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魔法少女リリカルなのはA→S 第十六話 ~Side HAYATE Ⅳ~

「……よし、っと」

 魔力の大幅消費とリミットブレイクによる負荷により魔法を放った後すぐに気絶をしてしまったはやてを抱えていた青年ジェノは、近くの島で大きな木に寄りかからせるように彼女を下ろした。
 今の彼女は騎士甲冑も維持出来ない程消耗しているようで、私服の姿になっている。地面に寝かしつけるのは何となく申し訳なかった。

「……ご苦労様です、はやてさん」

 そう言ってはやての頭を優しく撫で、その手に持っていた二冊の書……『蒼天の書』と『夜天の書』をそっと彼女の傍に置く。

「『蒼天の書』は貴女に差し上げます。そいつも、それを望んでいるようですしね。それに、もう私には必要のないものですから」

 そう呟き、青年ジェノは立ち上がった。それと同時に、彼の元に寄ってくる、ひとつの黒い光を放つ小さな玉。

「……もう、大丈夫なようだね」

 青年ジェノの言葉に答えるように、黒い光の玉は弾け、その中にあったものを晒す。

「お帰り、アトロポス……」

 そこにあったのは、レイリアが持っていたはずの、「消失」の神具、「アトロポス」の柄。

「いや……『破滅』の笛……『ジェノサイド・インフィニティ』」

 青年ジェノがその名を呼ぶと同時に、「アトロポス」の柄は変化を見せる。全体に亀裂が入り砕け、残った持ち手の部分に撒かれていた布が解かれていく。
 そして残ったのは……黒い光を放つ、フルートのような形をした一本の……笛であった。「ジェノサイド・インフィニティ」と呼ばれたその笛は、ゆっくりと青年ジェノの差し出した手の中に納まる。

「……すまない、時間が掛かった。今の私にはお前を助けるだけの力は残っていなかったから……でも、やっぱり凄いよ、『夜天の書』が見つけた主は。『蒼天の書』にも書かれなかったこの戦いの結末を、私にまったく危惧させなかったんだから。『あいつ』の選んだ『神の伴侶』……フェイト・T・ハラオウンも」

 だがその言葉とは裏腹に、青年ジェノの顔には陰りが走っていた。

「……大丈夫、フェイト・T・ハラオウンは強い子だよ。きっと、立ち直ってくれるから……だから、行こう。もう、はやてさんも今回の事は殆ど憶えていないはずだから」

「……ところがどっこい。うちはちゃんと憶えとるで。今回の事件の事も、『アトロポス』の事も……聖さんの事もな」

「――っ!」

 その時、初めて青年ジェノの顔が驚愕のものへと変わった。後頭部に何か硬いものを突きつけられている。

「勝手にさよならは無しにして欲しいわ。うちの質問は、まだ終わっとらんよ?」

 確かめなくとも、その口調ですぐに分かった。今、青年ジェノの背後にいるのは、誰なのかを。

「どうしてですか? はやてさん?」

 自分にシュベルトクロイツを突きつけ、騎士甲冑を纏っているはやてに、青年ジェノは色々な意味を含んだその言葉を呟くのが精一杯であった。


 胸が痛んだ。彼がこんな行動をとっている理由は、残念ながらまだ教えてもらっていないからだ。いや、きっともう記されてはいるのだろうが、時間が無かったというのが正しい。
 はやてが知ったのは、レイリアに「アトロポス」が使えるようにし、フェイトの事を教えたのが彼であり、その流れで起こるであろう今回の事件を全て悟っていた、いわば今回の事件の首謀者であるという、その事実のみ。
 だが、きっと理由があるはずだ、とはやては無条件でそう思っていた。そう信じていたと言ってもいいかもしれない。でも、こうやって脅すようにシュベルトクロイツを突きつけていなければ、今の自分では到底彼と対等な会話など出来ないのだ。
 それ程、今彼の手の中にあるそれは、危険なものなのである。

「……どうして、か。それは、あんたが一番よう分かっとるんやないかな、ジェノくん……いや」

 はやては一度言葉を切り、先程教えられた彼の本当の名前を告げた。

「創世神話に名を連ねる、『破滅』の神にして、大西洋側にある聖域『アルハザード』の出口『アトランティス』の管理者……アトランティス・セルヴィー・ジェノサイド……アトラさん」

