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魔法少女リリカルなのはA→S 第十五話 ~Side HAYATE Ⅲ~

――その昔、世界を創世せし神がいた。創世の神はひとつの杖を用い、踏みしめる大地を、潤す水を、力となる炎を、安らぎを運ぶ風を、青い空を、美しい星を、流れる時を、そして、命を創造した。だが、同時に創世の神は恐れた。自らの創造した命が、遥か未来に他の創造したものを奪う姿を『観て』しまったから。だから創世の神は、『破滅』を創造し、それを親愛なる神に授けた。『もし、私の創造した命が他の創造を奪う事になったら、それは止めなければならない事だ。しかし、私には自分が創造したものを消す事など、出来ようはずがない。だから願う。その時が来たら、その『破滅』の力を持って命の行う略奪を、止めて欲しい』と残して。創世の神の親愛なる神はそれを快く承諾し、『破滅の神』という汚名を喜んで受け入れた。

聖典『創世神話』 第八章二十六節『破滅の創造』より抜粋


「取り敢えずレティ提督に提出予定だったこの『アトロポス』の資料、どないしたらいいと思う?」

 フェイトを見送り自分も出撃の準備を整えつつ、はやては資料の整理を行っていたユーノにそう問いかける。

「多分、放っておいても大丈夫だと思うよ。レティ提督に提出する必要はなくなったわけだし、それにこれは想像だけど……『アトロポス』は最終的には存在自体を否定される「有り得ない」ものになると思う。それに関する資料も『有り得ない』ものとなり……どういう風な形で、なのかは分からないけど、データ関係は消滅し、本といった紙の資料は存在が消えるか、ただの白紙になるんじゃないかな?」

「……ったく、こんだけ騒動起こしといてそれはないやろ。まあ、その騒動自体『なかった事』になるんやろうけどな」

 思わず舌打ちをしてしまうはやて。そんな様子をユーノは苦笑を浮かべながら見つめていた。

「……よし、管理外世界での魔法使用許可と現場付近の転送座標入力終了。うまくいけば殆ど時間差なくフェイトちゃんと合流できるはずや」

 時空管理局は決してお役所ではないが、それでも「魔法」という強力な力の大多数を所持している機関である。行動に様々な制限が掛けられていても不思議ではない。
 例えば、魔法文明のない世界での「非常識」に当たるであろう魔法の行使、例えば、好きな世界、好きな場所に瞬時に移動できる「次元転送システム」の座標改変。無論例外もあるが、これらを無断で実行すれば処罰の対象になる。
 だからフェイトは第九十七管理外世界「地球」の、基本設定されている座標へと飛び、そこから現場である太平洋海上へと飛んでいる。「嘱託魔導師」であるフェイトが「次元転送システム」自体を使用する事に問題はない。任務外だった為補給の必要もなく、だから彼女はすぐに現場に向かえたのだ。魔法の使用に関してはいくつかの書類を書く必要があるだろうが。
 だが任務として行動できるはやては補給も受けられるし、「次元転送システム」の座標を弄る許可も与えられている。フェイトとの時間差は充分に埋められるはずだ。

(すぐにそっちに行くからな、だからフェイトちゃん、踏ん張るんやで)

「それじゃあユーノくん、うち行くから。本当にありがとうな」

「……はやて!」

 下手をすればユーノが一生懸命「アトロポス」に関する資料を収集した意味と時間が、まったくの無駄になってしまうかもしれないのだ。そういった意味も含め、はやてはユーノに礼を述べた。
 だが、そんなはやてをユーノは呼び止めて、

