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魔法少女リリカルなのはA→S 第八話 ~Side FATE Ⅴ~

 そこからのフェイトの動きは、神がかっていたと言っても過言ではなかった。
 まず、先程吹き飛ばしたのとは違うもう一体の傀儡兵が仕掛けてきた攻撃を、

《Sonic move》

 相手が一瞬目標を見失うほどの速度で瞬間的に移動する魔法、「ソニックムーブ」でかわし、相手が怯んだ隙に砲撃を打ち込む。

《Plasma lancer》

「プラズマランサー、セット……ファイアッ!」

 発射体(スフィア)から放たれた計八発の玉をすべて食らった傀儡兵は胸部の部分の装甲の形を変えながらもう一体が吹き飛んでいったのと同じ方向に吹き飛ばされ、ようやく立ち上がろうとしていたもう一体と衝突し、二体は体勢を崩す。

《Haken form》

 その隙にフェイトはバルディッシュの形態を近接戦闘フォーム、ハーケンフォームに変化させる。
 バルディッシュの一部が変形し、光の刃が現れるその形態はまさしく「鎌」そのものであった。そしてフェイトがその「鎌」を振り下ろすと、その刃は傀儡兵めがけて飛んでいく。

《Haken saber》

 刃は傀儡兵に直撃したが、先程までの攻撃と変わらずただその装甲に傷を与えるだけに終わる。

(なんて硬さなの……)

 どうやら並みの攻撃ではダメージが通らないようである。こういう敵に効果的なのは、相手の装甲よりも強力な攻撃か、あるいは……、

「………」

 フェイトは一度深呼吸をした後、いつもより長い詠唱に入る。

《Load cartridge》

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 すると、フェイトの前に再び発射体(スフィア)が形成されていく。
 が、先程までとは数が違った。総数……三十八基。それは今のフェイトが一度に形成できる限界の数であった。

《Photon lancer, Phalanx shift》

「フォトンランサー・ファランクスシフト……ファイアッ!」

 そしてフェイトが右腕を振り下ろすと同時に、三十八基の発射体(スフィア)から一斉にフォトンランサーが発射される。それは一基に付き七発、それを四秒間斉射する事により計千六十四発ものフォトンランサーが一斉に目標に向かっていくのだ。これがフェイトの誇る最大の連射型魔法……フォトンランサー・ファランクスシフトである。

(装甲の硬い敵を倒すには、相手の装甲よりも強力な攻撃を繰り出すか、あるいは……ある程度の威力の魔法を連続的に叩き込むか!)

 なのはやはやて達と違い長距離攻撃より近~中距離攻撃を得意とするフェイトは、やはり一撃の威力ではなのは達に敵わない。
 しかし反面、高速移動から繰り出す攻撃や連続攻撃では引けを取らない自信があった。
 だからこその選択であり、その判断は……正しかった。
 傀儡兵達の装甲はその連続的な砲弾に耐え切れず、次々と穴を開けて最後には鉄屑となってその場に崩れ落ちていった。

「はあ……はぁ……」

 砲弾を撃ち終わった後、フェイトは膝をついて荒い吐息を繰り返した。この魔法の弱点は二つ。詠唱が長い事とフェイト自身の魔力を莫大に消費するため、一度使うと後がない状態に追い込まれ兼ねない事である。
 詠唱に関しては、普段は素早いが一度体勢を崩すとその体の重さのせいか立て直すのに時間が掛かるらしい事を見抜いていたので何とかなると判断した。問題は、

(あいつらは傀儡兵……単なる操り人形でしかない。つまり、その操り主がどこかにいるという事……)

 カートリッジシステムのお陰で前のように一発撃ったら魔力が空になり暫く行動不可能、と言う状況には陥らなくなったが、それでもかなりの消費量である事には変わりない。
 それに傀儡兵の操作範囲は限られている。急いで体勢を整えないといけない。何しろ、恐らく傀儡兵の術者は……近くにいるはずなのだから。

「……さすが、と褒めておくわ。それくらいの実力がないと張り合いがないもの」

 そして、その予想は当たっていた。

「……!」

 フェイトの前方にどこからともなくひとりの人影が姿を現す。容姿、長い髪、そして紫を基調としたバリアジャケットの上からでも分かる体のライン。
 聖やクロノと同い年くらいの女性の魔導師が、そこには立っていた。

「……管理外世界での無許可での魔法使用、民間人への攻撃、公務執行妨害……重罪です、オトナシク投降しなさい」

 バルディッシュを構え直しながら、フェイトは事務的な言葉を放つ。
 だが、魔導師の女性は……犯罪者の大概はそうなのだが……そんなフェイトを鼻で笑う。

「何言ってんの? 大体、それ全部あんただってやってんじゃない」

「っ!?」

 その言葉にフェイトは動揺を隠せなかった。

(この人……私の事を知っている?)

