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魔法少女リリカルなのはA→S 第三話 ~Side NANOHA Ⅲ~

 その夜、消灯時間が過ぎてもなのははなかなか寝付けずにいた。
 原因は分かりきっていた。昼間……正確には夕方の、彼女、ユーリとの会話。

――あんた、馬鹿でしょ?

 遠慮も何もない、真っ直ぐな感想。それだけに、その事を自分でも分かっているだけに、今のなのはにはかなりきつい言葉であった。

「私が馬鹿なのはわかりきってるよ……だけど、どうしようもないじゃない、怖いんだから……」

 そう、恐怖……それが、今のなのはの心を満たしている負の感情であった。
 その恐怖も、色々なものが交じり合って出来たものだった。もう空に舞えないかもしれない恐怖、反して再び落ちるかもしれない恐怖、体が自由に動かなくなるかもしれない恐怖、そして、ユーノから遠ざかってしまうかもしれない恐怖。
 皆、彼女が無敵のエースだと思っていた、信じていた。だから、失念していたのかもしれない。
 どんなに高い魔力を保持していても、なのははまだ十一歳の少女だという事を。

「私……これからどうなるのかな?」

 初めて感じる未来への不安。ついこの前までははっきりと見えていた未来の自分が見えなくなってしまった事への焦り。今のなのはは、かなり情緒不安定だといっても過言ではないだろう。

「ん……?」

 ふとドアの方に視線を移した瞬間、なのははその向こうから何か懐かしいものを感じた。
 それは、ユーノやフェイトと同じく自分の大切なパートナーで、ある意味前者の二人よりも深い絆で結ばれて……。

「レイジング……ハート?」

 なのはの愛機、レイジングハート。だが、ありえないはずだった。あの子もまた、あの事故で重傷を負って現在治療中のはずなのだから。
 だが何故だろう、なのはは理由もなく今ドアの向こうにレイジングハートがいると、そう確信していた。慌てて掛け布団を跳ね除け、車椅子に移動する。そして大急ぎでドアを開けた。

「あれ……?」

 だが、ドアの先には誰も、何もなかった。しかしどうしても気のせいだとは思えなかったなのはは周囲を見渡す。そして、

「あっ……」

 赤く発光する何かが廊下の端を曲がるのを目視する。力の限り車椅子の車輪を回し、必死で後を追いかけるなのは。
 そんな奇妙な追いかけっこの果てにたどり着いたのは、医務局の中にある比較的大きな広さを持つ空間……リハビリ室の、訓練場。
 最初リハビリ室に訓練場というそのアンバランスさに首を傾げたなのはだったが、ここはあくまで時空管理局……自分の持つ常識とは少々違う常識が入り混じっている場所である。
 例えば二年前にあったある事件の被害者ように体自体は無事だが魔力だけ失った人がここで養生をしつつ、その失った魔力の回復とともに多少の訓練を開始しても不思議ではない。そういう時の為の施設のようだ。
 なのはは赤い光がこの中に入ったのを確認すると、さすがに車輪を回していて少し疲れた腕を軽く振ってからゆっくりと中に入った。

