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魔法少女リリカルなのはA→S 第十二話 ~Side FATE Ⅸ~

「………」

 公園のベンチに座り、フェイトはじっと空を流れる雲を見つめていた。
 ……あの後、フェイトはカートリッジシステムとマテリアルシステムの同時使用による魔力の許容量オーバーにより暫くの入院を余儀なくされた。バルディッシュもかなりの負荷が掛かっていて、同じように『入院』をした。こちらはまだ退院していない。
 カートリッジシステムだけでここまでの負荷が掛かるのはおかしい、とマリーを始めとした科学チーム一同にしきりに首を捻られ、何度もその事について尋ねられた。
 だが、フェイトは答えようとしなかった。言ったところで別の病院に連れて行かれる事が目に見えていたからだ。何しろ、フェイト以外誰も……彼の事を覚えていないのだから。

「………」

 退院する頃には、もう小学校生活最後の学年が始まって一ヶ月が経っていた。だが、まだ一度も学校に入っていない。アリサやすずかが心配してよく訪ねて来たが、生返事を返し続けこの前ついにアリサがキレた。それ以来二人とも来ていない。
 ほぼ同じ時期に傷が癒え、家に戻ったアルフもフェイトを心配していた。だが、時々流れてくるフェイトの深い悲しみの感情に戸惑いを隠せず、その事を尋ねる事が出来ないでいるようだった。
 はやてとはあの日以来会っていない。仕事が忙しいようで学校の方もあまり行っていないようだったし、何より……今回の件にフェイトの次に深く関わっていた彼女が彼の事を忘れているのが、許せなかった。

「………」

 最近二次成長を向かえ、少しずつ膨らみ始めた胸元に、あのペンダントはなかった。部屋の宝箱に入れっぱなしにしている。見ているとどうしても彼の事を思い出し、辛くなるからだった。
 もうすぐ行われる執務官試験の勉強も、まったくしていない。ご飯も殆ど喉を通らない。流石にリンディやクロノが心配したが、やはり適当にあしらった。最近のフェイトは、ただこうして家と公園の往復を繰り返す事しかしていない。

「………」

 もう、何もかもどうでもよくなっていた。あんなに頑張ったのに、それを一番褒めて欲しかった人は、もうフェイトの思い出の中にしかいない。その事を、誰も知らない。
 こんな残酷な結末など、誰が望んだというのだろうか。

「……ねえ、お姉ちゃん」

「えっ……?」

 そんな、まるで人形のように呆然としていたフェイトに、声を掛けてくる物好きな人物が一人いた。
 フェイトより少し幼い男の子だ。両腕で大事そうに紙袋を抱えていた。

「お姉ちゃん、どうかしたの? お腹でも痛いの?」

 心配そうに、そんな無邪気な言葉をフェイトに投げかけてくる。
 だからだろうか。フェイトは久しぶりに、会話らしい会話をしようと思った。

「……ううん、お腹は痛くないよ。痛いのは……心、かな?」

「こころ?」

「うん。お姉ちゃんね、大切な人が……いなくなっちゃったんだ。だから……心が、すごく痛いの……そして、初めて気が付いたんだ。ああ、私はこんなにもその人の事が……大好きだったんだなあ、って」

 実の母であるプレシアの事だってフェイトは大好きだった。だけど、ここまで心が締め付けられる事はなかった。
 いつの間にか彼の存在は、母以上にフェイトの心に居ついていたようだった。
 そんなフェイトをじっと見ていた男の子が、おもむろに抱えていた紙袋から何かを取り出し、それをフェイトに差し出した。

「これ、お姉ちゃんにあげる」

「……っ!?」

 男の子が手に持っているそれを確認したフェイトは、途端に息苦しいまでの胸の痞えに襲われた。
 それは、小さな器に入った、小さな、小さな……プリンだった。

「僕が作ったんだ。お母さんもおいしいって言ってくれたんだよ。ねえ、食べてみて」

 男の子はそう言って、笑顔でそれを差し出してくる。

――ある日ね、パティシエだった母さんの手伝いでプリンを作ったんだ。近くの幼稚園に配る、一口サイズをたくさん。で、余ったやつをお駄賃代わりに貰って、天気が良かったから外で食べようと思って近くの公園に向かって……そしたらそこに一人のお姉さんが居たんだ。