 こういう言い方はあまり好きではないのだが……フェイトは過去に犯した罪を管理局に従事する事で償っていた。説明が過去形なのは、その期間が一応フェイトの執行猶予期間のみだったからで、それ以降もこうして管理局に勤めているのはフェイトの意思であるからだ。
 だから法的にはフェイトは罪を償っており、事件自体もまだ子供が、それも故意に犯した罪ではないという事もあり、事件の記録には残っているがよほど地位の高い人物でなければフェイトとその罪を結びつけるのは無理なようになっていた。
 つまり彼女はその地位に値する人間か、あるいはその地位の人間と親しい位置にいるか……どちらにしろ、管理局の関係者である事には変わりないようだ。
 ちらり、とフェイトは聖に視線を移す。

「……?」

 予想通り、疑問に満ちた視線をフェイトへと投げかけていた。それが、どうしようもなく辛い。

「……投降の意思がないのなら、実力で押さえつけます」

「あらあら、怖いわね~……そんなにあの男の前では良い子でいたいのかしら?」

 それがフェイトの我慢の限界だった。

「バルディッシュ、カートリッジリロード!」

《Load cartridge》

 主の怒りに答えるように、そのバルディッシュは命令を実行に移す。

《Plasma smasher》

「プラズマスマッシャー、セット……ファイアッ!」

 フェイトは左手を相手に向け、そのまま純粋な魔力砲を撃ち放った。非殺傷設定にしているが、当たればもちろん体にダメージは通る。

(……えっ?)

 だが、相手の行動を見てフェイトは驚きを隠せなかった。動こうとも、防御しようともしていないのだ。ただフェイトを小馬鹿に知るような目で、実に楽しそうに笑っている。

「……さあ、来なさい、『アトロポス』」

 そしてプラズマスマッシャーが直撃する寸前のところで、魔導師の女性は右手を掲げ、そう言葉を口にする。
 すると、右手に黒い魔方陣が現れそこから一振りの剣が姿を現した。

(……な、何なの、あれは?)

 その姿を見た時、フェイトはあまりの戦慄に身を振るわせた。
 黒、という言葉では言い表せないほどに深く、暗い……そう、言うなれば……暗黒。
 光を全て飲み込んでしまいそうな暗黒の剣が、魔導師の女性の手に握られ、その剣の切っ先をフェイトの放ったプラズマスマッシャーに向けた。
 そして、信じられない事がフェイトの目の前で起きたのだ。

「……消去」

《Delete》

 女性がそう唱えると、どういう事かプラズマスマッシャーが跡形もなく……そう、文字通り、消えたのだ。

「………」

 その様子を見たフェイトはどうやら一筋縄ではいかないようだと理解し、いくらか落ち着きを取り戻す。

「カートリッジ、リロード」

《Load cartridge, Plasma lancer》

 「プラズマランサー、セット……ファイアッ!」

 フェイトは次弾としてプラズマランサー……一撃の威力ではなく、弾数の量で攻撃を仕掛ける。
 それにこれはなのはのディバインシューターほどではないが、ある程度の誘導が可能だ。フェイトは八発放ったうちの四発をそのまま直線的に、残りの四発を分散させ魔導師の女性の左右後方に散らせ、そして一斉にぶつけた。

《Delete》

 だが、サークルプロテクションのような半円型の防御壁が現れ、四方からの攻撃も完全に相殺される。
 直線的な攻撃のみ、というわけではなさそうだ。

(……AMF(アンチ・マギリング・フィールド)?)

 AMF……魔法の結合を無効化するフィールド系防御魔法の上位に位置する魔法。魔力攻撃を得意とするミッドチルダ式の魔導師にはかなりきつい防御魔法である。

(でも、対処法がないわけじゃない……残りの魔力ももう少ないし、これに賭けるしかない)

《Load cartridge, Thunder fall》

 「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。今導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス……サンダー・フォールッ!」

 AMFは魔力の結合を無効化する防御魔法である。それならば……範囲外で発生させた効果をぶつければいい。
 儀式魔法、サンダーフォール。天候操作+遠隔攻撃魔法で、魔法ではなく、自然現象としての雷を発生させ、目標に落とす属性魔法とでも言うべき魔法にすべての魔力とカートリッジを使い切る。AMFならば、これは防御できない……はずだった。

《Delete》

「そん、なっ……!?」

 だが、消し去られてしまった。全力を込めた魔法を、暗黒の剣をたった一度振るっただけで。
 さすがのフェイトもこれには背筋に悪寒が走った。

(まさか、ディストーションシールド? でも、いくら何でもあり得ない……)

 ディストーションシールド……空間の狭間に特殊な歪みを生じさせ、範囲内の攻撃や空間干渉を低減・無効化させる広域結界を発生させるSランクの防御魔法である。しかし、必要なエネルギーは個人では到底賄えるものではなく、別途の供給が必要となる。
 フェイトの義母、リンディでさえ「アースラ」からの魔力供給がなければとても使う事の出来ない魔法であった。

(一体、何なのこれは?)

