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魔法少女リリカルなのはA→S 第十八話(最終話) ~Side HIJIRI~

 倉瀬聖には過去十年程の記憶が欠落している。そしてその事実を知るものは少ない。
 だが無論全ての記憶を失っているわけではなかった。生活する上で必要な基礎常識はあったし、何故かお菓子に関しては非常に興味を惹かれた。だから「シルフィス・ラスタ」と言う名前のお菓子屋を立ち上げたし、喜ばしい事にその経営も軌道に乗ってくれている。
 だが、同時によく分からない記憶もあった。例えば、たくさんの愛くるしい動物。一部はミッドチルダでも見受けられる動物だったがそれ以外のものもたくさんいた。気になって調べた結果、どうやら九十七管理外世界の「地球」という世界の動物のようだった。
 どうしてその世界の動物の記憶があるかは分からない。順当に考えればその世界の生まれなのだろうが、どうやらその世界にはこの世界の常識である「魔法」に関する知識がないらしい。そうなれば当然、転移装置といった世界を股に掛ける手段もない、という事だ。それに管理外世界は特に行き来が厳しく制限されている。つまり、どうやってこの世界に渡ってきたのかという問題が発生するわけだ。
 そして、何故か異様なまでに印象に残っている記憶が二つあった。ひとつは、妹のように可愛がっていた、金髪の少女の存在。
 確か、ちょっと感情表現の乏しい、でも優しく友達思いの可愛らしい少女だったと思う。
 その少女がどのような存在だったかまでは思い出せない。自分は黒髪だし血の繋がった妹、という線は薄いだろう。それもまた、疑問であった。
 そして、もうひとつ……。


「もう、店長さんちゃんとアタシの話聞いていました?」

「……うん?」

 少しご機嫌斜めな様子でカウンター越しに話しかけてくる女性に、もの思いに耽っていた聖は思わず間の抜けた声を返してしまった。

「やっぱり聞いていなかったんですね」

「あ、あはは、ごめんね、レイリアちゃん」

 完全にご機嫌斜めとなってしまった女性……レイリア・シュトゥールに聖は苦笑いを浮かべてそう答える。

「もう、レイリアちゃん。あなたと違って店長は今お仕事中なの。それと、カウンターに肘を付くものじゃないわよ、年頃の女の子がはしたない」

 そう言ってレイリアを嗜めるのはこの「シルフィス・ラスタ」の店員にして彼女の義理の姉、ライカ・シュトゥール。すでに亡くなったレイリアの兄の奥さんだった、とは聞いていたがそれ以上の事を聖は聞いていない。
 立ち入った話に踏み込むのは失礼だと思ったし、何故か、その事を知っているような気がしてそんなに気にはならなかったからだった。

「お仕事に戻らなくて大丈夫なの?」

「うん、今日の現場はここから近いからね。でも『機動六課』が解散してロスト・ロギア関連の仕事がこっちにも舞い込んでくるようになってきたから最近は少し忙しくなってきたかな」