――そのお姉さんね、何か悲しい事でもあったのかすごく落ち込んでいて。それで持っていたプリンをひとつあげたんだ。そしたら笑いながら『おいしい』って言ってくれて。何度も『ありがとう』って言ってくれて。その時にね、お菓子ってすごいなあって。何も出来ない僕でも、こんな風に誰かを笑顔にする事が出来るんだって。

(酷いよ……こんなの、酷過ぎるよ……)

 彼の言葉が脳裏に蘇る。その時の思い出が、胸を痛める。

「……ごめ、んね……それは、受け取れ、ないよぉ」

(私は、そのお姉さんのようにはなれないよ……)

 それだけを何とか絞り出し、必死で嗚咽を堪えた。
 すると男の子は、一瞬悲しそうな顔を浮かべて……ゆっくりとフェイトの側から離れていった。

「ごめんね……でも、それだけは……本当に駄目なの」

 もう、枯れ果てたと思っていた涙が、再びフェイトの頬を濡らした。


 次の日から、フェイトは自室にこもるようになっていた。
 あの公園にいたら、またあの時の男の子にまた会ってしまうかもしれなかったからだ。あんな酷い事をしておいて、それはどうも体裁が悪い。
 その日はベッドの上で寝転んで、次の日は壁に背を預け、また次の日はベッドで……ずっと、彼との思い出を頭の中で再生する。
 そうしていなければ、自分も彼の事を忘れてしまいそうだったから。それだけは、絶対に嫌だった。だから今日も、フェイトは部屋で彼の笑顔を思い浮かべる。
 そんなフェイトの瞳には、精気も、光もまったく感じられなかった。
 そんな最中、ふと机の上のカレンダーに目が移った。今日の日付に赤丸がされている。

「あ……」

 そういえば今日は……執務官試験の日だった。確か今回はリンディとクロノが試験官を務めると言っていた。その為すでに昨日から本局にいるはずだ。
 本来ならフェイトもそれに付いていくはずだった。だが、もう今となってはどうでもいい事だ。

(……いっそこのまま、魔導師も辞めてしまおうかな)

 自分は、どうやら魔導師という職業と相性が良くないようだから。

(なのはの時も、はやての時も、そして今回も。きっと、自分が関わったからあんなにも大きな事件になってしまったんだ。だったら、もう魔導師なんて辞めよう。その方が、きっと……)

「……ん?」

 ふと廊下から大きな足音が聞こえてきた。その足音はフェイトの部屋の前で止まると、力強く扉を開け放つ。

「フェイトちゃん!」

「……はやて?」

 足音の主ははやてだった。ここまで走ってきたのか、息を切らし、荒い呼吸を繰り返している。
 ……その顔に、怒りの表情を浮かべて。

「……はやて、どうかしたの?」

「! ……それは……こっちの台詞やぁっ!」

 ついこの前まで車椅子で生活していたという事をまったく感じさせない見事な脚力でフェイトとの距離を一瞬で無くし、その胸倉を遠慮なく掴む。

「はやて……苦しいよ」

 本当に呼吸が出来ない程の力で締め付けられ、フェイトはその手を必死で払おうとする。

「こんなところで……こんなところで何し取るんやあんたは! 今日が何の日か忘れたんか!」

「はやて……?」

「なるんやなかったんか? ……執務官になって、たくさんの人を助けるんやなかったんか!」

 強く、鋭い視線で睨まれ、フェイトは思わず身を硬くする。

「……もう、無理だよ。私は……そんな資格なんてない」

「何やて?」

「私にはそんな資格、ないって言ってるの。だって、私のせいであの人は消えた。今までの事件だってそう。お母さんの時も、『闇の書』の事件の時もそう。大きな事件には、私がいつも関わっていたじゃない……」

