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魔法少女リリカルなのはSS 「ある自由待機の光景」 第二話

 どこかで聞いた事があるようなドラム音と共に、例のルーレットが回り始める。数秒後、全員が固唾を呑んで見守る中ルーレットがついに止まった。指された名前は……、

「わ、私!?」

 自分を指差しながら驚いたような声を上げるフェイト。そんなフェイトをエリオとキャロが心底哀れむような表情で見つめていた。
 そして、空からひらひらと落ちてくる一枚の紙。フェイトは少々呆気に取られながらもそれを掴み、書かれた文字に目を通して……固まった。

「? フェイトちゃん、どないしたん? いったいどんな指令が……」

 横から覗き込んだはやてもまた一瞬で固まってしまう。それと同時にフェイトの手からその紙が地面に落ち、その指令が全員の目に晒された。


【義兄を恐怖のどん底に落としいれよ】


「「「「「「………」」」」」」

 ヴィヴィオを除く全員が唖然とした表情になる。

「あの、フェイトさんの義兄って……クロノ・ハラオウンさんですよね?」

 フォワード陣の中では一番フェイトとの付き合いが長いエリオがそう進言する。キャロはもちろん、普段はそこまで接点のないスターズ隊も噂くらいは聞いていた。
 クロノ・ハラオウン。元時空管理局の執務官であり、その頃より乗艦していた時空航行艦「アースラ」の艦長を務め、近いうちに新造の大型艦を任される事が決まっている、沈着冷静が代名詞のようなフェイトの義理の兄である。
 そんな彼を……恐怖のどん底に落とせという。

(……どうやって?)

 それがヴィヴィオを除く全員の頭に、全会一致で浮かんだ言葉だった。
 と、そうこうしているうちにフェイトの目の前の空間が歪み始める。

「あ、それが外の世界での指令が出た時に現れるやつです。それを潜れば目的地のすぐ近くに運んでくれます。ちなみに指令をクリアすると十秒程で自動的にここに戻されるんです。でもその瞬間を見られないようにして下さい」

 エリオがそう説明の補足をしてくれる。

「まあ、確かに忽然と消えるところを見られて捜索願とか出されたら厄介になりそうやしな。というかシャマルのクラールヴィントみたいな能力やな」

「……とりあえず行って来るね」

 フェイトは苦笑いを浮かべながら一歩前に踏み出した。


「……ここって、うちの近くの公園?」

 出た先の光景を見渡し、フェイトはそう結論を出す。その証拠に実家のあるマンションが目視できた。

「でもクロノって今航行中じゃなかったかな?」

 疑問に思いながらもここまで来たのだから甥っ子と姪っ子にも会っておきたい。お土産かって置けばよかった……などと現状を少々忘れ、フェイトは実家に向かう。

「はーい……って、フェイトちゃん? 一体どうしたの?」

 出迎えてくれたクロノの奥さん……つまり、義理の姉であるエイミィは最初驚いたような表情を浮かべ、そしてすぐに満面の笑みをフェイトに向けてくれた。
 同時に奥から子供が二人、跳ねるような足取りで玄関の方にやってくる。

