戻るって言っていなかった?」という言葉から始まる。
 現在学校は春休み中。その関係でフェイトも仕事に専念している為、いつもならこの世界の家に暮らしているリンディも今は管理局の方で寝泊りをしていた。
 つまり、今フェイトの家はもぬけの殻、という事である。とっさに「なのはの事が心配でちょっと無理を言って戻ってきたんです」と言っておいたが、それが失敗の元だった。
 聖もなのはが「何らかの事故」で怪我をし、入院をしている事は知っていた。さすがに管理局の施設、とは言えなかったので少し遠くにある大きな病院、という事にしてお見舞いという行動を何とか封印していた。
 そして、聖の中では「フェイトはイタリアからの帰国子女」という上辺の設定が生きている。ついでに父親はすでに死んでいてその親戚も近くにいないと伝えていた。つまり、「フェイトの実家」イコール「イタリア」か「遠い場所」なのである。
 そうなれば、今夜の宿を気にするのは当然といえば当然だ。
 とりあえずリンディと事情を知っているなのはの家に連絡を取り、「なのはの見舞いにはもう行ってきた。ここに来たのは今日はなのはの家に泊めてもらう為にそちらに向かう途中」という設定を組み上げようと試みた。
 必然的に先程の話が誰の事かというのがばれる事になる可能性が高かったが、ばれたからといってどうこうしようとする人ではないので、そこは諦める事にした。
 しかし、あろうことかリンディはそう説明したにもかかわらず、電話を代わった聖に「良かったらフェイトを泊めてもらえませんか?」と頼んだようである。そして、聖が知り合いからの頼みを断るはずがない。気が付いたら淡々と話は進んでしまっていた。
 つまり、

「それじゃあフェイトちゃんは責任を持ってこちらで預かります。明日、近くの駅まで送りますので……」

 と、そういう流れになっていた。

「あ、あの、私やっぱり、なのはの家に……」

 最後の抵抗を試みるが、聖は苦笑を浮かべながら手を横に振った。

「あー、多分無理だよ。ほら、なのはちゃんが怪我をして遠い病院に行ったでしょ? それで仕事があってなかなかお見舞いに行けなかった士郎さんと桃子さんに何とか休みをあげよう、って事になって恭也さんと美由希さん、そして僕がフルシフトで入る事で何とか二日間の休みを確保したってわけ」

「あっ……」

 そう言えばリンディがそんな話をしていた事を思い出す。
 本来は一般人、しかも管理外世界の人間を管理局の中に入れるのは歓迎される事ではないが、相手が管理局エースの両親である事、ある程度事情を知っている事等から特別に許可が下りたのだ。

「それであっちも大変だから、申し訳ないけどうちで我慢してくれないかな?」

「いえ、我慢だなんてとんでもないです。むしろこっちからお願いしたいくらい……」

 思わず出かけた本心を語る口を慌てて塞いだ。
 それが聞こえたのか聞こえていないのか、聖は電話を置きながら微笑んだ。

「とりあえず、フェイトちゃんの寝る場所を確保しないと。もう結構荷物まとめちゃったしね」

「荷物? まとめる?」

 その台詞の意味をフェイトが理解するのに少し時間が掛かった。

「……もうすぐなんですよね、その、留学」

「うん。四月に入ったらすぐに出発する事になっているよ。二、三年くらいかな?」

 そう言う聖の顔は、どこか嬉しそうだった。
 当然といえば当然かもしれない。何しろ留学先はその道の人間にはかなり有名なところだと喫茶店のマスターである士郎が驚いていた。フェイトの目から見てもかなり気に入っていたと分かるくらいの聖を簡単に手放す程に、だ。
 だから、それを何となく面白くないと思ってしまうのは、単なる我侭でしかないのだろう。

(私だってそう遠くないうちに仕事に専念する日が来る。そうなればミッドチルダに移動する事になるだろうし、そうなれば今までみたいに簡単には会えなくなる……)