「………」

「私は……きっと、不幸を呼ぶ存在なんだよ。私がいなければ、なのははきっと普通の女の子として一生を送れた。怪我をして、二度と歩けなくなるかもしれない状況になんてきっとならなかった。はやての時だってきっとそう。私が関わったからあんなに大きな事件になってしまった。そして今回は、さらに顕著だった。私がいたから……あの人は……私は……やぱり、私は……」

 そして、フェイトは禁句を、自ら口にしてしまう。

「作られた偽者の命の存在である私は、いない方がいいに決まってる!」

「――っ!」

 乾いた音がフェイトの部屋に響き渡った。

「……?」

 頬が痛み、はやての手の位置が変わっていた。
 引っ叩かれたのだと気が付いたのは、それからゆうに二十秒は経ってからだ。

「……にしいや」

「はや、て?」

「甘えるんのもいい加減にしいや!」

 今まで見た事のない、鬼のような形相で、はやては怒涛のごとく叫ぶ。

「いない方が良かった? 不幸を呼ぶ存在? 誰がいつそんなこと言った!? あんた、うちらを舐めるのも大概にしときや!」

「………」

「なのはちゃんがいつあんたに出会わなければ良かったなんて言ったんや! いつ普通の女の子として一生を過ごしたかったなんて言ったんや! 今のあんたの台詞はな、なのはちゃんのあんたへの思いを踏みにじってるも同然なんやで! そんな事も気付かないくらいあんたは馬鹿なんか!?」

「あっ……」

「うちがいつあんたと出会わなければ良かったなんて言ったんや! うちはな、なのはちゃんとあんたには心から感謝しとる! だって二人がいなかったら、うちの子達はもっと罪を重ねていた! うちだって、今、ここには絶対おらんかった! 二人はな、うちら『八神家』全員を救ってくれた恩人なんやで! あんたはそれすらも踏みにじるつもりなんか!?」

「あ……あぁ……」

「もう一人の事は、うちにも分からん! でも、その人はフェイトちゃんに会って、一度でも不幸になったって言ったんか!? 出会わなければ良かったなんて言ったんか!? そんな最低な人間やったら、今からうちがぶん殴りに行ったるわ!」

――僕……倉瀬聖は、フェイト・T・ハラオウンの事が……本当に、大好きだったよ。

「違……う」

 フェイトの瞳に、少しずつ、精気が、光が戻り始める。

「違う! あの人は最後に言ってくれた! 私の事が、大好きだったって! はっきり言ってくれたよ!」

「なんや、過去形やないか! そりゃそうやろうな! こんなところでひとり落ち込んで何もしようとしない陰険な女の子なんか、嫌われて当然や!」

「――っ!」

「なんやその目は! 否定できるんやったら否定してみいや! あはは、それともその人、単なる幼女趣味(ロリコン)やったかもれへんな! 陰険な子には変態さんがお似合いや!」

 普段のはやてからは考えられないその辛辣な言葉に、ついにフェイトもキレる。

「私の事はいい! だけど、あの人の悪口だけは……絶対に許さないからぁっ!」

 その後は酷いものだった。部屋は滅茶苦茶、二人とも揉みくちゃになり、髪の毛は乱れ、服はシワだらけになり、お互いの頬に紅葉のような形をした赤い跡が残る。

「あああぁぁぁっっっ!」

 雄たけびのような声をあげ、はやてはフェイトを机に貼り付けるように押し付ける。フェイトは逃れようと必死で抵抗する。

「大好きやったんやろ!? あんたは、その人の事、本当に大好きやったんやろ!?」

「そうだよ! 本当に大好きだった! だからいなくなって、こんなに辛くなってるんじゃない!」

「その人も言ってくれたんやろ! あんたの事が、大好きやったって!」

「言ってくれたよ! だからこんなにも悲しんでるんじゃない!」

「だったらなあっ! 言えるんか、今のあんたに! 自分は、その大好きだった人が好きになってくれた相手なんだって、胸を張って言えるんか!?」

「なっ……!」

「言えんやろ!? 言えるはずないないわな! 自分でも認めたくらいや! さっき言ったよな! 『私の事はいい! でも……』って! 自分でも分かってるんやないか! 今の自分が、どんな姿なのか!」