「大変だね、教会騎士団っていうのも」

「そうなんですよ! 大変なんです! という事で、疲れが取れるような甘いお菓子が食べたいなあ、とか思うのですが」

 その言葉に聖は笑いを堪えながら、新作のケーキの試食を彼女にお願いする事にした。

「すみません、催促しちゃったみたいで」

「みたい、じゃなくてしていたわよ、もう……」

 義姉のため息を何のものともせず、レイリアは嬉しそうにケーキの乗った皿を受け取って店内に設置されているテーブルに向かった。

「誰もいないからってはめを外したりしないでよ、あなたは一応『騎士』の肩書きを持つ人間なんですからね」

「分かってるよー」

「……本当に分かっているのかしら」

 そう言ってため息を吐くライカ。その様子を微笑ましげに見ていた聖だったが、ふと先程のレイリアとのやり取りが気になり始める。

「そういえばレイリアちゃん、さっき僕に何を話そうとしてたの?」

「話そうとしてた、じゃなくて話していたんですけどね。いや、そういえば知らないなあと思っただけですよ、聖さんの……」

 そう、それが自分の中に残っている、もうひとつの記憶だった。


「あの……四歳ってどういう意味なんですか?」

「そのままの意味。だって僕、二月二十九日生まれだからね」

 聖の言葉に、不思議そうな顔で返してきたのは今この場にいる妹的な三人の中で一番仲が良い、フェイトという少女である。

「へぇ……聖さんってうるう年生まれなんですか? しかもちょうど二十九日生まれとか凄い確率やないですか」

 そう言って一番のってきたのは順番で言えば一番最近知り合いになった八神はやてという少女。初めて会った頃は車椅子に乗っていたが、今は多少の距離なら歩けるらしく今もここに来るまでは乗っていたそれは入り口の邪魔にならないところに置かれ、本人はお店に設置されている椅子にきちんと座っていた。

「成る程、聖さん今十六歳だから四で割って四歳。て事は再来週でえっと……四.二五歳?」

 最後は今四人がいる喫茶店「翠屋」のオーナーの娘で、ここで長くアルバイトをしている聖にとっては一番付き合いの長い少女、高町なのは。他にもアリサ・バニングスと月村すずかいう少女もいるが、残念ながらこの二人は用事があるらしくこの場にいなかった。

「あはは、うん、そうなるね。という事で実は僕、みんなより年下なんだよ」

「だったらうち、『聖さん』やなくて『聖ちゃん』とでも呼んだろうかな?」

「やってみるかい?」

「……すみません、流石に恥ずかしくて無理です」

「あはは。はやてちゃんが負けるなんて珍しいね」

 ちょっとした悪戯をあっさりとかわされた事とその場面を想像した事がダブルできたのか、はやては少し頬を染めて苦笑を浮かべながら俯いた。

「………」

「フェイトちゃん? どうかした?」

「え?」

 先程から何も話さずに呆然としていたフェイトに、聖は気になって声を掛ける。だがフェイトはすぐに貼り付けたような笑顔を浮かべて、

「な、何でもないです。あの、お兄さん。何かお勧めのケーキ、もらえますか?」

 一年程前に、一緒にデパートに買い物に行ってから変わったその呼び方でフェイトは慌てて取り繕う。その姿を不振に思いながらも、聖は今日の朝作った試作品の試食を頼む事にした。
 その間、三人の席で何やら盛り上がっていたようだったが、何故か聖がその事を尋ねると妙に余所余所しくなって話をすり替えようとする為その内容は聞けずにおり、年の差等の関係でしょうがないのかなと思いつつも少々……寂しかった。


「……と、いう事なんだけど大丈夫かな、お父さん」

「ああ、その日は特に大きな予約は入っていないし、大丈夫だろう」


「……と、いう事なんだけど」

「ええ、分かったわ。頑張ってねフェイトさん」

「……あの、さ」

「……何も言うなエイミィ。僕達も絶対に借り出されるから」


「……というや。みんな、協力したってな」

「まあ、あのにーちゃんには世話になってるし、アタシは協力するよ」

「お前の場合は特にな、ヴィータ」

「私も協力は惜しみませんよ」

「………」


 二月二十八日。倉瀬聖の誕生日の前日。
 といってもこの年はうるう年ではないので日付が聖の誕生日を示す事はない。日が変わると、その日は三月一日である。

「ありがとうございましたー」

 聖はその日もいつもの通り「翠屋」でのアルバイトに精を出していた。誕生日だからといって特に何かするわけでもない。親しい友人に昼食を奢ってもらえたし、それで充分満足だった。

「聖くん、お疲れ様」

「あ、店長、お疲れ様です。ようやくピークタイム終わりましたね……」

 時刻はすでに午後二時過ぎ。残っていた女性二人の客一組を送り出すと、奥で厨房の片付けをしていた「翠屋」店長の高町士郎がそう言って声を掛けてきた。

「それじゃあちょっと休憩に入りますね。終わったら夕方用のプリンを作りますので」

「ああ、聖くん、ちょっと待った。今日はもう上がっていいよ」

「へっ?」

 その言葉に聖は思わず間の抜けた言葉を返してしまった。今日は確か一日シフトのはずだ、しかも欠員が出てしまったからとつい三日前にお願いされての急遽シフト。

「いや、実はね、夕方から貸し切りの予約が入ったんだよ。人数はそう多くないし、私や桃子達だけでも何とかなりそうでね。今回は急遽シフトだったし今日はもうゆっくりしていいよ。あ、お給料はちゃんと一日分付けてあげるから心配しなくてもいいから」