「……その名前で呼ばれたのは、本当に久しぶりですよ……」

 はやての言葉に、アトランティス……アトラはまるで自嘲するような笑みで、そう答えていた。

「……成る程。知らぬ間に二冊とも随分とおしゃべりになったようだ」

 どうやらはやてにその情報を漏らした存在に気が付いたようだ。微かに見えるアトラの横顔が、小さく微笑んでいた。

「違う、おしゃべりになったんやない……止めて欲しかったんや、あんたを、うちに。だから、さっきの『ジェノサイド・ブレイカー』の発射による反動と魔力消費を二冊がほんの少しだけ肩代わりして、うちの体力と魔力を残したんよ……二冊とも、創造主(マイスター)思いのええ子やんか」

「『蒼天の書』はともかく、『夜天の書』は私が作ったものはすでに消滅したじゃないですか。その『夜天の書』は、貴女が新たに作り出したもの……創造主(マイスター)は間違いなく貴女ですよ、はやてさん」

「……うちもそう思っとったけどな、その基礎となる部分にあの子が残してくれた初代『夜天の書』の核(コア)を使っとるせいか、少し初代の記憶が残っとったみたいや。だから……『夜天の書』はうちとあんた、二人創造主(マイスター)がいるっていった方がいいかもな」

 シュベルトクロイツを突きつけたまま、はやては後ろを向いたままのアトラに向かって微笑みかけた。武器を突きつけながら、突きつけられながら、微笑む二人の男女。端から見れば間違いなく奇妙だと思われる光景である。
 だが、アトラは観念したのか「ジェノサイド・インフィニティ」から手を離した。黒い笛は地面にぶつかる寸前で一度静止し、そのままゆっくりとしたスピードで地面へと転がる。そしてアトラ本人はその場で半回転をし、はやての方へと向き直った。
 その顔に、笑顔を携えたまま。

「さて、それじゃあ何が聞きたいですか?」

「……聞きたい事は山ほどある。何でこんな事をしたんか、その『ジェノサイド・インフィニティ』をどうするつもりなんか……でも、今一番聞きたいんはこれや……聖さんは、どうしたんや?」

 先程から彼の魔力をまったく感じられない。第一、あれだけの力を持っていながらアトロポスとの戦いをフェイトにまかせっきりだった、という事がはやてにはどうしても信じられなかった。
 はやての知る聖ならば、むしろフェイトには戦わせようとせず、自分のみが戦いの場に出ようとするはずだ。
 それくらい、彼は誰かを危険な目に合わせるのを拒む。昨年の誕生日のエピソードがいい例だった。
 夜遅く、聖の住むマンションの近くにある公園で、彼の誕生日を祝おうと色々と頑張っていたフェイトに対して聖が行ったのは、フェイトの頬っぺたを引っ張ってその行動を咎めたという……もっとも、その後はちゃんとお礼を言って喜んでいたが……彼らしいと感じたエピソードが。
 そんな彼が、フェイトと共にいない事が、何より信じられなかったのだ。

「……書に、記されてはいなかったのですか?」

「最後まで、見とらんからな」

 正確には、怖かった。もし自分の想像通りなら、聖は……。

「……彼は、死んではいません。ですが……貴女達の知る、『倉瀬聖』という人間は、もういません」

 少し悲しそうな、済まなそうな表情を浮かべながら、アトラはそう呟いた。

「っ! ……どういう意味や! 『忘却の短剣(オブレヴィオン・ナイフ)』のせいか!?」

 先程モニターに映っていた彼の胸に、薄い影のような形で刺さっていたものを思い出し、はやては思わず声を荒げる。
 だが、アトラは首を横に振った。

「いいえ、あれの効果が発動する前に、『倉瀬聖』はその存在を消滅させました。その原因は……彼のデバイス、『エターナル・ジェネシス』を起動した事が、一番の要因です」

「『エターナル・ジェネシス』?」

「ええ、彼……ムーラルティアの最高にして、最強のデバイスです。彼の考案した『マテリアルシステム』を行使する為に作成された、彼にしか扱えないデバイス……それは彼の持つ稀少技能(レアスキル)『魔法破壊(スペルブレイカー)』と共に、『創世の神(ジェネシス)』の名前をアルハザードにしらしめた伝説のデバイスです」

「え? でも……うちはそんな名前のデバイス、聞いた事がないで?」

 聖王教会に馴染みのあるはやては、その神話もあまり世に知れ渡っていないものを含め殆どを熟知していた。はやてが知らない、という事は教会の騎士であるはやての親友カリムも知らない話、という事になる。
 もっとも、その『エターナル・ジェネシス』なるデバイスが秘匿級のものならばその類ではないだろうが。

