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魔法少女リリカルなのはA→S 第十四話 ~Side HAYATE Ⅱ~

 寸前のところでフェイト達を助け出す事に成功し、また彼女が気に病んでいた自分の「魔導師」としての部分を聖に認めてもらえるという嬉しい誤算も起こり、はやてはそっと胸を撫で下ろした。
 その後はやては聖が腕を振るった料理をご馳走になった後、きっとまだ話し足りないであろうフェイトを彼の警護も兼ねて残し、一度本局に戻る事にした。
 レティ提督に先程の事件をまとめておいた報告書と守護騎士(ヴォルケンリッター)投入の要請書を提出し、その足で無限書庫の方へと向かう。

「ひゃん!?」

「きゃっ!?」

 そして中に入ろうとした途端、また誰かとぶつかった。声からして今度は女の子のようだった。

「あたた、今日はよう人とぶつかる日やな……ごめんな、大丈夫か?」

「あ、いえ、大丈夫です。すみません、急いでいるのでこれで」

 そう一言呟いてから、大急ぎで駆け出していく少女。同い年くらいで長い金色の髪をなびかせる姿は、フェイトやアリサを想像させた。

「一体誰やろう?」

 もちろん二人とも当てはまらないだろう。フェイトは今聖と一緒にいるはずだし、アリサに至っては魔導師ですらないのでここにいるはずがない。
 しかし、別にこの「無限書庫」に誰かが訪ねてくる事など珍しくもないので、はやては深く考える事なく中に入り管理者の姿を探す。

「あ、いたいた。ユーノくん、何か進展あった?」

「……ん? はやて?」

「ああ、そうやけど……ユーノくん、どうかしたん?」

 数時間前までは普通だったのに、何故かはやてには今のユーノがものすごく落ち込んでいるように思えて仕方がなかった。

「いや、何でもないよ……それよりも、ごめんね、ちょっと色々あってまだ進展はないんだ」

「あ、そ、そうなんや……」

 何故か分からないが、今のユーノにはどうも話しかけにくい。取り敢えず先程の事件の報告は後回しにした方がよさそうだった。何となく、今話しても上の空にされてしまいそうだったからだ。
 一度戻ってフェイトを連れて来よう、そう伝えようとユーノに声を掛けようとしたその時、再び「夜天の書」が淡い光を放ち始める。はやてはそっとユーノの傍から離れその中身を確認した。

――歩を進めし知識の書、求めたくば……。

 歩を進めし知識……おそらく、レイリアに逃げられた事によってこう着状態となった現状を打破できる本か何かが、この無限書庫の中にやはり存在するのだ。はやては急いでその先を読み進める。そして、

「……はあ?」

 思わず声を上げた。その方法というのが……何というか、とてつもなく変だったのだ。
 しかしそれ以外に頼る筋もないので、渋々書かれてある事を実行に移す。

「えっと、まず北西の方向に突き当たるまで進み、そこから本棚三つ分移動してから背を向けて……」

 そこまで読んだ後、はやては「夜天の書」を閉じると左脇に抱え、右手を掲げた。そしてそれを……、

「なんでやねーん!」

 と小さく叫びながら思いっきり逆手で本棚へとぶつける。俗に言う「ツッコミ」であった。
 するとそれに反応したかのように本棚から一冊の本が飛び出し、はやての前に落ちてきた。表紙を見ると「聖王教会の神具について」と書かれている。それを見て一番驚いたのは無論はやて本人だった。

「……ホントに出てきたし」

 頭を抱えながらもそれをユーノの元へ持っていく。予想通りユーノは驚きと感嘆の入り混じったような声を上げた。

「すごいよはやて、よく見つけられたね」

 もちろんこれが褒め言葉であるというのは理解しているが、どうもはやては素直に喜ぶ事が出来なかった。それよりもどうやって見つけたか、と問われたらどうしようという事で頭が一杯だったりする。まさか「本棚に裏手でツッコミ入れたらぽーん、と出てきました♪」とか言えるはずもない。
「ぐ、偶然取った本がそれやったんよ、いやあ、うち運がええわ~」
 としか言えないはやてだった。そんな様子をユーノは少々訝しげに見ていたが、すぐに気を取り直したようだ。