「もう、今回の件は完全に部外者になった僕が言うのもおかしい気がするけど……はやて、フェイトの力になってあげて。今の彼女は、なのは以上に危なっかしいからさ」

 そう、はっきりとした声ではやてに告げた。

「ユーノくん……ああ、任せてや。ユーノくんの分と……なのはちゃんの分も、うちがフェイトちゃんを支えたるからっ!」

 はやては片目を瞑り、右手の人差し指と中指を立てて敬礼のような感じで額に軽く当てる仕草を見せると、「次元転送システム」のある場所へと駆け出していった。


「よし、到ちゃ……くぅぅぅっっっ!?」

 転送先に出た途端、はやての体は重力に導かれるままに下へと落下していく。その眼前に広がるのは一面の、青い海。

「シュ、シュベルトクロイツ、セットアップッ!」

 慌ててポケットから騎士杖のデバイス、「シュベルトクロイツ」を取り出し、機動をさせる。すると手の平サイズだったシュベルトクロイツははやての背丈と同じくらいの大きさになって右手に収まり、身に着けていたものはたちまち黒を基調とした服とスカート、その上に白の上着を纏ったものに変わる。ところどころに見られる金色の金属部分がなのは達の纏う「バリアジャケット」と違う、「騎士甲冑」という名で呼ばれる防護服の由来だろう。
 そして最後にはやての背に現れた、三対六枚の黒翼。これははやて特有のものであったが、その存在意義は今のところ不明である。何しろ本人ですらその存在理由は理解していない。飛翔だってそれを使用しているわけではないので、はやてが無意識のうちに形成した、単なる「趣味」という形に落ち着いていた。
 それはさておき。
 セットアップが完了し、魔力の行使も操作もほぼ完全に使用可能な状態になると、はやては颯爽と空へと舞い上がる。

「ふう、危なかったわ。もう十秒遅かったら確実に海にどぼん、としとったわ」

 それだけ呟き、フェイトを探して周囲を見渡す。

「あれ?」

 だが、どこにも見当たらない。時間的にはフェイトがここに辿り着く時間とそう大差ないはずだ。それに……、

「……どこにあるんや? 魔力反応って」

 本来この場所に派遣される事になった最大の理由である「太平洋海上での巨大な魔力反応」が、まったく感じられないのだ。
 流石におかしいとはやてが感じ始めたその時、背後から声が聞こえた。

「フェイト・T・ハラオウンはここには来ませんよ。『あちら』に引き込まれたみたいですし。それに、仮に引き込まれていなかったとしてもここは……大西洋ですから」

「……ふーん、もしかしてそれも……君のせいなんかな?」

 はやてはもう驚かなかった。たった二回ではあったが、彼のその予測不可能な行動ぶりははやての中で完全に認知してしまっていた。

「フェイト・T・ハラオウンが『あちら』に引き込まれた事に関しては、私は関係ないですよ。次元転送システムを改善して大西洋の方に来てもらったのは、僕の意思ですけど」

「あはは、そっか……取り敢えず、お姉ちゃんに詳しく教えてもらえるかな、ジェノく……ん?」

 そう言って後ろを振り返った瞬間、はやての行動は停止した。そこにいたのは想像していなかった……しようとすら考えてなかった、一人の、男性。

「え? ええ? えっと……ジェノくん、なん?」

 はやては信じられないものを見たといった表情で、正面にある顔をじっと見つめる。そんなはやてに、男性は小さく笑いながら頷いた。

「ちゃんといいましたよ? 再会した時は、私である事に気がつかないかもしれませんけどね、って」

 確かにそれは聞いた。だが、何事にも「予想外」というものはある。まさか、あの可愛らしい少年がたった数時間の間でこんな風になったなんて誰が信じられるかというものだ。
 だが、はやてには分かった。その言葉の内容と、雰囲気と、そして……自分の勘が、そう告げているのだ。
 彼は、あの「ジェノ」と名乗った少年なのだと。

「……取り敢えず、どれから説明した方が良いですか?」

 そう言って微笑むジェノは、どう見てもはやてより少し年上……聖やクロノと同年代くらいの、青年の姿をしていた。


「そうやな、色々とツッコミ所満載やけど……フェイトちゃんの事が先や。どこにおるんや? 『あちら』ってのは?」

 シュベルトクロイツを突きつけながら、凛とした声で尋ねるはやて。その姿は普段のどことなくほんわかした空気を微塵にも感じさせない、十一歳の少女とは思えないほど勇ましい姿だった。
 そんな状況でも青年ジェノは笑顔を崩さず、その問いに答える。

「この世界……正確にはここだけではないのですが、表裏一体する、別次元の世界です。『天竺』『楽園(エデン)』『天国(ヘブン)』『天上界』『高天原(たかまがはら)』『神々のおわす場所(ヴァルハラ)』……色々な国、色々な宗教で大概は『聖地』として扱われる、神の住まう聖域……と呼ばれる場所です」