「フェイトおねーちゃん! おかえりー!」

 元気良く出迎えてくれたのは甥っ子のカレル、その後ろに隠れるように、でも笑顔を向けてくれている姪っ子のリエラ、そして、

「フェイトーッ!」

 そう叫んで飛びついてきたのはフェイトの使い魔、アルフだった。

「うん、ただいま」

 心からの歓迎とほんわかした空気を受け、フェイトは半ば本来の目的を忘れていた。

「……ん? フェイトじゃないか。六課の方はいいのか?」

 だが、その声を聞いた途端、唐突に現実に引き戻されていく。

「ク、クロノ? どうしてここに?」

「どうしてって……久々に取れた休日に自分の家に帰って家族サービスするのは悪い事なのか? それはまあ、柄ではない事は分かっているが」

 むっつりした顔を……と言ってもクロノは大概この顔なので別に怒っているというわけではない……して足にじゃれついてきたリエラを抱きかかえた。

「………」

 何と言うか、まあ。
 あのゲームの力が本物である事は間違いないようである。

「どうしたのフェイトちゃん? 取り敢えず上がってよ。少し時間があるならお茶でも飲んでいって」

 これから自分の夫が大変な目に合うとも知らず、エイミィは笑顔でその厄災の元を招き入れた。


「それで、お前の方こそどうしたんだ? こう言っては何だが、まだまだ長期休暇が取れるほど機動六課は安定していないと思うが?」

「あ、ちょっとした用事があってこっちに来ているの。だからすぐに帰るよ。まとまった休暇が取れそうになったら、その時にまたゆっくりする」

 エイミィがお茶を入れてくれている間、ロビーで寛ぎながら談話をしていたクロノとフェイトだったが、どうも休暇を取ってこちらに来ていると思ったらしいクロノが難しい顔をしてそう言ってきたので、フェイトはすぐに否定をした。

「そうか、ならいいが……お前はうちの子や今面倒を見ているあの二人の事になると、途端に仕事が二の次になる癖があるからな」

「そ、そんな事はないと思う……」

「ほう、否定できるのか?」

「……ごめんなさい」

 心当たりが大いにある為、否定する事が出来ずに少し頬を染めながらフェイトはうな垂れた。
 そして、少し忘れかけていた今時分が何故ここにいるのかを思い出す。

(だけど……)

 顔を上げ、目の前にいる青年の顔を見つめる。
 自分の義兄であり、まだ若いながらも管理局所有の大型艦を一隻任されている、管理局のエース。そして、いつも沈着冷静で論理的な行動を心掛ける事で有名な人物でもあった。
 そんな彼を、である。

(恐怖のどん底? いや、本当にどうやって?)

 世界が崩壊しそうでも慌てそうにないこの青年を、一体どういう行動を取ればそんな事が出来るのか、フェイトは必死になって考える。

「あはは、クロノくん、あんまり可愛い義妹をいじめちゃ駄目だよ~」

 と、そこにキッチンの方からエイミィの明るい声が響いた。
 その瞬間、フェイトは悪魔にでも囁かれたかのように、ついにその方法を思いついてしまう。だが……、

(いや、でもこれは……)

 ぶっちゃけ言って、恥ずかしい。そして、その後のクロノがあまりに哀れになる。
 だが、実行しなければこのミッションをクリアできない。そうなれば罰ゲームとやらが待っている。
 エリオやキャロがあんなにも怯えていた、罰ゲームが。

「………」

 フェイトは二人とクロノを天秤に掛けると、速攻で答えが出ていた。そっと立ち上がり、クロノの前まで歩く。

「ん? どうしたんだ?」

 そんな様子をクロノは不思議そうに見つめる。

「……クロノ、ちょっと立ってもらっていい?」

 小さく呟かれたその言葉に、クロノは不審に思いながらも言われたとおり立ち上がる。

「……っ!」

 するとフェイトは何を思ったのか、ぎゅっと目を閉じるとクロノに抱きついたのだ。

「……は?」

 あまりに突然で、あまりにありえない人物からの、あまりに信じられない行動に、クロノの思考は完全に停止をする。

「二人ともお待たせー、お茶請けはクッキーでいいか、な?」

 そこにタイミング良く……いや悪いのだろうか……やってきたエイミィは、当然のごとくその場で完全停止をする。それでも手に持っているお茶の乗ったお盆を落とさないのはさすがと言うべきか。
 そして、ついにはアルフと遊んでいたはずのカレルとリエラまで現れ、トドメの一言を見事にハモらせる。

