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魔法少女リリカルなのはA→S 第十七話 ~Side HAYATE Ⅴ~

「……主、ただいま戻りました」

 仕事を終え帰ってきたシグナムの声が家の中に響く。はやてはキッチンで朝食の準備をする手を止めずにその声に答えた。

「ああ、シグナム。おかえり。夜勤お疲れさん……フェイトちゃん、どうやった?」

 シグナムの顔が見えると同時に、はやてはその名を口にする。彼女が暇を見つけてはフェイトの元に向かっている事を知っているからだった。きっと自らが認めたライバルの事が気になってしょうがないのだろう。

「正直、あんな腑抜けたテスタロッサは見るに耐えます」

「あはは、シグナムは相変わらず厳しいなあ」

 はやては苦笑でそう答えながら、胸に走る痛みに耐えた。
 しょうがないのだ。元よりシグナムは「彼」との交流は希薄だったし、そもそもあの事件にはまったく関わっていない。だから、その台詞を呟いても、文句は言えない。

「しかし、一体何であんな風になったのか皆目検討もつかないのですよ。尋ねても要領の得ない返事ばかり……一体どうしたというのだ、テスタロッサは」

 少し苦々しげに呟く、シグナムのその台詞には。


(……とはいえ、このまま放っては置けんな)

 朝食後、自室で古い書物に目を通しながら、はやてはそんな事を考えていた。はやての前の本棚の一角には「蒼天の書」が表紙前にして置かれている。まるで今はやてが読んでいる書物の意味を理解しているように、じっと佇んでいた。
 「夜天の書」も「蒼天の書」もあの日以来発光したりページが増えたりという事は起こっていない。まるで何かを待っているようにはやての傍にあった。
 これからはやてが行おうとしている事は、恐らく八神家にとって色々な意味で大きな変化をもたらす出来事になる。だから雑念を捨て、集中して取り組みたい事であった。
 その為には……、

「うちが何とかするしかないな」

 きっと、「神の伴侶」という存在だからなのだろう。何故かあの時の、そして彼の記憶が残っている、フェイトを除いた唯一の存在である、自分が。

「ん……?」

 はやてのケータイの着信音が鳴り響き、はやての意識がそちらに傾いた。手を伸ばして掴み取り、相手を確認する。

「……クロノくん?」

 珍しいな、とはやては真っ先にそう感じた。
 配属が違うからか、それとも遠慮をしているのか、クロノがはやてに直接電話を掛けてくる事は滅多にない。用件は大概フェイトを通してはやてに伝わってくる。
 まあ、今はフェイトがあんな状況であるから、直接話をするしかないのだろう。

「もしもーし、はやてですけど?」

「……知っている。君のケータイに掛けて他の人物が出たら問題あるだろう」

「うちのみんななら可能性あるで」

「まあ、そうだな……って、世間話をする為に電話をしたわけではないのだが」

「クロノくんは素なのか計算しての行動なのか時々分からんわ」

 前者の確率が高そうではあるが。

「ところでどうしたんや? クロノくんがうちに直接電話なんて珍しいやん」

「……ああ、実はひとつ頼みたい事があってな」

 そう言ってクロノは小さくため息を吐いた。

「今フェイトの調子が少々悪い事は知っているよな?」

「……ああ、シグナムがよく通っとるからな、様子はよく聞くわ」

 正確には、その原因も。

「そうか、彼女に礼を言っといてもらえないか?」

「あはは。おっけー、承りました」

「それで、そのフェイトなんだが……実は僕と母さん、今回の執務官試験の試験官を任されていて、昨日から本局にいるんだ。だがフェイトがあんな状況だからどうも心配でね……いや、心配しているのは母さんで僕はそんなに気にしてはないのだが……まあ、そんな感じでアルフ一人じゃどうも荷が重い気がして。エイミィには僕達が抜けた穴を埋めてもらう為『アースラ』に搭乗してもらっておかないといけないし。それで申し訳ないのだが、僕達が帰るまで時折でいいから君にフェイトの様子を見て欲しくて……」