 すべての物事には理由があり、そして戦闘にこれといった必勝法は存在しない。それは嫌と言うほど叩き込まれている。
 だが、その理由が理解出来なければ、対処法など考える事も出来ない。理解が出来なければ、混乱を招く。今のフェイトがまさにそれだった。

「……この程度なの?」

 魔導師の女性のその声に、フェイトは思わず身を振るわせた。それだけではない、足も、手も、小刻みに震えている。
 そう、フェイトは今目の前にいる魔導師の女性……いや、得体の知れない魔導師に恐怖を抱いてしまっていたのだ。

「こんな、子供に……ガタガタ震えているようなちびっ子に……私達は……!」

 魔導師の女性は吐き捨てるように言い放った。その顔に、怒りと失望を浮かべて。

「もういいわ、さっさと消えちゃって……アトロポス、マテリアルチャージ!」

《Reinforce material, Charge》

 その声に答えるように魔方陣が展開される。
 だが、その魔方陣は普通のものとは少々異なっていた。本来は術者の足元にミッド式ならば円形の、ベルカ式ならば三角形の陣が展開される。
 だが、魔導師の女性が展開した魔方陣は、正確には魔方陣ではなかった。術式が魔導師の女性を中心に球型で展開されたのだ。
やがてその術式が暗黒の剣に吸い込まれるように消え、剣からその色に負けないくらいの黒炎が上がり、柄の部分にある黒の宝石が怪しく光る。

「……っ!」

 その光景を見て、フェイトはついにその場に座り込んでしまった。その姿は、先程までの勇ましい姿からは程遠く、皮肉ながら……歳相応の、か弱い少女の姿だった。
 ちらり、と聖の方に視線を移す。
 聖はしきりに何かを叫んでいた。声は聞こえないが、口の動きから恐らく「逃げろ」と言っているのだろう。

「お兄さん……ごめんなさい」

 それだけの声を搾り出すのが精一杯だった。

《Bloody guide》

「往きなさい、血の道の案内人……ブラッディ・ガイドッ!」

 魔導師の女性がそう叫ぶと同時に、暗黒の剣を振りかざした。すると剣を纏っていた黒炎がまるで生き物のようにフェイトへと襲い掛かる。
 フェイトはその恐怖から逃れるように目を閉じた。

