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魔法少女リリカルなのはA→S 第十三話 ~Side HAYATE Ⅰ~

 ミッドチルダ新暦076年、四月。
 ジェイル・スカリエッティの起こした事件……通称「JS事件」と呼ばれる犯罪を解決し、その後も規模的には比べようもないものであったが数々の犯罪を解決に導き、もはや伝説の部隊と称されるようになった八神はやて二等陸佐率いる「機動六課」。
 その伝説の部隊は、今まさに真の意味での「伝説の部隊」となりつつあった。


「よし、こんなもんかな?」

 今までお世話になっていた部隊長室の掃除を終え、はやては額の汗を右腕の袖で拭う。
 今はやての周りには誰もいない。皆手伝うと言ってくれはしたのだが、丁重にお断りした。片付けが必要なのはここだけではないし、ほぼ完了していたので一人でも大丈夫という結論からだった。
 思えば、この場所で本当に色々な事があった。JS事件を筆頭に、色々な事が。
 司令部を廃艦目前だった思い出深い「アースラ」に移した事。その原因となった機動六課隊舎の半壊。あまり触れ合う機会は少なかったが、はやても大好きだったヴィヴィオという少女の存在。その義理の親となった幼馴染のなのは、その親友、フェイトと誓った約束。そのきっかけとなった空港火災事件。同じくそれが原因となり魔導師を目指すようになったスバルとその相棒、ティアナとの出会い。そして、彼女らと同じく新人として六課に配属されたフェイトの秘蔵っ子、エリオとキャロ……。

「ほんま、色んな事があったわ」

 今でも鮮明に思い出す事が出来る、その時の光景。隊長室の片付けを一時中断し、その思い出に浸る。

「……ん?」

 ふと下に視線を移すと、はやては自分の机の引き出しのひとつが淡い光を放っているのに気が付いた。

「おかしいな? 何か発光するもんとか入れとったっけ?」

 だが、発光するものどころか、片付けがほぼ終わった今となっては引き出しに入っているものは殆どないはずだった。
 確か、そこに入っているものは……。

「……っ!?」

 ある考えに辿り着いたはやては慌ててその引き出しを開けた。
 そして、その考えが正しかった事を思い知らされる。

「……夜天の書」

 光を放っていたのははやてのデバイス、「夜天の書」であった。静かな光を放ちながら、そっと主であるはやてが手に取るのを待っているかのようだった。

「……そっか。いよいよ始まるんやな。大丈夫や、第一段階は終了しとる。みんな、強いで。心から、そう思う……」

 はやては思いを巡らせる。この「夜天の書」に隠されたある使命。一番新しい家族、リィンフォースツヴァイの誕生秘話、そして、あの時出会った一人の少年と、今も続けている、とある「嘘」を。

「だから、大丈夫や。あの子達は絶対……止めてくれる。あんたと……うちをな」

 そう呟くはやての顔は、小さく微笑んでいた。


――八年前・春


「アトロポス?」

「そう、それが今回あなたに担当してもらいたい捜索指定遺失物(ロスト・ロギア)の名前よ」

 次元空間に漂うように存在する、時空管理局本局。
 その膨大な敷地の中にある、現在はやての直属の上司、管理局提督レティ・ロウランの部屋に呼び出され与えられた指令がそれであった。

「今から三ヶ月程前になるのだけど、聖王教会から盗まれた『神具』に位置付けされているそれが何者かに盗まれたのよ。聖王教会の面子に関わる問題だし、ここまでは秘匿で調査が進められていたのだけどね、どうもあまり悠長な事を言っていられなくなってきたのよ」

 そう言ってレティは空間モニターをはやての前に広げる。

「剣……ですよね?」

 その映像を見たはやてはそう言うしかなかった。さすがにこれを「杖」や「槍」と形容するのは無理があるだろう。

「ええ。状況次第によっては、最強最悪になる、ね……」

 小さくため息を漏らすと同時に、レティは次の映像を映し出した。途端、はやては流石に小さく息を呑む。
 そこに映っていたのは小さな山……だったと思われる場所だった。
 だった、という過去形が意味するとおり、その映像に映っていた山はその形をとっていなかったが。