「ちょ、ちょっと待ってや!?」

 クロノの頼み事に対する答えでも、彼が照れながら付け加えた言葉に対するツッコミでもなく、はやては驚きを交えた声を上げる。

「どうかしたのか?」

「どうかしたって……今何て言った?」

「え? いや、だからフェイトの様子を……」

「そこやない! その前や! 今執務官試験が何とか言ってなかったか!?」

「あ、ああ、言ったが?」

「……もしかして、今日執務官試験の日なんか!?」

 何故はやてが声を荒げているのかを理解したのだろう。クロノはたっぷり十秒後、静かに答えた。

「ああ、そうだよ。今日が執務官試験の初日だ……フェイトも受けるはずだった、な……」

 はやてはその言葉を最後まで聞かずに通話を切り、玄関に向かって走り出した。


「あれ? はやて? どうかし……」

 子犬形態で出迎えたアルフを押しのけ、真っ直ぐにフェイトの部屋に向かうはやて。その雰囲気を察したのか、アルフが人型形態になって慌てて止めに入る。

「ちょっと、待っておくれよ! 今のフェイト、何だか分からないけどすごく心が乱れてるんだ、そっとしておいてやってくれよ!」

 はやての進行方向に立ち塞がり、威嚇するような目でアルフは睨みつけてきた。だが、その獣のような鋭い眼光にもはやてはまったくたじろがない。

「……アルフ、あんたこのままでいいと思っとるんか?」

「………」

「フェイトちゃんとダイレクトに心が繋がっとるんやろ? だから、フェイトちゃんの今の心は分かる。だけど……」

「……ああ、分かんないんだよっ! その理由が! なあはやて、『お兄さん』って誰なんだよ!? アタシは、アタシは今までずっとフェイトと一緒にいた! でも、アタシの中にはその人に関する事がまったくないんだ! フェイトの心にあんなに染み込んでて、フェイトがあんなになるくらいまでの存在だったっていうのに、ずっと一緒にいたアタシが……心が繋がっているはずのアタシが分からないんだよっ! なあ、はやて、知ってるなら、お願いだから教えておくれよ! アタシだって……アタシだってあんなフェイト、見ていたくないんだよ……」

 そう叫びながら泣きじゃくるアルフの頭を、はやてはそっと撫でた。
 アルフは……悔しいのだ。今までフェイトの事を一番に考え、命を掛けて仕えてきた。「主と使い魔」という関係を超えた「信頼」という絆の元に。
 だから、慰めたくてもその方法が分からず、時折流れてくるその悲しみの根源を理解出来ず、こうやって見守る事しか出来ない自分に苛立ちと無力感を感じずにはいられないのだ。
 かつて、自分の為に犯罪に手を染めてくれたはやての家族達のように。

「……アルフ、うちに任せてくれんか? 出来るかどうか分からないけど、うちだって……今のフェイトちゃんは見ていたくない」

 将来的に彼女に担ってもらう役割の為ではなく。
 ただ、純粋に、一人の親友として。

「………」

 その心をアルフは感じ取ったのだろう。子犬形態に戻り、そっと道を譲った。
 そんなアルフに小さく微笑んでから、はやては自分の存在を示すようにわざと足音を立ててフェイトの部屋の前まで歩き、一呼吸置いてから力強く開け放った。

「フェイトちゃん!」

「……はやて?」

 そして、その瞳に飛び込んできたフェイトの姿を見て、はやては思わず息を呑んだ。
 まだ午前中だというのにカーテンを締め切り、電灯も付けられていない真っ暗な部屋。床に散乱する服やゴミ、そしてまったく手を付けられていない食事ののったトレイ。
 そしてベッドには、あの力強くも優しい色に溢れていたはずの赤い瞳を濁らせ、羨ましいほどに綺麗で艶やかだった金色の髪が跡形もなく乱れている少女が、光を失った目でこちらを見つめていた。
 そのあまりの姿に、はやての呼吸は乱れ、肺が酸素を求めて荒い息を繰り返す。そして、徐々に底知れぬ怒りが湧き上がってきた。
 「彼」は、こんな姿を見たくて自らの全てを賭けてまで封印した力を使ったわけでは決してないだろうに。

