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「魔法少女リリカルなのはA→S」 第一話 ~Side NANOHA Ⅰ~

 これは『闇の書事件』と呼ばれる出来事の六年後、『機動六課』という組織が出来る四年前、第九十七管理外世界『地球』で起こった、とある出来事の記録である。

機動六課部隊長 八神はやて二等陸佐


「という事でフェイトちゃん、協力して欲しいんや!」

「え、ええっと……」

 明日に控えた私立清祥大付属中学校の卒業式に出席する為実家に戻っていたフェイト・T・ハラオウンは、突然押し掛けてきた八神はやてに唐突にそう言われ、返答に困っていた。

「あの、はやて。とりあえず何を手伝って欲しいのか要点をもっと詳しく教えてくれないかな?」

「……ああ、ごめん。ちょっとはしょりすぎたな」

 はやては照れ隠しのように咳払いをした後、フェイトの正面のソファーに腰を下ろした。

「ほら、うちら明日卒業式やろ?」

「うん、そうだね。最後の方はみんな仕事が忙しくなってほとんど出席してなかったけど」

 そう言ってフェイトは苦笑いを浮かべる。

「あ、もしかして終わった後にアリサやすずか達と騒ぐお誘い? それだったら明日は一日予定を空けているから私は参加できるよ。なのはもそうするって言っていたし……」

「いや、それじゃなくて……まあ、それもする予定なんやけど、問題はそのなのはちゃん何や」

「……なのはがどうかしたの?」

 そう言えば確かはやてはなのはと一緒に昨日からもうこちらに戻ってきているはずだった。そんな話をするのにこの場になのはを連れてきていないのはおかしい。

「明日の卒業式、ユーノくんも来るって話は聞いてる?」

「あ、うん。なのはが嬉しそうに話していた」

 現在無限書庫の司書長をやっているユーノ・スクライアはなのはに魔法を授けたという事もあり、三人共通の知り合いながらもなのはとは一番仲の良い相手である。正直付き合っていない事に軽く驚きを覚えるくらいに。

「なあ、何であの二人正式な恋人同士としての付き合いしてないんかな?」

 そしてどうやらその事に疑問を覚えていたのはフェイトだけではなかったようだ。

「確かにね……私の見た限りではなのはもユーノもお互い普通の友達以上には思っていると思うんだけど」

 なのはもユーノも意識はしていないだろうが、なのはのユーノに対する態度と自分達に対する態度、そしてユーノのなのはに対する態度と自分達に対する態度とでは少々……本当に些細な違いなのだが、違うところがある。おそらくフェイト達くらいの付き合いの長さはないと気が付かないくらいの。
 自分達が気付いたのだからなのはと更に付き合いの長いアリサやすずかはとっくに気が付いているだろう。

「でも、それがどうかしたの?」

「……なあ、フェイトちゃん。うちが言うのも何やけどフェイトちゃん今まで男っ気なかったやろ?」

 思わず飲んでいた紅茶を噴き出してしまいそうになるフェイト。

「な、なななななっ!?」

「あはは、ばればれで初々しい反応やね」

「……はやて、からかわないで」

 何とか平静を保とうとするフェイトが妙に可愛くて、はやては笑いを堪えるのに必死の様子であった。

「もう……それで、私達に男っ気かないのとなのはとユーノの関係と、一体どこが関係しているの?」

「そうそう、そこや。まあぶっちゃけうちらの中で男っ気があるのはなのはちゃんだけやろ? でも二人とも仕事持ちのせいかお互い憎からず思ってるのになかなか進展しようとせん。だからな、うちらでちょっと後押ししたろう思うとるんや」