「僕はこれの解析を進めてみる。少し待っていてくれないかな?」

 どうやらお仕事モードに入ったようだ。これなら先程の事件の事を話してもスルーされる事はないだろう。
 だが時間もかなり経った事だし、はやては一度フェイトを連れてきてからその話を行う事を提案する。

「ユーノくん、うちちょっとフェイトちゃん連れてくるわ。彼女もどうやら巻き込まれとるみたいやしな」

「え? ……うん、分かった。それじゃあそれまでに出来るところまでまとめとくよ」

「オーケー。それじゃあ頼んだで」

 ユーノに見送られながら無限書庫を飛び出るはやて。
 そして勢いよく外に出た途端、その勢いは瞬時に相殺された。ほぼ同時に扉がしまった為、恐らくユーノには今のはやての様子は見えなかっただろう。その証拠にユーノは外に出てこない。見えていたのなら今のはやての姿を多少なりとも不審に思うはずだ。
 それが幸か不幸か、分からなかったが。

「ジェノ、くん?」

「……こんにちは、はやて、さん」

 はやての前には、先程の少年が微笑みながらそこに立っていた。多少警戒の色を濃くする。

「うーん……警戒する気持ちは分かりますが、さすがにちょっと傷付きますね」

「……それに関してはしょうがないと思うで。うちにそういう行動をさせるような事をしたのはそっちやしな」

 苦笑を浮かべるジェノにはやては冗談交じりにそう返し、警戒を少しだけ緩くした。

「それにしても……あんたは一体何者なんや? それと目的は? うちらと敵対するつもりはないみたいなのは分かったけど」

 その言葉にジェノは少しだけ考えるそぶりを見せる。

「……私が何者か、は今のところはまだ伏せておきます。おそらく信じてはもらえないでしょうし。近いうちに理解出来るだけの知識をはやてさんは入手するはずなので、それに関してはその時にでも。もうひとつ、目的ですが……それは、神具『アトロポス』の……そうですね、『処理』というのが一番しっくりくる言葉かもしれません」

「……成る程、あの『消失の剣』の関係者……もしかして、聖王教会の人間か?」

 今回の事件は秘匿義務が掛かっている。それを知り得るのはこの事件に関わっている人物のみ……つまり、レティに近しい魔導師か、聖王教会の関係者、そのどちらかしか考えられないのだ。
 はやてがジェノを「聖王教会」の関係者だと睨んだのは、自分もレティ直属の部下でありながら彼の顔を見た事がないという事、それと彼から感じる……魔導師にしてはあまりに小さすぎる、その魔力の大きさであった。
 「蒐集行使」と呼ばれる稀少能力(レアスキル)を保有するはやてはその能力の一旦か、相手の魔力の大きさを大雑把ではあるが感じ取る事が出来る。そしてその大雑把な感覚が感じ取った目の前の少年の魔力は、一般人とそう変わらない大きさでしかなかったのだ。魔力の大きさが全てではないし、それだけで決めるのはどうかと思うが、事件の規模を考えるとその程度の魔力しかない者にレティが秘匿義務のある仕事を任せるとは思えなかった。

「うーん……まあ、関係者といえば、関係者にはなりますね」

 だが、返ってきた答えははっきりとしないものだった。

「なんや、はっきりせんなあ」

「すみません。でも……これだけははっきり言っておきます。はやてさん、今回の事件に関係している間は、私は味方ですよ」

 そう言ってジェノは微笑む。それは確かに柔らかい笑みではあった。しかし……、

「うーん……敵対心はないって言うのは理解したけど、何と言うか……子供らしくないなあ」

 それにその言葉遣いも交わり、どうも外見とのギャップがはやてはどうしても拭えなかった。

「そう言われましてもこれが私ですし……」

 ジェノはというと苦笑を浮かべていた。まあ、そうするしかないだろうが。だが、そんなジェノを見ていたはやては、ちょっとした悪戯心が浮かんだ。

「よし。なあジェノくん、うちの事『はやてお姉ちゃん』って呼んでみ?」

「……はい?」

 あまりに唐突な言葉に、さすがにジェノもその表情を呆けたようなものへと変化させる。

「いやな、うち、そう呼ばれるのにちょっと憧れとるんよ。うちにも家族はいるし年下っぽい子もおるにはおるんやけど、その子は『お姉ちゃん』なんて恥ずかしがって呼んでくれんから」

