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魔法少女リリカルなのはA→S 第四話 ~Side FATE Ⅰ~

「お疲れ様です。スバル=ナカジマとギンガ=ナカジマ、ただいま定期健診から戻りました」

「ああ、お帰りなさい。二人ともお疲れ様」

 スバルとギンガが定期健診を終え、そのまま自由待機に移行すると二人は真っ直ぐにリフレッシュルームに向かった。
 そこにはすでに自由待機に入っていたティアナ、エリオ、キャロのフォワード陣の面々となのは、フェイト、そしてヴィヴィオの六人が思い思いにくつろいでいた。

「あ、これお土産のチョコポットです。どうぞ」

 そう言って手に持っていた袋を差し出すスバルに真っ先に反応したのはヴィヴィオだった。どうやら微かに香る甘い匂いを敏感に感じ取ったらしい。

「うわーい、ちょこぽっとー♪」

「こら、ヴィヴィオ。もう晩御飯食べた後なんだから明日にしよう」

「まあまあなのは。せっかくスバル達が買って来てくれたんだし一個くらいならいいじゃない」

 そんななのはとフェイトの二人のヴィヴィオに対する相変わらずの態度の違いに周りのメンバーは思わず苦笑を漏らす。

「あ、それともうひとつお土産が」

 今度はギンガが手に持っていた紙製の箱を差し出す。すると今度はティアナとキャロが反応を示した。

「ギンガさん! それってもしかして『シルフィス・ラスタ』のプリンですか!?」

「作っている時間は不定期なのにお店に並んだらすぐに売り切れるので有名なプリンですよね!? すごい、よく買えましたね」

 普段は冷静沈着なティアナと物静かなキャロだったがやはり女の子。甘いお菓子には目がないようであった。

「………」

「ヴィヴィオ、まずは口元を拭こうか」

 その様子を口から涎を垂らしながら見つめていたヴィヴィオに苦笑しながら、その口元を拭くなのは。
 そんな自由待機の時間特有の和気藹々とした空気の中、しかしただ一人だけ、もの悲しげな表情を浮かべる人物がいた。

「あの、フェイトさん?」

 最初にその事に気がついたのはそんな女性陣に少しだけ気圧されていたエリオだった。

「あ、うん、エリオ、どうかしたの?」

「いや、その、それは僕の台詞なんですけど……」

 そのやり取りに気がついた他の面々がみな不思議そうにフェイトに視線を移しだす。

「何でもないよ。私、お茶を入れてくるね」

「あ、フェイトさん。お茶だったら私が……」

「ごめんねフェイトちゃん、お願いしていいかな?」

 素早くギンガが名乗りを上げたが、なのははまるでそれを遮るような形でギンガの言葉を濁した。

「うん、任せて」

 フェイトはただそれだけ言って休憩室から立ち去る。後に残された面々はただ呆然とその様子を見つめるだけだった。

「あーあ、失敗したなあ」

 しばらくして、なのはが溜め息と同時にそう呟いた瞬間、今度はなのはに視線が集まる。

「あの、なのはさん。もしかしてフェイトさんってプリン嫌いなんですか?」

「そういえばお土産で買ってきてくれる事はあったけど、フェイトさんが食べているところは見た事ないような……」

 この中ではなのはの次にフェイトとの付き合いが長いエリオとキャロがポツリと呟いた。それを聞いて慌てたのはギンガだ。

「あの、もしかして私、何か粗相をしちゃいましたか!?」

 だがなのはは苦笑しながら首を横に振った。

「ううん、そんな事ないよ。フェイトちゃん、プリンは嫌いなどころかむしろ大好きなはずだから」

「え? あの、それじゃあ何で?」

 当然のごとくそう尋ね返すギンガだったが、なのはは苦笑を浮かべたまま、その先を語ろうとはしなかった。

「ちょっとした思い出の品らしいの。フェイトちゃんにとっては、ね」

 ただその一言を残して。


 それは、思い出す度に未だに彼女の心を締め付ける出来事。
 それは、彼女の大切な親友が傷付き倒れていた時に起こった出来事。
 それは、彼女が本気で執務官という今の仕事に付く事を決めた出来事。
 そしてそれは……時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンの、あまりに悲しすぎる、ある想いの結末であった。