「「……お父さん、フェイトおねーちゃんと浮気?」」

 その瞬間、ようやく時が動き始める。

「……クロノくん?」

 先に硬直が解けたのはエイミィだった。お盆をテーブルの上に置き、笑顔でクロノに問い掛ける。
 だが、その声と目は全然笑っていない。むしろ凍えそうなほど冷たかった。

「いや、違っ……」

 必死で否定をしようとするクロノ。だが、エイミィの顔を見た途端、まるで恐怖のどん底にでも落ちたかのように身を震わせた。

《Mission complete》

「あ……」

 達成の合図が腕のブレスレットから響く。どうやら成功のようだ。
 そっとクロノから離れると同時にフェイトは頭を下げる。

「ごめんねクロノ……後で説明するから、今は……生き抜いてね」

「え? ちょっ、フェイト!?」

 何とかそれだけを伝えると、フェイトはクロノの声を無視してその場から一目散に逃げ出す。
 そして周囲の空間から切断され転送される寸前、クロノの断末魔の声が聞こえた気がした。


 泣いていた。ヴィヴィオ、エリオ、キャロを除く全員が、クロノに対して同情の涙を流していた。
 実は外の様子はこの空間から外に出た瞬間映像端末が表示され、様子を見る事が出来るのだ。つまり、さっきのフェイトの行動は筒抜けだったのだ、クロノの最後の断末魔も。

「……はやてちゃん、この事件が解決したらちゃんとエイミィさんに説明してあげてね」

「ああ、分かっとる……さすがに家族崩壊のシーンなんて見たくないしなあ」

「……お願いだから不安にさせるような事言わないで」

 この空間に戻ってきた時にその事を教えられたフェイトは、膝を抱えて落ち込んでいた。

「とりあえず先に進めよう……クロノくんの命が尽きる前に」

 何気に恐ろしい事を呟きながら、なのははルーレットを回した。そして名前が刺された瞬間、その本人であるティアナが「うげっ」と女性らしからぬ悲鳴を上げる。
 同時に上空より舞い落ちてくる一枚の紙。ティアナは何かを諦めたかのようにため息を吐き、それを手に取る。そして中身を見た瞬間……固まった。

「ティア? どうかした……」

 ティアナの様子を不審に思ったスバルが横から覗き込み……同じように固まってしまう。

「? 二人ともどうしたの? そんなに変な命令だった?」

 そう声を掛けるなのはに、二人は視線を移す。頬を染めながら。

「………」

 無言で紙を公開するティアナ。同時にヴィヴィオを除く全員が同じように固まってしまう。


【直属の上司のパンツをめくれ】


 なのはは必死になってその意味を考える。
 直属の上司……間違いなく自分の事である。それはいい。問題はその先だった。
 パンツをめくれ? スカートではなく? つまり、その意味は……。

「!? ティ、ティアナ、ちょっと頭冷やそうか?」

 どこかで聞いた事のある台詞を呟きながら、なのはは後ずさる。さすがにフェイトとはやてもそれを止めようと間に入った。

「ストップや、さすがにそれはセクハラや。部隊長として認められんわ」

「……はやてが言うと全然説得力ないけど、とりあえず落ち着こう、ティアナ」

 だが、ティアナは構う事なく一歩ずつなのはの方に歩み寄る。しかもあろう事か、スバル、エリオ、キャロもティアナの側に回っていたのだ。

「ふ、二人ともどうしたの!?」

 その予想外の行動にフェイトは驚きを隠せなかった。

「駄目なんです! ミッションをクリアしないと罰ゲームが……あの悪魔がやってくるんですよ!」

「「「はあ?」」」

 隊長陣三人はそろって間の抜けた声を上げるが、フォワード陣の目は真剣だった。

「なあみんな、罰ゲームって一体何が起こる……」

 そう言いかけたはやてだったが、その声は突如起こった地震でかき消された。同時にフォワード陣の顔がみるみる青ざめていく。

「え? な、何や?」

 慌てたような声を上げるはやて。なのはとフェイトも身を硬くしている。
 そして、自分達のいる足場の端から何かが現れた。それを見た途端、なのは、フェイト、はやては顔面蒼白になり言葉を失う。
 それは、人類の九割が嫌っていると思われる生物。特に飲食業を暇む者にとってそれは悪魔の使い。その背に持つ翅(はね)で飛び回り、人々に恐怖をもたらす、背中が黒光りしている、あれ。
 そう、