「……鉄槌の騎士、ヴィータの事ですか?」

「あれ、知っとるんや? まあ今更不思議でもないけどな。でな、ジェノくんは見た目年下やし、そう呼んでくれたらうちもちょっとはジェノくんの見方変わるかもしれんし、な?」

「……すみません、言っている事に理解が追いつかないのですが」

 そう言って頭を抱えるジェノ。はやてのペースに巻き込まれ始めている事にまだ気が付いていないようだ。

「まあ深く考えん方がええで。とりあえず、うちをそう呼んでくれればいいだけやから」

「………」

 その期待に満ちた視線でじっと見つめられていたジェノは、諦めにも似たため息を吐いた。そして、一度小さな咳払いをおこなってから、

「……はやて、お姉ちゃん?」

 と、普段の澄ましたような笑顔ではなく、戸惑い気味の、少しおずおずといった感じで呟く。その言葉に、はやては思わず胸がときめいた。

(ちょっとした悪戯のつもりやったのに……あかん、ちょっと癖になりそうや)

 こういった普段は何でも自分でこなしてしまいそうな子に頼られるようにそう呼ばれる。それは今まで感じた事のないちょっとした優越感と、守ってあげたくなる保護欲をはやてに与えた。成る程、これは結構気持ちの良いものだ。しかしここまで「お姉ちゃん」という響きに魅力があるとは想定外だった。何となく、フェイトに対する聖の気持ちが理解出来たような気がする。

「……あの、大丈夫ですか?」

 少し遠い世界に行っていた意識が、ジェノのその一言で急速にこの場へと帰ってくる。

「おおぅ、いかん。ちょっといけない世界にトリップしそうになったわ」

 そう言って何故か口元を拭ってしまうはやてだった。

「……ありがとう、ちょっと良い夢を見させてもらったわ」

「は、はあ……」

 肩を両手で掴まれそう力説されては、もう曖昧な答えを返すしかないようである。

「さて、お遊びはここまでにしといて……うちはこれから今回の事件に関わってしまったお友達を連れてくる予定や……これも、ジェノくんは知っとったかな?」

「……ええ、大体は。はやてさん、貴女に……」

 だが、そう言いかけた途端、はやては不満そうな顔でジェノを睨んだ。最初はその理由が分からず少々困惑気味だったが少し考えるそぶりを見せた後、その部分に心当たりが見つかったようだ。ジェノは再び咳払いをしてからはやてに声を掛け直す。

「……はやて『お姉ちゃん』?」

「何や~?」

 途端に嬉しそうな声で反応を示すはやてに、ジェノはもう苦笑しか浮かばないようだった。

「出来れば、今から医務局のある区画に行ってもらえませんか?」

「医務局? ……あっ」

 その単語だけで、ジェノの導こうとしている意味がすぐに分かった。

「なのはちゃん、か?」

「……医務局の屋上です。早くしないと、風邪をひいてしまうかもしれませんよ? あそこは人工ですが風が吹いてますので」

「へっ? 屋上?」

 何故そんなところに、今は車椅子でしか自由に動けないなのはがいるというのだろうか。だがその質問を口にする前に、ジェノはすでに踵を返しはやての前から立ち去っていた。

「ちょ、ジェノくん!?」

「……数時間後、また会う事になると思います。でも、その時は、私である事に気が付かないかもしれませんけどね」

「……どういう意味や?」

「そのままの意味です。それと、もうひとつだけ……『彼女』を、支えてあげて下さい。今、それが出来るのは、貴女しかいませんから」

「なのはちゃんの事か?」

 ジェノはその問いに言葉ではなく笑顔で答えて、通路を曲がってはやての視界から消えた。追いかけようとしたが、すぐに止めた。きっと、無駄だろうから。
 はやては小さくため息を吐くと、ケータイを取り出し時間を確認する。一時間くらいなら時間は取れそうだ、という結論に達したはやては医務局のある区画へと駆け出していた。