「……その言い方やと、実際には違うんやろ?」

 青年ジェノは笑った。その通りだ、と言わんばかりに。

「お察しの通りです。きっとこの世のどこかにはそんな場所もあるでしょうが、今私が述べている場所は違います。実際には遥かに文明の進んでいるだけの、この世界と何の違いもない……動植物が生き、人々が住み、子を宿して子孫を繁栄させていく……たったひとつ、その背に魔力で出来た『翼』を宿しているという事を除いては、ね」

 はやては思わず自分の背にある黒翼に視線を移す。

「はやてさんのは違いますよ。それはある特別な『資格』を有する事の証です」

「……資格?」

「その話は取り敢えず置いていて下さい。ところで、何か気が付きませんか? ヒントははやてさんが行こうとしていた場所と、今いる場所です」

 まるで何かを試しているような青年ジェノの視線。はやてはその挑戦を受けるかのように思考を張り巡らせた。

「行こうとしていた場所(太平洋)」、「今いる場所(大西洋)」、そして彼の言っていた「遥かに文明の進んでいる世界」……。

「……――!?」

 その三つが、はやての中で繋がった。

「伝説の大陸……ムーとアトランティス?」

 半信半疑な感じで呟かれた言葉に、青年ジェノは「よく出来ました」と言わんばかりに三回拍手をした。

「正確に言えば、ムーとアトランティスと呼ばれる大陸は存在していません。代わりに太平洋側には『ムーラルティア』と呼ばれる『聖地』への入り口が、大西洋側には『アトランティス』と呼ばれる『聖地』からの出口が存在していました。互いにその出入り口を管理していた者の名前から名付けられています」

「……成る程な。つまり、その出入り口から何らかの理由でその『聖域』から出入りした人が、そこに大陸があると勘違いをした。でも、実際にはその『聖域』は別次元にあるから、実際には存在しない……故に、『幻の大陸』ちゅうわけやな? ええ歴史の勉強になったわ」

 まるで皮肉るようにはやては笑った。だが、まだ終わりではなかったようだ。青年ジェノは言葉を続ける。

「ちなみにこの『聖域』への入り口は何もこの世界に限った事ではありません。他の世界でも色々と伝承に残っていますよ。例えば『永久の闇の門』、例えば『天国への石舞台』、例えば……『次元の狭間に存在する地』」

「何……やて?」

 最後の例えに、はやては身を震わせ過剰なまでの反応を示した。
 聞いた事があるレベルの話ではない。その言葉は、はやてにとって、そしてふたりの幼馴染にとって、全ての元凶ともある種の禁句とも言える、重要過ぎる言葉に繋がる。
 否定したかった。だが、心のどこかで妙に納得してしまう。そっくりだった。自分の知るこの世界の「幻の大陸」の伝承と、その伝承は。
 そう、ミッドチルダに伝わる、次元世界の狭間に存在し、人を生き返らせる術すらあるという、今は失われた秘術の眠る地。

「アル……ハザード……」

 本当に皮肉だ……とはやては思わざるを得なかった。
 その地に辿り着きたいが為に、娘のクローンに罪を負わせ、それでも結局は辿り着けなかったとされる最悪にして悲運の魔導師……プレシア・テスタロッサ。
 彼女が辿り着きたかった場所に、その罪を負わせられた娘……フェイトが、その地に辿り着いている。自覚のまったくないまま。
 これを、皮肉と言わずになんと言えばいいのだろう。

「……そうや! 何で、何でフェイトちゃんがそこに……『アルハザード』にいるんや!? やっぱりレイリアの……『アトロポス』の仕業なんか!?」

 その内容があまりに衝撃的過ぎて、質問の根本的な部分を忘れてしまうところだった。

「……関係ない、といえば嘘になります。実際レイリア・シュトゥールという女性を『聖域』……もう『アルハザード』と称した方がいいですかね? そこに召喚したのは間違いなく『アトロポス』です」