「なんて言うか……山形のプリンをスプーンで抉ったような形になってますね」

 はやての例えにレティは一瞬呆けたような表情を浮かべ、小さく微笑んだ。

「面白い例えね、もしかしてお腹空いているのかしら?」

「あ、いえ、そういう意味では……」

 ただ単にここに呼び出される直前までプリンを「翠屋」で頂いていただけである。台形ではなく山形のプリンなど滅多に見ない形状だったし味も良かったので少々記憶に残っていただけだった。

「でもまあ、そんな感じね。山の頂上部分がありえない形に……そう、抉れている形になっているのだから」

 そう言って次々とその山の別角度の写真を映し出す。成る程、確かに抉れているとしか形容できなかった。

「これとさっきの剣、何か関係があるんですか?」

 何となく想像は出来たが、はやては一応そう尋ねた。

「ええ。恐らくこの山はあの剣によってこういう形状に変えられた可能性が高いのよ」

 まあ、そうだろう。でなければあの剣を最初に見せた意味がなくなってしまう。

「でも、こう言っちゃなんですけど、高い魔力の持ち主だったらそんなに難しい事でもないような気がするんですけど……」

 これが魔法文明のないはやての故郷のような場所ならば確かに不可解な現象である。だが、魔法文明のあるこのミッドチルダの世界ならば、そう難しい話ではない。
 確かに山の一つを変形させるほどの魔力は相当なものだろう。少なくともAAAランク程の魔力は必要不可欠だ。だが、逆に言えばそれだけの魔力あれば不可能ではないのだ。現にはやての友人であるなのは、フェイト、クロノはAAAランクの魔力の持ち主だし、はやて自身はその上をいくSランクの持ち主である。後はそれを制御してくれる優秀なデバイス……これにおそらく先程の剣が該当するのだろう……が揃えば、不可能ではなくなるのだ。
 ちなみに誤解のないように付け加えておくが、AAAランク以上の魔力の持ち主はそう多くない。というより希少の部類に入る。確か管理局に所属する魔導師のほんの一握りのはずだ。ただ単に、はやての知り合いにその一握りが集まっているに過ぎないのである。
 しかし、だからこそこの山を変形させた張本人を探し当てるのはそう難しくはないはずなのだ。

「ええ、そうね。でも問題は山が変形している事じゃないの。この変形に用いられた方法が問題なのよ」

「ああ、それがさっきの剣に繋がるわけですね」

 レティは頷くと、新たに人の顔写真と詳細なプロフィールを載せた映像を空間モニターに映した。

「レイリア・シュトゥール……彼女が犯人ですか?」

「その可能性が高い、ってだけよ。まだ犯人と断定はされていないわ」

「え? どうして……ああ、成る程」

 レイリア・シュトゥールのプロフィールを見ていたはやては、「聖王教会騎士団所属」の一文を見てその言葉の意味を理解した。
 聖王教会の騎士といえば神聖、崇高、端麗と辞書で調べなければ分かりにくい単語を連ねられるような賞賛をされる人達だ。現に教会騎士団に所属しているはやてのある友人もそのような言葉がぴったりきそうな人柄であった。
 そんな人間が盗みを……しかも聖王教会の宝である「神具」を、である……働き、その上許可なく地形を変形させるほどの魔力を放ったとなれば、大問題以外の何者でもない。というより、みな「信じられない」という心理の方が働くであろう。