 医務局の入り口についた瞬間、はやては見知った後姿を発見し、声を掛けた。

「ヴィータ? こんなところでどないしたん?」

「あ、はやて?」

 管理局の制服に身を包んだ、はやての大事な家族にして彼女を守る守護騎士(ヴォルケンリッター)の一人、鉄槌の騎士ヴィータははやての声に答えると真っ直ぐに向かってきた。

「なあはやて、なのは、知らない?」

「なのはちゃん?」

「病室にいないんだよ! あいつ、まだ車椅子がないと自由に動けないはずなのに。一人で変なところに行ったら……」

 心配そうな表情で、叫ぶように言い放つ。ここ最近のヴィータはなのはが関係する事柄に少々過敏に反応していた。
 無理もない。なのはが現在の状態になる事故に、ヴィータは同行していたのだ。そして、普段のなのはならば簡単にこなしていたであろう仕事で大怪我を負ってしまうほど疲労していた事に気がつかず、またその原因を排除する事がやっとだった自分に対する惨めさ、そして目の前で彼女が傷付き倒れ、それを何も出来ずに見ている事しか出来なかった事をずっと後悔していた。
 それが原因かどうかは定かではないが、ヴィータはよくなのはの見舞いに訪れていた。きっと彼女の病室でぶっきらぼうにしているだけだろうが。
 だが、いざこういった状況になると真っ先に心配をし、率先して行動を起こす。自分がそうなった時もきっと今のような行動を取ってくれると分かっていながらも……不謹慎なのは重々承知していたが、はやてはなのはが少しだけ羨ましかった。

「ヴィータ、落ち着くんや。なのはちゃんの事やから絶対大丈夫やて。うちも探すの手伝うたるから、な?」

「う、うん……」

 ようやく少しだけ落ち着きを取り戻すヴィータ。そんなヴィータの頭を優しく撫でながら、はやてはなのはの行きそうな場所を考える。

(普通に考えればおトイレとかやろうけど……)

 だが、恐らく違う。先程のジェノの言葉を聞いていれば、それは更に濃厚になる。

「……屋上」

「え?」

「ヴィータ、屋上には行ったか?」

「う、ううん。車椅子で階段を上るのは無理だって思ったから」

「よし、取り敢えず行ってみるで」

「あ、はやて、ちょっと待って」

 走り出すはやてとそれを慌てて追いかけるヴィータ。あっという間に屋上へと続く扉の前に着き、勢いよく開け放つ。

「……へくちっ!」

 それとほぼ同時に響く、可愛らしいくしゃみ。主はもちろん、なのはだった。

「ホントにいた……はやて凄い、よく分かったな?」

「……まあ、何となく、な」

 尊敬にも似たヴィータの視線に、はやては苦笑を浮かべてそう返すしかなかった。

「ん? あれ? はやてちゃんと、ヴィータちゃん?」

 あちらもこっちに気が付いたようだ。不思議そうな視線をこちらに向けている。それに対してはやては手を振って答えたが、ヴィータはというと肩を怒らせながら大股で近付き、

「あれ? じゃねーだろ! まだろくに歩けもしないくせにこんなとこに出てんじゃねーよ、このタコッ!」

 その耳元で大きな声で怒鳴った。

「み、耳がぐわんぐわんする……」

「自業自得だ、ボケッ!」

 そう言ってそっぽを向くヴィータ。だが、一瞬だけ心底ほっとしたような顔になったのを、はやては見逃さなかった。


「はい、なのはちゃん。あんなとこおって体冷えたやろ?」

 その後怒り心頭(を装っていた)ヴィータを宥め、二人でなのはを病室まで運んだ。ヴィータはまだ仕事の途中だったらしく、その後すぐに現場に戻っていった。はやてはそれを見送った後自動販売機で暖かい飲み物を二本購入し、その一本をなのはに手渡しながら近くにあった椅子に腰を下ろした。