「いえ、流石にそれは図々しいような……」

 しかし折角の厚意だ。素直に甘える事にし、予定より大分早い帰宅をする事にした。

「とはいってもバイト入れていたから特に予定はないし、どうしようかな?」


「……なのは、これでいいのかい?」

「うん。ありがと、お父さん。これで作戦その一『聖さんの夜の予定を空けさせる』達成♪」


 最終日とはいえそこはやはりまだ二月。昼間と言えどまだまだ肌寒い。商店街をうろついていた聖はポケットに手を入れて家路を急ぐ事にした。その途中で「翠屋」とは別の洋菓子店を見つけ、思わず足を止める。
 日付にはならないとはいえ一応誕生日なわけだし何かケーキでも買おうかな、と考えたのだ。流石に自分で作ったのでは味気ないし、「翠屋」で買うのは気恥ずかしい。
 ほんの少しの黙考の後、聖はその洋菓子店に足を踏み入れた。が、

「あ、申し訳ありません。本日は売り切れの為もう閉店でして……」

「はい!?」

 聖は思わず腕時計で今の時刻を確認する。時計が示す時刻は午後の四時。いくら何でも早すぎはしないだろうか。

「実は先程男性のお客様が来て夕方から出すはずだった分も全てまとめて買われていったんですよ。どこかで百人単位の集まりでもあるんですかね?」

 「……さあ?」

 無いものはしょうがない。聖は洋菓子屋を出て近くにあった全国にフランチャイズ展開しているフライドチキンの専門店に向かった。せめて料理くらいは、と考えたのである。
 フランチャイズ展開しているだけあって味の割にはなかなかいい値段で提供しているのだがそこはやはり高校生。他のファーストフード店より多少値の張るその品はアルバイトで生活を賄っている聖にとっては充分ご馳走である。が、

「あ、すみません、本日はすでに営業を終了していまして……」

「こ、ここも!?」

 他にも別の洋菓子店や同じ系列の店に足を運んだのだが、何故か全ての店で同じような台詞を聞かされ聖はしきりに首を捻っていた。


「……買い占めたチキンと洋菓子類、全部『アースラ』に運び終わりましたよ、艦長。ちなみに今のであの町の全ての洋菓子店とフライドチキン専門店の商品を買い占めた事になります」

「はい、ご苦労様クロノ♪」

「……ひとつ聞きたいのですが、なぜこんな事を?」

「んー? 作戦その二『聖さんにケーキや料理を買わせないようにする』を達成する為よ。いやあ、お母さん嬉しいわ。フェイトさんに初めてお願いをされたのよ。これは全力全開でもって答えるしかないでしょ? ああ、お金に関しては大丈夫。皆が少しずつカンパしてくれているから、ほら♪」

「あははー……何回見ても鳴海市のある国のお金の単位で軽く七桁目に入ってるんですけど……」

「ほら、なのはさんやフェイトさんを始め、みんな優秀な魔導師だから。元のお給料が高くて『少し』のカンパが大金になっても不思議は無いでしょう?」

「……はあ、みんな甘いんだから困るな」

「そういうクロノが一番多かったわよ、カンパ」

「うっ……」


 普段しないような事をするなという神のおぼし召しか、それとも無駄使いは止めておけという意味か。どちらにしろケーキもチキンも買えなかった聖は自宅のあるマンションに戻ると簡単な夕食を終えて新作デザートのレシピを考えていた。
 しかし人間、お腹が膨れると瞼は重くなるもので……、

「……くー」

 ノートにペンを走らせながら時折船を漕ぎ出す聖。もちろんその文字はミミズのような象形文字になってしまっている。

「くー……あだっ!?」

 いきなり後頭部に衝撃を受け、その反動で手に持っていたペンが額に突き刺さった聖はその痛みで一気に目が冴えてしまった。慌てて後ろを振り返るが一人暮らしの身分、もちろん誰もいるはずがない。