「……遠き地にて、闇に沈め、ディアボリック・エミッションッ!」

 唐突に、聞き慣れた声がフェイトの耳に届くのと同時に浮遊感に包まれる。

「えっ?」

 驚いて目を開けると、その瞳には、

「フェイト、大丈夫かい!?」

「あ、アルフっ!?」

 自分を抱きかかえるフェイトの使い魔、アルフと、

「あはは、ぎりぎりセーフやったわ」

「それに、はやてっ!?」

 背に六枚の黒翼を纏い、騎士杖「シュベルトクロイツ」を掲げた、フェイトの親友にして時空管理局特別捜査官、八神はやての姿が映った。


「それにしてもフェイトちゃんらしくなかったなあ。まあ、小動物みたいに震えとる姿は可愛かったけどな」

「……っ!?」

 その言葉で先程までの自分の姿を想像したフェイトは、恥ずかしさで顔を瞬時に沸騰させた。

「ちょっと、フェイトをからかうんじゃない……よっ!」

「あはは、ええやん、うちは可愛い言うてんのやか……らっ!」

 アルフとはやてが軽い小競り合いをしながら同時に魔法弾を放つ。それは魔導師の女性から放たれた二つの黒い刃形の魔法弾にぶつかり消滅した。

「……成る程、多少は『アトロポス』に関しての知識があるらしいわね」

「その通りや、『聖王教会』教会騎士、レイリア・シュトゥールさん?」

 魔導師の女性の体がぴくりと反応を示した。

「教会の人間が『神具』を盗み出すなんて世も末やな。まあ、それを使えている事も素直に驚きやけど……」

 少しの沈黙の後、はやての周りに多くの黒い刃……ブラッディ・ダガーが出現する。その数は軽く二十を超えていた。

「操作系は苦手やけどな、意地でも全部落としたるで」

「よく言うわ。私のブラッディ・ガイドを相殺する程の魔力を消耗しておいて、そんな事出来ると思うの?」

「魔力の消費量はお互い様やろ? ディアボリック・エミッションの威力、なめんといてもらえるかな?」

 はやてと魔導師の女性……レイリアは無言で睨み合う。
 数十秒、しかし体感時間的には数時間にも及びそうな時間の後……視線を逸らしたのはレイリアだった。

「……面白い事を考え付いたわ。必ずあなたを絶望のどん底に落としてあげるから……覚悟していなさい、フェイト・テスタロッサ」

「逃がさへんで! 刃以て(も)、血に染めよ。穿(うが)て、ブラッディ・ダガー!」

 逃走を悟ったはやてがブラッディ・ダガーを一斉に射出する。だが、寸前のところでレイリアは姿を消し、ブラッディ・ダガーは空しく宙に舞った。

「ああ、もう、逃げられた!」

 アルフが悔しそうに声を上げるが、はやては大きくため息を吐いて首を横に振る。

「いや、むしろこっちが見逃がしてもらった、と思った方がいいかもしれんで」

 そしてフェイトに向き直りながら、その表情に苦笑を浮かべる。

「どうやらフェイトちゃん、厄介な相手に絡まれたようやな」

「……心当たりはないけど、そうみたい」

 そう言ってフェイトも大きくため息を吐きながら苦笑を浮かべた。

「取り敢えず……シャマルを呼ぶわ。聖さんの腕、ちゃんと治療してあげんと」

 はやてのその言葉に、フェイトは体を小さく振るわせる。

「……アルフ、もういいよ。一人で飛べるから」

「フェイト……」

 何か言いたげなアルフを押しのけ、フェイトはゆっくりと聖の元に向かう。

(でも、何て言えばいいのだろう? 黙っていて、ごめんなさい? 巻き込んで、ごめんなさい? 怪我をさせて、ごめんなさい? それとも、他の言葉?)

 色々な言葉が浮かぶが、どれも同じ言葉が必ず付いていた。だから、まずはそれを言う事にした。
 座り込んでいる聖の傍に降り立ち、そして彼のすぐ近くで膝を突いて目線を同じ位置に合わせ、その言葉を搾り出した。

「……ごめんなさい、お兄さん」

 それが精一杯だった。視線を逸らし、瞳をぎゅっと閉じる。

(完全に、嫌われたよね……)

 ずっと兄のように慕っていた人に、隠し事をしていた。
 それがばれるのが怖くて、彼に夢を奪ってしまうかもしれない程の大怪我を負わせてしまった。
 嫌いにならないで欲しかった。でも、恐らく無理だ。自分はそれだけの事をしてしまったのだから……フェイトの頭には、そういった想像しか浮かばなかった。

「……?」

 ふと、フェイトの頭に何かが乗せられた。そしてそれは、優しくフェイトの頭を撫でる。
 聖の手だった。いつもと違う、だけどいつもと同じ、左腕の手の平の。

「お兄さん?」

 あまりに予想外な聖の行動にフェイトは呆けたような顔でそう口にする。そんなフェイトに、聖はただ優しい笑みを浮かべながら、

「ありがとう、助けてくれて」

 ただそう一言だけフェイトに告げた。それを聞いて驚いたのはフェイトだ。

「……どうして?」

「どうしてって?」

「だって、私はずっとお兄さんに魔導師である事を黙ってたんですよ?」

「何か問題あるの?」

「私のせいで怪我をしちゃったんですよ?」

「フェイトちゃんのせいじゃないよ。あの変な鎧のお化けのせい」

「その怪我でもうパティシエになるって夢が、叶えられなくなっちゃうかもしれないんですよ!?」

「まだ治らないって決まったわけじゃないよ? だから……帰ってご飯にしようか? 手伝ってね、フェイトちゃん」

 左腕を掲げながら、聖はフェイトに笑顔を向ける。

「……っ!」

 それが我慢の限界だった。
 フェイトは聖の胸に顔を埋め、声を押し殺してしばらく泣き続けた。


 それからフェイトとはやて、そしてアルフと途中からやってきたシャマルは聖とフェイトの作った料理のお相伴に預かり、聖の傷が完全に治るとシャマルに告げられたフェイトは安堵のため息を吐き、そして、はやてと共に時空管理局の本局に向かう事にした。