「うっ……」

 フェイトの言葉が詰まり、全身から力が抜けていく。

「何でその人に誇らせてやろうと思わんのや!? 僕が好きになった娘は、あんなにも強くて、立派な魔導師の女の子なんだって!」

「うぅ……」

「辛いかも知れへん! 悲しいかも知れへん! だけど、その人が本当に好きだったんやったら、自分もその人が好きでいてくれた女の子でいてやれや! だから、気張って……歯を食いしばって……今は立ち上がれ! フェイト・T・ハラオウンッッッ!」

 その、涙を浮かべながら、怒鳴りながら叫ぶはやての言葉に。
 フェイトの瞳は、ようやく昔と同じ……いや、昔以上の、光を携えた。


――瞬きの、奇跡。しかし、その一瞬の煌めきの中に、人は新たな希望を見る。


「クロノ、お疲れ様」

「ああ、母さんも」

 執務官試験の準備を終え、リンディとクロノは休憩室で束の間の休息を取る。

「「………」」

 お互いに、本来ならもう一人いるはずの女の子の話を持ち出しはしない。
 二人とも何となく察していた。彼女は、もう魔導師として生きていけないかもしれないと。
 何があったか分からない。彼女が負傷したあの日に何かがあった事は確かだ。だが、その日の事に関して、彼女は何も語ろうとしない。ただ、新しい家を携えた世界で、呆然と過ごしているだけ。もはや初めて会った時の凛々しいまでの姿は、微塵にも感じられなかった。

「……そろそろ行きましょうか」

「……ああ」

 カップと湯飲みを置き、二人は同時に立ち上がった。


 クロノは試験官を任せられた教室に入り、たくさん並んでいる机の正面に用意された椅子に座る。
 執務官という職を夢見て、今回も教室の机が満席になるほどの人が集まっていた。本来ならここに、彼女もいるはずだった。
 クロノは一度大きくため息を吐き、試験の開始を宣言しようとする。

「静かに。それではこれから執務官試験を……」

 開始する……そう言い切る前に、扉が勢いよく開いた。

「はぁ……はぁ……」

 その姿を見て、クロノは一瞬我が目を疑った。
 髪は乱れ、服もボロボロ。その頬は赤く腫れ上がり、荒い息をしきりに吐いている。
 だが、その瞳には……雷光を思わせる、強い意志と眩しい光に溢れた……胸にペンダントを携えた、一人の、クロノがよく知る少女。
 何事かと教室にいる全員の視線を集める中、少女は呼吸を整えると背筋を伸ばして、声高らかに宣言した。

「時空管理局執務官候補生、フェイト・T・ハラオウンです! 遅れて申し訳ありませんでした!」

「……早く席に着きたまえ。もう始めるぞ」

 クロノは顔が崩れそうになるのを何とか堪え、ぶっきらぼうにそう促す。

「はいっ!」

 その返事を聞いて、クロノはほとんど確信めいた予感がしていた。

――今回は最低でも、一人は合格者が出るな。

 と。


――新たな希望を見たから、人は歩き始める。


「……ん?」

 新型のデバイスの事でマリーに相談しようと彼女の作業場に向かっていたエイミィは、その部屋から見知った少女が走り去るのを見て、首をかしげながらも入れ替わるように部屋に入る。

「あ、先輩。どうかしたんですか?」

「ちょっと今考案中の『近代ベルカ式デバイス』の件でね。それよりも今の、フェイトちゃんだよね?」

「ええ、ちょっとバルディッシュの事で相談されまして」

 マリーはエイミィにコーヒーの入った紙カップを差し出しながらそう答える。

「バルディッシュの事で? 何か調子悪いの?」

「いえ、実は新フォームの提案をされたんです」

「新フォーム?」

「はい、何でもバルディッシュのザンバーフォームを……双剣になるようにして欲しい、とか……」


「……やっぱり、いないか」

 あの日、落ち込んでいた自分に手を差し出してくれたあの少年に謝りたいと思っていたフェイトは、度々公園に足を運んでいた。
 だが、もう一週間は待ち続けたが、一度も会えはしなかった。