「………」

 途端に薄気味悪くなって目が覚めてしまい、聖は完全に眠気が飛んでしまっていた。


「ナイスやシャマル、この調子で作戦その三『聖さんを指定時間まで眠らせない』の実行、頼むで」

「クラールヴィントをこんな事に使っていいのでしょうか? それに何故か既視感が拭えないのですが……」

「テスタロッサの為だ。何も考えるなシャマル」

「……ヴィータ、先程から何を食しているのだ?」

「ん? さっきリンディ提督からもらったケーキ。フライドチキンもあるぞ。ザフィーラも食うか?」


 今日一日、自分の周囲でそんな頃が行われていたとは夢にも思わず、刻一刻と時は過ぎ、そして、日付変更まで後十五分となった午後十一時四十五分……。

「うはっ!?」

 鳴り響いた自分のケータイの着信音に過剰な反応を示しながらも、聖はそれをとって相手を確認する。

「……フェイトちゃん?」

 相手は何故か最近あまり「翠屋」に顔を出していなかった三人組の中で一番仲の良い女の子からだった。掛かってきた時間を不審に思いながらも聖は通話ボタンを押す。

「もしもし、フェイトちゃん?」

――あ、お兄さん? あの、夜遅くにごめんなさい……。

「いや、まだ起きていたしちょっと色々あったから素直に嬉しいけど……どうかしたの?」

――はい……あの、ですね……。

 照れたような感じのするその言葉の後、フェイトは数秒沈黙してから早口でこう伝えてきた。

――い、今下の公園にいるので来てもらえませんかっ!?


 二月二十八日午後十一時五十五分。
 聖は慌てて上着一枚だけ羽織って公園へとやってきた。
 まだ夜は寒いし、大体こんな時間に小学生の女の子が外に出ているなんて無用心にも程がある。聖は少しだけ苛立ちを感じながらフェイトの姿を探した。

「あっ……」

 いた。公園の中心の位置にある大きな時計の下で、フェイトは俯きながらじっと佇んでいた。足元に小さなバスケットを置いて。

「あっ……」

 そして聖の姿を確認すると先程の聖とまったく同じ台詞を呟き、その顔に笑みを浮かべる。

「あの、ごめんなさい。こんな時間に呼び出したりして……」

「……その事は別にいいよ。でもねフェイトちゃん、こんな時間に……」

 出歩いちゃ危ないよ……そうお説教をしようとした聖をフェイトは自分の口に立てた右手の人差し指を当てる事でその言葉を遮った。

「少しだけ待って下さい……あと十秒……九……八……」

 次にフェイトは小さな声でカウントダウンを始める。その様子を訝しげに思いながらも、聖は黙って見つめていた。

「四……三……二……一……ゼロ!」

 その瞬間、どこからともなく大きな鐘の音が鳴り響き、聖は一瞬だけ目を閉じ、耳を塞いだ。
 そして再び目を開けると、

「……えっ?」

 眼前に広がっていた光景に、思わず呆けたような声を出してしまった。
 最初は雪かと思った。だが、すぐに違うと判断する。何しろ、その雪はあろう事か……淡いピンク色をしていたからだ。それに上から下に降ってくるわけでもなく、まるで蛍のように聖とフェイトの周りを飛ぶように舞っている。
 その様子を見て、聖は何故か手品とも何か発光する昆虫とも思わず、直感的にこう感じていた。

――魔法。

 だと。

「……これは、合図なんです。ありえない現象が起こった事を告げる、そんな『奇跡』の象徴」

「奇跡?」

「お兄さん、時計を見てみて下さい」

 言われた通りに聖は左手に付けていた腕時計を確認する。そして思わず息を呑んだ。
 聖の時計は日付も確認できるデジタル式の安いものだ。その時計の日付の部分。そこが、どう考えてもおかしい。
 何しろ、日付表示が「二月二十九日」になっていたのだから。