「『神具』の盗難に犯人と思しき人物が教会騎士団……あー、確かに秘匿にしたくもなりますよねぇ」

 苦笑いを浮かべながら呟くはやて。

「そう言わないで。大人の世界は色々とあるのよ……特に最近は地上本部との折り合いも悪くなる一方だしね」

 同じように苦笑を浮かべながら、レティは小さくため息を吐く。
 時空管理局本局と地上本部……この二つは同じ組織名でありながら、まったく独立した形態をそれぞれで組み上げている。そして、同じ組織名でありながら、この二つは仲があまりよろしくなかった。
 その理由は挙げればキリがないので割愛をするが、問題は今回の事件の発端とも言える「聖王教会」が、どちらかと言えば本局寄りである、という事であろう。
 前途したとおり、本局と地上本部はいがみ合っている。そこに今回の事が公になれば地上本部は格好の攻撃ネタを手に入れる事が出来るのだ。聖王教会は叩かれ、そうなれば聖王教会と仲の良い本局も叩かれてしまう、というわけである。つまり聖王教会はその威厳の維持の為、本局はそのネタを地上本部に与えない為、協力体制をとっても何らおかしくはない。
 これがレティの言う「大人の世界」の事情である。

「でもまあ、成る程。『聖王教会』に仲の良いお友達のいるうちなら頼みやすいっていうわけですな」

「こらこら、あんまり捻くれないで。確かにそれがまったくないとは言わないけど、それ以上にあなたの力を信頼しての依頼なのよ」

 レティに窘められ、はやては小さく舌を出した。

「取り敢えず、詳しい事は無限書庫の司書長、ユーノく……ユーノ・スクライア博士に尋ねてね」

「へ? ユーノくん?」

 思いもしなかったその名前にはやては思わず聞き返した。

「ええ、あなたも確か知り合いだったわよね? そこら辺も総合しての依頼だと思ってくれて構わないわ」

 確かに管理局、聖王教会、そして無限書庫の三方全てに親しい知り合いがいる人間は少ないだろう。自分に任された理由を何となく理解する。

「レティ提督、うちの子達……守護騎士(ヴォルケンリッター)の導入は許可いただけるんですか?」

「現状況ではまだ駄目。秘匿義務は解除されていないの。あまり関係者は増やさない方向でお願い。必要と判断したらその時は別に私からあの子達に命令を出すわ……そうならない事を祈りたいけど」

「あはは……分かりました。八神はやて、この任務を承ります」

 そう言って小さく敬礼をするはやて。それを見たレティの顔は……どことなく、嬉しそうだった。


「さて、と……取り敢えずユーノくんのとこに行こかな?」

 レティ提督の話によればこの事件の現状況で集められている全ての情報はユーノの下にあるという。位置的にも同じ本局内である事だし、初めに顔を出しておいて損はないはずだ。

「それに、なのはちゃんとの仲もちゃんと進展しとるかも気になるしな」

 「面倒見の良い」と「余計なお節介」の境界線をあまり理解していない節のあるはやては、そう呟いてスキップに似た足取りで無限書庫に向かっていた。
 そしてそう浮かれている時に、ちょっとした事故は起こりやすいもので。

「ひゃん!?」

 曲がり角で出会い頭の衝突というあまりにお約束過ぎる展開を繰り広げてしまうはやて。「これでうちがパン咥えとったらもっとおいしかったかなあ」等と彼女らしい思考を巡らせながらも頭を振り脳が揺れた事で朦朧としていた意識をはっきりさせる。
 ぶつかった感触があったのははやての胸から下の部分だった。つまり、相手は自分より身長の低い相手、という事になる。
 こう言っては何だがはやてはまだ十一歳の少女。しかも恥ずかしながらまだ二次成長を迎えたばかりなので身長はあまり高くはない。
 つまり、それ以上に低い、という事は自分より年下である可能性が圧倒的に高いのである。「面倒見の良い」と「余計なお節介」の境界線をあまり理解していない節のあるはやてではあるが、その基本は優しい女の子である。そんな相手を心配しないはずはなかった。
 どうやら相手は予想通り年下……おそらくヴィータと同い年くらいに見られるであろう外見をした、服装からするとどうも男の子のようだった。顔立ちはちょっと弄れば女の子でも通りそうな愛らしい顔立ちだったので「ようだった」なのだが。