――十年前・春


「くそ、しつこい!」

 フェイトの使い魔、アルフは公園の物陰で小さく悪態を吐いた。
 背中には彼女の主人、フェイト・テスタロッサが荒い息を漏らしている。
 今彼女達を追っているのは管理局の人間のようであった。恐らく先程、なのはという少女との戦闘中に突如現れた管理局の執務官、クロノ・ハラオウンの仲間と思われた。

(やばいね、管理局員まで乗り出してくるなんて……このままこんな事を続けていたらいずれフェイトが……)

 やはり今回の事から手を引くべきだと進言しよう。アルフはそう誓った。
 だが、今は目の前の状況を打破するのが先決だった。ここで管理局に捕まっては元も子もない。
 アルフはフェイトを下ろし、彼女の周囲に小さな結界を築いた。この程度の小さな結界ならよほどの達人でもない限り結界を張っている時の魔力を感知される事はない。
 その予想通り、アルフ達を追っていた管理局員は今の行動で放出された魔力に気が付かなかったようだ。相変わらず上空から周囲を見渡していた。

(よし、後はアタシが囮になってあいつをなるべくここから離さないと……)

 だが、姿を見せるわけにはいかない。姿を見られればフェイトがいない事に気が付かれ、ここら一帯をくまなく探す事になる。
 姿を隠したままこの地点から移動し、時折魔力を放出する事で注意をこちらに逸らす。完全に相手を巻くか、フェイトが意識を取り戻し自力でこの地点から移動するまで。そういう手段が必要だった。

(かなり難しいけど……やるしかないんだ!)

 今、フェイトを守れるのは自分しかいないのだから。
 アルフは一度深呼吸をした後……行動を開始した。


「……?」

 意識を取り戻したフェイトの目に最初に飛び込んできたのは、見慣れない天井だった。
 体に走る痛みを堪えながらゆっくりと上半身を起こし辺りを観察する。
 どうやらマンションの一室のようだった。自分達が拠点としている場所より少々小さいが生活感があり、掃除も行き届いている。どうやらこの部屋にあるベッドに寝かされていたようだ。

「ここは……? アルフ?」

 小さな声で自分の使い魔の名前を呼ぶが、答えは返ってこない。フェイトは小さく溜め息を吐いた後、念話の為に精神の集中を始めようとした。

「……気が付いた?」

「!?」

 だが不意に掛けられた言葉にフェイトは集中を解いてしまう。
 声のした方……部屋の入り口のドアの前には、優しげな笑みを浮かべた一人の青年が立っていた。
 歳は十五、六くらいに見える。少なくともフェイトより年上である事は間違いなさそうだ。特にこれといった特徴の見られない、どこにでも居そうな普通の青年だった。
 あえて特徴を言うとすれば……その、人を疑う事を知らなさそうな、無条件で彼を信じてしまいそうな、そんな柔らかい笑みだろうか。

「びっくりしたよ、傷だらけで公園に倒れていたんだから。そこら辺の事、覚えているかな?」

 青年のその言葉を聞き、恐らくアルフが何らかの対策をした結果なのだろうと判断する。

(でも他人に見えないように結界を張らずに行くなんてアルフらしくない……)

 子供っぽいところもあるが、フェイトの魔法の師匠でもあるリニスにアルフも鍛えられている。そんな凡ミスをするとは思えなかった。
 考えられる可能性は管理局員に見つかり、結界を破壊された所でこの青年に見つかり様子を見るため相手が一時撤退したか、アルフが結界を張る余裕がないくらい追い詰められているか……。
 どちらにしても状況はかなり厳しいと言わざるを得ない。前者の場合管理局員がどこかで見張っているだろうし、後者の場合はアルフが危ない状況にあるという事だ。