「それじゃあ、フェイトちゃんは違う、と?」

 青年ジェノは頷いた。

「はい。レイリア・シュトゥールは『アトロポス』で呼び出そうとはしたようですが、その前にフェイト・T・ハラオウンは『アルハザード』へと召喚されています。レイリア・シュトゥールも少々疑問に思っていたようですが、あまり気には留めなかったようですね。まあ、仇敵が目の前にいたんじゃ無理もないでしょうが……」

 「仇敵」という言葉が気になったが、今はそれどころではない。青年ジェノの話を要約すると、フェイトを「アルハザード」に召喚したものは別にいると言う事だ。つまり……レイリアに協力者がいる可能性が高く、その協力者はこの近くにいても不思議はない、という事になる。

「それは一体誰なんや? ジェノくん、あんたはそれが誰か知ってるんか?」

「……私だ、って言ったらどうします?」

「っ!?」

 思わず身構えるはやて。だが、すぐに首を横に振った。

「それはない、な。そうやったらうちに情報を流す理由が分からんし、そんな力があるんやったらとっくにうちと戦闘開始しとるはずや。それに……ジェノくんが言った、『今回の事件に関係している間は、私は味方ですよ』って言葉、信じとるからな」

 その言葉に、青年ジェノは一瞬だけ呆けたような表情になった。だが、すぐにまた笑顔に戻る。

「ありがとうございます」

 今度は少しだけ、嬉しそうな笑顔で。

「……フェイト・T・ハラオウンを『アルハザード』に召喚したものですが、先程述べた通り、『アルハザード』への出入り口にはそれぞれ管理者がいます。そして、その管理者以外で出入り口を開く事はまず不可能です。それもお互い自分の担当である場所でしか、です。例外として管理者、出入り口付近で、という条件のみで人一人通るくらいの小さなものなら出入り口を開く事も可能ですけど。つまり……」

「フェイトちゃんを『アルハザード』に召喚したのは……『出入り口』の管理者ちゅう事か!? 一体誰が……」

 だがはやてがその続きを言う前に、青年ジェノははやての目の前にモニターらしきものを展開した。そして、そこに映っていた映像を見て、はやては思わず息を呑んだ。

「な、何や……これは?」

 そこに映っていたのは、前に見た時とは違い刀身が陽炎のように揺らぎ、所々から黒炎の上がっている姿となった「アトロポス」と思われる剣を持ったレイリアと、いつもの彼女からは想像出来ない、呆然とした顔をしているフェイト、そして、

「これが……聖、さん?」

 青を基調とした服を身に付け、真っ白なマントを羽織り、右手に槍のようなデバイスと思われるものを握り締めた……背に上から白、青、黒の三対六枚の翼を宿した、はやてもよく知る、しかし予想外の姿をしている青年……聖の姿だった。
 デバイスらしきものを持っている……つまり、魔導師だと思われる事も驚きであったが、何よりもはやてを驚かせたのは、その背に見える、翼だった。

「……なあ、ジェノくん、あんた言ったよな? 『管理者しか出入り口を開く事はまず不可能』、そしてアルハザードの民は『その背に翼を宿している』って」

 本当は、否定して欲しかった。皮肉どころの話ではない。まるで……神の悪戯ではないか。それも、きっと邪神だ。彼女が好意を寄せている相手が、彼女にとって禁忌とも言える世界の人間だなんて。
 だが、青年ジェノは頷く事で肯定し、さらにはやてを驚かせる事実を述べた。

「お察しの通りです。彼……『倉瀬聖』の本当の名前は『ムーラルティア・ウェルビル・ジェネシス』……異界の門『ムーラルティア』の管理者にして……古代ベルカの伝承に残る、『創世の神(ジェネシス)』……その、転生者です。そして彼こそが、フェイト・T・ハラオウンを『アルハザード』に召喚した張本人……まあ、無意識に、ですけどね」

 流石のはやてにも理解の域を超えていた。はやての住む世界の伝説であるムーとアトランティス、ミッドチルダの伝説アルハザード。この二つに係わり合いがあった事まではまだ納得出来た。だがそこに、はやてにとって馴染み深い「ベルカ」が関わってきたとなれば事態は急変する。

「ちょ、ちょっと待ってや! だって、そんな……ベルカは実際に存在し、自治領も認められとるところやで。そんな伝説上の存在でしかないアルハザードと一体何の関係が……」