 なるほど、はやての言いたい事はなんとなく理解した。が。

「でもそれと明日の卒業式と何か関係してるの?」

「何言うてんのよ。卒業式って言ったら告白三大イベントのひとつやんか。クリスマスもバレンタインデーも過ぎてしまった今、もう頼みは卒業式しかあらへん!」

「……もしかしてはやて、クリスマスとバレンタインデーの時も何かしてたの?」

「ああ、そこは置いといてくれんかな」

 どうやらやっていたらしい。

「それにこういう仕事しといたらなかなか良い出会いないのはうちらも体験済みやろ? だから仲の良い相手のいるなのはちゃんに苦労させたくないんよ。うちから見てもユーノくんええ男やし、正直なのはちゃんとぴったりやと思うんや」

 前半の部分に少々ダメージを受けながらもフェイトははやての言葉に同意する。

「確かにそこは認める。ユーノならなのはを任せても安心かな」

「なんか親御さんみたいな台詞やなあ」

 はやては思わず苦笑してしまった。

「それで? 具体的な内容は決まっているの?」

「お? 乗ってくれるん?」

「内容によるよ」

 フェイトの言葉にはやてはにんまりと笑いながら、考えていた作戦を語りだした。
 だが、実際のところフェイトはその内容に関係なく参加する事を決めていた。
 何故なら、きっとこの作戦は……。


 翌日、私立清祥大付属中学校の校門や敷地内は制服に身を包んだ生徒一同の他にもたくさんの人で溢れ返っていた。
 校門には「私立清祥大付属中学校卒業証書授与式」という看板が掲げられ、その近くでは写真を撮ったり仲間内との別れを惜しみ涙する者など、卒業式らしい光景が繰り広げられている。

「これが学校の卒業式というものか」

「まあ、私達には縁がなかった行事ですから新鮮ですね」

「とりあえずはやてはどこだー? グレアムのじーさんに写真頼まれてるんだよ」

(ヴィータ。いくらこの場にいないとはいえ少しは言い方を改めた方がいいぞ)

「はやてちゃーん、どこですかー?」

 そんな場所に普段の格好+普通の少女モードのリィン+小型犬状態のザフィーラを連れた守護騎士(ヴォルケンリッター)一同は明らかに浮いていた。
 ちなみにザフィーラだけはさすがに言葉を口にせずに念話で話をしている。

「……守護騎士(ヴォルケンリッター)? ここで何を……と、そういえば君達の主も今日が卒業式だったな」

 そんな彼女らに近づいてきたのは、ここの学生と言っても通用しそうな私服の男性と、それより少し年上に見える女性二人、犬耳を生やした小さな女の子の四人(?)組。話しかけてきたのはその中の男性であった。