 だからこそ、もう少しだけ一緒にいる時間が欲しかった。だけど、今更言ってもしょうがない事だ。
 その日が来るのが分かっていたのに、何も出来なかった自分が悪いのだから。
 フェイトは自分の胸の位置にある、あの日からいつも肌身離さず持っているペンダントに軽く触れながら、小さくため息を吐いた。

「フェイトちゃん? どうかした?」

 だが少し心配そうな表情を浮かべた聖にそう尋ねられ、フェイトは慌てて笑顔を作った。

「何でもないです。あ、何かお手伝いする事はありますか?」

「んー、そうだなあ……それじゃあ、買い物に行って貰っていいかな? ちょっと待っていて。今必要なものメモするから」

「はい」

 フェイトは曖昧な笑みを浮かべながらも、素直に頷いた。


「これで全部……かな?」

 聖に渡されたメモを見直し、見落としがないかチェックをする。

「……うん、大丈夫。お兄さん待っているだろうし、早く戻ろう」

 たくさんの食材が入った袋を両手で抱えながら、フェイトは先程まで降っていた雨に濡れた道をゆっくりと歩く。

「何を作ってくれるんだろう、楽しみだな……」

 聖はお菓子だけではなく普通の料理の腕も確かだ。期待するなという方が無理である。
 なのはの事や聖の留学の事で沈んでいたのはどこへやら、上機嫌で歩いていたフェイトが違和感に気が付いたのは近道をしようと公園の中に入った時だった。

「……誰も、いない?」

 これが深夜や早朝、そして平日の昼間なら納得がいく。
 しかし今はまだ夕方にはまだまだ早い時間、そして子供達は春休みの真っ只中。しかもここ三日ほど降り続いていた雨が先程ようやく上がった。
 普通なら子供達が我先にと繰り出していても不思議はないはずだった。
 そしてある反応を感知したフェイトは、その違和感をある確信へと変えた。

「……魔力反応!?」

 広域結界が展開されているのだ。この公園を中心に、フェイトが足を踏み入れたその時から。

「誰? 出てきなさい!」

 目的が自分である事を確信したフェイトは声を張り上げた。それに答えるかのように地面に二つの影のようなものが現れ、そしてその影から何かが現れた。

「……傀儡兵(くぐつへい)?」

 命と心を持たない、ただ言い渡された命令をこなすだけの冷たい鉄の塊、傀儡兵。有にフェイトの二倍はありそうな体格を持つこの二体に与えられた命令は、その手に持っている大きく太い長剣が物語っていた。
 フェイトは手に持っていた荷物をゆっくりと地面に置き、ポケットを探る。
 だが、その行動で出来た一瞬の隙を傀儡兵は見逃さなかった。

 「っ!?」

 左右からの二体同時攻撃。それを寸前のところで何とか後方に避ける。
 だがそれを予期していたかのように、一体が突進を仕掛けてきた。

 「くっ!」

 右腕を掲げ、防御魔法……プロテクションを発動し受け止める。傀儡兵の剣とプロテクションの間で金属のぶつかり合ったような音が響く。

 「なっ!?」

 フェイトは思わず声を上げた。残った一体がその隙を突いて後方に回っていたのだ。慌てて方向転換をして左腕でプロテクションを発動するが間に合わず、傀儡兵の突進をもろに受け吹き飛ばされてしまった。

 「けほっ……!」

 わずかに方向がずれた為前方の傀儡兵との間に挟まれるという最悪の状況にはいたらなかったが、地面に打ち付けられた衝撃で肺から空気が一気に漏れ、咳き込んでしまう。

 (動きが良すぎる……本当に傀儡兵なの?)