「その答えは、今はやてさんが自分でおっしゃったじゃないですか?」

「何、やて?」

「今のベルカ自治領……つまりそれは、今現在『ベルカ』の名前が治めている場所に過ぎない。つまり、言うなれば『近代』ベルカ……」

 妙な言い回しだったが、ようやく青年ジェノの言いたい事を理解する。
 現在のベルカは、崩壊してしまったその先駆けたる世界からの難民が作り上げた、云わば「第二のベルカ」なのだ。

「アルハザードイコール……古代、ベルカ?」

「もちろんそういう流れになる前に色々とありましたけどね。『翼』に関する事とか『聖王』統治時代とか。それにその事実を知るものは、もういないといっても過言ではないでしょう。『古代ベルカ』出身である守護騎士(ヴォルケンリッター)も、その事を口にした事はないですよね?」

 とても信じられない内容だった。だが、そう考えれば確かに殆どの謎が一本の線に繋がる。

「……あはは、ほんまにいい歴史の勉強になったわ。まあまだ疑問は残っとるけどな。例えば、そんなに歴史に詳しいジェノくんの正体とか」

 多少の皮肉も交えて、はやては微笑んだ。全てを鵜呑みにしたわけではないが、信憑性が高い事には間違いない。そして、正史に残っていない過去に詳し過ぎる目の前にいる青年も、只者ではないのは明らかだ。

「……その問いに答える前に、ちょっと片付けなければいけない事があるみたいですね」

 予想していた答えとはまったく違う言葉に、はやてはモニターに視線を移した青年ジェノの瞳を追いかけるように、自分もそちらに目を向ける。

「な、何なんや、これは……!?」

 そして、そこに映っていた映像を見て、今度は絶句した。
 黒い翼を背に宿した、美しくも冷たい表情の巨大な女性……を象った、化け物。それが、今はやての瞳に映っている存在に対する、正直な印象だった。
 はやての体に震えが走る。思い出してしまったのだ。
 ……二年前、なのはやフェイト達と協力して消滅させた。自分の影とも言うべき存在……「闇の書の防衛プログラム」の存在を。

「……来るっ!」

「え? ひゃん!?」

 青年ジェノの言葉とほぼ同時に、真下の海面が波打ち、周囲にある小島が揺れる。

「じ、地震?」

 はやては思わずそう叫ぶが、青年ジェノは答える事なく、手を前に突き出す。するとどこからともなく一冊の書が……はやての持つ「夜天の書」によく似た、青い表紙の書現れた。

「『蒼天の書』、頼むぞ」

 《Yes, my master》

「デバイス……? やっぱりジェノくんは、魔導師なん?」

「……『今』は、違いますよ」

「今、は?」

 相変わらず掴み所のない言葉の多い会話に、はやての頭はますます混乱し始めた。そんなはやての心情を知ってか知らずか、青年ジェノは小さく微笑み、その問いとはまったく関係のない事柄を語りだす。

「……今から三分後、ここから南西に約五十キロの地点で『アトロポス』とフェイト・T・ハラオウンの戦いが始まります」

「何やてっ!?」

 もう何度目か分からなくなりそうな驚きの声を上げるはやて。

「ムー……ジェネシスは彼女を『神の伴侶』とし、その力を分け与えているようですが……『限定付与』のようなので色々と制限がつきます。対する『アトロポス』は『神獣』形態。これは、確実にフェイト・T・ハラオウンが不利です。だからはやてさん、協力してもらえませんか? これを使って」

 そう言って青年ジェノは「蒼天の書」と呼んだ魔導書型のデバイスをはやてに向かって差し出す。

「『神の伴侶』?」

「はやてさんは神具……『アトロポス』の真の力の使用条件、覚えていますか?」

「へ? あ、ああ、もちろん。『破滅の神とその血を引く者』……マテリアルシステムの登録システムを利用した、使用者の限定による悪用の回避。『アトロポス』に限定すれば伝説上の『破壊の神』本人かその血族のみしか使えない……」