「アルフ、お兄さんの護衛、お願いね」

「任せときなよ、フェイト。そっちも気をつけて」

「ごめんなさい、はやてちゃん。私もご一緒したいのだけど……」

「ええよ、みんなはみんなで別の任務やっとるわけやしな。フェイトちゃんの協力も得られたし、何とかなるって」

 ちらり、とフェイトは聖に視線を移す。その視線に気が付いた聖は笑顔を浮かべて、

「いってらっしゃい」

 と、ただそれだけを告げる。

「……はいっ!」

 しかし、それで充分だった。フェイトもまた笑顔で、そうはっきりと答えた。


「……帰ったら、ちゃんとお兄さんに説明しないとね」

 時空管理局への転移魔法を組み上げている最中に、フェイトはそうぽつりと呟いた。

「ああ、そうしたらええわ。うちとなのはちゃんの事もちゃんと言っといてな」

 なのはの名前が出た途端、フェイトは少しだけ身を硬くする。

「どうかしたん?」

「ううん、何でもない」

(この事件が終わったら、ちゃんとなのはとユーノに謝らないと……)

 そっと胸のペンダントに触れようとする、が、

「あれ?」

 なかった。そういえば最初に聖の家にお邪魔してシャワーを借りた時に外した記憶がある。どうやらそのまま忘れてしまったようだ。

「……まあ、いいか」

 お守りがないのは少々心細いが、代わりに聖の家に行く口実が出来たと思えば悪くはない。フェイトは小さく笑みを浮かべた。


「それにしても、今のはやてにはちょっと違和感があるかな」

「何で?」

「だって……」

 フェイトははやての足元に視線を落とす。二本の足で自在に歩き回っている、その足元に。

「ついこの前まではやて、車椅子だったんだよ? そっちの姿に見慣れているから、ね」

「あはは、確かにそうかも知れんな……着いたで、フェイトちゃん」

 時空管理局、無限書庫。
 はやてが到着すると同時にフェイトを案内した場所は、そこだった。

「ユーノくん、おる?」

「はやて、待っていたよ」

 はやてが中に入ってその名前を呼ぶと、すぐにユーノが姿を現す。

「あれ? ユーノくんなんか目が赤くない?」

 ユーノの姿を確認すると同時にはやてが目ざとくその変化を見つけるが、理由を知っているフェイトは心臓が大きく跳ねた。

「あはは、最近ちょっと寝不足でね」

「ああ、そういえばそうか。ここに来て急にせかされ始めたんやろ? 『アトロポス』の資料探し」

「しょうがないよ。事件が起こり始めたんだから」

 ユーノの誤魔化しに何の疑いもなく掛かってくれたはやてに心の中で安堵しながら、フェイトはその話に混ざった。

「……はやて、もしかして今回の事件、はやてが担当している事件のひとつなの?」

「まあそんな感じや。うちとしても、まさかレイリア・シュトゥールがフェイトちゃんを狙っているとは予想外やったけどな」

「……何か進展があったみたいだね」

 ユーノの言葉にはやては頷き、先程のフェイトが襲われた事件をかいつまんで説明する。

「報告書はもうレティ提督に提出しとるから、詳しい内容が知りたかったらそっちに言ってな」

「……いつの間に報告書をまとめていたの?」

「フェイトちゃんが聖さんと仲睦まじくお料理しといた最中や」

「っ……そ、そんなのじゃない……」

 瞬時に頬を染め、小さな声で反論する。というか今のユーノの前でそういう話はしないで欲しいと心ではやてに叫びながら。
 恐る恐る視線を移すと、ユーノは苦笑を浮かべながらこちらを見ていた。

「取り敢えず今回の件、一からフェイトに説明した方がいいかな?」

「そやな、もう巻き込まれ取るわけやし、レティ提督にも許可は取ってるし」

 ユーノは頷くと、「一応秘匿義務のある話だから他言無用で」との説明の後、フェイトにその内容を語り始めた。

「フェイトは『聖王教会』に関してある程度の知識はあるよね?」

「あ、うん。といっても『管理局と同じく、危険なロストロギアの調査と保守を使命としている宗教団体。本部はベルカ自治領内にあり、周辺の景観が良い事から観光地としても有名である』ってくらいの知識だけど」

「充分だよ。それで、ちょうど三ヶ月くらい前の話になるんだけど、その聖王教会の宝物庫からある捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)が何者かに盗まれたんだ。それはとても強力で危険なものとされているんだけど、ある条件下でしかその真価を発揮できないから危険度は意外と低い。でも学術的な意味では最高位の価値があって、聖王教会の神話にも登場する『神具』と呼ばれる捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)……」

「それが……『アトロポス』?」

 ユーノは頷く。

「正式には『破滅』の神具って名前で、古代ベルカ神話の神々が世界を創造した時に一緒に作ったってされている。祭典の時には一般公開もされている結構ポピュラーな神具だよ」