「「「ご、ごごご、ゴキ○リィィィッッッーーー!?!?!?」

 である。
 実家が喫茶店であるなのは、冷静沈着な大人に見えてどこか子供っぽい所があるフェイト、料理が趣味であるはやて……三人とも、思わず一部を伏せ字にしてしまうくらい、その生物が大嫌いであった。
 しかも一匹二匹の問題ではない。後から後から足場に這い上がってきて、全員を取り囲むようにじわじわと進行してくる。これは虫類が平気な人でも恐怖を抱かざるを得ない。

「……フェイトちゃん」

「……うん、はやて、止めないよ」

 はやてはフェイトと頷き合うと、踵を返しなのはを羽交い絞めにする。

「へっ?」

 無論驚いたのはなのはである。慌てて振り解こうとするが、元来運動神経の低いなのはと、一時期足が不自由だったとはいえ基本的に運動の得意なはやてでは明らかな差があった。

「ティアナ、今や、一思いにやったって!」

「ちょっ、はやてちゃん!?」

「堪忍な、なのはちゃん! うちあれだけは駄目なんよ! 野良犬に噛まれたとでも思って心の中で封印してな!」

「何それ!? フェイトちゃん、助けて!」

「………」

「無言のまま目を逸らされた!? ちょっと酷くない!?」

「……なのはさん、ごめんなさい、失礼します!」

「ティアナ!? ちょ、やめ……いやぁぁぁっっっ………」

 木霊するなのはの叫び声。その様子をスバルは頬を染めながらもじっと見つめ、フェイトとキャロはそれぞれヴィヴィオとエリオの目を手で塞ぐ。

《Mission complete》

 その声が響いた途端、「あれ」達は一斉に足場から去っていった。全員が胸を撫で下ろす中、「あれ」がどういう存在かよく理解していないらしいヴィヴィオは「虫さんどこか行っちゃった」と少しだけ残念そうに、なのはは泣き崩れながら「もうお嫁にいけない……」とありきたりな台詞を呟いていた。


「うし、それじゃあ次行こか」

 だんだん楽しくなってきたのか、はやては笑みを浮かべながらルーレットを回す。ちなみになのはは隅の方で膝を抱え、ヴィヴィオが一生懸命「いいこいいこ~」とその頭を撫でていた。
 そして、回転の止まったルーレットが差した人物の名前は……そのはやて本人であった。

「あ……」

 さすがに自分が対象になるとちょっと引くらしい。おそるおそる落ちてきた紙を拾い、中身を確認する。すると……、

「……うふっ♪」

 何故か笑顔になった。そのあまりに異様な光景に他の全員が一歩はやてから遠ざかるが、はやてのすぐ傍で空間の歪みが発生した事から対象は自分達ではないようだと分かり、胸を撫で下ろした。結構酷い話である。

「ほなちょっと行ってくるで」

 そう言って意気揚々と歪みに飛び込むはやて。一体どこに行ったのだろうと皆映像端末に視線を移すが、何故か今回はそこに映像が映らなかった。
 そして約十分後。何故か艶やかな顔ではやてが戻ってきた。

「ただいまー。いやー、堪能させてもらったわ」

「「「「「……はい?」」」」」


 同じ頃、機動六課隊舎。

「おーい、シグナム。悪いけど至急この書類に目を……」

 スターズ副隊長、ヴィータはようやく医務室で探し当てたライトニング副隊長、シグナムに声を掛けようとして、そのあまりに落ち込んだような雰囲気に思わず固まってしまう。

「……どうしたんだ?」

 何とかそれだけを口にしたヴィータに、シグナムはか細い声で答えた。

「……もう、お嫁に行けない」

「……何かさっきも聞いたような台詞……というか行く気だったのか、お前」

 かなり失礼な答えを返しながらヴィータは小首を傾げていた。


 再び回されるルーレット。全員祈るようにその様子を見つめている。
 ……自分に当たりませんように、と。
 そして、止まったルーレットが差した名前は……ヴィヴィオであった。
 その瞬間視線が一気にいまだなのはの頭を撫でていたヴィヴィオに集まる。