「クロノ執務官……いえ、今は艦長でしたか。ご無沙汰しております」

「リンディさんもお久しぶりですね。お元気でしたか?」

「はい、はやてちゃん、卒業おめでとうございます」

「おう。そっちもおめでとさん」

「あはは、ありがと。でもそれはフェイトちゃんに直接言ってあげてよ」

 沸き合い合いと世間話に花が咲く二家族。そこに、

「どうも、こんにちは」

「ご無沙汰しています」

 高町家を筆頭としたバニングス家、月村家の三家族も加わり、計五家族の集まるその場は大変な賑わいとなっていた。
 そしてタイミング良く、

「あ、はやてだ。おーいはやて、こっちこっち!」

「すずかちゃんやアリサちゃんもいますね」

「フェイトも一緒だな。いないのはなのはだけか?」

 当の本人達がこちらに向かって駆け寄り、そして、

「義母さん、お義兄ちゃんも来てくれてありがと。それじゃあ」

「シャマルごめん、ちょっと『クラールヴィント』借りてくな。リィンとヴィータ、色々出店でとるけど今夜はみんな集まってのパーティーやから食べ過ぎんようにな」

「お父さんも来てくれたんだ、ありがと。それじゃあ後でね」

「恭也さん、お姉ちゃん達の事お願いしますね。失礼します」

 一言ずつ残し、はやてはシャマルから『クラールヴィント』を半ば奪うように受け取って颯爽とその場を離れていった。

「………?」

 以上八神家ハラオウン家高町家バニングス家月村家のその他の方々の出番終了。


「まずは作戦その一、『いきなり二人きりは気まずいだろうからまずは全員で合流しよう』を実行するで」

「はやて、ノリノリね……」

「そういうアリサちゃんも意外と」

「まあ、この場にいる時点で乗り気じゃない人は居ないんじゃないかな?」

 的を射たフェイトの台詞に全員が苦笑を漏らす。
 今回の『なのはとユーノをくっつけてらぶらぶにしよう作戦』というあまりにぶっちゃけ過ぎて真面目なのか冗談なのか分からない作戦の参加者は四人。はやて、フェイト、すずか、アリサである。
 なのはとユーノにばれないよう集まり綿密な会議を行い、そしてようやく実行の時を迎えようとしていた。

「あれを綿密って言うの? ただなのはを除くいつものメンバーで集まっただけのような気がしてならないんだけど」

「アリサちゃん、それは言いっこなしやで」

「ま、まあ取り敢えずなのはと合流しよう。校門のところでユーノを待っているはずだから」

「しかし、式が終わった途端脇目も振らずユーノくんの迎えに行くところは完全に恋する乙女よね」

 全員が再び苦笑を漏らした。

「あ、フェイトちゃん、ちゃんとユーノくんに伝えとる?」

「大丈夫、何回も念を押したから多分持ってきていると思うよ」

「そっか、なら次の作戦にすぐに移れそうや……あ、なのはちゃんいたで。おーい、なのはちゃーん」

 はやての叫びに校門の前にいた一人の少女がこちらを振り向き、

「あ、みんな。遅かったね」

 はやて達の姿を確認すると満面の笑顔を返した。

「いや、アタシ達が遅いんじゃなくてなのはが早すぎるのよ。いくら待ち遠しいからってそんなに急がなくてもユーノは逃げたりしないよ……多分」

「何で最後確定じゃないの?」

 アリサの言葉に栗色の長い髪を片結びをした少女……なのはは苦笑を浮かべる。

「それで、なのは。ユーノはもう来たの?」

「あ、ううん。まだみたい……お仕事忙しいのかな……」

「まあまあ。ユーノくんの事や。例えどんなに忙しくてもちゃんと来るって。それに『噂をすれば影が差す』と言うやろ? さっきからうちらも噂しとったし、そろそろ現れるはずや」

「……なるほど。道理でさっきからくしゃみが止まらないと思ったよ」

「うんうんそうやろ……って本当に来た!?」

 いつの間にか五人の背後には、皆と同い年くらいの眼鏡を掛けた長髪の男性……噂のユーノ・スクライアがこちらも苦笑しながら立っていた。

「みんな、卒業おめでとう。ごめんね、少し遅れちゃって」

「ううん。来てくれて嬉しいよ」

 そう言って微笑むなのは。その表情は先程アリサが呟いた通り確かに誰が見ても恋する乙女そのものだった。

「さて、じゃあ早速出店でも回ろか? みんなお腹空かしとるやろ?」

 そんな様子にみな苦笑を浮かべながらはやてが代表して提案を述べる。
 もちろん、その場の全員が頷いた。


 卒業式のパターンは大概二つに分かれる。
 厳かな雰囲気を大切にし、最後まで別れに涙する「式」パターン。
 式は厳かだが終わったら盛大に盛り上がる「お祭り」パターン。
 私立清祥大付属中学校の卒業式は後者のパターンであった。