「……いらしゃい、待っていたわ」

「え?」

 そして中にいた人物を見て、なのはは驚愕の表情を浮かべる。

「ユーリ、ちゃん?」

「……あんたに『ちゃん』付けで呼ばれる筋合いはないけど?」

 そこにいたのは紛れもなく、今日知り合ったばかりの少女、ユーリ・スクライア。
 入ってくる光源が少ない為確認し辛かったが、その声は間違いなく彼女のものであった。

「な、何で?」

 面会時間はとうの昔に過ぎているし、昼間の元気の良さを見る限りここに入院しているとは考えられない。

「ここにいる理由? 決まっているわ……あんたに引導を、渡す為」

「ど、どういう……」

 そう聞き返そうとしたなのはだが、その言葉は途中で飲み込まれてしまった。ユーリの手の中にある、赤い宝石のようなものを確認した瞬間に。

「レ、レイジングハート!?」

「ええ、そう。今はまだあなたのデバイスで、お兄ちゃん……ユーノ・スクライアが作り上げた、インテリジェットデバイス……でも、今からは、違う!」

 ユーリは語尾を強めてそう叫ぶと、手の中にあるレイジングハートを掲げる。

「レイジングハート……セットアップ!」

「なっ!?」

 驚くなのはを他所に、レイジングハートはユーリの言葉に……答えた。
 待機状態を解除して杖の状態となり、ユーリのその身をバリア・ジャケットで包む。

「ど、どうして!?」

 自分の時と同じ形状で、少し黄色の入った色をした杖とバリア・ジャケット。しかし、目の前にいるのは自分ではなく、まったくの別人。
 今目の前で起こっている現状を、なのはは理解すら出来ずにいる。

「不思議に思った事はない? お兄ちゃんが得意とするのは治癒、防御、拘束といった補助や防御系の魔法。でも、レイジングハートはどう見ても、射撃型に特化している形状をしている」

「そ、それは私をマスターって設定した時、レイジングハート自身が私に合わせて設定変更をしたって……ユーノくんが」

「いくら人間に近い思考回路をもつインテリジェットデバイスだからって、支援型と攻撃型というまったく違うスタイルに変化するのは物理的に不可能よ。人が鳥にはなれないようにね」

「そ、それじゃあ……」

 レイジングハートは最初から、ある程度砲撃型として設定されていた事になる。
 しかし、そうなると大きな疑問が残る。先程からユーリが語っているように、ユーノは完全な支援型の魔導師だ。攻撃特化のデバイスなんて、持っていても意味がない。

「……まだ、気が付かないの? だったら特別ヒント……アタシね、もうすぐ誕生日なの」

「え?」

「今の季節と、あんたがお兄ちゃんと初めてあった季節を思い出してみたら?」

「え? あ、ああ……」

 ようやく、なのははある事に気が付いた。

「……ユーリ、ちゃん」

「何?」

「確か、ユーリちゃんも……私と同じ、砲撃型の、魔導師なんだよね?」

 なのはの言葉に、ユーリは答えようとはしなかった。代わりに、その顔に笑みを浮かべる事でそれを肯定する。
 つまり、そういう事だったのだ。

「レイジングハートは……本当は、ユーリちゃんの為に作られたものだったの?」

「……正解」

「!? レイジングハート!? ねえ、嘘だよね!? 答えて、私のところに戻ってきて!」
 衝撃の事実を知ったなのはは、しかし信じる事が出来ず、必死で自分の愛機に声を掛ける。

《………》

 だが、レイジングハートはその声に答えはしなかった。

「……いくわよ、レイジングハート!」

 代わりに、そう命令するユーリの言葉には、はっきりとこう答える。

《……Yes, my master》


「レイジングハート……アクセルシューター、セット!」

《Accel shooter》

 ユーリの持つレイジングハートから射出される光の魔法弾。しかしその姿は光弾というよりもホーミングレーザーと言った方がしっくりきそうであった。
 どちらにしろ、それはなのはがレイジングハートと一緒に編み出した魔法のはずだった。

「あぅっ……!」

 自由に動かない足、まだ完全に戻っていない魔力。歩く事も飛ぶ事も出来ない今のなのははその直撃を受けるしか道がなかった。
 体にダメージはない。どうやら非殺傷設定をしているようだ。だが、それでも魔力値のほうに受けるダメージは普通の衝撃を受ける時とそう変わらない。
 アクセルシューターが命中した時の衝撃と、それにより車椅子から吹き飛ばされ壁に体を打ちつける衝撃がなのはに走り、思わず悲鳴を上げる。

「ユーリ、ちゃん? どうし、て……」

 何故彼女がこのような事をするのか、なのはは理解出来ずにいる。

「どうして? 決まってる、あんたみたいな弱虫が大っ嫌いだから! あんたの気持ち、分からなくもない。アタシだって魔導師だから、落ちてしまう恐怖は、いつだって感じてる。だけどね、それを盾に、ユーノお兄ちゃんを振った事だけは許せない! 自分の臆病さを誰かのせいにしようっていうその根性、アタシがぶっ潰してやる!」