「……フェイトちゃんがやったの?」

「さあ、どうでしょう?」

 聖の顔を見ながら、フェイトは可笑しそうにそう呟いた。してやったり、といったような表情にも見える。

「これからの二十四分間……一時間が一分の、たった十四分だけですけど、『二月二十九日』……お兄さんの、お誕生日の日付です。えっと、その……お誕生日、おめでとうございます」

 そう言ってフェイトはいまだ呆けている聖の傍により、その手の平に小さな花を乗せた。

「これって……」

 その赤い小さな花を、聖は見た事があった。確か、アイスランド・ポピー……そう、二月二十九日の、誕生花だ。

「これを、五歳の……えっと、『聖ちゃん』、に」

「へ?」

 いつもと違う呼び方に聖は思わず面食らってしまう。それはフェイトも同じらしくその頬を赤く染めている。

「これは、六歳の、そして、七歳、八歳、九歳の『聖ちゃん』、に」

 どこから取り出しているのか、フェイトは次々とアイスランド・ポピーを一輪ずつ取り出しては聖の手の平に乗せていく。

「これは、十歳の……『聖くん』、に」

 同じように花を置きながらも、今度は呼び方が変わった。

「そして、十一歳、十二歳、十三歳、十四歳、十五歳……十六歳の、『聖さん』に」

 再び呼び方が変わり、聖の手には十二輪ものアイスランド・ポピーが所狭しと乗せられている。

「最後に、これが……」

 フェイトは五輪のアイスランド・ポピーを取り出し、それを十二輪の上に乗せ、その茎の部分を纏めて握った。
 すると、計十七輪となったアイスランド・ポピーは一瞬のうちに小さな花束にその姿を変えた。

「これが、十七歳の『お兄さん』への、プレゼントです」

「あっ……」

 ようやく気が付いた。この前自分は冗談半分で年齢を「四歳」だと言った。そして、フェイトは確か今、十歳。五歳から始まり、九歳までは年下だから「ちゃん」で、十歳は同い年だから「くん」で、十一歳から十六歳までは年上だから「さん」、最後に、今日ようやく本来の年齢に追いついたから、いつも通りの「お兄さん」……。

「お兄さん、その花の……アイスランド・ポピーの花言葉、知っていますか? 凄く、お兄さんにぴったりな花言葉なんですよ」

「そう、かな?」

「はい♪」

 フェイトは力強く、そしてはっきりと頷く。「アイスランド・ポピー(陽気でやさしい)」を見つめながら。

「えっと……あと、これを」

 そう言ってフェイトは足元に置いてあったバスケットを聖に手渡した。中を見てみると、可愛らしいシフォンケーキが綺麗にカットされて並べられている。

「私が作ったんです。その、まだ、お兄さんに褒めてもらえるようなものじゃないと思いますけど……その、よかったら……あっ!」

 聖はフェイトの言葉を最後まで聞かないうちに、一切れ取り出し口に運んだ。一瞬声を上げ、次に緊張した面持ちでその様子を見つめるフェイト。

「……うん、美味しいよ、すごく」

「え? あっ……!」

 聖がそう言って微笑んだ瞬間、フェイトは誰もが見とれてしまいそうな満面の笑みを浮かべた。

「……フェイトちゃん」

「……? へ? は? うぇ?」

 聖はバスケットとアイスランド・ポピーの花束を地面に置き、両手でフェイトの頬を挟むように包んだ。突然の事にもちろんフェイトは慌てている。
 そして、

「ふぇ!? お、おひいはん!? ひはい、ひはいふぇふ!」

 思いっきりその頬をつねられ、フェイトは涙を浮かべながら両手を上下に動かしていた。

「こうまでして僕の誕生日を祝ってくれたのは嬉しいけどね、こんな時間に女の子が一人で出歩いちゃ駄目じゃないか」

「ふぁ、ふぁい! ふぉめんふぁふぁい!」

「うむ、よろしい」

 そう言って聖が微笑んだ瞬間。
 周囲を舞っていた淡いピンク色の雪は次第に薄くなって消え、聖の時計は三月一日を示した。
 午前零時二十四分……きっと、一生忘れられない聖の誕生日が、終わったのだ。