「正解です。ではもうひとつ質問。その血族……『使用可能者』の一族になる為には、どうすればいいと思います?」

「使用可能者になる方法? ……!?」

 はやては唐突に何か驚いたような表情になったかと思うと、青年ジェノと距離を取った。少し頬を染め、手で体を隠すように。
 この反応は青年ジェノも予想外だったようで、呆然とした顔をしていた。

「『血族』……つまり、その一族の血を得るには、その家系に生まれるか……その家系の血を持つ人間と、その……い、一緒になるか、か?」

「え? あ、はい、正解ですけど……」

 頷く青年ジェノ。同時に何故かブラッディ・ダガーを形成し臨戦態勢に入るはやて。

「そ、それが目的やったんか!?」

「……はい?」

「とぼけるんやないで! その魔導書を使ってフェイトちゃんを助けろ、って事はうちとあんたが……その……え、えっちな事をしなくちゃいかんって事やんか!」

「……はあっ!?」

「騙されたー! あんな可愛らしい男の子の姿でうちを『はやてお姉ちゃん』なんて呼んでトリップさせてたのもこの布石やったやな!?」

「いや、ちょっと待った! それ言わせたのはあんた……」

「いやあ、近寄らんといてこのマセガキがぁ! あ、でも今はうちより年上っぽいから……ロ、ロリコンやったんやなぁ!?」

「いやいやいや、勝手に人にへんな趣味付けるな……」

「ていうかそれ以前に聖さんはすでにフェイトちゃんを『神の伴侶』とやらにしとてって事はつまり聖さんとフェイトちゃんはって事になって聖さんはまともやと思っとったのにやっぱロリコンって事で……フェイトちゃんの青春を返せーっ!」

「いいから落ち着けマセガキはどっちだバカヤロウっ!」

 思考回路が混乱……というより暴走し、漫画のように手足を振り回しながら色々ととんでもない事を口走っていたはやてだったが、そのあまりに想像出来ない人物からの、あまりに想像出来ない言葉に、暴走していた思考回路がショックという名の衝撃で落ち着きを取り戻した。

「……今の言葉、ジェノくん?」

「……あっ」

 その瞬間しまった、というような表情に変わり、二、三度咳払いを行う青年ジェノ。

 「と、とにかく、永久的な使用可能者となるならちょっとした『契約』は必要ですが、『限定的』なものならばそんな必要はありません。軽く頬に口づけをするくらいで大丈夫です」

「え? あ、そうなん?」

 見せ付けるように大げさに頷く青年ジェノ。途端にはやての顔は瞬時に真っ赤に染まりあがり、縮こまった。同時に行き場をなくしたブラッディ・ダガーも消滅する。

「あまり時間がありません。このままではフェイト・T・ハラオウンだけでなく、この世界自体が危うくなります……協力、してもらえますか?」

「……それ、半分脅しが入ってるで」

「重々承知ですよ」

 その言葉と同時に、ふたりは同時に噴き出し、笑いあった。

「わかった、ええよ。それでフェイトちゃんとこの世界が助かるんなら、ほっぺにちゅーくらい、許したるわ」

「感謝します」

 そう言って青年ジェノは顔を近付ける。はやてはそっと目を閉じ、

「……初めてやから、優しくしてな」

 そう少ししっとりとした言葉で呟くと、近付いていた影が消える。目を開くと、案の定青年ジェノはこけていた。

「わざとだな、わざとだろ!?」

「あははははははっ! ……何や、ちゃんと子供らしいところもあるやんか」

 笑いながら呟かれた言葉で、青年ジェノはようやく理解したようだ。
 さっきのあのやり取りで、自分ははやての「おもちゃ」に認識されたのだと。

「……はあ、ムーのように格好よく決められたらこうはならなかっただろうな……やっぱりキャラが違ってたかな」

「ん? どした?」

 まるで小さな子供に語りかけるようなその言い草に、青年ジェノは答えずはやての頬に口づけをした。

「……早く終わらせましょう。貴女といると……疲れますから」

「あはは、そう言わんといてや。でも……もうちょっと、雰囲気を考えて欲しかったわ。初めてやったんやから」

「……やっぱり、疲れます」


「『蒼天の書』に組み込まれているマテリアルは二つです。でもマテリアルホール……マテリアルの効果を発動させられるようになる場所の事ですが……それは、一箇所しかありません。だから、発動可能なのはひとつだけ、という事になります」