「それはそうでしょう。『エターナル・ジェネシス』、そしてこの『ジェノサイド・インフィニティ』はマスターである私達自らの手で歴史に残らないようにしましたから」

 つまり、神話の時代からその存在は抹消されていた、という事なのだろう。

「……何でわざわざそんな事を?」

「……そう、望んだからです。大き過ぎる力の行く末を、見届けてきましたから」

 自嘲気味にアトラは小さく笑みを浮かべる。

「私とムー……ムーラルティアは、アルハザードで一、二を争う魔導師でした。彼も、そして私も、他に類を見ない稀少技能(レアスキル)のお陰で」

「稀少技能(レアスキル)……」

 自分も所持しているその特別な力の総合的な名称を、はやては小さく呟いた。

「ムーラルティアのもつ稀少技能(レアスキル)は二つ。ひとつは先程申し上げた、他者からの全ての魔法を無効化する『魔法破壊(スペルブレイカー)』。もうひとつは、彼が『想像』したものを構築し、この世に「創造」する、『万物創造(クリエイティング)』と呼ばれる能力です。この能力によってムーラルティアはアルハザードの民から『創世の神』……ジェネシスと呼ばれるようになりました。『マテリアルシステム』用のマテリアルも、すべて彼が創造し、そこから配給されるという形になっていましたよ。つまり本当は、私達は『神』ではないんです。『神』掛かった能力を持っていたから、そう呼ばれるようになった。私も、ジェネシスも……この世に生をもたらしてくれた両親のいる、ただの人間だったんです」

 成る程、それなら確かにマテリアルの生成方法が記載されていないはずであった。話を要約すると、マテリアルは「神の創造物」という事になるのだから。

「……しかし、ジェネシスのこの二つ目の稀少技能(レアスキル)……『万物創造(クリエイティング)』によって、ある問題がおきました。はやてさんは、もし万物を手に入れられる能力を保持したら……どうしますか?」

「え? どうって……」

「何もしなくても、欲しい時に好きなだけの飲食物、金銀財宝が手に入り、病気を患ってもすぐに治り、高い身体能力すらも簡単に手に入る……そんな生活を送れる力を手にした時、はやてさんは……人間は、どうなると思いますか?」

「それは……」

 何もしなくても食べていける。可愛い服やアクセサリーを身に付けられる。運動だってお手の物。しかも、まったく努力もしないで、その全てが手に入る……もし、そうなれば、人間は間違いなく、

「……堕落、するな」

 はやてのその答えにアトラは頷いた。

「……ジェネシスは優しい神でした。だから、望まれるままにたくさんのものを生み出してきた。食料、貴金属はもちろん、マテリアルやそれを行使する為のデバイス、質量兵器、高い身体能力、そして、命すらも……そんなものが無限供給されれば、誰だって何かに対し努力をするという事が馬鹿らしくなる」

 それはそうだ。何でも手に入る環境が整っているのに、わざわざ苦労をしてまでその何かを手に入れようとする人間なんて、滅多にいないだろう。

「この状況に誰より慌てたのはジェネシス本人でした。彼はもちろん人々を堕落させる為に『万物創造(クリエイティング)』を使っていたわけじゃない、あくまで純粋な願いや行ってきた努力に対する正当な『報酬』のつもりでした。しかし、そのあまりに魅力的な能力に、人々は溺れ始めた。『何かがあっても、神様が何とかしてくれる』と。人々がそう思うようになってからの堕落は凄まじかった。必要以上に飲食を繰り返し、醜い姿となっても『神様が元に戻してくれる』と高をくくり『大食』を繰り返す者、自分は神様に特別によくしてもらっている選ばれた人間だと『高慢』する者、美を望み、授けられたそれで次々と男を魅了し『邪淫』を繰り返す者、他の人間にはたくさんの恩恵を授けているのに、自分にはあまり授けてくれないと『嫉妬』し、そんな神に『憤怒』し、もっと恩恵をと『強欲』になる者、そして永遠に続くそれに満足し、生きる気力を徐々に失い『怠惰』になっていく者……そんな人間は、一人や二人の話ではなかった」