「ごめんな、君。大丈夫やった?」

 取り敢えずはやてはそう謝りながら少年と思わしき子を抱き起こす。体も華奢だ。男の子なら将来、誰もが放っておかない罪作りな青年になりそうだった。

「いたた……何? 今の硬いもの……」

 だが、おでこを擦りながら呟かれたその台詞を聞いて、はやての額に小さく血管が浮かんだ。
 今擦っている額の部分がぶつかったのは、間違いなく自分の胸の位置である。そこを「硬いもの」とはっきり言われてしまったのだ。まだその部分が成長する兆しを見せていないだけとはいえ、年頃の女の子としては非常に傷付く台詞である事には間違いなかった。
 しかし年下、しかも間違いなくこちらの前方不注意である。そんな事で怒っていては大人げがない。そう自分に言い聞かせ、気分を落ち着かせる為に二、三度深呼吸をする。

 「大丈夫? ごめんな、お姉ちゃんの前方不注意やったわ」

 にこやかに微笑みながら手を差し出す。声が少々震えているのは見逃して欲しいところだ。
 だが、その少年と思わしき子供は、

「………」

 沈黙したまま、じっとはやての顔を見つめているだけだった。

「ん? どした? お姉ちゃんの顔に何かついとる?」

 怖がらせないよう、猫なで声で尋ねるはやて。するとようやく少年と思わしき子供は言葉を口にした。

「……夜天の主?」

 咄嗟にはやては差し出していた手を引っ込め、警戒心をむき出しにした。

「……あんた、何者や? どうしてその事を知っとる?」

 はやてが「夜天の書」の主である事は位の高い上官か、彼女に親しい人間しか知らないはずの秘匿事項のはずであった。残念ながら目の前の少年と思わしき子供はそのどちらにも当てはまるとは考えられない。

「……すみません、驚かせてしまったようですね。安心して下さい。どちらかというと私はあなたが夜天の主である事を好ましく思っている側の一人ですから」

 そう言って少年と思わしき子供は微笑んだ。可愛らしい笑顔ではあったが、今のはやては素直にそう思えるほど心の余裕はなかった。

「まいったな、これからの事を考えるとあまり警戒しないで欲しいのですが……取り敢えず、これをお返ししておきますね」

「え?」

 そう言って少年と思わしき子供が差し出したものに、はやては驚きを隠せなかった。

「な、何でここに『夜天の書』が!?」

 驚くのも無理はなかった。それは本来、ここではなくはやての家の、彼女の自室にある机の中になければならないもののはずだからだ。
 はやては魔力行使が確定している現場に向かう時以外には、大概「夜天の書」は家に置いてきている。理由はその「夜天の書」の前の姿、「闇の書」があまりに有名な為必要以上に目立ってしまう事と、魔導師としての位置付けが後方支援にあたる為、「夜天の書」がなくとももうひとつのデバイス、騎士杖「シュベルトクロイツ」だけでも戦闘に困る事はそうないからであった。
 なのに、何故か「夜天の書」は今ここにある。目の前にいる少年と思わしき子供……今となっては「子供」と形容していいのか分からなくなったが……その、手の中に。

「そ、それを返すんや!」

「ええ、お返しします、と私は言っていますよ?」

 可笑しそうに微笑む少年と思わしき子供の腕から、はやてはひったくるように「夜天の書」を奪い取った。

「取り敢えず、これからはちゃんと肌身離さず持ち歩く事をお勧めします。『夜天の書』もそれを望んでいますし、予期せずその力が必要になる機会も増えるでしょうから……これからの数時間のように」

「何、やて?」

 だが、少年と思わしき子供ははやてのその問いに答える事なく、踵を返してはやての傍から離れていく。

「ちょ、ちょい待ちや! ……え、っと」

 はやての口籠った声を聞き、少年と思わしき子供は「ああ」と呟きながら首を回し、顔だけをはやてに向けた。

「……ジェノ、とでも呼んで下さい」

「ジェノ?」

 少年と思わしき子供……ジェノは微笑み、再び正面に向き直る。
 だが、歩き出す前に今度ははやてに背を向けたまま、

「あ、あと、私は一応男の子ですよ。性別的には」

 そう一言付け加え、歩いていった。

「ちょ、だからちょい待ちなさいって言っとる……あ、れ?」

 慌てて追いかけるはやてだったが、曲がり角に差し掛かった途端、その姿を見失ってしまった。

「一体、何やったんや?」

 「夜天の書」を胸に抱きかかえながら、そう小さく呟く。
 だが、何故かはやてには、先程の少年……ジェノが敵対する人間だとはどうしても思えないでいた。それも不思議で、はやては本来の目的も忘れてしばらくその場に突っ立っていた。
 だから、気が付かなかった。「夜天の書」が、淡い光を放っていた事に。