「ち、違うっ! そんな事、思っていないよ!」

「その言葉、お兄ちゃんを目の前にしても言えるの!?」

「っ……そ、それ、は……」

 言える、と自信を持って言えなかった。彼女の言う通り、今の自分に自信がなくてユーノを振った事は紛れもない事実だからだ。

「ほら見なさいよ! あんたは今否定しなかった、出来なかった! 何故? 自分でも分かっているからでしょ!? お兄ちゃんに同情するわ、こんな臆病者を好きになっていたなんて、さっさと振られて本当に良かった!」

「……っ!」

「レイジングハートもそう! 今まで信頼していたでしょうに、こんな形で裏切られるなんて、思ってもいなかったでしょうね!」

「私は……レイジングハートの事は、裏切っていない!」

 なのははそう叫んで魔法弾の形成を試みる。レイジングハートがなくても、一発くらいなら何とか形成は可能なのだ。
 しかし……体調が万全の場合、だが。

「ああっ!?」

 形成魔力が不充分、しかもレイジングハートという支えを失ったという精神状態で、まともな魔法弾などとても形成出来たものではない。
 普段の半分の大きさにも満たない形状でふらふらと、それでもユーリにはめがけて飛んでいったが、当然ながらいとも簡単に弾かれてしまう。

「無様ね、落ちる前は空戦のエースとまで呼ばれていたのに」

 あざ笑うかのようにゆっくりとなのはの元まで歩み寄り、レイジングハートをその眼前に突きつける。

《Exelion Mode drive》

「え?」

 突きつけられたレイジングハートからそう声が響き、カートリッジが一発装填される。その瞬間、レイジングハートはその形状を変化させた。
 レイジングハートの現状では最強のフォーム、エクセリオンモードへと。
 しかも、それだけには留まらない。六枚の光の羽が展開され、先端に半実体化した魔力刃「ストライクフレーム」が形成される。
 「Accelerate Charge System」……瞬間突撃システム、通称、「A.C.S」。レイジングハートはユーリに命じられる事なく、自らそれを起動させたのだ。

「そん、な……」

 なのはは嫌がおうにも悟るしかなかった。ユーリとレイジングハートは間違いなく、本気なのだと。

(このままじゃあ……まずい)

 さっきも述べたようにいくら魔力ダメージしかないとはいえ、痛覚は普通に働く。何度も食らい続ければ肉体的にはダメージがなくても精神的にかなり消耗してしまう。

(どうやったのかは分からないけど、今のレイジングハートはユーリちゃんのコントロールに入っている。何とかしないと……)

 取り敢えず今は逃走を図るべきだ。今の自分ひとりで何とか出来そうな程、この現状は甘くない。逃げ切れる自信もあまりないが。

「レイジングハート、私だよ! ねえ、正気に戻って!」

 なのはは隙を作ろうとユーリの持つレイジングハートに声を掛ける。その声が届くと信じて。

《……Master》

「え……?」

 だが、レイジングハートから聞こえたその声に、なのはは何故か違和感を覚えた。

「どうしたの、レイジングハート?」

 その言葉を自分に掛けられもものだと思ったらしいユーリはそう尋ねるが、レイジングハートは答えなかった。

(……やっぱり、あれは……私の事?)