 その言葉を、はやては聞いた事があった。はやての住むこの世界でも、有名な言葉である。

「七つの大罪……」

「この世界では、どこかの宗教の書物に出ていましたかね?」

 アトラはそう言って笑うが、すぐに話を元に戻した。

「そんな事態になり、その事に責任を感じたジェネシスは『万物創造(クリエイティング)』の力を封印した。自分のやりたかった事は『手助け』であり、『代わり』をする事ではなかったからです。だが人々は大慌て。何しろ今までどれだけ自由にしていても良かった、全て『神』が解決してくれていた。だが、その『神』が力を使う事をやめると言い出した。そうなれば働かなくてはならなくなる、苦しみも生まれる。もちろん、一部の『神』を信仰していた者はその真意に気が付き、従った者もいましたが。しかし殆どの民が今更そんな生活に戻りたくないと神を説得という名の監視下に置き、今まで通りに『万物創造(クリエイティング)』を……いや、神が『万物創造(クリエイティング)』したものを管理と言う名目で強奪し、地位と名誉を手に入れようとした」

「そんな……だって、神様なんやろ!? 神を道具扱いして、あまつさえ神を管理し自分達だけ潤おうとするなんて」

「言いましたよね? 神とは名ばかり。実際には、天からやってきたわけでも不老不死でもなんでもない……単なる人間だって」

 はやては押し黙ってしまう。が、すぐその台詞の中におかしいところがある事に気が付いた。

「ちょっと待ちや。『神』……聖さんやあんたは、遠く別な力を持っているだけの普通の人間……不老不死でも何でもないんやろ? だったら何で……今、この時代にいるんや?」

 彼の話を鵜呑みにするなら、アルハザード……古代ベルカは、三百年前にはすでに崩壊しているはずだ。不老不死でないなら、人間なら、生きているはずがないではないか。

「……ちゃんと説明します。ただ、まだ話さなければならない事がありますから。その後、反乱を起こした人間達と、『神』を信仰する人間達とで大きな争いが起こりました。ジェネシスが与えていた多大な質量兵器、そしてマテリアルを利用した強力な魔法。逆に『神』を信仰していた人達はその力に頼ろうとせずに戦いました。結果は……一目瞭然でしょう? 『神』を信仰する側は、すぐに劣勢に陥った。それを打破する為に作られたのが、『神』のその力を十二分に発揮できる、特別な二つのデバイスの作成です」

「それが……『エターナル・ジェネシス』と『ジェノサイド・インフィニティ』?」

「ご明察です。ジェネシス、そしてジェネシスに加担していた『破滅』の神……当時はまだその名ではありませんでしたが……はその二つのデバイスを使用し、あっという間に反乱を治めました……が、アルハザードはすでにもう、後戻りできない状態になっていた」

 はやては思い出す。古代ベルカが、その他の世界が滅びてしまった、一番多い理由を。ミッドチルダが、「質量兵器」を放棄した理由を。

「質量兵器による環境破壊。それによりアルハザードはすでに人々が住まうには適さない土地になってしまいました。ジェネシスはその原因と自分の力、そしてその『質量兵器』すら簡単に破壊してしまう力を持った自分のデバイスを封印する事に決めた。『大き過ぎる力は、暴力にしかならない』と。ジェネシスは最後にアルハザードから比較的近い、まだ文明の発達していなかった世界をいくつか選んでそこに人々の住める最低限の『創造』を行い、生き残った『アルハザード』の民を移住させました。そして役目を終えた『エターナル・ジェネシス』と質量兵器といった大き過ぎる『力』をアルハザードに残し、その世界に通じる門を封鎖する事によって封印を施しました。そして、ジェネシス自身は力の事を忘れた、ただの『人間』に転生する事で己の力を封印した」

「それが……聖、さん?」

 アトラは頷いた。

「はい。といっても彼は直接の転生者ではなく、転生体のまた転生者……といった感じで数回の人生を歩んでいるはずですが」

「それじゃあ、聖さんがその昔の力に目覚めた理由は?」

「『エターナル・ジェネシス』の力でしょう。おそらくあれに触れる事によって、過去の力が戻るような仕様になっていたのでしょう。ジェネシスが施した切り札という事です」

「でも、聖さんはその記憶がないんやろ? 封印した本人やから『アルハザード』に続く門を開けたにしても、それすら思いださんとどうしようもない。一体どうやって……」

 そこで、はやてはようやく気が付く。門は二つあり、それぞれ一人ずつ管理している事。「入り口」と「出口」が別れているが、小さなものならば二人とも開けられる事。そして、創世神話にあった、創世の神に力を与えられた、もう一人の「神」の存在を。