 十分後、ようやく本来の目的を思い出したはやては大急ぎで無限書庫に向かった。中でははやての友人であり、同い年にしてこの無限書庫の司書長でもあるユーノ・スクライアが忙しそうに本を持って宙に浮いていた。
 「浮いていた」というのは、この無限書庫という空間の中は無重力に近い状態となっており、中に入ると実際浮遊するような形になるからである。

「ユーノくん、ごめんな、ちょい遅れたわ」

「ああ、はやて。いいよ、ちょうど仕事も一区切り付く頃合いだから、逆にちょうど良かったかも」

 そう言ってユーノは微笑む。幼馴染の中では立場的な違いもあってか彼とは一番親しむ時間が少なかったはやてだったが、それでも彼の人柄は何となく理解できた。何しろその幼馴染の一人の想い人でもあるのだから。
 ……まあ、その幼馴染は現在、ちょっとした事故により療養中であるのだが。

「それじゃあ早速で悪いんやけど、うちが担当する事になった『アトロポス』とやらの資料、見せてもらえるか?」

「うん、わかった。でもちょっと場所を移動しようか? 向こうに普通の重力をした部屋があるから、そこで」

「ん? うちはここでも構わんよ? 何ていうか、楽しいし」

 はやてはそう言って泳ぐように手足を動かし、無限書庫の中を縦横無尽に行き来する。ついこの間、ようやく車椅子から開放され、今は動きたくてしょうがないのだ。
 そんな様子を苦笑しながら見ていたユーノだったが、ふと顔を真っ赤に染め上げた。

「ん? ユーノくんどした?」

 それを不思議に思ったはやてがそう尋ねる。

「……やっぱり、場所を移動しよう。その方がお互い良いと思うよ」

「? どういう事や?」

「……あのさ、はやて、自分の格好、少しは気にするべきだと思うよ」

 ユーノのその言葉に、はやては言われたとおり自分の格好を確認してみる。
 だが、別におかしなところはないはずだ。最近大分暖かくなったので少し薄着になった上着と、下は黒のスカート。別におかしなところは……。

「……っ!?」

 ようやくスカートでユーノの周りを泳ぎ回ったイコール中身を見られた、という結論に至ったはやては、顔を赤くしてスカートを抑えた。

「ユーノくん、えっちやな。なのはちゃんに言いつけたる」

「ちょ、待ってよ! 僕はちゃんと忠告したよね? ていうか、何で言いつける先がなのはなのさ!?」

 しどろもどろになっているユーノを見て、はやては悟られないよう小さく舌を出した。
 見られたのだからこれくらいの仕返しは構わんよな? と心の中で呟きながら。


「……これが、『アトロポス』の力の概要、かな?」

「はあ……何というか、反則チックやな、ホント」

 でたらめすぎるその能力に、はやては呆れと感嘆を混ぜたようなため息を吐く。

「まあ、確かにね。でも、対処法がないわけじゃないのは理解してもらえたよね?」

「ああ、ばっちしや。それじゃあ、うちは一度家に帰るわ。うちの子達に今回の事を説明しときたいし」

「あ、うん、分かった。こっちも進展があったらすぐに伝えるよ」

「おおきに。それじゃあ、またな、ユーノくん」

 無限書庫を後にし、転送装置から自宅のある鳴海市に戻るはやて。
 途中で「翠屋」に寄り、ケーキをいくつか購入するついでにもう一人の幼馴染の想い人……と思われる人物の姿を探すが、どうも今日はお休みのようだった。
 はやてが今「思われる」と曖昧な表現をしたのは、その幼馴染自身がその気持ちをいまだ理解していない為こちらとしても断定が出来ない状況であるからだった。しかしどんな形にしろ好意があるのは確かなので、はやてとしては何とかしてあげたい、というのが本音だ。
 本人が聞いたら確実に「余計なお世話」と言いそうだが。
 そんな事を考えていたら、はやてはいつの間にか自分の家に辿り着いていた。