「……はやて、どうかしたの?」

 そんなはやてを、そして「彼」をあざ笑うかのように、フェイトは覇気のない声で小さく呟く。その声で、はやてはついに我慢の限界を超えてしまった。

「……それは……こっちの台詞やぁっ!」

 自分でも驚いてしまうほどの脚力でフェイトとの距離をゼロにし、左手でその胸倉を遠慮なく締め上げる。

「はやて……苦しいよ」

 流石に抵抗を始めるフェイト。だが、はやてはその力を緩めようとはしなかった。

「こんなところで……こんなところで何し取るんや、あんたは! 今日が何の日か忘れたんか!」

「はやて……?」

「なるんやなかったんか? ……執務官になって、たくさんの人を助けるんやなかったんか!」

 時折、フェイトが自分達に語っていた彼女の夢。はやては天職だと信じて疑わなかった。色々とあってなかなか叶えられていなかったけど、フェイトなら絶対に大丈夫だと理由もなく感じていた。
 だからだろう、はやての心は裏切られたような気がしてならなかったのだ。フェイトはというと、はやてのあまりの迫力に押されたのか、身を硬くしていた。

「……もう、無理だよ。私は……そんな資格なんてない」

 だが、ようやくフェイトの口から呟かれた言葉は、相変わらず覇気のない掠れてしまいそうな声だった。

「何やて?」

「私にはそんな資格、ないって言ってるの。だって、私のせいであの人は消えた。今までの事件だってそう。お母さんの時も、『闇の書』の事件の時もそう。大きな事件には、私がいつも関わっていたじゃない……」

 そこでようやく、はやては気が付いた。
 今のフェイトは、思考が限りなく、そして常に悪い方向へと向かうようになってしまっている。自己嫌悪が更に深い自己嫌悪に繋がり、更に自分を卑下していく。そんな最悪の螺旋に迷い込んでしまっているのだ、と。
 どちらにしろ、はやてにとってそれは大きな衝撃だった。はやての知るフェイトは、いつも冷静で常に周囲を見渡し、そして的確な判断をする大人びた女の子だった。だからだろう、そのフェイトがあんなにも年頃の女の子らしい振る舞いを見せていた「彼」になら、と色々とお節介を焼いていたのは。

(人を好きになるって……誰かを想うって、こんなにも人を脆くしてしまうものなんか?)

 今はまだそういう特定の想い人を見つけていないはやては、そう思う事しか出来ずにいた。
 だが、ひとつだけ今のはやてでもはっきりと言える事がある。今のフェイトは、間違っていると。

「私は……きっと、不幸を呼ぶ存在なんだよ。私がいなければ、なのははきっと普通の女の子として一生を送れた。怪我をして、二度と歩けなくなるかもしれない状況になんてきっとならなかった。はやての時だってきっとそう。私が関わったからあんなに大きな事件になってしまった。そして今回は、さらに顕著だった。私がいたから……あの人は……私は……やぱり、私は……」

 だから、その言葉が、その言葉だけは、

「作られた偽者の命の存在である私は、いない方がいいに決まってる!」

 どうしても、許せなかった。

「――っ!」

 乾いた音が耳に響き、はやては我に返った。
 右手が痛い。そしてフェイトの顔が横を向き、左頬が赤くなっている。

(……ああ、今うちはフェイトちゃんを引っ叩いたんか)