「あ、ありがとうはやてちゃん。ちょうど暖かいもの欲しかったんだ」

 笑顔を浮かべながらそれを受け取るなのは。実際のところ管理局内部は常に適温に保たれている為、「寒い」とか「暑い」とか感じる事はないのだが。

「それにしても、私が屋上にいるって本当によく分かったよね? 見回りの看護士さんが来るまであのままでいる覚悟もしていたから助かっちゃった」

「あ、あはは、まあな」

 説明しづらいのであまりそこら辺に触れられたくなかったはやては、話題を変える事にした。

「それよりも、なのはちゃんこそなんであんなところにおったんや?」

「え? え、っと……その……」

 あまり深く考えずにした質問だったが、どうも地雷だったようだ。飲み物の入った缶を両手で包むように握り締めたまま、なのはは沈黙をする。その表情は、いつもの……こんな状態になっても、他の人には笑顔を振りまいていたなのはには珍しく……沈んでいた。
 その様子を見ていたはやては、そういえばユーノの様子もおかしかったな、と心の中で呟く。きっと、何か関係しているのだろう。根拠はないがそう感じた。

「……ねえ、はやてちゃん」

「ん? どないした?」

「はやてちゃんはさ、本気で、誰かを好きになった事ってある?」

「ぶっ!? えほっ、えほっ……」

 唐突でとんでもない内容にはやては飲んでいた缶の紅茶を気管に詰まらせ、思いっきり咳き込んでしまう。

「は、はやてちゃん大丈夫?」

「そ、そう思うんやったら飲み物の飲んどる時にそないな質問せんといてるれるかな?」

 目に涙を浮かべながら抗議をする。

「ご、ごめん……」

「まあ、ええけどな……ユーノくんと、何かあったん?」

「ぶっ!? えほっ、えほっ……」

 今度はなのはが咳き込んだ。

「な、何で?」

 恐らく「何で分かったの?」と言いたいのだろう。

「いや、分からん方が分からんのやけど……」

 ここに来る前にユーノの様子を見ていた、と言う事を除いてもなのはが落ち込みそうな事は親しい人間ならば大概予想がつく。はやては何を今更、と言った顔で大きなため息を吐いてみせると、なのはは軽く頬を染めて小さな声で呟いた。

「うん、ちょっとね……それだけじゃ、ないけど」

「……?」

 その言葉からすると、おそらく他にも何かあったのだろう。だが、それを尋ねるような事はしなかった。誰にだって隠しておきたい事の一つや二つはある。いつも正直で、そして真っ直ぐに突き進むなのはにだって、きっと。

「……何があったのかうちには分からんし、かと言って無理に聞くつもりはない」

「……うん」

「けどな、確認いておきたい事はあるよ……後悔、しとる?」

「……半分はそう、かな」

「……そっか」

 なのはの答えに、ただ一言呟いて話はこれで終わりと言わんばかりに微笑むはやて。「面倒見の良い」と「余計なお節介」の境界線をあまり理解していない節のあるはやてではあったが、決して空気が読めないわけではない。それになのはは、必要とあればちゃんと自分の口から伝えてくれる子だ。それを口にしないと言う事は、その必要がないか、まだ伝える事が出来ない内容なのだろう。
 だからはやては何も言わず、もくもくと飲み物の缶の中身を開ける事にする。なのはもそれに習うように缶を傾けていた。

「……さっきの質問の、答えやけどな」

「え?」

 そしてお互い中身がほとんどなくなった頃、唐突にはやてが口を開いた。

「悲しい事やけど、うちにはまだそういうお相手に出会った事ないわ。だから……なのはちゃん達が、ちょっと羨ましい」

 その人の為に、「いつも元気」が取り柄のはずの子がここまで落ち込んでしまうなのはの事が。
 その人の為に、悩み、葛藤し、そしてそれでも命を掛けて戦う事が出来てしまうフェイトの事が。

「はやてちゃん……」

「……うち、そろそろ戻るわ。ちょっとやっかいな事件を任されとるしな」

 近くにあったゴミ箱に空になった缶をいれ、椅子から腰を浮かした。そして小さく伸びをした後、一度なのはに笑い掛けてから出入り口へと向かう。

「……はやてちゃん!」

 だが、なのははそれを叫ぶような声で遮る。

「もうひとつだけ、質問。はやてちゃんは、優先順位をつけられないくらい大切な二つのもの、選択しなければいけないとしたら、どうする?」

「え……?」

 それは予期していなかった質問だった。思わず足を止め、なのはを見つめる。
 だが、その質問に対して悩むような事はなかった。決まっていた……決めていたからだ。
 二年前のあのクリスマスの日。自分の存在と、守護騎士(ヴォルケンリッター)が犯した罪を背負い、償っていくと決めた、その為の力を手に入れたあの時から。