「おっと、通り過ぎるところやったわ……ただいま~」

「ああ、はやてちゃん、お帰りなさい」

 玄関から元気の良い声で帰宅を伝えると、リビングの方から声が返ってきた。この声と呼び方は間違いなくシャマルである。
 間もなくシャマルが笑顔で足早に玄関の方へとやってくる。はやては彼女に手に持っていた「翠屋」の紙バッグを手渡し、靴を脱ぐ。その様子を見てシャマルは「あっ」と小さく声を上げた。

「ん? どないしたんやシャマル?」

「あ、いえ……もうはやてちゃんはちゃんと一人で歩けるようになったんだというのを忘れてしまっていたので」

 そう言ってシャマルは小さく舌を出した。おそらく大急ぎでやってきたのもはやてに手を貸すつもりだったのだろう。

「あはは、まあシャマルにはお風呂とかよくお世話になっとったしな。その気持ち分からんでもないわ」

 笑いながらそう答え、はやてはリビングに移動し一度周囲を見渡す。

「なんや、今日は他のみんなはおらんのやな」

「ええ、他のみんなはお仕事中です。あ、でもヴィータちゃんはなのはちゃんのお見舞いに行きましたけど。はやてちゃん、何か飲みますか?」

「あ、しまった。うちもさっきまで本局にいたんやからなのはちゃんのお見舞いしておけばよかったわ……それじゃあ後でうちの部屋にホットミルク持ってきてもらえるか? あ、あとちょっとうちが新しく請け負ったお仕事で話しておきたい事があるから、みんなが戻ってきたら教えてな」

 シャマルが頷いたのを確認するとはやてはそのまま自分の部屋へと向かった。
 そして部屋に入った途端、はやては大きなため息を吐いてベッドに飛び込む。スプリングで弾む感触に身を委ねながら、一番に思い出すのは仕事の事ではなく今日あった不思議な少年の事であった。

「ジェノくん、か……」

 何故かは知らないが、異様なまでにはやてはあの少年の事が気になっていた。「夜天の書」を持っていた事やその口から紡がれた予言じみた言葉もそうだが、何より気になったのは少年の雰囲気だった。
 まだ年端もいかない、自分よりも年下にしか見えない外見をしているのに、その落ち着いた言動、態度、どう見ても歳相応には思えなかった。それに、何故か彼の醸し出す雰囲気をどこかで感じたような気がするのだ。
 ユーノではなかった。クロノに近いような気もするが何だか違う。一体……。

「あっ……」

 ようやく記憶と一致した。さっき「翠屋」でその姿を探した相手……倉瀬、聖。彼に雰囲気がそっくりなのだ。

「……いや、でもそれだけやん」

 確かに雰囲気は似ている。そしてシグナムやシャマルといった「姉」のような存在やヴィータのような「妹」のような存在は近くにいるが、聖のような「兄」という存在ははやての近くにはいないので、ほんの少しではあるが憧れも抱いている。

「ザフィーラは『兄』とはちょっと違うしなあ」

 だが、それだけだった。幼馴染の一人とは違ってはやてはきっちりとそこで割り切っている。
 それに、聖に対して抱いているのはあくまで「兄」としての感情だ。あの少年はどうみても年上には見えない。ミッドチルダでは落ち着いた様子を醸し出している少年少女は珍しくないし、若返りや不老といった類の薬も魔法も存在しない。実年齢より若く見える人間は確かにいるが、あの少年の場合はそれ以前の問題になるだろう。