「話には聞いていたけど本当にお祭りみたいだね」

 去年までは在校生の立場だった為何度か雰囲気を経験していたなのは達と違い、今回が初参加のユーノは素直にそう感想を漏らした。

「でしょ? ユーノくん何か食べる? おすすめは料理部の焼きそばと……」

「ちょ、なのは、そんな引っ張らないでよ」

「「「「………」」」」

 嬉しそうにユーノを連れまわすなのはと、満更でもなさそうなユーノの後ろを綿あめやりんご飴を齧りながら複雑な表情で残りの四人が付いていく。

「ねえはやてちゃん。私達って必要なのかな?」

「あー……必要なかったかもしれへんなあ」

「毎度毎度のツッコミなんだけど、だから何であの二人付き合ってないの?」

「あ、あはは……」

 二人の空気に当てられたのか少々不機嫌なアリサの言葉にフェイトは苦笑で答える事しか出来なかった。
 実際なのはとユーノの二人はかなり目立っていた。清祥大の付属校は完全なエスカレーター式であるが、小学校を境に高校まで男子と女子の学び舎が別々に分かれるようになっている。
 とはいっても同じ広大な敷地内にその全てが建っているわけで、まったく顔を合わせなくなるというわけではない。
 それが有名な人物……特に美男子美少女として有名だったのなら知っていても不思議ではないし、顔を合わせる機会が少なくなった故に更にその噂が広まる事もある。
 そういう意味では、なのは達はかなり有名であった。全員の容姿が高い事に加え、イタリアからの帰国子女(という設定になっている)で穏やかな性格のフェイト、大人しめな性格に反して抜群の運動神経と仲間内一番のスタイルを誇るすずか、常に学年一位の成績を収めているアリサ、明るい性格でよくリーダーシップを取るはやて、そしてそんなメンバーの中でも決して影の薄くならないいつも元気ななのは。有名にならない方がおかしい。
 実際全員、何度かそういう告白を受けている(と言ってもなのは、フェイト、はやてはそういう事が集中する学生生活の後半にあまり学校に来ていなかったのでその数は微々たるものだったが)ようだが、結果は常に惨敗。いつの間にか高嶺の花扱いを受けていたはずの一人が。

「はい、ユーノくん」

「あ、ありがとうなのは」

 女顔ではあるが明らかに男である事が分かる人物と、仲睦まじく歩いている。
 噂にならないはずもなく、その噂は一気に広まった。
 というわけでさっきから周囲の視線を一心に浴びせられている面々であったが、その大元の二人は気が付いていないのか平気な顔をしており、むしろ残りの四人の方が居心地の悪さを感じずに入られなかった。

「……ねえフェイト。ちょっとあのふたり一発小突いてきていい?」

「だ、駄目だよアリサ! 良い雰囲気なんだから、ね」

「その雰囲気のせいでこっちまで被害が及んでるんやけどなあ」

「は、はやてまで……」

 計画立案者がそんなでどうする、とツッコミたくなるフェイト。

「あの、ところで三人とも……さっきからずっと考えていたんだけど、今って次の作戦に入る絶好のチャンスじゃないの……かな?」

 と、三人の様子を苦笑しながら見ていたすずかの一言に、

「「「……あ」」」

 三人が同時に間の抜けた声を上げた。
 という事で作戦その二、「タイミングを見計らってなのはとユーノを二人きりにしよう」、何の苦労もなく実行終了。


――あれ? ねえなのは、フェイト達は?

――え? あれ?

「遅っ!? 気付くの遅っ!! もうここにスタンバイしてから三十分は経ってるちゅうのに!」

 今日ばかりはさすがに人気のない屋上に陣取り、「クラールヴィント」でなのは達の様子を見ていたはやてが思わず全力でツッコミを入れた。

「落ち着いてはやて。私達が居なくなった事に気が付かないくらい二人の世界に入っていたんだから喜ぶべきなんじゃないかな?」

 そんなはやてをフェイトが苦笑を浮かべながらも宥める。

「……まあ、そうなんやけどな。おっしゃ、仕上げといきますか」

 気合を入れるように叫び、はやては「クラールヴィント」を本格的に起動させる。

「作戦その三、『クラールヴィントで二人に色々しよう』開始や」

「作戦名だけ聞くとすごく怪しいわね」

 アリサの呟きをはやては聞こえなかった事にした。

――どうする? 探す?