「ん~? ヴィヴィオの番?」

 それに気が付いたヴィヴィオは嬉しそうに落ちてきた紙を拾い、その中身を読み上げる。

「う~んと、【いちばんはじめにあったおとこのひとにちゅーをしてくること】」

「「「「「「「はいっ!?」」」」」」」

 それまで落ち込んでいたはずのなのはまで揃ってそう叫び、慌ててその紙をヴィヴィオからひったくる。

「本当にそう書いているし……」

 思わず頭を抱えるなのは。対照的にヴィヴィオは満面の笑みでいつの間にか発生していた歪みに飛び込む。今回の騒動を一番楽しんでいるのはヴィヴィオかもしれなかった。


「ああ、アルト、ルキノ、ちょうどいいところに」

 機動六課後方支援部隊「ロングアーチ」所属、グリフィス・ロウランは同じくロングアーチ所属のアルト・クラエッタとルキノ・リリエを発見するとそう声を掛けた。

「グリフィス准尉? どうかされましたか?」

「いや、八神部隊長を見なかったか? 先程から探しているのだが見当たらなくてな」

「いえ、私は見てないです……アルトは?」

「私も知らないです。どうかされたんですか?」

「いや、ちょっと今起こっているフォワード陣の変な事件についての報告を……」

 そう言い掛けたところに軽い足音が響いた。

「あ、いた~♪」

 ヴィヴィオだった。そして、発見された。男の人を。

「「「……!?」」」

 途端に三人の顔が引きつる。フォワード陣の起こしている事件にヴィヴィオも関わっている事はすでに判明しているからだ。三人とも後ずさるようにその場から離れようとする。
 だが、

「あっ……」

 アルトの足に引っかかり、よろけてしまうグリフィス。その一瞬の隙を逃さないヴィヴィオ。
 突進するように飛び付き、グリフィスが倒れたところで顔が正面になる位置までよじ登り、そして、

――ちゅー。

「「……!」」

 ルキノとアルトの行動と思考が停止する。グリフィスは硬直する。たっぷり十秒後、ヴィヴィオはようやく唇を離した。

《Mission complete》

「うん。グリフィスさんばいば~い♪」

 再び軽い足音をたてながらその場を離れるヴィヴィオ。後に残されたのは、いまだ硬直しているグリフィスと、そんなグリフィスを冷たい視線で見つめるルキノとアルトのみ。

「「……キング・オブ・ロリコン」」

「うわあああぁぁぁっっっ!」

 二人のその一言で硬直は解けたが、変わりにどこか壊れてしまったグリフィスだった。


 泣いていた。今度は全員漏れなく。幼い少女の純粋な行動により被害を受けてしまった、哀れな青年に対して。

「ごめんねグリフィスくん……本当にごめんね」

「はやて……」

「みなまで言わんでいいでフェイトちゃん。分かっとる、分かっとるから……」

 そこにヴィヴィオが笑顔で戻ってくる。

「ただいま、なのはママ~」

 飛びついてきたヴィヴィオを、なのはは抱え上げ、

「ヴィヴィオ、後でちゃんと謝るんだよ」

 ただそれ一言だけを呟いた。当然ヴィヴィオは、

「?」

 不思議そうな表情を浮かべていた。


 もう何度目か分からなくなりはじめたルーレットの回転。それが回る度に憔悴しきったような顔が増えているのは言うまでもないだろう。
 回転が止まり、差された名の持ち主……、

「……はぁ」

 なのはは盛大なため息を吐いた。先程めくられたショーツは忽然と消えてしまった為、今なのはのスカートの中は……であった。正直、寒い。
 何もかも諦めたかのように、落ちてきた紙を拾い、中身を見て……、