「……ひゃ!?」

 どうするべきか思案していたフェイトの額に、突然何か暖かいものが触れ思わず声を上げる。

「あ、ごめんね。俯いていたから気分良くないのかなって思って」

 フェイトの額に触れていたのは青年の手だった。そこでようやく彼の存在を失念していたフェイトの頬が軽く朱に染まる。

「あの、別に気分とかは悪くない、です」

 何とかそれだけをか細い声で伝える。すると青年は微笑んで、

「名前、聞いてもいいかな?」

 優しい声で尋ねてきた。

「あ、その……フェイト、です。フェイト・テスタロッサ」

 言った後でフェイトははたと気が付く。何故、自分は名乗ってしまったのだろうと。
 無意識だった。ただ青年の優しげな声に、無意識に反応を示してしまった。

「フェイトちゃんか。僕は……」

 そして、青年の口から直接伝えられた彼の名前は、フェイトの頭の中に響くように聞こえた。

「聖(ひじり)……倉瀬 聖。よろしくね、フェイトちゃん」

 そう言って微笑む青年……聖。本当に不思議な人間だ、と包帯の巻かれた腕を見てフェイトはそう思わずに入られなかった。
 何しろ見ず知らずの、しかも傷だらけで倒れていた人間を自分の家に運び、手当てまでしてくれたという事になる。普通ならそんないかにも怪しい人間にそこまでしてくれるだろうか。
 それに病院ではなくわざわざ自分の家に運んだのも、傷の程度が浅かった事もあるだろうがこんな小さな少女が傷を負っているという事自体に何か特別な理由があるのだろうと判断したからだろう。その証拠に意識を取り戻したフェイトに、彼は何も尋ねてこない。ただ黙々と傷の具合を見てくれている。
 と、そこでフェイトに小さな違和感が走った。何というか、感覚が変なのだ。
 ゆっくりと視線を自分に移すと、見慣れない服を着ていた。男性用と思われる大きめのTシャツと下着、ただそれだけだった。

「ん? ああ、君の服なら汚れていたから洗濯しているよ。そういえばそろそろ乾燥機が止まる頃かな」

 ちょうど手当てを終えた聖はそう言って一度部屋を出て行った。その扉が閉まる音と同時に、フェイトの頭が現状を理解する。
 男性用のTシャツを着せられ、自分の服が洗濯されている。自分で着替えた記憶はない。つまり、着替えさせられている。
 問題は……誰にという事だ。

「あ、フェイトちゃん。ごめんね、まだ乾いていなかった。もうちょっとその服で我慢してくれないかな?」
 ドアを半分だけ開け、顔だけを出してそう言う聖に、フェイトは恐る恐るといった表情で尋ねる。

「あ、あの……」

「ん? 何?」

「こ、この服……」

「ああ、僕のだけど?」

「じゃなくて……あの、誰がこれを着替え……」

「着替えさせたの? それも僕だよ?」

 それだけを残し、聖は一度微笑んでドアを閉めた。

「……!」

 それからちょうど三秒後。
 フェイトの顔が瞬時に赤く染まり上がった。


 恥ずかしさに頭の中がぐるぐると回った状態で三十分ほど固まっていると、再びドアが開き、聖が顔を出しやはり微笑みながらフェイトに問い掛ける。

「フェイトちゃん、お腹空いていないかな?」

 そう言えばドアが開いたと同時に良い香りが部屋の中に漂ってきた。彼が何か用意してくれたのだと理解すると同時に、フェイトのお腹が静かに、しかし自己主張をするようにはっきりと鳴った。

「それが返事って事でいいかな?」

 その言葉に、フェイトは再び顔を赤くしながら頷いた。それを確認すると聖は手招きの仕草をしてドアの前から姿を消した。
 フェイトは少しだけ悩んだ後、ゆっくりとベッドから出ておそるおそるドアから外に出た。
 一歩部屋から抜け出すと、そこには右側に伸びた小さな、しかし掃除が行き届いていて綺麗な廊下と、それをはさんで正面に同じようなドアがひとつと、廊下の端にリビングに通じると思われるこの部屋や正面の部屋のとは違うタイプのドア。左側は小さな窓があるだけで行き止まりになっていた。
 そこから外の景色を覗くと、明らかに高い位置からしか見られない光景が広がった。恐らくマンションの五、六階くらいの高さと思われる。
 見た事がある景色もいくつか確認できた。帰ろうと思えば自力でも帰れそうだ。
 それを確認し小さく安堵すると、再びフェイトのお腹が自己主張をする。普段は食べる事に執着していないのに、何故か今日だけは異常なまでの空腹を体が訴えていた。
 その事を少し恥ずかしく感じながら、フェイトは踵を返し、正面にあるドアを開ける。
 そこはキッチンとダイニングを兼ねた作りになっている場所で、先程とは比べ物にならない良い香りが漂い、フェイトの鼻腔をくすぐった。