「……選ばんよ、うちは」

「え?」

「そんな究極の選択とか、うちは選ばん。天秤に掛ける気すら、ないわ」

「……それじゃあ、どうするの?」

 なのはの言葉に、はやては満面の笑みを浮かべて答えた。

「決まっとる……探すんや」

「探す?」

「そんな究極の選択を、身をすり減らしてでも『選ぶ』んやない。ふたつとも残せる方法を、命削ってでも『探す』んや。みんなからそんな方法はないと言われても、嘲笑されても、うちは絶対に見つけてみせる。それが自分の時は間に合わなかった場合でも、いつか、同じ境遇に立たされた人の道標になると信じて、な」

「――!」

「あはは、ちょっと格好つけすぎたかな?」

 少々照れ臭くなったはやては、頬を染めながら苦笑を浮かべる。

「……ううん、そんな事ないと思うよ。とても、すごいと思う。だって……きっと私には無理だから」

「え?」

 どんどん声が小さくなっていった為最後の方が聞き取れなかった。だが、なのはははやてに小さく微笑みかけるだけで、もう一度言おうとはしなかった。

「ほら、早く行かないと駄目だよ。元気になったはやてちゃんには、私の分まで頑張ってもらわないと、ね」

 代わりに、笑顔ではやてへの激励を口にして。


「こんにちはー……もう夕方に近いからこんばんはーの方がええかな?」

「確かにこういった微妙な時間って挨拶に困るよね」

 管理局から戻って来るなりどうでもいい疑問を口にするはやてに、出迎えた聖が苦笑を浮かべながらもきちんと答えた。

「あはは、確かにそうですわ……フェイトちゃんと、お話できました?」

「うん。魔法の事とか、時空管理局っていうのとかを大雑把にだけどね」

 そう言う聖の顔は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。その事にはやては少しだけ安堵をする。
 魔法知識をまったく持たないこの世界の出身者でありながらも、なのは達と同じくらいの親友に位置付けているアリサやすずか、なのはの両親と兄姉……みんな自分達の事や魔法文明の事を知っても変わらずに接してくれた、大切で、そして……希少な人達だった。
 普通、常識として備え付けられていない知識や現象を人は認めようとせず、そして排除しようと考える。現にはやても「夜天の書」の前身である「闇の書」が覚醒し、守護騎士(ヴォルケンリッター)が初めて姿を現した時はそのまま気絶してしまった。その後特に抵抗なく受け入れられたのは、きっと自分が同じような存在だったからだろう。だからみんなが自分達を認めてくれたのは、「家族」であり、「親友」だったからなのだと思っていた。
 しかし、今眼前にいる青年……聖は違う。この世界の一般人であり、「家族」や「親友」に近い存在ではあったが、断言は出来ないくらいには「他人」であった。
 だから、こうやって聖が前と変わらずに接してくれる事は、「奇跡」に近い事なのだ。そして、そういう風に彼が接してくれる最大の理由は……、

「はやて、帰ってたんだ?」

 間違いなく、彼女の……フェイトの存在のお陰だろう。

(自分の力の事をずっと言おうかどうか悩みながらも、一生懸命聖さんと触れ合おうとしとったもんな……)

 噂に聞いたくらいなのだが、フェイトと聖は少々特殊な出会いをしたとの事だった。きっとそれが、フェイトを突き動かす原動力となっていたのだろう。

「……はやて? どうかした?」

 何も言わずにじっと自分の事を見つめるはやてに、フェイトは怪訝な顔をしながらそう尋ねてくる。

「ううん、何でもない。それよりそろそろ行こか? あんまり待たせるのもユーノくんに悪いしな」

 最後の方は聖には聞こえないよう小さな声で囁いた。一応魔法に関する基礎知識のない世界で第三者に魔法文明に関する情報を流すのは違反行為だ。もちろん例外もあるが、今回の事がその例外に当てはまるかはまだ定かではない。完全にばれてしまっているはやてはフェイトの事はともかく、その他の人物に関してはまだ言わない方が良いだろう……それが一度管理局に戻る前にフェイトと話し合っていた内容であった。