「逆に言えば、宗教の象徴として公開しても特に問題のないくらいには危険度の低い捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)って事や」

 はやてがそう付け加えるが、フェイトにはどうにも納得が出来なかった。

「でも、そんな捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)には到底思えなかったけど。私のサンダーフォールやはやてのディアボリック・エミッションも……えっと、相殺? しちゃうようなものなのに?」

「それに関しては僕もはやても不思議なんだ。ただ、彼女……レイリア・シュトゥールはその条件をクリアし、『アトロポス』の真の力を起動している、という事だけは確かだ」

「……ユーノ、その『レイリア・シュトゥール』と『アトロポス』の真の力について教えてもらえる?」

「そうだね、まずは……レイリア・シュトゥールの事から。彼女は聖王教会が所有する個人戦力『聖王騎士団』に所属していた魔導騎士で、特技は剣技。彼女が『アトロポス』の警護を担当していた時に盗まれ、また同時に彼女の姿も見られなくなった為容疑者として捜索令が出されていたんだけど……今回の件で確定、だね」

「そういう事件を起こしそうな人間、だったの?」

 フェイトの質問にユーノは首を横に振り、はやてが代わりに答える。

「まさか。そんな人間に聖王教会の宝とも言える捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)の警護を任せられるはずがないわ。実際彼女の事を聞いてみたらみんな口をそろえて『責任感の強い人』とかそんな褒め言葉ばっかりやったで」

「……まあ、彼女に関してはそんなところかな。で、次は『アトロポス』の真の力についてだけど……」

 ユーノはそこで一度言葉を切り、一冊の本を取り出す。

「『破滅』の神具・アトロポス……その昔、世界を創世せし神がいた。創世の神はひとつの杖を用い、踏みしめる大地を、潤す水を、力となる炎を、安らぎを運ぶ風を、青い空を、美しい星を、流れる時を、そして、命を創造した。だが、同時に創世の神は恐れた。自らの創造した命が、はるか未来に他の創造したものを奪う姿を『観て』しまったから。だから創世の神は、『破滅』を創造し、それを親愛なる神に授けた。『もし、私の創造した命が他の創造を奪う事になったら、それは止めなければならない事だ。しかし、私には自分が創造したものを消す事など、出来ようはずがない。だから願う。その時が来たら、その『破滅』の力を持って命の行う略奪を、止めて欲しい』と残して。創世の神の親愛なる神はそれを快く承諾し、『破滅の神』という汚名を喜んで受け入れた……」

「創世神話の一説やね」

 フェイトも聞いた事のある内容だった。確か『破滅の創造』という一節の話のはずだ。

「これに出てくる『破滅の力』が『アトロポス』だってされている。実際、後に続く神話の中でこの『破滅の神』が『破滅の力』を使って人々に審判を下しているシーンがあるし。まあ、問題はそこじゃないんだけどね」

「どういう事?」

「そんな力、一般人においそれと使われたら困るじゃないか。だから『アトロポス』には特別な封印が掛けられているらしい。それが『破滅の神とその血を引く者しか真の力を起動できない』って内容」

 成る程、確かに納得できる。しかし、と言う事は……、

「それじゃあレイリア・シュトゥールはその『破滅の神とその血を引く者』?」

 だが、その言葉にユーノとはやては同時に首を横に振った。

「調べてみたんやけど、シュトゥール家は確かに信仰心が強いけどごく一般の中流家庭やった。そんな大層な血縁じゃなかったわ」

 確かにそんな血縁を持つ人間がただの魔導騎士というのはおかしい。

「それにこれはあくまで神話。そんな血縁を持つ一族なんて確認されていないし、そもそもそんな力すら伝説上のものでしかない……はずだった」

「……聖王教会のその甘い考えが、今回の事に繋がったんや。二年くらい前にも聖王の聖骸布が盗まれるという事件もあったやろ? その影響もあって今回の事件は非公式での捜索になったんやけど……さすがにもうちょい戦力増強してもらわんときついな」