「あ、ちょっと待っててね、お皿に盛るから」

 フェイトが来たのを確認すると、キッチンに立っていた聖がそう言って手に持っていたフライパンを皿の上でひっくり返し、そして何やら少し手を加え、それをフェイトの目の前にあるテーブルの上に置いた。

「あ……」

 それを見たフェイトは思わず声を上げてしまった。
 半熟だが型崩れをしていない、見事なまでのオムライスだった。ケチャップで可愛らしい犬の絵が描かれており、付け合せにニンジンのソテーが二つ乗せられている。

「どうぞ」

 そう言って聖は椅子を引いた。フェイトは誘われるようにそこに座り、差し出されたスプーンを握ってゆっくりとオムライスをすくい、口に運んだ。

「……!」

 そこから皿が空になるまでの時間は早かった。そんな、ただ一心に食べ続けるフェイトを聖は隣に立ったまま嬉しそうに眺めていた。
 そしてスプーンを置き、満足げな吐息を吐くフェイトの頭を聖は優しく撫でる。

「あ、あの……?」

 いきなりの事にさすがに少し困惑気味のフェイトに、聖は微笑みを絶やさぬまま……いや、先程までより嬉しそうな顔で呟いた。

「何があったのか知らないけど……女の子は笑っていた方が可愛いよ」

 その言葉でフェイトはようやく気が付いた。
 彼につられたかのように、今、自分が頬を緩めている事を。
 母が優しかった時以来まったく感じていなかった、「喜び」という感情を抱いている事に。
 今、彼に頭を撫でられている事に。
 「安らぎ」を感じている事に。

(……不思議な人)

 その、言い表しようのない聖の感想を、フェイトはそう述べるしか出来ずにいた。

 その後、元来より口下手なところがあるフェイトとの間を取り持つように、聖は色んな事を語ってくれた。
 今年高校に入ったばかりだという事。パティシエを目指している事。その関係で近くの喫茶店でアルバイトをしている事。
 フェイトはただ相槌を打つ事しか出来なかったが、彼の話を聞く事は決して嫌ではなく、むしろ楽しいと感じていた。
 もし、自分に兄という存在がいたら、こんな気持ちを毎日抱いていたのだろうか。そうだったら……楽しそうだ。そう思うほどに。
 一時間程過ぎると日頃の疲労が出たのか瞼が重くなり始めた。壁にあった時計を見るとそろそろ就寝をする者が多くなるであろう時間帯だ。そんなフェイトを聖は優しく抱きかかえ、先ほどのベッドまで運んでくれた。少し恥ずかしかったが、何故か抵抗しようという気にはならなかった。

「隣の部屋で寝ているから、何かあったら呼んでね」

 微笑みながら、そう言い残して。
 初めての体験だった。父親の記憶がないフェイトにとって、男の人に誰かに優しく抱き抱えられる事は。
 もし、自分にまだ父親がいたら、あんな風に優しくしてくれただろうか。そうだったら……どれだけ嬉だろう。そう思えるほどに。
 そう思えるほどに、聖という存在にあってからのほんの数時間の間で、その存在はフェイトの中で大きな存在になっていた。
 存在しない、「もし」という過程すらも考えた事のなかった「兄」の存在、「父」の存在。
 だが、それはそのような存在がどんなものかをフェイトが知らなかっただけであり、「恐らくこのような存在だろう」という不確定な情報であっても、まだ二桁の年齢に達していないフェイトにとって大きく、そして重要な情報であり、そして一度その情報を得てしまえばそれを望むような事になっても不思議ではない。
 言ってしまえば、フェイトは聖に懐いてしまったのだ。普通に考えたらあまりにも怪し過ぎる、自分という存在に優しくしてくれる青年に。
 彼の、聖の見せてくれる笑顔を、ずっと見ていたい。
 すでに朦朧とし始めた意識の中で、密かに、しかし素直にそう願うフェイト。
 ……だが、それは今の彼女には、到底叶えられない願いであった。
 とある物語に、このようなフレーズがある。

――神様は確かに存在する。だがその神は、

(……ィト、フェイト!)