 そう気付いた時には、部屋にある時計の秒針が半周はした後だった。
 最初は謝ろうと思った。どんな理由があれ、暴力はいけない事だ。

「いい加減にしいや……」

 だが、その思いとは裏腹に、口から出るのは更なる怒りの言葉だけであった。

「はや、て?」

「甘えるんのもいい加減にしいや!」

 そんなはやての怒りに満ちた声を、フェイトは信じられないといった顔で呆然と見つめている。

「いない方が良かった? 不幸を呼ぶ存在? 誰がいつそんなこと言った!? あんた、うちらを舐めるのも大概にしときや!」

「………」

「なのはちゃんがいつフェイトちゃんに出会わなければ良かったなんて言ったんや! いつ普通の女の子として一生を過ごしたかったなんて言ったんや! 今のあんたの台詞はな、なのはちゃんのあんたへの思いを踏みにじってるも同然なんやで! そんな事も気付かないくらいあんたは馬鹿なんか!?」

「あっ……」

「うちがいつあんたと出会わなければ良かったなんて言ったんや! うちはな、なのはちゃんとあんたには心から感謝しとる! だって二人がいなかったら、うちの子達はもっと罪を重ねていた! うちだって、今、ここには絶対おらんかった! 二人はな、うちら『八神家』全員を救ってくれた恩人なんやで! あんたはそれすらも踏みにじるつもりなんか!?」

「あ……あぁ……」

「もう一人の事は、うちにも分からん! でも、その人はフェイトちゃんに会って、一度でも不幸になったって言ったんか!? 出会わなければ良かったなんて言ったんか!? そんな最低な人間やったら、今からうちがぶん殴りに行ったるわ!」

 最期に一つだけ、嘘を吐く。
 本当はその人の事をはやては知っている、覚えている。
 だけどその事をフェイトに知らせるわけにはいかなかった。何故知っているのかと聞かれれば、あの事件の時に自分にあった事、そして彼の事を包み隠さず話さなければならなくなる。
 それでは駄目なのだ。彼のしようとしている事、そしてしてきた事全てが水の泡となる。それだけは避けなければならない。そうなってはあまりにも彼が不憫だ。

「ちが……う」

 少しずつ、フェイトの瞳に精気が、光が戻り始めていた。

「違う! あの人は最後に言ってくれた! 私の事が、大好きだったって! はっきり言ってくれたよ!」

 ようやく聞けた、生気のある声。それに呼応するかのようにはやても声を張り上げる。

「なんや、過去形やないか! そりゃそうやろうな! こんなところでひとり落ち込んで何もしようとしない陰険な女の子なんか、嫌われて当然や!」

「――っ!」

 背筋が凍ってしまいそうな、鋭い視線にはやては一瞬言葉に詰まりそうになる。だがそれを何とか堪え、知っている限りの、自分でも嫌になりそうな辛辣な言葉を並べる。

「なんやその目は! 否定できるんやったら否定してみいや! あはは、それともその人、単なる幼女趣味(ロリコン)やったかもれへんな! 陰険な子には変態さんがお似合いや!」

 そしてその言葉に、ついにフェイトはキレた。

「私の事はいい! だけど、あの人の悪口だけは……絶対に許さないからぁっ!」

 その後はひどい有様だった。部屋は滅茶苦茶になり、二人とも揉みくちゃになりながらもその手を止めようとしない。髪の毛ははねっ返り、服はシワだらけになり、お互いの頬に紅葉のような形をした赤い跡が残る。
 はやては喧嘩の最中に扉の向こうに人影を感じた。恐らくアルフだ。本当は部屋に飛び込んでフェイトに加勢したいところを、必死で堪えているのだろう。そんなアルフの心配りに感謝しながら、目の前で鬼のような形相で自分に襲いかかってきている少女に意識を集中する。

(こっちは完全に後衛型なんやから少しは手加減して欲しいわ……)

 などと心の中で苦笑を洩らしながら。

「あああぁぁぁっっっ!」

 雄たけびのような声をあげ、はやてはフェイトを机に貼り付けるように押し付ける。フェイトは逃れようと必死でもがき、抵抗していた。そこに間髪入れずはやては怒鳴るような声を上げた。