「んー……やっぱり外見的にはそこまで気になるような子じゃないと思うんやけどなあ。なのに何で『夜天の書』を持っていた事よりそっちの方が気になるん……や?」

 鞄にこそ入れていたが、管理局からずっと肌身離さず持っていた「夜天の書」を取り出し、目の前に持ってくる。
 夕方を迎えたのに電灯を点けていなかった為部屋が多少薄暗くなっていたからか、そこでようやくはやては気が付いた。
 「夜天の書」が、淡い光を放っている事に。

「え? あ、な、何でや!?」

 はやては慌てて起き上がり、「夜天の書」のページを捲る。
 この「夜天の書」は、かつての「闇の書」が消滅した際はやてが、魔力は多少残っていたがただの一冊の本になっていたそれに自分の魔力を送り新たに形成したものである。その為、そのページはまだほとんど白紙で、これからはやてと一緒に色々な事を記録していくはずのものだった。
 だが、その白紙のはずの一ページに、突然文字が浮かび上がっていたのだ。はやても読む事が出来る、日本語で。

――黄金(おうごん)の弐尾(にお)を持つ少女、己(おの)が大切な者の為に戦に身を投ず。それは、消失の宴。それは、絶望の始まり。止めよ、強き野生を秘めし彼(か)の女(め)と、大いなる闇の力で。

「これは……予言か?」

 浮かび上がったその文字の意味を解読しようと自分の持つ知識をフル動員しようとした矢先、はやては強力な魔力を感じ、思わず身震いをする。

「これは!?」

 はやては立ち上がり、大急ぎでリビングに向かう。

「あ、はやてちゃん!?」

 シャマルもこの巨大な魔力を感じたのだろう。手にはやてのマグカップを乗せたお盆を持ったまま、怯えた表情でやってきた彼女を見つめていた。

「シャマル、ここで待機しとき。うちはこの魔力のところに行ってみる」

「そんな、一人じゃ危ないです!」

「あはは、大丈夫や。危なそうやったらすぐに撤退するからな。シャマルはみんなが帰ってきたら現状報告してこの魔力のところに来るよう伝えといてや」

「は、はい……はやてちゃん、気をつけて!」

 シャマルは反論する事なく、素直にはやての命に従う。
 はやてが主だからではない。彼女自身、身に染みて分かっているのだ。癒しと補助しか能がない自分だけ付いていっても、未知のものを相手にする時は逆に足手まといになりかねない事を。
 だからこそ下唇がうっ血しそうなほど噛み締めていても、シャマルははやての命に従ったのだ。
 はやてはそんなシャマルを一瞬すまなそうに見つめた後、バリアジャケットを身に纏って暗くなり始めた大空へと舞う。

「あ、はやて!?」

「へ? アルフか?」

 その途中、幼馴染の一人の使い魔、アルフと遭遇した。

「どないしたんや? 今はフェイトちゃんの魔力消耗を抑える為に魔力行使は極力避けるようにしとるんやなかったん?」

「それどころじゃないんだよ! あの魔力の先にフェイトがいるみたいなんだ……恐らく、聖のお兄さんも一緒に……」

「何やて!?」

 アルフのその言葉に、はやての頭に先程「夜天の書」に浮かんだ文字が走る。
 金の弐尾を持つ少女がフェイトの事だとしたら。強き野生を秘めし彼の女が、アルフの事なら。消失の宴が、消失の剣(アトロポス)の事だとしたら……。

「っ! あかん、アルフ、急ぐで! 二人が危ない!」

 はやてはそう叫ぶや否や、全速力で魔力反応の元へと向かった。


 この時、はやてはまだ気が付いていなかった。
 この事件に、はやてはまだ片足すらいない事に。

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 A→Sシリーズ第三部、はやて編UPいたしました。フェイト編の裏話的な内容ですので先にフェイト編を読む事をお勧めしますw
 そして新オリキャラ4、ジェノ。まあ言うまでもなくA→Sシリーズの重要キャラですw その事については次回以降でw
 では佳境に入り始めたなのはA→S、もう少しお付き合いくださいw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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