「そうか、あんたが……『創世の神』の復活の鍵、ちゅうわけやな?」

 はやての言葉に、「破滅」の神、アトランティス・セルヴィー・ジェノサイドは微笑みながら答えを返した。

「その通りです」


「私はジェネシスに『またこのような事が起こらないとは限らない。監視者は必要だ』と進言しました。彼は生きとし生けるもの、全てを愛し、信じていた。だから、あの裏切りには心を痛めていたし、自分がいなくなればもう絶対にこんな事は起きないと信じていた。だが、今回の事件の発端は、元を正せばジェネシスや私といった『強すぎる力を持った者の誕生』から始まったと言っても過言ではありません。そして、そのような突然変異とも言える存在が再び生まれださないとは言い切れない。だから私は、彼に『永遠の命』の創造を願った。彼は優し過ぎたから、きっとまた今回のような事が起きてもぎりぎりまで信じ、そして、傷付く。私はそれが……我慢出来なかった。だから、願いました。『私に永遠の命を与え、監視者にして欲しい』と。彼はもちろん渋りましたが、最後は納得してくれました。『有事の際は再び私も覚醒させて欲しい』という条件で」

「それがもう一人の神の誕生の真実?」

「ええ。創世神話のような、完全に練りつくした台本の上での出来事ではなくて済みません。まあ、神とて失敗して初めて学ぶものなんですよ」

 アトラは笑う。はやてもまた、少しだけ頬を緩めた。

「でも今回は違った。おそらく主であるジェネシスの危機を察知した『エターナル・ジェネシス』が彼を『アルハザード』に召喚したのでしょう。『アトロポス』もそうですが、神の使っていたデバイスにも同等の力がありましたから」

 ようやく、今回の事件に繋がった。なるほど、確かに聖を「アルハザード」に召喚したのはレイリアでも、アトラでもない。だが、しかし……、

「でも、現状じゃあ聖さんが消える事になってしまう理由が『エターナル・ジェネシス』のせいだという言葉の意味が分からんで」

 問題はそこだ。彼は聖が消えてしまったのは「忘却の短剣(オブレヴィオン・ナイフ)」のせいではないと言った。そしてその後に語られたのはそのデバイスが強力であるという事と、神話のちょっとした修正話だ。はやての求めていた答えは、まだ語られていない。

「……言いましたよね? ジェネシスは自分の力を行使する事を忌み嫌っていた。そして転生した自分もまたその力の恐ろしさを理解してくれるとは限らない。だからその力を使用しなければならない状況となってもその力に溺れる事にならないよう、『エターナル・ジェネシス』本体にもある魔法を掛けた。それが、『エターナル・ジェネシスを使用しそのセットアップを解除した瞬間、転生魔法が起動しジェネシスが転生する』というもの……」

 アトラが全てを言い終わる前に、はやてはシュベルトクロイツをその手から離してアトラの胸ぐらを掴んでいた。
 焦っていた。自分の知っている彼なら、充分にありえる内容の話だから。そして、心のどこかで「まだ間に合うかもしれない」と思っていたから。

「なあ、あんた神さまなんやろ!? だったら何とかしてや! このままじゃ……このままじゃフェイトちゃんが可哀想過ぎるやんか!」

 アトラの胸を、その握り締めた両手で何度も叩きながら叫ぶ。
 ……慟哭と言うに等しい叫びで。

「……先程から、何度も言っているように私達は決して……神ではないんですよ」

 だが、申し訳なさそうな顔と声で返ってきた答えに、はやてはついにその場に崩れ落ちる。

「こんなん……こんなん酷過ぎる! フェイトちゃんが一体何をしたっていうんや! あの子は、あの子はただひとりの人を好きになって、想いを伝えようと一生懸命に頑張って、大切な人を守りたかっただけやんか! こんな……こんな結果、あってたまるか!」