「しょうがないか。こんな変なお姉さんにもう一度会いたいなんて、思うはずないしね」

 自嘲気味に笑い、公園から立ち去る。

「バルディッシュ、ちょっと訓練していこうか?」

《Yes, sir》


 なのはに教えてもらった丘の上の公園。フェイトはそこで軽く二時間程、魔法の訓練を行う。
 そして小休止をしている最中、ふとバルディッシュがフェイトに語り掛けてきた。

《マスター》

「? どうしたの、バルディッシュ」

《執務官試験合格、おめでとうございます》

「……珍しいね、バルディッシュが自分からこんなに話しかけてくるなんて。でも……うん、ありがとう」
《私から、マスターにプレゼントがあります。バリアジャケットのセットアップを》

「……プレゼント?」

 不思議に思いながらも、フェイトはバルディッシュに言われたとおりにバリアジャケットを纏う。

「バルディッシュ・アサルト、セットアップ!」

 すると、どうだろう。その感触がいつもと違ったのだ。

「えっ……?」

 レオタードのようだった服は、ミニスカートと、インナーの上から羽織るような服の形に。
 そして……その上に更に羽織るように……真っ白な、マント。

「バルディッシュ……これ?」

《新しいバリア・ジャケットです……私も、マスターには白い服がお似合いだと思いますよ》

「――!?」

 フェイトは喜びあまりその場に座り込んでしまう。
 いた。たった一人だけではあったが……人ですらなかったが……彼を、聖の事を覚えていてくれたものが。

「ありがとう、バルディッシュ……」

 その言葉に、バルディッシュはまるで照れ隠しのように、ただ一言こう呟いた。

《Yes, sir》


――奇跡とは、一瞬の煌めき。

――そこから、人は歩いてゆく。


「……ふぅ」

 口をつけていたグラスの中身を飲み干し、テーブルの上に置く。同時に中の氷が小さな音を立てた。

「はぁ……私らしくなかったなあ、さっきのは」

 先程の休憩室でのやり取りを思い出し、軽く自己嫌悪に陥る。
 ギンガに悪気があったわけではないのはよく分かっている。だけど、いまだにプリンだけは駄目なのだ。
 どうしても悲しい思い出しか浮かばないから。

「……お兄さん」

 そっと、制服の下に身につけているペンダントに触れる。
 フェイトはあの日から、それを肌身離さず持ち続けた。身に付けられない時は、ポケットや鞄に入れて。寝る時は、手の届く場所に。
 そんな事をしていれば、誰だって気になるというもの。だから、何度尋ねられたかは覚えていない。「それは、何なのですか?」と。
 その度にフェイトは答えを濁していた。話したところで信じてもらえないだろうし、そうされる事で聖と、その思い出を否定されるのが怖かった。
 だからエリオやキャロは元より、あの事件に関わったはずのはやてですら、このペンダントの意味は知らない。昔、なのはには話した事があったが、きっと完全には信じていないだろう。何しろ、聖との思い出が残っているのは、彼が存在したという事を知っているのは、自分と、そして愛機、バルディッシュだけなのだから。

「………」

 無言でボトルを傾け、グラスの中身を増やす。
 先程近くのお店で買ってきた安物だった。だが、普段から飲みなれていないフェイトにはこれでも充分に酔いが回る。
 それにいくら自由待機(オフシフト)といっても緊急要請があれば出撃しなければいけない。明日だって仕事がある。飲み過ぎは良くないだろう。