「何とかなりそうなの?」

「聖王騎士団にちょっとした知り合いがおるんや。頼んでみる」

 フェイトは頷くとユーノに視線を送った。その意味を悟ったユーノは続きを語り始める。

「で、『アトロポス』の真の力に関してだけど……文字通り、『消失』……現存するあらゆる存在の消去、とされている」

「……?」

「まあ、言われてもすぐには理解出来んよな? えっとな、さっきの事をちょっと思い出してみ? フェイトちゃんの魔法、レイリアには全然効かんかったやろ?」

「あ、うん……AMFでもディストーションシールドでもなさそうだし、全然訳がわからなかった」

 同時にその時の自分を思い出し、少しだけ自己嫌悪に陥る。

「……気にせんとき。何も知らずにあんな状況に出くわしたらよっぽど肝が据わっていないでもない限り混乱するって。皆にはちゃんと黙っておくわ」

 そんなフェイトにはやては小声で囁く。フェイトは小さく頷きながら二度とあんな失態を起こさないと心に誓った。

「あれはな、効かんかったんやないんや。効果が発生する前に消されていた、というのがしっくりくるかな?」

「消されて……いた?」

「そう、あの剣の刀身……または剣から発生する黒炎……それに触れたあらゆるものはその存在を否定され、瞬く間に消滅してしまう。それが『破壊』の神具の本当の能力だよ。『命の糸を切るはさみ(アトロポス)』とはよく言ったものだよ」

 フェイトはようやくその意味を理解し始める。

「ちょ、ちょっと待って! それってつまりこっちの攻撃は完全に防御されて、しかもこっちはあの剣や黒炎に触れられただけで存在が消える……って事だよね?」

「そう。一撃でも喰らったらその時点で終わりだよ」

 とんでもない話だった。どうやって戦えというのだろうか。

「そんな顔せんでも大丈夫矢でフェイトちゃん。ちゃんと攻略法はあるから」

「攻略法?」

「うん、『アトロポス』は確かに協力無比な捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)だけど、ちゃんと欠点もあるんだ。まずひとつは連続効果でない事……つまり、一度何かを『消去』した時点で再びその力を再構築しないといけないんだ。だから、シールド、バリアジャケットと一気に貫いて本体を消す、という行動は取れないわけ」

「レイリアの使っていたブラッディ・ガイドと剣の効果の同時発生みたいな事もできるみたいやけど、ここで欠点その二、これだけの凄い能力や、魔力の消費量や操作性に問題があっても不思議やないやろ?」

 フェイトははやてとレイリアの掛け合いを思い出していた。

「じゃあ、あの時大量のブラッディ・ダガーを出した理由は……?」

「そう、全弾一気にじゃなくて一個ずつ連続でなら確実に『アトロポス』を圧倒出来ると踏んだんや。まあ、あのブラッディ・ガイドだけはちょっと特殊みたいで相殺出来るだけの魔力をぶつけないとあかんかったらしいからディアボリック・エミッションぶつけたんやけどな。大技みたいやから連発できない事が幸いしたわ」

「……凄いね、ユーノ。たった数ヶ月でそこまでの情報を得られるなんて」

 この情報の功労者であろうユーノに賞賛の言葉を述べる。だが、ユーノは苦笑を浮かべて指で頬を掻いていた。

「実は『アトロポス』の詳しい内容が載っていた資料、見つけたのはやてなんだよ」

「え?」

「いや、うちもレティ提督から『アトロポス』の事件を任された時にユーノくんが資料整理をしてくれている事を聞いてな、手伝いを申し出たんや。そしたら偶然手に取った本が……というわけ」

「……はやて、凄い強運だね」

 感心するやら呆れるやら、フェイトはそう言って苦笑を浮かべた。

「でも、つまり『消失』の力は確かに凄いけど、その分消費魔力も半端じゃないって事だよね? レイリアは私のプラズマスマッシャー、プラズマランサー、そしてサンダーフォールを消去した上でSランクのはやてのディアボリック・エミッションと同等の魔力も消費してるんだよね? レイリアってSSクラスの魔力の持ち主なの?」

 その言葉に再びユーノとはやては同時に首を横に振った。

「それが『アトロポス』に搭載されている機能、『マテリアルシステム』の力だよ」

「マテリアル……システム?」

 ユーノは頷くとフェイトの目の前に空間モニターを表示させる。そこには小さな宝石のような丸い玉がいくつか表示されていた。

「これ……『アトロポス』の柄の部分にあった宝石に似ている」

「そう、それが『マテリアル』と呼ばれるものだよ。効果は大きく三つに分けられて魔法に『火』や『水』といった属性効果を付属させる『エレメントマテリアル』、術式を施して戦闘の際の詠唱短縮や先天性の魔法を使えるようにする『トリックマテリアル』、そして魔力を封印して必要な時にその魔力を解放できる『リィンフォースマテリアル』……」