 もしかしたら……と、なのははある結論に至る。

「……逃げないの?」

 少し様子の変わったなのはの姿を、ユーリは疑問に思ったようだ。
 逃げようとも、泣き叫ぼうともせず、ただ真剣な眼差しでこちらを見つめる、その姿に。

「………」

 なのはは何も答えず、じっとユーリとレイジングハートを見据える。ユーリは一度ため息を吐いてから、レイジングハートを構え直した。

「……ブレイク・シュートッ!」


「……気が付いてたの?」

「……うん、なんとなくそうなんじゃないかな、ってね」

 待機状態に戻ったレイジングハートをなのはに渡しながら、ユーリは苦笑いを浮かべていた。

「だって、レイジングハートは強い子だから。よくよく考えれば操られるなんておかしいもん」

 そう、レイジングハートは操られてはいなかった。あのACSモードも最後の攻撃も、すべてそれに似せただけの、物理攻撃力も魔力ダメージもないただの光の手品のようなものだった。
 満面の笑みで呟かれたその言葉を聞いて、ユーリはもう一度大きくため息を吐いた。

「レイジングハートの言ったとおりね。あんたならこんなもの、余裕でクリアするって」

 そう言ってユーリはこの件の顛末を語ってくれた。
 最初はもちろん、ユーリはレイジングハートを自分が引き取るつもりで修復を担当していたマリーの元に向かった。そこでマリーとちょっとした口論をしている最中に、レイジングハートの方から「賭け」を持ち出されたらしい。
 つまり、「自分と対峙した時、なのはは逃げるか、それとも立ち向かうか」という内容だ。もちろんユーリは前者に賭け、レイジングハートは後者に掛けた。

「過去はどうあれ、今はあんなに腑抜けているんだから絶対逃げようとすると思ったんだけどな」

 そう呟くユーリだったが、その顔に悔しさは微塵にも見られず、むしろどこか嬉しそうにも見えた。そんなユーリの様子に慌てたのはなのはの方だ。

「そ、それはだって、レイジングハートは操られていないかもって気が付いただけで……それに、やっぱりまだ……怖いから」

 今回の事は気が付いてしまえば「茶番劇」に成り下がる。そして、なのはは気が付いた。だから、立ち向かえた。
 確かに今のなのはに足りないものは落ちてしまったという「壁」を乗り越える「勇気」だ。そしてそれはちょっとしたきっかけさえれば、きっと簡単に乗り越えられる。
 だが、それに気が付いていてもそう簡単にはいかないのが人間だ。特に今回が初めての挫折であるなのはにとっては、想像以上に大きなものであった。

「……はぁ」

 いまだに自信の無さげななのはを見て三度ため息を吐いたユーリは、手を伸ばしてその頬を軽くつねった。

「ふぇ?」

「いい? よく聞きなさいよ。お兄ちゃんね……何となく感じていたの。あんたに、振られるかもって」

「え……?」

「あんたが落ちてから、ずっとお兄ちゃんは後悔していた。あんたに魔法を授けたのは、お兄ちゃんだから。もし、あんたと出会わなければ、あんたは自分の世界で普通の人生を歩んで、普通に結婚をして、普通に新しい家族を作って……きっと、そんな人生を歩んでいた」

 それは過去にユーノの仕事の手伝いをしていた時、なのは自身も言われた事だった。そして、その答えもその時ちゃんと伝えている。

「……うん、そうかもしれない。でも、私は後悔なんてしていないよ。ユーノくんを助けられる力を持っていて、フェイトちゃんと心を通わせる事が出来て、そしてはやてちゃん達とも仲良くなれた。ユーノくんと出会わなかったら……普通に過ごしていたら、絶対に歩めなかった人生になった。そして、私はそれをすごく嬉しいと感じている。ユーノくんが後悔する事なんてどこにも……」

「……過去のあんたは、そうだった。でも、果たして今もそうなのかしら?」

「っ!?」

 その短い一言に、なのはの心臓が跳ね上がる。

「もしそうなら、さっきみたいな事、あんたは絶対に言わなかったはず。もう一度立ち上がろうと必死になるはず。なのに、あんたは医者から与えられたリハビリメニューを日々繰り返すだけ。どうして? お兄ちゃんからよく聞いていたよ、あんたは好きな事は、無茶なくらいまでのめり込む癖があるって」