「なんや、『アトロポス』と違って随分と使い勝手が悪いな。あれはマテリアルホールとやらが一個しかなかったけど『消失』と『強化』のふたつ同時に使えてたで?」

「いいえ、見えていなかっただけであれには後ふたつマテリアルホールがあるんですよ。柄の下の部分に。それに『蒼天の書』は『夜天の書』と同じく本来は情報収集蓄積型のデバイスです。それに少し強引にマテリアルシステムを組み込んだいわば『後天的なマテリアルシステム搭載』デバイスですから、扱いにくさは勘弁して下さい」

「あ、そうなんや? まあええわ。それで、うちはこれを使ってどないすればいいんや?」

 「蒼天の書」を受け取りながら、今回の一番重要な部分を尋ねる。

「……一分後、時空転移で『アトロポス』の『神獣』形態……先程見せた女性のような姿をしたあれです。奴が先程の地点に到達します。その二分後、『神の伴侶』となり力を得たフェイト・T・ハラオウンがそのすぐ近くの地点に転移されます。彼女は果敢にもアトロポスの神獣に挑みますが、いかんせん『仮契約』の状態。どうしても力の差が表れます。そこで、はやてさんと『蒼天の書』の出番というわけです」

 青年ジェノははやてに手渡した「蒼天の書」を指差す。

「フェイト・T・ハラオウンが苦戦するであろう原因、それは『アトロポス』の『消失』の力です。どんなに強力な攻撃も、その攻撃自体を『消失』されてしまっては意味がない。そこで、それです。『蒼天の書』に組み込まれているマテリアルのひとつに、『消失』の力によく似た『破滅』の力を宿したマテリアルがあります。それを、リミットブレイクモード……オーバードライブモードでも使われない、マテリアル本来が持つ魔力すらも解き放ち使用する状態で、打ち放ちます。それだけの魔力を込めれば、『消失』の力にも打ち勝てるはずです」

「……まあ、何となくは分かったけど……『消失』とか『破滅』とか、物騒なもんばっかり作っとるな……」

 そう言ってはやては苦笑を漏らした。

「否定はしませんよ。でも、気を付けて下さい。リミットブレイクモードはその性質上、使用したらマテリアルが砕け、二度と使えなくなります。また、普段はマテリアルで制御している負荷ももろに受けるので、体への負担も相当なものです。つまり……」

「チャンスは一回だけ……ちゅうわけやな?」

 青年ジェノは頷いた。はやてはそれを確認すると、「アトロポス」が現れるという位置の近くまで飛ぼうとするが、青年ジェノはそれを止めた。

「待って下さい。これ以上近付くとチャージ中に『アトロポス』気付かれ、妨害を受ける可能性が出てきます。この地点が『アトロポス』に察知されず、また威力が落ちずに届くギリギリの距離なんです」
「ちょ、待ってや! いくらなんでもこの位置から砲撃なんて無茶やで! それにうちが得意なのはあくまで『広域魔法』で『長距離魔法』はなのはちゃんの専売特許なんや。コントロール系も苦手でサポートがないとまともな威力の魔法にならないんやで!?」

 流石のはやても慌ててしまうが、青年ジェノはただ一言、こう呟いただけだった。

「大丈夫です、はやてさんなら、ね」

 そう、微笑みながら、たった一言。

「え?」

 何の根拠もない台詞だったが、何故かその一言ははやてをあっという間に落ち着かせる。それは、今まではやてが感じた事のない、何とも言えない不思議な安心感を与えてくれ、そして出来るかもしれないと言う自信が湧き上がってくるのを感じた。

「……ジェノくん、方向、教えてもらえるか?」

 待っていました、と言わんばかりに青年ジェノは左の身と指し指で一方向を指した。はやてはその方向にシュベルトクロイツを構え、そっと目を閉じる。はやての周囲には「夜天の書」と「蒼天の書」が、まるでその様子を見守るように佇んでいた。

「……来たっ!」

 青年ジェノのその言葉を合図に、再び地震が起こる。だが、さすがに今回は慌てるような事はなかった。目を閉じたまま、精神の集中を図る。

(……大丈夫、うちなら、出来るはずや。だから……フェイトちゃん、フィニッシュは任せたで!)