 傀儡兵の動きはそれを操る術者の才量による。だとすれば、この傀儡兵を操る術者はかなりレベルの高い魔術師と言える。
 正直、かなりまずい状況だった。
 なのはは病院、はやても別の任務を受けていると聞いている。クロノとリンディもこの世界にはいない。
 つまり、助けを期待できない。自分の力で何とかこの状況を打破するしかないのだ。

(とりあえず、バルディッシュを起動してバリアジャケットを……)

 先程の最中の中でも何とか取り出せたフェイトのデバイスであり、最強の相棒……バルディッシュを握り締めながら、何とか立ち上がる。

「バルディッシュ・アサルト、セット……」

「……フェイトちゃん?」

「えっ……?」

 思いもしなかった自分の名前を呼ぶ声に、フェイトは思わず詠唱を中断してしまう。
 そしてそれを傀儡兵が見逃すはずがなかった。

「!? フェイトちゃん!」

 声の主……聖は咄嗟に危険を感じ取り、普段の彼からは想像出来ない機敏な動きでフェイトの元に駆けつけ、彼女を抱きかかえてその場から滑るように離れた。

「っ……フェイトちゃん、大丈夫?」

「は、はい……」

 今までにないくらい近くにある聖の顔に一瞬色々と想像したが、すぐに軽く頭を振ってその考えを振り払った。

「あの、お兄さん何でここに?」

「ちょっとメモに書き忘れていたものがあってね。ついでだから荷物持ちも兼ねてと思って家から出たんだけど……これは一体何?」

 聖の疑問はもっともなのだが、それはフェイトの求めている答えではなかった。

(何で広域結界の中にお兄さんが?)

 結界魔法、広域結界……周囲の空域を付近の空間から切り抜き、相互干渉出来ないようにする高度な魔法のひとつである。
 ある程度の魔法知識、そして広域結界の術者を越える魔力の持ち主ならば進入程度は難しくはないが、聖がその両方を満たしているとは到底思えない。
 つまり、今この場にいる理由がまったく分からないのだ。

(……取り敢えず考えるのは後にして、この状況を打破する事を考えなくちゃ)

 そう結論に達したフェイトは再びバルディッシュを握っている手に力を込める。
 だが、聖の顔が視界に入った途端「あっ……」と声を上げ、手に込めた力が抜けていった。

(お兄さんの目の前で、セットアップしなければいけない?)

 それは、フェイトに今まで以上の戸惑いと、そして躊躇を与える。
 自分がセットアップするところを……この世界の常識にはない力を使うところを見られれば、さすがの聖も黙ってはいられないだろう。フェイトは自分の持つ力……魔法の力について聖に語らなければならなくなる。自分が語らなくても、リンディやクロノが語る事になるだろう。
 問題はその後聖がどう行動を起こすかだった。そしてそれは、フェイトが今もっとも恐れている事でもある。

(それでもしお兄さんに避けられてしまう事になったら……私は……)

 この時ほど、二年程前に誓った自分と聖との関係を深めると事を怠ったのを後悔した事はなかった。
 その思考の間にも、傀儡兵はフェイト達に攻撃を仕掛けていた。フェイトを抱きかかえながらあの速さの攻撃を避け続けていた聖は素直に素晴らしいと言えるだろう。
 だが、彼は間違いなく普通の人間である。そんな奇跡みたいな運動神経が長続きするはずもなかった。

「ぐっ……!」

 聖の体勢が一瞬だけ崩れる。それを待っていたかのように傀儡兵の剣が聖……ではなく、聖の腕の中にいるフェイトめがけて振り下ろされた。

「――っ?」

 鈍い剣の光が視界に写り、ようやくフェイトの意識が今の状況を理解し、声にならない声を上げる。
 だが、どう考えても何か対策が立てられる時間はなかった。これから訪れるであろう痛みを想像してか、フェイトは瞳を閉じて歯を食いしばった。
 ……だが、何故か想像していた痛みが訪れる事はなかった。代わりに訪れたのは、足が宙に舞う感覚と、何かを切り裂く鈍い音と、そして、

「がっ、あ……」

 聖の悲鳴であった。

「お兄さん!?」

 その悲鳴に思わず目を開けると、フェイトは聖に抱きかかえられたまま地面に転がっていた。聖の右腕から流れ出る大量の血が腕を伝ってフェイトの服を赤く染め上げていく。

「あ、あぁ……」

 怯えたような表情で声を上げるフェイトに、聖は……額に脂汗を浮かべながらも、微笑んでいた。

「フェイトちゃん、大丈、夫?」

 そう、優しげに語りかけながら。

(どう、して?)