「大好きやったんやろ!? あんたは、その人の事、本当に大好きやったんやろ!?」

「そうだよ! 本当に大好きだった! だからいなくなって、こんなに辛くなってるんじゃない!」

「その人も言ってくれたんやろ! あんたの事が、大好きやったって!」

「言ってくれたよ! だからこんなにも悲しんでるんじゃない!」

「だったらなあっ! 言えるんか、今のあんたに! 自分は、その大好きだった人が好きになってくれた相手なんだって、胸を張って言えるんか!?」

「なっ……!」

 はやての叫びに、フェイトの表情が変わる。

「言えんやろ!? 言えるはずないないわな! 自分でも認めたくらいや! さっき言ったよな! 『私の事はいい! でも……』って! 自分でも分かってるんやないか! 今の自分が、どんな姿なのか!」

「うっ……」

 フェイトの言葉が詰まり、そして全身から力が抜けていっているのをはやても感じ取った。

「何でその人に誇らせてやろうと思わんのや!? 『僕』が好きになった娘は、あんなにも強くて、立派な魔導師の女の子なんだって!」

 興奮のあまり、はやては思わず彼の一人称を口にしてしまったが、はやてもフェイトも気が付いていなかった。

「うぅ……」

「辛いかも知れへん! 悲しいかも知れへん! だけど、その人が本当に好きだったんやったら、自分もその人が好きでいてくれた女の子でいてやれや! だから……」

――いずれ、すべての事を話す時が来るから。

――自分は、どんなに嫌われようとも構わないから。

――だから、今は、今だけは!

「気張って……歯を食いしばって……今は立ち上がれ! フェイト・T・ハラオウンッッッ!」

 何も語れるもどかしさと悔しさに涙を浮かべながらも、はやては精一杯の思いを込めてフェイトに言葉を伝える。
 そして、フェイトはその思いに答えるように、その瞳に昔と同じ……いや、昔以上の、光を携えた。

「……ごめんね、はやて……そして、ありがとう」

「フェイトちゃん……」

 フェイトは勢いよく立ちあがると、机の上にあった鞄をつかみ取り、手当たり次第に筆記道具や文房具を詰め込む。

「はやて……私、行ってくる! 絶対に合格して見せるから……だから、その……」

「ほら、何してるんや! さっさと行って合格してくるんやで! そして終わったら……ちゃんと仲直りしような」

「あ……うんっ!」

 はやての言葉にフェイトは久しぶりに満面の笑みを見せて部屋を飛び出した。

――フェイト!

――アルフもごめんね。私……試験に行ってくるから。

――あ、ああ! フェイトなら絶対大丈夫だよ! さくっと合格しておいで!

――うんっ!

 そんな会話を耳にしながらはやてはその場に座り込んだ。

「あたた……あはは、こんな真剣な喧嘩したの初めてや……出来ればもうしたくないなあ」

 悲鳴を上げる全身に苦笑しながら、はやてはそんな事を呟いていた。


 数時間後、はやては本局に向かった。ちょうど執務官試験の終るタイミングだったようで本局はいつも以上に人で溢れ返っていた。
 フェイトの姿を探し、辺りを見回すはやて。そして試験会場の入口あたりでクロノと一緒にいるところを発見し、近くに寄った。

「……執務官を目指す以上、遅刻は厳禁だし身だしなみにも気を使うべきだ。今日の事は確実に二次試験でのマイナスになると思っていた方がいいぞ」

「はい、わかっています」

「……ならお説教はここまでだ。家でゆっくり休め」

「はい」

 クロノはそう言って一度はやてに目配せをした後、はやてのいる方向とは逆に歩いていった。

「……ふぅ」

「……お疲れ、フェイトちゃん」

 小さなため息を吐くフェイトに、はやてはそう労いの言葉を掛けた。

「はやて? どうしたの?」

 先程と同じ台詞だったが今回は違い、フェイトの瞳にはもう何もかも絶望したような色を携えてはいなかった。その事にはやては素直に安堵する。

「お迎えに来たんよ。流石にあの喧嘩の後じゃ終わった後はきつやろうと思ってな」

「あはは……うん、そうだね。ちょっと……疲れたかな」

 そう言ってフェイトははやてに倒れ掛かってくる。はやては慌ててフェイトを支え、その安らかな吐息を聞きながら、はやては近くにいた数人を捕まえてフェイトを医務室に運ぶ。
 そしてベッドにフェイトを寝かしつけた後、その胸のペンダントをフェイトに気付かれぬよう、そっと外した。