「そ、それはこんな体で無理をしたら、それこそ元も子もないから……」

「違う。あんたは再び舞い上がる事に恐怖を抱いているんじゃない……再び舞い上がれないかもしれない事に、恐怖を抱いている。だから、お兄ちゃんの告白を断った。空に舞い上がれなくなったら、きっとお兄ちゃんは責任を感じてしまう。あんたに、愛情以外の感情も抱いてしまう。それが、怖かったんでしょ? だから、そのまま想いを受ける事を、拒否した」

「あ……」

「お兄ちゃんはああ見えて感がいいんだよ。だから、そうなると分かっていて、それでもあんたに想いを伝えた。もし受け入れられたなら、あんたをずっと支えるつもりだった。でも、きっとそうならないと分かっていた。あんたが再び、空に舞い上がると信じて疑わなかった……振られる事で、あんたが吹っ切ってくれると信じて。お兄ちゃんが好きだった、空に舞うあんたに戻ってくると、信じて」

「う、そ……?」

 それはあまりにもユーノには利益のない賭けだ。受け入れられても自分の好きだったなのはではなくなる。でも、断られたらそこで終わる。そんな賭けに、ユーノは笑って乗ったというのだ。

「こんな事で嘘を吐いてどうするのよ……分かった? みんな同じなの……あんたにもう一度、舞い上がって欲しいのよ……空へと」

「あ……うぅ……」

 レイジングハートを握り締めたなのはの瞳から、涙が零れだす。

「私……本当に何をやってたんだろう……レイジングハートも、ユーノくんも……みんな、私を信じてくれているのに……なのに私は、たった一度落ちたくらいで、変に落ち込んで、みんなに迷惑掛けて……ユーノくんにはあんな事までさせておいて……これで立ち上がらなかったら、私……最低だよ」

「……ねえ、なのは」

 ユーリが初めてなのはの事をそう呼んだ。そして、答えの分かりきった質問を、苦笑を浮かべながら呟く。

「もう一度……空へと舞い上がりたい?」

 その言葉に、なのはは間髪入れずに、大きく頷きながら答えた。

「……うん!」


 一時間後、首都クラナガンの大きな公園でなのははヴィヴィオと一緒にユーノを待っていた。

「ねえなのはママ、さっきのお電話、誰からだったの?」

 さっき買ってもらったアイスを頬張りながら、ヴィヴィオはなのはにそう尋ねてくる。

「んー? ちょっとね、なのはママのお友達からだよ」

 そう言ってなのはは言葉を濁した。
 正確には唯一の喧嘩友達で、ユーノを巡る恋敵で、そしてなのはが自分よりも優れていると認めている数少ない魔導師であった。
 ユーリ・スクライアの現在の魔導師ランクははやてと同じSS。レイジングハートの代わりという事でユーノから渡されたというレイジングハートの姉妹機を片手に、今も航空武装隊のひとつを率いて前線で活躍している。今までも何度か一緒に仕事をする機会があり度々顔を合わせているが、その度に先程のような口喧嘩になりかけていた。この事が知れ渡ると教導している生徒達の士気はもちろん、友人達……特にフェイトや口論の元凶となりやすいユーノ辺りには絶対に知られるわけにはいかないので苦労しているのが現状だった。
 まあ、それすらも楽しんでいる節は確かにあるのだが。

「あ、ほらヴィヴィオ、口にアイスがついてるよ」

 なのははそう言って鞄からハンカチを取り出し、ヴィヴィオの口元を優しく拭く。それをヴィヴィオは嬉しそうに受け入れていた。
 ユーリとは確かに喧嘩友達である。だがそれと同時に、今の自分を作り上げてくれた恩人でもあった。
 あの日、彼女の発破がなければ、きっと今の自分はなかっただろう。きっと空に上がる事を恐れ、その事でユーノに対して負い目を感じ、やりたかった事も出来ずに実家の喫茶店を継いで、そして普通の生活を送っていた可能性が高い。
 それでいいと思った時もあった。それが、自分の為だと。
 でも、今目の前にいるヴィヴィオの笑顔を見ていると、そんな事を考えていた自分が恥ずかしかった。
 彼女を助けられたのは、今の自分があるからだ。もちろん自分ひとりの力で、など傲慢な事は言わない。フェイトやはやて、そして自分が育てたスバルやティアナ達の存在があったから、達成出来た事だ。
 リハビリは辛かった。何度も挫けそうになった。でも、フェイトやユーノは優しく励ましてくれ、ヴィータやユーリは発破を掛けてくれた。「飴と鞭」とはよく言ったもので、それは確かになのはの奮起に繋がった。そして、再び空に舞い上がる事の出来た日は、なのはの中でずっと残る事柄だろうと感じている。
 あと残る問題があるとすれば、それは……。