――んー、まあみんなも楽しんでいるだろうし。それに二人きりっていうのも久しぶりだし私達も楽しみながらゆっくり探そう。

「ふむ、なのはもなかなか言うじゃない」

「ユーノくんも嬉しそうやし、二人がお互いを憎からず思っているのを再確認。遠慮なくいくで」

 はやてはそう宣言すると同時になのはの足元に向かって手を差し出した。これに引っ掛けてこけさせ、ユーノに寄りかからせようという魂胆だった。が、

――あれ? 何か今踏んだような?

「……あの、大丈夫はやてちゃん?」

 骨でも砕けたような音が響くと同時に、はやての顔が百年の恋も一気に冷めそうなとんでもないものへと変わった。

「まあ、読めないオチではなかったわね」

 目に涙を浮かべてぷるぷると体を震わせるはやて。

「た、タイミングが難しいわこれ」

「本来はシャマルのデバイスだしね……」

 その後も何度か試みたが、屋台の鉄板で焼きそばではなく手を焼くわ、割り箸の代わりにされ綿あめまみれになるわ、イカ焼きのたれを塗られるわと結果は散々であった。

「うう~、なんでこうなるんや?」

 こうなる事を予想していたのか、救急セットを携帯していたすずかに美味しそうな匂いを漂わせている左手を治療してもらいながら、はやては滝のような涙を流していた。

「『クラールヴィント』の性質上、片手しか『夢の扉』くぐれないからね。手一本じゃ出来る事限られちゃうよ。それに魔力を持たないアリサやすずかじゃ『クラールヴィント』は発動しないし、そもそもシャマルと主であるはやてにしか起動できないようになっているから私でも『クラールヴィント』は使えないし」

「うぅ……正直、失敗やこれは」

 そんなはやてを慰めるようにアリサがその肩を軽く叩く。

「元気出しなさいってば。次の作戦で上手くやればいいんだから」

「……え?」

 だがアリサの言葉に、はやては何故か疑問系で答えを返した。

「「「………」」」

 しばらく辺り一帯に沈黙が訪れ、

「……ねえ、はやて。まさかこれで終わり……とかないよね?」

 ようやくそう口にしたアリサの言葉に、

「………」

 はやては視線を逸らす事で答えた。

「……はやて。今まではやてがなのはとユーノをくっつけようとしてことごとく失敗していた理由、何となく分かった気がするわ」

「ちょ、そんな目で見んといてやアリサちゃん! ああ、すずかちゃんまで!?」

「はやて、戦闘指揮はかなりレベル高いのにこういう事には穴だらけなんだね。やっぱり恋の経験がないからかな?」

「痛い! フェイトちゃん、それこの手の状態よりものすごく痛いんやけど!?」

 呆れたような三つの視線を一身に受け、はやては絶叫しながらその場に崩れ落ちた。


――あ、そうだなのは。ちょっといいかな?

――うん? なあにユーノくん?

「あれ? なのは達どこかに移動するみたいだけど?」

「ぐすっ……そうみたいやな」

「はやてちゃん、そろそろ泣き止もうよ」

 一応それ以降も「クラールヴィント」で二人の様子を伺っていた四人は、二人が何やら別の行動をし始めた事に気が付いた。
 そして騒いでいる群衆から離れた場所に移動すると、ユーノがポケットから何かを取り出した。