「……はぁっ!?」

 素っ頓狂な声を上げた。
 ちょうど後ろの位置にいたフェイトがそっとその紙を盗み見る。そして、

「……へ?」

 同じように素っ頓狂な声を上げる。

「ちょ、フェイトちゃん見ちゃダメ……」

 慌てて紙を隠そうとするなのはだったが、それが災いして紙を手放してしまい、地面に表向きで落ちてしまう。


【一番仲の良い異性にキスをしてくる】


「「「「「……はぁっ!?」」」」」

 それを見た、ヴィヴィオを除く全員がまったく同じ反応を示す事となった。

「え、えっと、ヴィヴィオがやったから保護責任者のなのはさんもやって来い、って意味なのかな?」

「さ、さあ、それは分かんないけど……まあ、何と言うか」

 ご愁傷様、と直属の部下であるスターズ隊二人の頭に同じ言葉が浮かんだ。

「よし、なのはちゃん! 気合入れて行ってみよか!」

 先程までの憔悴しきった顔はどこへやら。満面の笑みでなのはの肩を叩くはやてだった。

「いや、ちょっと待った! だ、だって、その……」

 頬を染め、必死で抗議しようとするなのはだったが、呂律が回っていない。空戦のエースオブエースとて、やはり十九歳の一人の女性なのだと明確に示された瞬間だった。
 だがそんな事は現在、他のメンバーにとってはどうでもいい事である。

「大丈夫やて、唇と唇を軽くちょん、くっつければいいだけやんか」

「じゃあはやてちゃんは出来るの?」

「あはは、出来るわけないやん。しかも映像端末でデバガメされてるの分かりきった状況で」

「言っている事とやっている事違いすぎませんか!?」

「な、なのは、落ち着こう、ね?」

 顔を真っ赤に染め上げて抗議するなのはとどう見ても楽しんでいるはやての間に入るフェイト。

「そ、それにほら、なのはが頑張ってやらないと『あれ』が来るんだよ、分かってる?」

 途端に全員の表情が固まり(除くヴィヴィオ)、フェイトが「しまった」というような顔になる。そう、もしこのままなのはが駄々をこね続ければ……駄々というかはこの際微妙であるが……先程の、背中が黒光りしている例の「あれ」が、再びやってきてしまうはずだった。
 今までなのはを同情の目で見ていたフォワード陣四人があっという間にはやて側に付く。