「あ、なのはママ、ユーノくん来たよー」

 ちょうどヴィヴィオがアイスを食べ終わるのと同じタイミングで、ユーノがこちらに向かって走ってくる姿を確認できた。ユーノの姿を確認したヴィヴィオが彼に向かって真っ直ぐに走っていく。
 が、その途中、

「あぅっ!?」

 ものの見事に転んだ。なのはは慌てて立ち上がったが、その前にユーノがすでにヴィヴィオの前まで来ていた。
 ユーノは手を差し出す事はせず、しゃがんで優しげな顔で佇んでいる。なのはの教育方針をよく理解している結果である。
 そしてヴィヴィオもまた強くなった。泣いたりせず、一人で立ち上がってなのはに向かって微笑んだ。それを確認するとなのはは急いでヴィヴィオの元に向かった。

 「ほらヴィヴィオ、顔が汚れているよ」

 そう言ってユーノはヴィヴィオの顔を自分のハンカチで拭いて、擦り傷に治癒魔法を掛けた。
 前線から退き、その魔力を探索系へとシフトした今も、その優しい癒しの光は衰えていない。きっとそれは、ユーノの持つ優しさの現われ。なのはやユーリが惹かれた、彼の本質なのだろうから、変わるはずがない。

「ごめんね、そしてありがと、ユーノくん。ほら、ヴィヴィオもちゃんとお礼を言わないと」

 なのははそう言ってその手をヴィヴィオの肩に優しく乗せた。それを合図と感じたヴィヴィオは、先程なのはに頼まれた言葉を、ユーノに向かって囁いた。

「ありがと……ユーノパパ」

 それは、かつて親友であるはやての冗談から生まれたヴィヴィオのユーノに対する呼び方。その時は恥ずかしさと、そして申し訳なさから禁止令を出したが、今はどうしてもヴィヴィオに彼をそう呼ばせたかった。
 その理由は三つ。
 ひとつは、自分の心の進展を彼へと伝える合図。はやての悪戯と同時期に同じ親友であるフェイトに伝えた、過去にユーノを振った理由……それは克服したとはいえ、また落ちるかもしれないという恐怖を今まで拭い去れなかった。自分の心の弱さの現われだった。だから今まで変わる事のなかった彼の気持ちを知っていながらもずっと曖昧に誤魔化してきた。
 でも、それをもう止めようという決心がついた。ヴィヴィオという存在が出来た事で、ようやくその時フェイトにいわれた「落ちられない理由」の意味を理解出来たからだ。
 だから、増やそうと決めた。増えれば増えるほど、それは強い力を自分に与えてくれると知ったから。
 二つ目は、遠くから微かに聞こえる、壁を叩くような音を響かせている彼女への、ちょっとした嫌がらせ。妹のポジションにいるという事で色々と役得を得ている彼女への、ちょっとした仕返しである。
 そして、三つ目は。

「あはは、ユーノくん、顔が真っ赤だよ♪」

 照れに照れまくっている今のユーノの顔を、自分の胸に刻み込む為であった。

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 無敵のエース・オブ・エースとして名高いなのはさん。でもやっぱり例の事故の時は落ち込んだでしょうね><; それから立ち上がったなのはさんはすごい人です、さすが冥王(ry

 ちなみになのは編はこれで終了です。色んなところで「?」と思うようなところがあったと思いますが、それは次回以降の別の話で(多分)わかるかとww

 では第四話からのフェイト編、よろしければお付き合い下さいw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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