 その慟哭を無言で聞いていたアトラが、そっと口を開いた。

「……貴女が最後の夜天の主でよかった」

「えっ……?」

 そう聞き返すはやての言葉には答えず、アトラは懐に手を入れ、何かを取り出した。

「それは?」

 アトラが取り出したのは、小さく、そして白い宝石だった。それを掴み、光に当てたりしながらはやては何となく、それをどこかで見たことがあるような気がした。

「『キセキのカケラ』……彼はそう呼んでいました」

「奇跡の、欠片?」

 まさかこの宝石が何かの「奇跡」を起こしてくれるとでもいうのだろか。神様ですら無理だと言った事柄を。

「彼っていうんは……やっぱり聖さん……『ジェネシス』か?」

「ええ、本当はペンダントにはまっていたものなのですが、ちょっと色々ありまして『輝石』の部分しか残らなかったんです」

「なるほど、『奇跡』じゃなくて『輝石』の欠片か」

 ややこしい……はやてはそう思わずにはいられなかった。だが、アトラの言葉ははやてのその考えを否定する。

「いいえ、これは私の誕生日に彼から貰ったものなのですが、その時からすでに彼はこれを『キセキのカケラ』と呼んでいました。彼が言うには、『キセキを持ってキセキを刻め。そうすればキセキとキセキは重なり合ってキセキを生む』……との事なのですが」

「……一体何の謎掛けや?」

「さあ、そこまでは」

 そう言ってアトラは両の手のひらを空に向け、お手上げのポーズをする。

「ですが、彼がくれたものですからきっと何か意味があるのでしょう。唯一、真の意味での『予知』が出来た人ですから」

 その言葉にはやてはちょっとした違和感を覚える。

「ちょっと待ちや。何言ってるんや、あんただってうちに予言めいた事を何回か言ったやんか。それに『夜天の書』だって似たような事をしてうちを助けてくれたで?」

 だが、アトラはその言葉に少し困ったような顔を浮かべてから、

「はやてさん、『予言』と『予知』はまったく別物ですよ」

 と答えた。

「どういう事や?」

「……未来を知りうる情報源には、三つのパターンがあります。ひとつは『先見』。実際に未来を見る力を持った者が夢等を通して未来を知る事です。これが真の意味での『予知』となります。二つ目は『命題』。いうなれば未来の出来事に『運命』として何かを『創造』し、その事を伝える。実際には伝えた本人が作り出した決められた道すじに過ぎませんが、その事を知らなければこれも立派な『予知』となります」

「『創造』……」

「お察しの通り。彼が『予知』が出来ると言った理由はここから来ています。彼が『創造』出来たのは何も物質的なものだけではない。『運命』といった精神的なものも『創造』出来ていました。まあ、流石にそこまでやると魔力の消耗が激し過ぎるのでやった事はなかったみたいですが」

 何とか理解は出来た。確かに前者の『予知』が出来ていたのならば「アルハザード」が消滅してしまうほど大規模な争い自体起こらなかったはずだし、後者の能力にしてもその力を簡単に行使できたのならあっという間に治められたはずなのだから。

「それじゃあ、三つ目は?」

「三つ目は『統計』。過去に起こった出来事、事実から導き出す、いわば当たり外れもある『確率』的な『予知』……この場合こそ、『予言』といった方が良いかもしれませんね。『知っていた』事ではないのですから。ここで思い出して欲しい事がひとつ……『夜天の書』の本来の使用目的は何でしたか?」

「あっ……」

 各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた「収集蓄積型」ストレージデバイス……それが「夜天の書」の、真の姿だったはずだ。

「お察しの通り。『夜天の書』が記した内容は、過去に書が収集した情報から元にはじき出した『限りなく確率の高い』出来事に過ぎません。天気予報などと同じだと思って下さい。そして私が持っていた『蒼天の書』は『夜天の書』の姉妹書です。同じ能力があっても、不思議ではないですよね?」

「で、でもこの『夜天の書』は前の『夜天の書』がなくなってしまったから、うちが同じ能力を持ったデバイスとして新たに創造しただけに過ぎんのやで!? 現に『夜天の書』は半分以上がまだ白紙なんや」

「……これは推測ですが、はやてさんの中にまだ過去の『夜天の書』の魔力が残っていたのではないでしょうか。それが新たな『夜天の書』を作成する時に流れ込んだ。そのお陰で全てではないにしろ、過去に収集した情報が流れ込み、私……正確には私の持っている姉妹書である『蒼天の書』が近付いた為、その情報がページに記され始めた……」