「『蒼天の書』、マテリアル、リミットブレイクッ!」

《Genocide material, Limit break》

 はやてが呪文(トリガー)を唱えると同時に、「蒼天の書」が光り輝き、球型の魔方陣がはやてを包む。するとまずはやての騎士甲冑が姿を変えた。色合いが完全に黒基調となり背の翼が肥大化し、そしてはやての顔に赤い線が走る。それを見ていたはやては驚きを隠せないでいた。その姿は紛れもなく、はやてにとって……彼女を助けられなかった事でいまだその心を締め付ける、他の家族と同じくらい、大切な存在。

「リィン……フォース?」

「……『蒼天の書』と『夜天の書』は姉妹のような存在です。恐らく『夜天の書』が蒐集した記録に残る、一番強かった存在をはやてさんへと送ったのでしょう。もしくは……『夜天の書』に微かに残った彼女の思いが、はやてさんを守ろうとしているのかもしれません」

 微笑ましげにそう説明をしてくれる青年ジェノ。その言葉を聞いて、はやては瞳に浮かぶ涙を堪える事が出来なかった。

「あはは、参ったなあ。これは頑張らんと……あの子にも申し訳ないやないか!」

 俯いていた顔を勢いよく上げる事で涙を払い、下ろしていたシュベルトクロイツを再び構え直す。その顔にはいつもの優しげな表情ではなく、凛とした、一人の魔導師としての顔が浮かんでいる。
 瞳を閉じると、遥か先で戦っているフェイトの姿が浮かんだ。おそらくこれもこのリミットブレイクの状態でのみ発動できる、『蒼天の書』か『夜天の書』のどちらかの能力なのだろう。彼女もまた普段の黒を基調とした姿ではなく、真っ白なマントを羽織り、その背に青い翼を背負って必死で戦っていた。

「なんや、うちとフェイトちゃん、完全に色合いが逆になっとるなあ。でも、似合うとるよ」

 きっと彼女には聞こえていないだろうが、はやてはそう呟かずにはいられなかった。そしてはやては目を見開き、魔力の収束を開始する。

「うっ……」

 途端に過大な負荷がはやてを襲ってくる。はやてのデバイスには「カートリッジシステム」は搭載されていない為、魔力強化による負荷というものを経験した事がなかったので、その衝撃はとんでもなく凄まじいものに感じられた。

「な、なのはちゃん達はこんなもんを毎回耐えながら魔法を使っとるんか!?」

 もちろん今のはやての魔力はマテリアルの完全解除という行為を行っている状態なので「カートリッジシステム」の比でない事は重々承知しているが、それでも負荷が起こっているのは間違いないのだ。これを積み重ねていけば、確かにきついだろう。

「……なのはちゃん、もう無理はしたらあかんで……」

 それが原因で今自由に動けない状態となってしまった親友のひとりに、はやては小さく叱咤をする。

「なのはちゃん……シグナム……ヴィータ……シャマル……ザフィーラ……そして、リィンフォース! みんな、うちに力を貸してや!」

 強大な魔力の塊が、シュベルトクロイツの切っ先に収束される。その姿は、どこかなのはの……いや、リィンフォースの使った、「スターライトブレイカー」に似ていた。

「フェイトちゃん! うちが『消失』の力を何とかする、やから……聖さんに格好良いとこ見せたりや!」

 その言葉を最後にはやては歯を食いしばり、シュベルトクロイツを上に掲げた。そして、

「いっ……けぇぇぇっっっーーー!」

 一気にそれを振り下ろし、魔法弾を打ち放った。

《Genocide breaker》

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 さて、そろそろフェイト編での謎が公開されているところも出てきていると思いますw
 今回出てきた「蒼天の書」ですが、本来うちは基本原作に沿った形でSSを執筆するようにしているのですが今回この「蒼天の書」はちょこっと設定をいじっていますw どう違うかはなのはファンの皆さんにはわかりますよね?ww
 はやて編も残り二話。その後はちょっと特別編、その後は……まだ決まっていませんw まあ、お楽しみという事でww

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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