(いつか、その想いを、うちが必ず届けさせてやるからな)

 どこにいるかは分らない。だが、彼は確実に新しい存在に転生をしているはずだ。それをはやては知っている。
 はやてはポケットから小さな輝石を取り出した。それはあの日、「蒼天の書」と共にアトラから譲り受けた「キセキのカケラ」だ。

――キセキを持ってキセキを刻め。そうすればキセキとキセキは重なり合ってキセキを生む。

 その意味ははやてには分らない。だけど、自分が持っているよりはフェイトが持っていた方がいいような気がした。
 何しろ、この輝石の本来の持ち主は、フェイトを「神の伴侶」とした人物その人なのだから。
 はやてはペンダントの宝石のレプリカを取り外し、代わりにその輝石を嵌めた。何かの悪戯か、色も大きさも全く一緒だった為フェイトに気付かれる可能性は低いだろう。
 そして、はやてのこの行動が誰もが予想だにしなかった事態になる事に気付いた者は、まだ一人もいなかった。


「……嘘、信じられん」

 思わずそう呟くはやて。だが無理もない。
 何しろあんなに手こずっていたはずの新たなデバイス……「蒼天の書」を媒体とした新たなユニゾンデバイスの構築に、フェイトの件が終わった途端驚くべきスピードで終了し、後は魔力を送り込むだけ、という状態にまで至ったからである。

「ま、まあ完成が早まった事はええ事やな、うん」

 そう自分に言い聞かせ、庭へと繰り出す。その途中リビングにいた守護騎士(ヴォルケンリッター)に声を掛け、新たな家族の誕生を知らせると全員庭へとやってきた。
 ちなみに「蒼天の書」の事は本当の事は言えなかったので、はやては「夜天の書」の分冊であると説明していた。「夜天の書」と守護騎士(ヴォルケンリッター)はダイレクトに繋がっている為ばれないか冷や冷やしたが、どうやら大丈夫だったようだ。

「それじゃあ……いくで」

 みんなが見守る中、はやては庭にあらかじめ描いていた魔方陣の真ん中に「蒼天の書」を置き、自らの魔力を送り込む。
 「蒼天の書」が淡い光に包まれた途端に、はやては魔力が一気に抜けていく感覚に襲われた。Sランクを超える程の魔力を所持していてもさすがにデバイスの作成という行為はかなりきついとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
 だがはやては歯を食いしばって踏ん張る。
 彼から譲り受けた「蒼天の書」を無駄にしない為に、そして新たに生まれる家族の為に。
 それから数分後、淡い光を放っていた「蒼天の書」がその光を終息させ、同時に魔力を吸い取られるような感覚もなくなった。

「……ふぅ」

 思わずため息を吐きながらその場に座り込むはやて。そんなはやてに守護騎士(ヴォルケンリッター)は我先にと寄ってくる。

「主、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫やでシグナム。それより……ほら」

 そう言ってはやては魔方陣の方を指差す。そこには、銀色の髪と青い瞳を携えた、小さな……比喩ではなく、本当に体調十センチほどの小さな女の子が裸のまま座り込んでいた。
 さすがに予想外だったのか、守護騎士(ヴォルケンリッター)は全員唖然とその少女を見つめている。