「……うん、そうだね」

「……?」

 答えるフェイトの顔が少々曇ったような気がし、はやての頭に疑問符が浮かぶ。だが、奥から聞こえる自分を呼ぶシャマルの声に反応したはやては、フェイトに「準備しといてな」と伝えるとリビングの方に向かった。

「シャマル、どうかしたんか?」

「いいえ、その……少々気になる事がありまして」

「気になる事?」

 シャマルは小さく頷いた。

「ここだけの話なんですが……実は彼……倉瀬聖さんの事なんですけど……ちょっと、おかしいです」

「おかしいって? うちには普通の人に見えるけど?」

「いえ、そういう意味ではなくて。先程まではやてちゃんに頼まれた通り彼の治療をしていたんですが……効きにくいんですよ、治癒魔法が」

「効きにくい? どういう事や?」

 はやてはそう聞き返すが、シャマルは首を横に振るだけだった。

「分かりません。でも、まったく効かなかったというわけではなかったので治療は出来ました。負傷した腕も二、三日もすれば完全に元に戻ると思いますよ」

「……そっか。ならよしとしよう」

 確かに気になる内容ではあったが、そういった体質があっても別段不思議な事ではない。現にこの魔法文明のまったくない世界出身である自分だって「蒐集行使」という稀少能力(レアスキル)を所持しているし、他にそういう特別な力を有している人間が相手もおかしくはないだろう。もしかしたら自分やなのはと同じように魔法の才能もあるかもしれない。

(……って、それはないか。そんなんあったらうちが気付いとるやろうし。でもそうやったらきっとフェイトちゃんは諸手をあげて大喜びやったやろうなあ)

 そんな想像をして小さく噴き出してから、はやては玄関に戻った。いつの間にかアルフもそこに来ていたようで、フェイトに頭を撫でられていた。
 フェイトははやての姿を確認すると、その撫でていた手を離し、

「アルフ、お兄さんの護衛、お願いね」

 そう、小さな声で「命令」……いや、「お願い」をした。

「任せときなよ、フェイト。そっちも気をつけて」

「ごめんなさい、はやてちゃん。私もご一緒したいのだけど……」

 守護騎士(ヴォルケンリッター)投入の要請はしておいたが、まだ正式な通達は来ていない。だから今回もシャマルはお留守番だ。

「ええよ、みんなはみんなで別の任務負ってるわけやしな。フェイトちゃんの協力も得られたし、何とかなるって」

 そっとフェイトを盗み見ると、彼女は聖に視線を向けていた。その視線に気が付いた聖は笑顔を浮かべて、

「いってらっしゃい」

 とただ一言、それだけを告げた。

「……はいっ!」

 だが、フェイトは嬉しそうに笑顔で答える。

(うちが守ったらな。この、フェイトちゃんの笑顔を)

 「アトロポス」の馬鹿げている能力は知っている。さっきシャマルにはああ言ったが、現在の戦力では心ともないのは明白だった。
 だけど、無論退くわけにはいかない。そしてこの戦力差を埋める為に、まずは知識が必要だ。

(あの本がどれだけの力になってくれるか……それが、勝負やな。大丈夫、断片的に聞いただけやけど、あの『力』は性質上次の襲撃までには時間があるらしい。まだ、何とかするチャンスはあるはずや)

 ……だが、その考え自体が甘かった事を、はやてはすぐに思い知らされる事になる。

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 どうもですw A→Sの第十四話、UPさせていただきましたw 前回は端午の節句という事もあり特別SSを掲載したので、A→Sシリーズは久しぶりの更新ですw
 今回はA→Sの中でもフェイト編の最初の方と同じくらい、ほのぼのとした話になっていますw まあ、こういう息抜き的な内容も必要ですよねww
 そんな中、更に意味深な行動を取るオリキャラ、ジェノ。勘のいい人はそろそろ彼の正体に気が付いているかもですww それと冒頭の金髪の少女も既に他のところで出ていますよww

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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