「そうや、それがあったわ!」

 その様子を見ていたはやてがいきなりそう大声を上げた。

「はやてちゃん、何か知ってるの?」

「知ってるも何も、あれをなのはちゃんに渡すようユーノくんにあげたのはうちやしな」

「はやてが忙しかったから渡したのは私だけどね」

 フェイトの言葉を聞いてアリサとすずかはなのはと合流する前に二人が交わしていた会話を思い出す。

「あれ、そういう意味だったんだ?」

「そうや。まあ、これで二人ともお互いを意識し合うはず……あれ?」

 だが、ユーノがなのはに渡したそれを見て、はやての台詞が途中で切れてしまった。

「何だかなのはの……デバイス、だっけ? それに似ているわね。あれがはやての切り札なの?」

「え? あれ? 何やあれ?」

 アリサの言葉が聞こえなかったのか、はやては困惑した表情でそう呟いた。その様子をみてアリサとすずかも困惑してくる。

「あれ、はやてちゃんが渡したものじゃないの?」

「ち、違うで。うちが渡したんは指輪や。奮発して一目でそういう事に使われるものやって分かるくらいのものを買ったはずやのに……なあフェイトちゃん、ちゃんとユーノくんに渡してくれたん?」

「うん、間違いなく」

 はっきりとそう告げるフェイト。
 そう、フェイトは確かにユーノにはやてから預かったものを一度は渡した。
 ……一度、は。

(そろそろ頃合い、かな……)

――ユーノくん、これ何かな? 「レイジングハート」によく似てるけど。

――ああ、それは……。

 そこで「クラールヴィント」の能力である「夢の扉」が唐突に消えた。

「フェイトちゃん?」

 フェイトがはやての指から「クラールヴィント」を外し、強制的に解除したのだ。

「これ以上は……もう既にな気もするけど、プライバシーの侵害だよ。そろそろ止めよう、ね」

 そう言うフェイトの顔には笑顔が浮かんでいたが、有無を言わさない雰囲気を醸し出している。
 アリサとすずかは少し沈黙した後苦笑しながら頷き、はやてもその様子を見てしぶしぶながら残りの「クラールヴィント」を外してフェイトへと手渡す。
 それを確認するとフェイトは今度こそ本当の笑みを浮かべた。

「じゃあ、私達も楽しんで来ようか? なのは達のストーキングをしていたから全然楽しんでいないしね」

「きっついなあ……まあ、そうやな。こうなったらヤケ食いさせてもらうで」

 右腕を高く掲げながら宣言するはやてに同調するように、残りの三人も同じように右腕を掲げる。
 こうして女四人の食べ歩きプランが採択されたのであった。


「つまり、なのはさんとユーノ博士をくっつけようとして盛大に失敗した記録、って事ですか?八神部隊長」

「あはは、スバルもはっきり言ってくれるやんか」

 休憩室で軽い昼食を取っていたはやてが唐突に当時の事を思い出し、面白半分で報告書風にまとめていた所にちょうど午前の訓練を終えたフォワード陣がやってきたので見せて感想を聞かせてもらっていた。
 その第一陣が、スバルのその感想だった。

「でも、気になりますね。ユーノ博士に渡したはずのものがいつの間にかすり替わっていた、って事ですよね?」

「うん、まあそうなるのかな? フェイトちゃんは昔から嘘を吐くような子やないしな。それだけが今でも分からないんよ」

 ティアナの問いにはやては不思議そうな顔をしながら答える。

「ただいま……あれ? みんな集合してどうしたの?」

 ちょうどそこに外出していたフェイトがヴィヴィオを抱いて現れた。

「あ、フェイトさん、お帰りなさい」

「ヴィヴィオもご飯? 一緒に食べようか?」

「うん♪」

 すかさずエリオとキャロが声を掛け、フェイトとヴィヴィオが笑顔で答える。

「……ねえ、それなあに?」

 が、スバルが持っていた例の報告書(風の日記のようなもの)を目ざとく見つけたヴィヴィオが声を上げる。スバルがはやてに目をやると頷かれたので、それをフェイトへと手渡した。