「……!?」

 はやては自分の周りに漂っていた夜天の書を手に取り、そっと抱きしめた。

「リィンフォース……あんたは、旅立ってもまだまだ未熟なうちを助けてくれとるんやな」

 ほんの少ししか触れ合えなかった家族に、はやてはそっと語りかける。その瞳に、涙を浮かべて。

「蒼天の書もありがとな。リィンフォースはいいお姉さんがいたんやな……あれ? 妹やろか?」

「一応『蒼天の書』の方が後に作られたので妹、になると思いますよ」

 はやての素朴な疑問に、アトラは苦笑を浮かべながら答えていた。

「そうなんや? まあ、どっちでも良いけどな」

「貴女らしいですね……はやてさん、先程宣言したとおり、『蒼天の書』は貴女に差し上げます。そして、『キセキのカケラ』も。貴女なら……貴女達なら、きっと、その『キセキのカケラ』を彼が望んだ使い方をしてくれるはずですから」

「え?」

 そう言い残し、アトラはどこかに飛び去ろうと宙に浮かんだ。それをはやては慌てて止めようとする。

「ちょ、どこに行くつもりなんや!?」

「……私の目的は、達成しましたから。それに、思わぬ収穫もありました。これで安心して……自分のやるべき事を遂行できます」

「やるべき事……やて?」

 はやての頭に創世神話の一説が浮かぶ。「破滅」の神の、その存在意義を。

「……!? ま、待ってや! あんたまさか……」

「………」

 アトラは答えない。どこか寂しげな表情ではやてを見つめていた。

「……私を、止めて下さいね……『はやてお姉ちゃん』」

「っ! ジェノくん!」

 ほんの数時間前、じゃれあっていた時の呼び名で呼ばれはやても思わず彼の事をそう呼んだ。

「……そう、ですね。その呼び方は私の方がふさわしい……近い未来、再びであった時は、そう、呼んで下さい」

 最後にそういい残し、アトラはその場から幻のように消え去ってしまった。
 残されたはやては混乱する頭を抑えながら、その場に座り込む。

「何でや……助けてくれたり、滅ぼそうとしたり……一体、何が目的なんや! なあ、答えてや!」

 再びはやての口から叫ばれる慟哭。そして、その慟哭に答える者が……いや、二冊の書がいた。

「え?」

 淡く発光する、夜と蒼の二冊の書。その光に導かれるようにはやてが触れた瞬間、混乱していた頭にある情報が流れ込んできた。

「な、何やこれは……!?」

 それは、到底信じられない内容であった。彼は、そんな素振りなど、微塵にも見せていなかったからだ。

「いや、違う……そうか、だか、ら……」

 少しだけ見せた、彼のちょっとした違い。微かに見せたその片鱗が、書が教えてくれた事が真実だと語る。

「そんな……何なんやそれは! あんた自分で言ったくせに! 『自分は神じゃない、人間だ』って、言ったくせに! なのに何で……なんで全て背負い込もうとするんや……」

 そんなはやてに、二冊の書はそっと近付く。まるで、何かを訴えるかのように。
 そしてはやてはそんな二冊の書の思いが分かるかのように、そっと呟いた。

「……ああ、分かっとる。止めなあかん、あの子を……でも」

 はやては立ち上がる。その手に握り締められた白い輝石を見つめる瞳に、もう涙は浮かんでいない。
 代わりに、浮かんでいたのは……、

「止めるのはうちやない……うち以上に、強い力と、心と、信念を持った人……一人じゃ足りない……多ければ多いほどいい……そう」

 決意を秘めた、力強い瞳。

「神と、その伴侶たるうちを止めてくれる、『部隊』のような、強い絆で結ばれた組織!」

 そう、自分は止めるのではない。協力するのだ。それが、ここまでお膳立てしてくれた彼への、最大限の礼。
 はやてはそっと視線を移した。
 自分達を止める側に回ってくれる、金色の髪を持つ少女に。
 一回大きく深呼吸を行い、はやては今見つけましたと言わんばかりの声で、その名を叫んだ。

「フェイトちゃん、フェイトちゃん! しっかりしいや!」


 ……真実を知れば、きっと自分は彼女に嫌われる……いや、恨まれるだろう。
 それでも、構わない。
 だって、これは……。
 自分の意思で、決めた事なのだから。

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 今週末にある「リリカルマジカル4」に参加する為、色々準備で忙しいですw うちの発行誌の情報は上部にある合同サイトよりどうぞーw

 さて、今回UPのはやて編Ⅳですが、このA→Sシリーズのある程度の謎が解明された分、また新しい謎も追加しておりますw ここら辺はこのA→Sシリーズの次の長編で回収予定ですw
 ……忘れていなければ(マテw
 では次回、はやて編最終話でーw

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