「フェイトちゃ~ん♪」

「……なのは?」

 そこに両手一杯に袋を抱えたなのはがやってくる。その顔は満面の笑みだ。

「どうしたの?」

「どうしたのって、ここ私の部屋でもあるんだし、別に不思議はないんじゃない?」

「いや、そっちじゃなくて……その手の荷物」

「ああ、これ? えへへ……じゃーん♪」

 そう言って取り出したのは、

「………」

 ウイスキーに、焼酎、ビールに、ワイン。ウォッカとかとんでもないものもあった。プラス、大量の……おつまみ。思わずフェイトは思わず口を開けて呆然としてしまう。

「……しかもこれ、全部高級酒じゃない?」

 書かれた文字から見るに全部なのはやフェイトの故郷のものらしい。そしてお酒の知識はそんなに高くないフェイトも聞いた事があるくらい、高級酒として有名なものばかりだった。全てを合わせれば、あちらの世界の通貨で軽く六桁目に到達していそうな勢いだった。

「この前帰った時に買っておいたの。たまにはいいもの飲まないとね」

「あの、なのは、一応私達十九歳で……あちらではまだ飲酒は駄目な歳なんだけど」

「だからこっちに持ってきたの。ミッドチルダの法律なら全然オーケーな歳じゃない」

 確かにそうなのだが。それは正直屁理屈と変わらないような気がするのは気のせいなのだろうか。

「と、いう事で……飲も、フェイトちゃん♪ ああ、気にしなくても全部私の奢りだから。高給貰っているのにまったく使わないのもあれだしね」

「そういう心配じゃなくて。一応自由待機(オフシフト)とはいえ緊急要請があったら出撃しなくちゃいけないんだから……」

「そっちもノープロブレム♪ ちゃんとはやてちゃんの許可も貰ってるし、仮に出撃があってもヴィータちゃんやシグナムさんが処理してくれるって。ヴィヴィオも今日はフォワードメンバーが面倒見てくれるって言ってくれたし」

 なのはの用意周到ぶりに、流石のフェイトも開いた口が塞がらない。

「さて、じゃあまずはこれから♪ ええっと、『アルコール度99パーセント』?」

「それは流石に死ぬから駄目ぇっー!」


 一時間後。

「……うぅ~」

 唐突に始まった二人だけの宴会を断りきれなかったフェイトは、簡単に酔いつぶれ、テーブルに突っ伏してしまっていた。

「フェイトちゃん、もうちょっとお酒に慣れといた方がいいよ」

「……なのはが強過ぎるだけ。私と同じくらい飲んでるのに、何で赤くすらなってないの?」

「にゃはは、血筋かな?」

 笑いながらそう呟いて、なのはは裂きイカを口に入れた。

「そういえばギンガが買ってきてくれたプリン、凄く美味しかったよ」

 殆ど思考が回らなくなった頭で、それでもフェイトは何とか返事をする。

「……そうなんだ?」

「うん、何ていうか……似てたんだよね、昔のお父さんの味に」

「ふうん」

「今度買ってくるから、一緒に食べよう。ね?」

 だがフェイトは、ただ苦笑を浮かべるだけだった。

「……ごめんね、なのは。でも私……ある人が作ってくれたプリンしか、食べないって決めている……か、ら……」

「フェイトちゃん?」

 なのはがフェイトに声を掛けるが、答えたのはフェイトの寝息だった。
 苦笑しながらなのははベッドから毛布を取り出してそれをフェイトの肩に掛ける。

「おやすみ、フェイトちゃん……」

 その言葉に、フェイトは小さく笑顔を浮かべた。


 この時、酔いが回っていたフェイトは、なのはが言った言葉の意味をあまり深く考えようとはしなかった。

――似てたんだよね、昔のお父さんの味に。

 それはつまり、なのはの父……士郎が作るプリンの味が変わったのだという事を。
 彼女の父は、喫茶店を営んでいる事を。
 そこで、彼はアルバイトをしていたという事を。
 そして……あのお店のプリンを作っていたのは、誰だったのかという事を。