「……ああ、あの時の。駄目だよはやて。こういうのはあまり見せない方がいいよ」

 ざっと目を通した後、フェイトは苦笑しながらはやてを咎めた。

「ねえフェイトママ。それなあに?」

「ん? これはね……」

「なのはママとヴィヴィオのパパになるかもしれない人のお話や」

 フェイトの言葉をはやてが奪うように笑いながら呟く。これにはさすがにフェイトも慌てた。

「ちょっと、はやて……」

「ヴィヴィオのぱぱ?」

「そう、ユーノパパや」

 そのやり取りに周りから小さな笑い声が上がる。さすがに止めようとフェイトが何か言おうとしたその時、

「お疲れ様……あれ? みんなどうしたの? 何だか楽しそうだね」

 その話題の一人が現れた。

「ああなのはちゃん、お疲れ様。ちょっとフォワードのみんなと談笑してただけや。部隊長やからこそ、部下とのコミュニケーションを取らなと思ってな」

 すかさずごまかしを入れるはやてに、フェイトを除く周りは再び笑いを噛み殺す。その様子を訝しげに見ていたなのはだったが、

「なのはママ~」

 笑顔で寄ってくるヴィヴィオに意識を持っていかれ、すぐに気にならなくなったようだ。
 ほっと胸を撫で下ろすはやてだったが……、

「ねえ、なのはママ」

「ん? なあにヴィヴィオ?」

「ユーノパパはどこにいるの?」

 ヴィヴィオの何気ないその呟きに、凍った。
 空気が。時間が。皆が。そしてはやてが。

「………」

 そっとはやて達に向き直り、笑顔を振りまくなのは。
 だが、その優しげな表情に、何故か今は背筋も身も凍りそうな恐怖しか感じ取れない。ヴィヴィオだけが対象となっていないらしく、不思議そうな表情でその様子を眺めている。
 スバルの手が……というより全身が震えた。そして、その手に持っていた物を落としてしまう。

「あっ……」

 はやてが声を上げるがもう遅かった。なのははそれを拾い上げ、ゆっくりとページをめくる。
 やばい、ものすごく。はやては直感的にそれを感じていた。
 何しろ堂々と記載しているのだ。「機動六課部隊長 八神はやて二等陸佐」と。

「……ヴィヴィオ、こっちおいで」

「……?」

 フェイトに声を掛けられ、不思議そうな表情を崩さぬままではあったが素直にフェイトの傍に近寄るヴィヴィオ。そんなヴィヴィオを抱きかかえ、エリオとキャロの手を引き、足早に休憩室を退出する。
 そして扉の鍵を閉め、プライバシー保護の為防音の障壁を張り、

「……お昼、外に食べに行こうか?」

 笑顔で三人にそう提案する。
 それと同時に、機動六課のオフィスが小さく揺れた。


 後に提出された「機動六課オフィスの休憩室半壊事件」の始末書の理由欄には、大きくこう書かれていたという。


――管理局の白い魔王・降臨。


「なのは、ここにいたんだ?」

「……ああ、フェイトちゃん。何か私に用事なの?」

 その日の夕方、フォワード陣の(いつもよりきつめの)訓練を終え、(ぼろぼろになっていた)はやてに報告書を提出した後、なのはは屋上でひとりたそがれていた。

「用事ってほどじゃないけどね……これを渡しておこうって思って」

 そう言ってフェイトはポケットから小さな箱を取り出した。

「さっきので思い出したから。四年前の、はやてからのプレゼント」

 その一言でなのはにはそれが何なのか理解した。

「一応、ユーノには渡したんだ。でもすぐに返されたの。『なのはへのプレゼントは僕がちゃんと選んで渡さないと』ってね」

「ユーノくんらしいなあ。そんなところだけ変に律儀なんだよね」

「……そんなところが、好きなんだよね?」

 フェイトの言葉になのはは少しだけ沈黙した後、

「……うん」

 小さな声で答えた。

「ねえ、あの日、ユーノから貰ってたものって何だったの?」

「ん? レイジングハートの新しいモードの試作型アップデートファイルと部品。それを技術部のマリーさんに渡して完成したのがエクシードモードとブラスターモード。あはは、本当、ユーノくんてば好きだって言った女の子の卒業祝いにこんなの送るなんて、デリカシーないよね」