 聖の利き腕は右。あの美味しくて優しいお菓子を生み出し、フェイトの頭を優しく撫でてくれたその右腕が。
 ……血の気を失い、今にももげてしまいそうに揺れていた。

「どうして? 利き腕がなくなったら、お兄さんは……」

 叫ぶように言い放った言葉に、聖は当然と言わんばかりの声で答えた。

「右腕よりも大切なものを……フェイトちゃんを守りたかったからに決まっているじゃないか」

「……!」

 フェイトは言葉を失った。
 自分は、そこまでして守ってもらう価値などないのに。聖に避けられる事を恐れ、魔法を使う事を躊躇してしまったというのに。
 なのに聖は、夢とフェイトを天秤にかけ、迷う事なく自分を選んでくれた。だというのに、自分は一体……何て小さな事に躊躇していたのだろう。

「! フェイトちゃん、早く逃げて!」

 傀儡兵が再びこちらに攻撃を仕掛けてきているのを確認した聖は、腕の中で俯いているフェイトに向かってそう声を張り上げた。

「………」

 だが、フェイトは無言で立ち上がり、聖の前に歩み出る。

「フェイトちゃん!?」

 聖が驚いたように声を上げる。そうこうしている間に傀儡兵はフェイトとの距離を縮め、その剣を振り下ろした。

《Defenser》

 だが、機械的な男性の声が響くと同時に、フェイトの掲げた右腕から出た光がその剣をいとも簡単に受け止めた。

「……ランサー、セット」

 そしてそう呟きながら左腕を胸の位置まで上げて、

《Photon lancer》

 再び聞こえたその声を合図に、いつの間にかフェイトの前に現れていた四つの光球に向かって、左腕を一気に振りながら叫んだ。

「フォトンランサー……ファイアッ!」

 その威力を感じ取ったのか、傀儡兵は後ろに飛び退こうと足を曲げたが、間に合わずに全弾を食らって吹き飛んだ。
 それを確認するとフェイトは聖に向き直り、腰を落として今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら聖の右腕の傷に触れる。

「……ごめんなさい、私に、勇気が無かったばっかりに」

「フェイト、ちゃん?」

 だが、フェイトはそんな声を上げる聖の顔を見ないように俯きながら、右手から淡い光を溢れさせた。

「治癒魔法(ヒーリング)はあまり得意じゃないんです。多分、痛みを和らげるくらいにしかならないと思います。後で、そっちが本領の人に頼んでおきますね」

 それだけを述べ、フェイトは再び立ち上がる。

「バルディッシュ……いける?」

《Yes sir》

「うん、それじゃあ……いくよ!」

 フェイトはいつの間にか左の手の平にあった金色の三角形をしたアクセサリーを右手の人差し指と中指で挟むように持ち、それを掲げる。

 「バルディッシュ・アサルト……セットアップ!」

 そしてフェイトがそう叫ぶと同時に彼女を金色の光が包み込み、まばたきをする間もないくらいの一瞬ではじけた。
 そして、彼女が立っていた場所には、黒を基調としたレオタードのような服と、黒いマントの服……防護服、バリアジャケットを身に纏い、手には黄色の宝石を納めた黒い斧……フェイトの愛機、インテリジェット・デバイス「閃光の戦斧」バルディッシュが真の姿で佇んでいた。

「フェイトちゃん……」

 聖はもう一度、フェイトにそう声を掛ける。
 だが、フェイトは振り向かないまま、

「すぐに終わらせます、ちょっとだけ、待っていて下さい」

 ただそれだけを言葉にしただけだった。

「……時空管理局嘱託魔導師、フェイト・T・ハラオウン……行きますっ!」

 バルディッシュを振り下ろしながら、フェイトは初めて、聖の前で魔導師としての顔を見せていた。

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 ほのぼのシーンがなりを潜めてきましたw ああいうシーンも好きなのですが、こういった手に汗握るシーンも好きですね、この両方を兼ね揃えているなのははすごいw
 そしてすでになのは編を超える文章量になっていますがお話はまだまだ中盤。あ、ちょっとなのはさん、謝りますからSLB撃とうとしないで下さいww

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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