――実に、残酷である。

「アルフ!?」

 頭の中にその声を聞いた途端、朦朧としていたはずの意識が一気に覚醒し、フェイトはベッドから飛び起きた。

(フェイト!? よかった、無事だったんだね。管理局の奴を撒いて戻ったらフェイトがいなくて心配してたんだよ)

 アルフは念話でそう嬉しそうに語りかけてくる。
 一方、フェイトは急速に夢から覚めていく感覚に陥っていた。
 自分はなんて図々しい事を願っていたのだろうと。
 この世界の人間ではなく、魔導師というこの世界の常識にはない地位に立ち、そして今しがた管理局に追われる犯罪者となったというのに。
 今の今まで、願いを叶えるべき、フェイトにとって唯一無二の存在である母と、大切なパートナーであるアルフの事を失念していた薄情な人間だというのに。
 そんな自分が。
 そんな幸せな環境を望むなんて。

「身の程知らずにも程がある……」

(フェイト?)

「……なんでもないよ、アルフ」

 そう答えるフェイトの顔には。
 先ほど聖に見せていた、九歳という歳相応の笑顔は。
 もう、見られなかった……。


 アルフはすぐにフェイトの位置を特定し、その場にやってきた。今玄関の前に待機をしている。
 せめて、別れの挨拶だけでもしようと思ったが、顔を合わせてしまえばまた先程のような分不相応な事を思ってしまいそうで怖かった。
 だから、何も告げずに出て行く事にした。
 彼を起こさぬよう、忍び足で廊下を歩き、ダイニングキッチンを抜けて玄関の前まで移動する。

「あれ……?」

 するとそこに、小さなリュックサックと以前母に土産としてもって行った洋菓子を入れていたものと同じような、持ち手のある紙製の小さな箱が置かれていた。リュックサックには「フェイトちゃんへ」と綺麗な字で書かれた紙が貼り付けられている。
 中を開けてみると、フェイトが着ていた服が綺麗に折りたたまれて入れられていた。驚きのあまり吐息を吐いた拍子に紙がめくれその裏がフェイトの目に飛び込む。

『いつでも遊びに来てくれていいからね』

 泣きそうになってしまった。彼は何となくだろうが想像していたのだ。
 何も言わずに、フェイトが自分の前からいなくなるだろうと。

「……ごめん、なさい」

 ただそれだけを呟き、リュックサックと紙箱を持って外に出た。

「フェイト! 無事でよかったよ」

 その瞬間に、外で待っていたアルフが嬉しそうにフェイトに擦り寄ってくる。

「うん、心配かけてごめんね、アルフ……」

 そう声を掛けながら、フェイトは感じていた。
 これが、本来の自分が歩むべき道なのだと。
 フェイトがドアから手を離すと、ゆっくりと閉まっていく。
 そしてその閉まる音が響く頃には、フェイトはすでにその場から姿を消していた。


「フェイト、それは何だい?」

 逃げるようにあの場所から離れ、町を流れる川に掛かる橋の上まで来た時、それまで黙っていたアルフがフェイトにそう問い掛けた。

「ん……これ?」

 そう言ってフェイトは紙箱を持っていた手を少し上げる。
 そういえばこれは何だろうと思いながらゆっくりと箱を開けてみる。すると中には、そこに入っているものを冷やすドライアイスと、そして、

「……プリン?」

 小さな器に入った、手作りと思われるプリンが三つ、綺麗に並べられて入っていた。

「………」

 フェイトはそれを見て悲しそうな表情を浮かべながら、その足で端まで歩んだ。
 そして箱を掲げながら手すりから手を伸ばし、

「ごめんなさい、そして……束の間の安らぎを、ありがとう」

 そう呟いて。
 手を、離した。

「……行こう、アルフ」

 水の中に落ちた音が響いたその瞬間、フェイトの「日常」が、元に戻った。


 この時、フェイトは実に二つの事を失念していた。
 ひとつは、アルフが自分から離れる時に自分の周りに結界を張らなかったかどうかを聞き忘れていた事。
 そして二つ目は。
 紙箱に書かれた、『翠屋』の文字を見逃していた事である。

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 という事でA→Sシリーズ第二部、フェイト編の連載スタートでありますw 何だかなのは編と時代も雰囲気も違うような気がするでしょうが、そこら辺は仕様ですw
 そしてオリキャラその2、倉瀬 聖。何気にフェイト編の超重要人物ですw 多分驚くような物語の関わり方をすると思います。そこら辺は今後の展開で、という事でw

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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