 翌日。

「うぅ……」

「あの、大丈夫ですか?」

 ズキズキと痛む頭を時折押さえながら、普段の彼女から覇想像出来ない表情で助手席に座るフェイトに、運転を変わったシャーリーが心配そうに尋ねてきた。

「……うん、出掛けに飲んだ薬が効いてきたから、少し楽になった。でもごめんね、運転変わってもらって」

「いいえ、こう見えても一応、フェイトさんの執務官補佐ですから」

 笑顔でそう言ってくれるシャーリーにフェイトも微笑で答える。
 赤信号で止まり、ふと周囲の景色に目をやると……物凄い行列の並ぶお店が目に入った。

「シルフィス……ラスタ?」

「ああ、最近有名なお菓子屋さんですよ。何でもプリンが凄く美味しいらしくて……」

 慌てて口を押さえるシャーリー。フェイトの補佐を勤める彼女は、当然フェイトがプリンに何か特別な思い入れがある事を知っているからだ。
 そんなシャーリーにフェイトは苦笑を浮かべる。

「シャーリー」

「は、はい!」

「信号、青だよ」

「え……あ、す、すみません」

 後ろからのクラクションに、慌ててシャーリーはアクセルを踏み込み、車を発進させた。


――そして、残酷なる神が与えた奇跡から歩き出せたものに。


「……ん?」

 シルフィス・ラスタ店内。店を切り盛りする若きパティシエ兼店長は、じっと店の外を見つめていた。

「店長? どうかしたんですか?」

 そんな店長に、開店当初から働いてもらっている女性が不思議そうに声を掛ける。

「いや、ちょっとね……今走っていった車に乗っていた人、どこかで見た事あったような気がしただけだよ」

 そう言って笑みを浮かべる。その優しげな笑顔はお店のお菓子と同じくらい、お店の名物となっていた。

「あ、お義姉ちゃん」

 そこに一人の女性が尋ねてきた。聖王教会で支給される騎士服を纏っている。どうやら騎士のようだ。

「レイちゃん、どうかしたの?」

「どうかしたのじゃないよ。頼んでおいた折り詰め、出来てるの」

「……はい、これだよね、レイリアちゃん」

 そう言ってお店のロゴが入った紙箱を渡したのは店長の方だった。

「あ、ありがとうございます……でも、いい加減『ちゃん』は止めてもらえませんか? 確かに店長さんより年下だけど、私もう二十三歳なんですよ」

 少し頬を染めながら答える騎士の女性……レイリア。その顔は普段の『騎士』としての彼女を知るものならば、きっと目を疑ってしまうほど可愛らしいものだった。

「それにしても……『シルフィス・ラスタ』って、なんだか悲しい名前ですよね」

「え? どうして?」

 不思議そうなその言葉に、レイリアは得意そうに答えた。

「古代ベルカ語でですね、『シルフィス』は約束、『ラスタ』は待つ、って意味なんです。だから、『シルフィス・ラスタ』は訳すとこういう意味になるんですよ……ヒジリ店長さん」


【約束が果たされる時を(シルフィス)、私は待ち続ける(ラスタ)】


――歩き出せたものに、残酷なる神は、新しい奇跡を与えるのだ。

――小さな、小さな、「キセキのカケラ」を……。

----------------------------------

 このラストを同じなのはスキーの知り合いに見せたら「これ以上フェイトちゃんを不幸にしないで下さい><;」と言われましたw
 い、いや、不幸にするつもりなんて更々ないんだよ!? ただうちとしては一応A'S~StSの間の話ってなってるからアニメの設定に沿おうとしているだけなんだよ!? だってうち

 フェイトスキーだもんww

 さて、これにてA→Sフェイト編は終了です。次回からはこのフェイト編の裏の話とも言えるはやて編、始まりますw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

Comment

No title

 魔法少女リリカルなのはA→S 読ませていただきました。面白かったのですか・・・少々内容がヘビーな所がきつかったです。でもそんなヘビーな所も和気藹々とした所も全て『なのは』という物語に繋がっていて・・・とても良い物を読ませていただきました。

No title

 >蒼紅さん
 コメントありがとうございますw すっごく励みになりましたw
 まあ、ちょっとBADEND風味な内容なのですが、結局うちはフェイトスキー&ハッピーENDスキーなので続編的な内容のSSを書いていますw
 よろしければそちらの「ANGELS STORYS ~LYRICAL NANOHA A&A~」シリーズも読んでやってくださいねw

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