「……あの、はやて? あれ、失敗じゃないんだよな?」

「ああ、当たり前や。ほら、ヴィータ前に『アタシより年下にしてくれ』って言ったやんか? ちゃんとご希望に添えたようで良かったわ」

「……いや、『年下』とは行ったけど『小さく』とは」

 ヴィータは思わず頭を抑えたが、すぐに「まあいいか」といった感じで新しく出来た家族に向かって歩いていった。

「ほら、いつまでもそんな格好じゃあ風邪引いちまうぞ。こっちに来い」

 顔はぶっきらぼうであったが、その言葉には優しさが溢れていた。そして、そんなヴィータの言葉に答えるように初めて口にした言葉は、

「……お腹空きました」

 自分の欲求を伝えるものであった。

「……はあ?」

「ふえぇ、お腹が空いたのです……」

「ちょ、おい、泣くなよ!?」

 鉄槌の騎士ヴィータも泣く子には勝てず、ただおろおろとするばかり。その様子を見ていた他の面々は全員……あのザフィーラですら、その顔に笑みを浮かべていた。

「はやてちゃん、あのこの名前、もう決まっているんですか?」

 微笑ましげにその様子を見ていたシャマルが、はやてにそう尋ねてきた。

「ああ、もちろんや」

 間髪入れず頷くはやて。

「あのこの名前は、ひとつしか思い浮かばんよ。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース……その、二代目」

 彼女と同じ名前にして、彼女とは違う存在である事を示すその名を、はやては皆に伝えた。

「リィンフォース……ツヴァイ」


「……あれから、もう八年か」

 淡く光る「夜天の書」を抱きかかえながら、当時を振り返るはやて。
 あれから、本当に色んな事があった。特にはやてにとって大きな収穫は、この一年自分が率いてきたこの部隊、機動六課。
 あの時求めていた、自分達を止めてくれるであろう「力」は、ようやく実を結んだ。そしてそれを待っていたかのように、時を知らせる「夜天の書」の輝き。
 そう、これは「命題」なのだ。これから始まる、はやてと「彼」しか知らない、世界を賭けた……命題。
 その始まりを告げるのが、「夜天の書」の隠された使命。きっと彼は、自分には伝えてくれないだろうから。
 リィンフォースツヴァイ、一番新しい、そして特殊な生まれ方をした家族。公式では彼女の持つ「蒼天の書」は「夜天の書」の文書となっているが、実際には姉妹書ではあるがまったくの別物だ。その事を知るのは、自分と「彼」……もしかしたら、リィンフォースツヴァイ自身も気が付いているかもしれないが。
 そしてあの日より続けてきた嘘……きっと、これは、きっと許されはしないだろう。はやてはフェイトが復活した後もしばらく「お兄さん」が存在していたという証拠を求めて探していた事を知っていた。自分の心の中にある思い出だけでは安心できなかったのだろう。その気持ちは痛いほど理解出来た。
 だが、その証拠になる事は出来なかった。あの事件の裏側に関わっていた事は、まだ知られるわけにはいかないのだ。あの日以来、フェイトに会う度にその事がはやての胸を締め付けたが、今はもう慣れた。そうする事が、もっとも最良な選択肢なのだと言い聞かせて。
 結局、フェイトは暫くしてから落ち着いたようだった。何があったかは分からなかったが、彼女が纏うバリアジャケットが変わったところを見ると彼女の愛機、バルディッシュ辺りが覚えていた可能性が高い。デバイスであり、フェイトと繋がりの深いバルディッシュならありえない話ではなかった。
 そんなめくるめく思いを糧に、ついに始まるのだ。

「……それじゃあ、始めようか? 言っとくけど……強いで、うちの自慢の、部隊のみんなはな」

 誰に宣言するとも知れず、はやてはそう呟いてその顔に満面の笑みを浮かべた。

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 多分この「A→S」シリーズの中で、はやて編だけは色々謎が残っているかと思いますw まあ早い話、「A→S」シリーズは後一話で終わるのですが、その後……という意味ですw
 さて、実は18日にあります「リリカルマジカル4」にサークル参加する予定ですw 場所は「な26」です、予定にある方がいたらぜひ足を運んでくださいませw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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