「よしっ! ばっちし成功や! なのはちゃん、お疲れ様♪」

「にゃはは、流石に疲れたよ。魔力を小さく絞ったアクセル・シューターを二人の周囲に舞わせておくのって」

「こっちだって聖さんの時計にちょっと細工しとったんや。疲れたのはお互い様やろ?」

「いや、絶対そっちの方が楽だと思うなあ」

「成る程ねぇ……ふたりとも、お疲れ様」

「あはは、いやいや、聖さんに何かしてあげたいなあって思ったんはフェイトちゃんだけやない……し……」

「いやー、凄い見世物だったよ。どうやったのか知りたいくらいに」

「えっと……それは女の子の秘密です。ていうかここに私達がいるのも女の子の秘密のはずなんですが……」

「……あっ!? なのはちゃん! フェイトちゃんが聖さんの後ろで手を合わせてるで!」

「ああっ! フェイトちゃん裏切ったの!?」

「と、いう事で……ふたりとも同罪!」

「「ひ、ひはいひはい! ふぉ、ふぉめんふぁふぁい~!」」


「へえ、すごい確率ですね、四年に一回しかない二十九日生まれとか」

「あはは、だからって威張れるような事でもないけどね」

 そう言って聖はレイリアに微笑んだ。ちなみにライカには客が引いたので早めの休憩に入ってもらっている。

「……あれ?」

「どうしたんですか?」

「あ、いや……なんかこの会話、どこかでしたような気がして……」

「既視感ってやつですか? でも確かに珍しい話だし、どこかで誰かと交わしていても不思議はないですよ」

「あ、うん……そうなんだけどね」

 そういえばレイリアは知らなかったはずだ。自分に、十年程前からの記憶がすっぽりと抜けている事を。

「あ、そうだ。店長さん、よかったらこれ、食べませんか?」

 レイリアが差し出してきたのは小さな紙袋だった。聖は不思議に思いながらも中を開けてみる。

「……シフォンケーキ?」

「はい、知り合いが作ったものなんです。時々『もう、永遠にその時は来ないだろうけど、練習しておきたいから』って言って作って子供とかに振る舞っているんですけど……あっ、実際には引き取った子供で、彼女自身はまだ結婚すらしていないんですけどね」

「いや、特に聞いてないけど……もしかして、レイリアちゃんがよく話していた人? 確かさっき言っていた『機動六課』ってとこの……」

「ええ、フェイト・T・ハラオウン執務官です。よく分かんないんですけど……何故か彼女には、一生を掛けてでも力になってあげなくちゃいけない気がするんですよ」

 レイリアはそう言って何とも言えない表情を浮かべた。その理由を聖は尋ねようとして……止めた。
 これもまた、何故だか聞いてはいけないような気がしてならなかったのだ。
 場の空気を変えるように、聖は苦笑を浮かべながらシフォンケーキを手に取り、そっと口に運んだ。

「……うん、あの頃より上手になってる」

「……あの頃?」

「……え? あ、あれ?」

 レイリアに反芻され、聖はようやく自分が変な事を口走った事に気が付いた。
 でも、何故かこのシフォンケーキの味が、とても懐かしく感じてしょうがない。頭の中でしきりに首を傾げていると、袋の中に更に何か入っている事に気が付いた。

「これって……」

 それは、一輪の花。赤い花びらを持った、小さな花であった。

「あ、それ彼女がいつもシフォンケーキと一緒に入れてるんですよ。何でも彼女の故郷の花で……とても、思い出深いものだとか。えっと、確か名前は……」

 だが、名前を言われなくてもなぜか聖にはそれが頭に浮かんでいた。

「アイスランド・ポピー……」

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 現在夏コミとラノベ大賞に送る原稿に取り掛かっているショウですw
 そんなこんなでA→Sシリーズ最終話、聖編UPいたしましたw
 これははっきり言って番外的な内容ですが、結構重要なお話ですw
 そして次ですが、中篇を一遍UPしていく事に決めましたw シリアス話です、萌えはあんまりないです、ギャグもないですw そんなお話ですがよろしければお付き合い下さいませーw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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