「ちょ、みんな!?」

 唐突な裏切り行為にさすがのなのはも慌てる。

「ごめんなさい、なのはさん! でも、でも今は……今だけは耐えて下さい!」

「何を!?」

「ヴィヴィオだってやったんです! 保護責任者としての責務を果たして下さい!」

「責務って何!? ていうかヴィヴィオと一緒にしないでよ!」

「……なのはママ、ヴィヴィオと一緒なの嫌なの? ヴィヴィオの事、嫌いなの?」

「そういう意味じゃなーい!」

 もはやグダグダというか意味不明というか、会話になっていない会話を繰り広げる一同。
 そしてそうこうしているうちに、何やら虫が這うような音が聞こえてくる。

「「「「「「「――!?」」」」」」」

 ヴィヴィオを除く全員が硬直する。しかし、今回は何かが違った。その音が先程のように四方から無数に、ではなく正面の一箇所からしか聞こえないのだ。だが、同時に何故か……大きい。音が。
 ヴィヴィオを除く全員が訝しげな表情に変わったその時、忽然と足場の端から二本の長く黒い棒が現れる。
 ……いや、違う。棒じゃない。何故なら、しなった。それぞれ左右に、曲線を描くように。
 全員の背中に(やはり除くヴィヴィオ)悪寒が走り、額に脂汗が浮かんだ。考えたくはないが、まさか、これは……。
 だが願い空しく、想像通りのものが現れた。
 棒に思われたものは、触覚。鋭い顎。黒光りする背。そして、脚。足ではなく、脚。
 原寸の数十……いや、数百倍。大人であるなのは達でも見上げなければならない程の巨大な……「あれ」の参上であった。ある意味これは大群よりも堪える。
 顔を青ざめ一斉に後退し、声にならない声を上げ今にも倒れてしまいそうなメンバー。「わーい、大きな虫さん~♪」と一人だけ嬉しそうに近寄ろうとするヴィヴィオを慌てて抱きかかえるなのは。
 だが、やはりというか何というか、それだけでは終わらなかった。
 今度は反対側から、地響きのような音が響き渡る。慌ててそちらに視線を移す面々。
 這い上がるように現れたのは、灰色の体毛に覆われ、鋭い牙を持ち、長い尻尾をなびかせる、世界の嫌われものナンバー2にランクインするであろう四足歩行の哺乳類。
 そう、デフォルメされているバージョンは人気者だが本物は害虫指定生物……未来から来たネコ型ロボットが大嫌いな「それ」の巨大化バージョンであった。
 さて、ここでひとつ言いたい事がある。
 何故、この二匹はここまで嫌われる存在なのだろうかという事だ。背中が黒光りしている「あれ」はともかく、デフォルメバージョンは人気がある「それ」は外見だけなら可愛いと言えなくもない。現に尻尾が短い良く似た生物はペットショップ等で売られ、人気を博している。
 それは恐らく、食べ物に集ったり地下に埋没している配線や配管等を食い千切ったりという側面もあるのだろうが、主な原因はその本体ではなく、彼らがその身に宿している存在のせいではないだろうか。
 生活している場所のせいか、彼らの体や体内には無数の菌やダニ、ノミといった同じような害虫を寄生させている。その中には危険なものももちろんいる。その存在が頭の隅にあるからこそ、人々は忌み嫌うのではないだろうか。
 で、話は戻る。もちろん、今この場にいる二匹もそれらを宿している。
 何故分かるのか。説明しよう、彼らは今巨大化している。その場合、その身に寄生しているものたちはどうなるのか。恐らく二パターンに分かれる。増加している面積を埋め尽くすようにその数を増やしているか、もしくは……その生物も一緒に、巨大化しているか、である。
 そして、答え。今回は後者である。すなわち……目視で確認できるのだ。デフォルメバージョンは人気がある「それ」の背を元気に飛び回る巨大なダニやノミ、背中が黒光りしている「あれ」の背に張り付いている、アメーバを連想させる菌の数々。意外とカラフルだった。
 しかしまあ、そんなものを目視してしまえば普通は……、

「……きゅう」

 フェイトが倒れた。再びその口から妙に可愛らしい魂が現れ手を振っている。他の一同もそうなる寸前の表情をしていた。

「な、なのはちゃん! 頼む、後生やから早く行って! このままやったらもっと恐ろしい事が起こる!」

「も、もっと恐ろしい事!?」

 半狂乱になっているはやての言葉にたじろぎながら、なのははその気になる一言について尋ねる。

「二匹! 今のあの二匹の様子見てみいや!」

 その言葉にあまり見たいものではなかったがおそるおそる視線を移すなのは。すると、

「………」

 臨戦態勢だった、二匹とも。しかもこちらに対してではない、お互いに対して、だ。
 そして何故か二匹とも、口から涎のようなものが垂れている。

「えっと……もしかしてあれって……」

 捕食……その二文字がなのはの頭に浮かんだ。食物連鎖的には正しい光景なのだろうか、それともこの空間特有の現象なのだろうか、分からないが取り敢えず言える事がひとつある。
 このままでは映像化、またはイラスト化した際、間違いなくモザイク等の加工が必要になるスプラッタ映像が繰り広げられそうだ、という事だ。

「嫌ぁぁぁっっっーーー! そんな怪獣大決戦ならぬ害虫大決戦見たくない! 分かったらさっさと行ってきいやーーー!」

「ちょ、はやてちゃーん!?」

 なのはの叫びははやてに突き飛ばされて入れられた歪みの中で空しく響いた。

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 自由待機の光景、第二話UPしました。ちなみにそう長くはなりそうになく後一話で終了しそうでしたw
 ちなみにうちは背中が黒光りする「あれ」は苦手です。滅んじまえ、ちくしょー><;

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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