「リィンフォース……」

 その名称を聞いた途端、フェイトは思わずはやての顔を覗き込んだ。

「宝石にぴったりの綺麗な名前なのに、それを悪用するなんてとんでもないわ。フェイトちゃんもそう思わん?」

「……うん、そうだね」

「……気にせんでいいよ、フェイトちゃん。あの子はうちの中で今でも生きとる。それに、あの子の意思を受け継ぐ子ももうすぐ生まれるんや。生まれたらちゃんと紹介するな」

「うん、楽しみにしているね」

 そう言ってフェイトは微笑んだ。はやても、そしてユーノも小さく笑っている。

「話を戻すね。今回使われたのは間違いなく『リィンフォースマテリアル』だよ。効果的には『カートリッジシステム』とそう変わらない。圧縮された魔力を込めたマテリアルをチャージする事で瞬時に爆発的な魔力を得る能力だよ。『カートリッジシステム』との違いはその魔力を放出寸前までマテリアルに蓄積しておく事ができる為それと比べて非常に扱いやすく、負担が小さい事。蓄積魔力が非常に大きい事。『アトロポス』に使われている大きさで大体カートリッジ千発分くらいかな?」

 さすがのフェイトとはやてもその言葉に腰が砕けそうになった。

「せ、千発!? そんなに蓄えられるん!? 反則やろそれは……」

「……反則以前の問題のような気がする」

「ついでにさっきも言ったとおり体への負担は皆無な上に解放量も制限がない。残り魔力を一気に解放する『オーバードライブ』モードというのもあるらしいよ。カートリッジ千発分の魔力を込めたスターライトブレイカーとかプラズマザンバーブレイカーとかラグナロクブレイカーとか想像したくないなあ」

「「………」」

 想像してしまったフェイトとはやては思わず身震いをする。

「そして駄目押しの『自動魔力収集能力』。周辺に溢れている魔力や術者が魔力を消費していない時に支障がない程度の魔力を常に吸収して自己回復をするシステム。つまり、時間さえ経てば勝手に魔力を補給するってわけ」

「……何というか、まったくとんでもない技術があったもんや。どうしてそんな技術が今まで話題にならなかったんや?」

「それにももちろん理由はあるよ。『マテリアルシステム』はそのコアとなる『マテリアル』がないと使用はおろかその機能搭載のデバイスを作り出す事も不可能。だけどその『マテリアル』の精製方法がどうやっても発見出来ないんだ。生産できなければ知識があったって無意味だよね? それに悪用を防ぐ為か『マテリアル』には使用者を設定してその人物以外には使えないようにする登録システムみたいなものがあるんだ。これが『アトロポス』の真の力の解放条件にも直結するわけだけど……つまり、現物があっても使えないわけ」

「成る程、意外とよく出来たシステムやな……でも、そうなるとますますレイリアが『アトロポス』を使えている理由が分からんわ……」

「うん、そうだね……」

 フェイトも頷き、しばらく三人の間に沈黙が訪れる。

「取り敢えず『リィンフォースマテリアル』は確かに自己魔力収集能力があるけど、収集量に限界がある。カートリッジ千発分の魔力なんてどれくらいの量か想像は難しくないよね? つまり、完全回復には時間が掛かる。それが『アトロポス』のもうひとつの攻略法だよ。魔法攻撃を繰り返してマテリアルを消耗させ、空っぽにさせる。そうすれば『消失』の力は使えなくなるから脅威はなくなる」

「……うん、分かったよ」

(今度はもう恐れない……負けない……お兄さんを巻き込んだ事、絶対に償わせるんだから)

 フェイトは目を閉じ、心に強く誓った。

「よし、あとはレイリアの出方を待とうか? 悲しい話、極秘扱いの任務やから大規模な捜索が出来ないのが辛いんよ」

「じゃあはやて、私はお兄さんのところに行ってきていいかな? ちゃんと説明したいし、アルフにも協力してもらった方がいいだろうから」

「ああ、そうしてもらえると助かるわ。じゃあよろしく」

 そう言って手を振るはやてとユーノに軽く会釈をしてから、フェイトは無限書庫から退出する。

(……アルフ、聞こえる? 今からそっちに行くか、ら……?)

 その事をアルフに伝えようと念話を飛ばす。
 だが何故か……返事がない。

「……っ!?」

 咄嗟に嫌な予感がフェイトの体を駆け抜け、全速力で次元転送装置へと駆け出した。

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 オリキャラその3、レイリア・シュトール。そしてオリジナルデバイスその1、消失の剣『アトロポス』。これでフェイト編の主なキーワードは整いましたw
 そして何気にはやてさん登場の回でもありますw 美味しいところを持っていってますw まあ、ちゃんと理由はあるのですがねw
 さて、前半のほのぼのシーンとはうってかわってシリアスになってきたフェイト編。もう少しお付き合いくださいませw
 戦闘シーンって何気に書いてて楽しいです、結構書きにくいですがw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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