 笑いながらそう言うなのはだったが、きっとユーノの真意に気が付いているのだろう。今その話を聞いたフェイトでさえ、理解したのだから。
 好きな相手だからこそ、渡したのだ。
 一度落ちたからこそ、翼を。
 もう一度立ち上がったからこそ、強さを。
 もう二度と落ちて欲しくないという、願いを。

「ねえ、なのは」

 理解しているからこそ、フェイトは聞きたかった。
 八年前のその日、偶然にも立会い、そして、その後自分に起きたある事件のせいでその答えを聞けぬままうやむやになってしまった、あの時の問いの答えを。

「何でユーノの事、振ったの?」

 お互いがお互いを想いあっているのに、なのははユーノの想いを拒絶していた。それがフェイトにはどうしても信じられない。
 その事を知っていたからこそ、フェイトはあの時の作戦に参加したのだ。
 はやて達が無理に二人をくっつけようとして関係がこじれないように、失敗すると分かりきっていた、その作戦に。

「……怖いんだ。好きだからこそ、もしまた落ちて、その人を悲しませる事が」

 五分程躊躇して、ようやく語られたなのはの言葉にフェイトはやっぱり、と思わざるを得なかった。
 自分の事で悲しむ人を増やしたくない。自分のせいで大切な人が悲しむのを見たくない。
 それが、想いを寄せている相手なら尚更、優しすぎるなのはが考えそうな事だった。
 ……だけど。

「ねえ、なのは。なのはの考えを否定する気はないよ。大切な人を悲しませたくないから、作らない、深く交わらない。そんな考えもあると思う。でもね」

 フェイトはそこで一度言葉を切る。そして、ありったけの自分の思いを込めて、なのはに伝わるように告げた。

「……落ちられない理由を作るのも、私は強さになると思うよ」

 真っ直ぐ、力強く。

「落ちられない、理由……」

 なのはが小さいながらもその言葉を反芻してくれたのを確認すると、フェイトは踵を返してその場を立ち去ろうとした。

「……ねえ、フェイトちゃん。あの時フェイトちゃんが教えてくれた人の事も、フェイトちゃんにとっての『落ちられない理由』のひとつ、なの?」

 だがなのはのその言葉にフェイトの足が止まる。

「……うん、そう。それが私の『落ちられない理由』のひとつ。そして……私がなのはとユーノがお互いに抱いているような『想い』を抱けない……『楔』、なのかな?」

 消え去りそうな程、小さくそう呟くフェイトの横顔は。
 ……深い悲しみを抱いていた。


 立ち去るフェイトを見送った後、なのははしばらく屋上に佇んだままでいた。

「何か、思い出しちゃったなあ。彼女の事」


――はっきり言ってあげようか? あんたはね、付き合える自信がないだけ。自信をなくしただけ。だから友達のままでいれば、少なくとも愛想を尽かされて離れていく事はないだろうと安全策を選んだ臆病者に過ぎない。だから好きなのに恋人同士にはならないっていう矛盾した答えで、もやもやしている、そうでしょ? 違うなら否定しなさいよ、さあ!


 方法は違えど、フェイトと同じく情けなかったあの時の自分を心配し叱咤してくれた、フェイトと同じくらい最高の親友にして……最高に嫌な、恋敵の事を。

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 うちの通っていた高校は公立だったからか、卒業式の後にこういったお祭り騒ぎはありませんでしたw
 今お届けしていますこの「魔法少女リリカルなのはA→S」シリーズはA'S~StSの間の空白をアナザー展開で埋めるというお話です。ここまでだとあんまりアナザーな展開じゃないですがこの後のフェイト編、そしてはやて編はもうなんていうか……ねぇ?w
 ちなみにこのA→SシリーズはミクシィとなのはSNSでも公開しており、ミクシィの方では完結しています。まあ、こちらでも随時UPさせてもらいますのでしばしお待ち下さいw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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